おはよう、おやすみ、ただいま、おかえり。あといただきますとごちそうさま。

以外の会話をレオリオとしなくなって2日経った。



だってうちから出る瓶缶ゴミはほとんどレオリオが飲んだお酒の缶なんだから、2週間に1回の収集日はレオリオが持ってってよ、って私の意見は絶対筋が通っているはずなのに

「捨ててほしいんなら捨てろって朝声かけてくれりゃいいじゃねーか」

というまるで見当違いの主張で返され頭にきたから。

レオリオは缶をポイポイ放り込むだけで、ゴミ袋の口を縛るのも私任せ。

当事者意識の話をしてんのよ。こっちは。ただ言われて持ってくだけならカラスにだってできるんだから!



そんなこんなで冒頭のソレが3日目に突入した夜。

「ごちそうさま」から「おやすみ」の間にチャプターを加えたのは、レンタルショップの店名が入ったバッグを目の前にぶら下げたレオリオだった。

「映画、観るぞ」

ごめんなさいの一言でもあるのかと思えば、彼から飛び出したのは突拍子もない提案だけ。

しかも私の返事を待たずして薄っぺらいバッグからDVDを取り出し、勝手にテレビの下にあるプレーヤーへ差し込む始末。

「やだよ。なんで私まで」

「いーから」

およそ85kgの重みで2人用のソファーが軋んで沈む。

空いている片側を叩く手に、渋々私はできる限り端っこに腰を下ろして応じることにした。



レオリオが借りてくる映画はだいたいいつも話題の新作か評判のいい有名作。

だけど今日のタイトルは全く聞いたことがないし、内容もレオリオのチョイスにしては珍しい青春もの?らしかった。

たぶん原作があるんだと思う。小説とか、マンガとか。けどたぶん話を端折りすぎているから何が何やら私には意味が分からない。

一応気を遣ってしばらくは黙って観ていたもののどうにも耐えきれず、漏れそうになるあくびをすんでのところでかみ殺して横目で隣を見やる。

すると当のレオリオは、堂々と大きな口を開いて怪獣みたいなあくびを浮かべていたのだった。

「あのさぁ!レオリオちゃんと観てんの?!」

「あ?観てるよ」

うそつけ。間延びした声で返事をしたレオリオが背中で携帯の画面を消したのを私は見逃さなかった。

自分が付き合わせといて全然観てないじゃん!しかもこんな面白くない映画!!

これ以上は時間の無駄だと席を立とうとするが、手首をつかまれもう一度座らされる。

「トイレ行きたいんだけど」

「うそつけ。さっき行ったばかりだろ」

その場しのぎの言い訳を打つも、残念ながら効果はない。

「……漏らしたらレオリオのせいだから」

「おーおーそんときゃ拭いてやるから安心しろ」

そう言ってレオリオはめんどくさそうに涙のたまった目をテレビへ戻した。



つかまれたままじわじわと汗ばむ手首の熱さを感じながら、こんなにレオリオと話すのはものすごく久しぶりなような気がした。実際はたった2日しか経っていないんだけれど。

これでゴミ捨てのことを許したと思われたら癪だなと思いながら手首を捻って手を握る。こっちの方がいい。大きくて温かくてふかふかしているレオリオの手が私はやっぱり大好きだから。

にぎにぎと弄ぶうちにあからさまに心が落ち着いてゆく。ムカつくのに寂しくなるなんてどうかしてる。しかもたった2日で。なんて情けないんだ。

隣の肩へ頭を預けるとレコーダーがきゅるきゅると音を立てて笑った。

「なまえ」

「なによ」

じっとこっちを見たレオリオが少しだけ顔を近づけてきた。

いつもと違う、様子を窺うような、戸惑いがちな感じで。私がまだ怒ってると思ってるから。

まあゴミ捨てのことは許してないけれども、じれったくなってほっぺにチューしたら、あっという間に遠慮がなくなったレオリオに体重をかけられ、狭いソファーは私のベッドに変えられてしまった。

「続き観なくていいの?」

スプリング音と共に、背もたれの裏に置いた缶の袋がガシャリと重心を変える音がした。

「いーよ。あんなつまんねー映画」

「あ、やっぱつまんないよね?コレ」

と、余裕こいて笑えたのは今晩これが最後だったことは夜が明けるまで知るよしもなかった。



(愛をひっかけるための退屈)





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