部活前のグラウンド脇。
沢村、降谷、春市、金丸、東条……いつもの沢村世代が、なまえを中心に賑やかに騒いでいた。
笑い声が飛び交う中、御幸はキャッチャーミットを片手に通りすぎる——つもりだった。

……なのに、どうしても視線がなまえに吸い寄せられる。
笑った顔、目を細めて沢村の話を聞く横顔。
胸の奥で、微かなモヤモヤが膨らんでいく。

(距離、近くね?)

ーー

部活後。
今日は帰宅組のなまえを、誰が送るかという話になった。
いつもは沢村世代が自然に付き添っていたが、御幸が低い声で口を開く。

「……俺が送る」

「えっ、御幸先輩?」
「隠してたけど、俺たち付き合ってるから」

一瞬、その場が静まり返る。
なまえも驚いて御幸を見るが、彼は少しも視線を逸らさない。

「だから、これからは毎回俺が送る。……いいよな?」

「……うん」

沢村たちのざわめきを背に、御幸はなまえの肩を軽く引き寄せた。
その手の温もりが、モヤモヤをすべて溶かしていくみたいでーー。

ーー

帰り道、寄り道をして二人きりの公園。
ふと御幸が小さく笑いながら言った。

「……余裕ねぇな、俺」

なまえはその言葉に目を細めて、少しだけ照れた声で返す。

「皆チームメイトだから……でもね、私のことを名前で呼ぶ男の人は、一也くんだけだよ」

その瞬間、御幸の心臓が一瞬止まった。
彼女の言葉に、胸の奥が熱く締め付けられるようで——。

「……なまえ」

初めて名前で呼ばれた響きに、声が震える。
彼はそっと彼女の手を握り、そっと囁いた。

「俺だけだ、ってこと、忘れるなよ」

静かな夜の中、二人の距離がまた一歩縮まった気がした。



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