午後の練習中。
水を配り終えて、少し離れた場所で立っていたなまえの足元がふらつく。
次の瞬間、視界がぐらりと揺れ──地面に倒れそうになったところを、がっしりとした腕に支えられた。

「──っ、おい!なまえ!」
声の主は御幸。一瞬で駆け寄ってきて、迷いなく抱き上げる。

「触んな。俺が運ぶ」
周りの部員が心配そうに近寄ろうとするのを、低い声で一蹴。
そのままグラウンドを横切り、全員の視線の中を堂々と保健室へ向かう。

「……やっぱ顔真っ青だな」
腕の中で気遣うように見下ろされ、なまえは小さく頷く。

「……生理だろ?」
その一言に、思わず目を瞬かせる。
「前にも似た顔してただろ。俺、ちゃんと見てんだよ」
耳元で囁く声が、やけに優しくて胸が熱くなる。

保健室に着くと、御幸はそっとベッドに降ろし、水と毛布を用意してくれた。
「無理すんな。休め。」
そう言って額に手を当て、しばらく離れようとしなかった。
「……ほんとはさ、今すぐ全部放り出して、ここにいてやりてぇ」
御幸が苦笑交じりに呟き、なまえの髪をそっと撫でる。

「でも練習戻んなきゃだし……だから、ちゃんと約束してくれ」
優しい目で見つめられ、思わず息を呑む。

「俺が戻るまで、絶対無理しない。寝てろ。……いいな?」
返事をすると、御幸は満足そうに頷き、額に軽くキスを落とした。

「お利口。……俺の大事なマネなんだから」
低く甘い声が耳に残ったまま、扉が閉まる音がした。

扉が閉まり、保健室に静寂が戻る。
残されたなまえは、毛布を胸まで引き上げたまま、さっきまでの出来事を思い返していた。

──「お利口。……俺の大事なマネなんだから」

耳に残る低い声。
額に触れた温もりがまだ消えなくて、心臓がやけに忙しい。

「……反則だよ、一也くん」
小さく呟き、頬を毛布に隠す。

体はまだ少し重いのに、心だけは、甘くて熱いものでいっぱいだった。



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