2004.04.27
空に広がる星々を眺めながら小さく息を吐き出す。シャーマンファイトの予選も終了し、本戦が開始して。今はそのシャーマンファイトを運営するパッチ族という種族の村を探す道中。初めての海外訪問がまさかこんな形でアメリカに来る事になるなんて1年ちょっと前までは思いもしなかった。
幼い頃からこの世に存在せざる者…いわゆる"幽霊"の見える私は周囲から忌み嫌われていたしそのせいか、自分から他人と関わることもやめて、まるでストレスを吐き出すように毎日喧嘩を続けて。
そんな私がまさかシャーマンとして、たくさんの友人と共にこんな辺境の地まで来て、シャーマンファイトに参加することになるなんて。
世の中本当に、何が起こるかわかったものじゃない。
夜の涼やかな風が頬を撫ぜるような感覚に、ゆるりと瞼を伏せる。と、ふいに耳元でばさりと音がして目を開ければ少しシワのついたジャージが肩にかけられているのに気づく。
私がその姿を確認しようと後ろを振り向くよりも早く、そのジャージを投げた人物は私へと声を掛けた。
「んな薄着でこんなとこ居たら風邪引くぞ」
「…ホロホロ」
シャーマンファイトに参加してから出来た友人、ホロホロは言いながら私の隣へと腰掛ける。私が肩へ掛けられたジャージへ身を寄せながら「ありがと、」と小さく返すとホロホロは不満げに眉へとシワを寄せて言葉を紡ぐ。
「礼言う時くらい笑えねーのか、おめーは」
「感謝はしてるし、内心では喜んでるよ。ただ気持ちに追いつかないの。ほら、私、表情筋かたいから」
「なんじゃそりゃ」
理解してもらうつもりなんてない。皆と一緒にたくさん笑って、たくさんの感情を素直に表に出せるホロホロには無表情な私の想いがわかるはずがないのだ。別にだからって彼を恨むつもりはないし、むしろそれは彼の長所なわけで、尊敬はしているけれど。
暫くの沈黙が流れた後、不意に隣から棒のようなものを差し出される。不思議に思って隣へと視線を向ければバッチリと、こちらを見詰めるホロホロと目が合って。私は疑問を残したまま、両手でその棒状の物を受け取る。
「これ、…」
「イクパスイ」
「え、?」
何?と聞こうとした刹那、被さる言葉に再度彼へと視線を向ける。どこか誇らしげに笑みを浮かべるホロホロと再び目が合って。彼は言葉を続けた。
「それ。イクパスイっつって、俺の村に昔から伝わる祭具だよ」
「へえ。……で、これがどうしたの?」
「どうって…いや、この流れ的にわかるだろ。やるっつってんだよ!お前に!」
声を荒らげて、まるで有り得ないとでも言いたげな様子でホロホロは説明するけどそれでもやっぱり腑に落ちない。村に伝わる祭具、なんてそんな大切そうな物をどうしてわざわざ私にくれると言うのか。そんな気持ちを込めてさらに彼へ視線を向ければホロホロはその意図を汲んだのか今度は盛大な溜息をこぼした。
「お前…マジかよ。今日はお前の誕生日だろーが!」
誕生日。そう言えば確かに今日は私の誕生日で。今まで他人にお祝いしてもらうなんてなかったからすっかり忘れてた。
「お前が誕生日っつーからそれ、わざわざ俺が掘ったんだぜ!大事にしろよ」
「!わざわざ…?」
「おう。まあこんな辺鄙な場所じゃろくなプレゼントも買えねえし、な…」
「…ありがとう」
貰ったイクパスイを両手で握りしめて、今度はさっきよりも少し、口角を上げることに意識して笑ってみる。上手く笑えたかな。そんな不安に駆られてホロホロの表情を確認しようと顔をあげればがしり、強めの力で両肩を掴まれる。
「…?、…??……、なに、??」
肩を掴んだまま無言でじっと私を見詰めるホロホロに困惑と羞恥から思わず視線を泳がせる。そして漸く口を開いたホロホロから紡がれたのはとんでもない一言だった。
「お前、結構可愛いな」
「は!?」
意図せぬその言葉に顔面へと熱が宿っていくのが自分でもわかる。
「今まで仏頂面ばっかだったから気づかなかったけどよ、今のお前の笑顔最高だったぜ。もっと笑えよ!」
「な、なん、何言って、」
「知ってるか?ミナって言葉、俺らの村では「笑顔」て意味が込められてるんだぜ。せっかく可愛いのに笑わねえのは勿体ないだろ」
「いや、えっと、」
「あ、でも」
「、?」
「やっぱ俺以外のヤツの前ではあんま笑うなよ。なんかムカつくから」
「っ…!?」
次々と忙しなく紡がれる言葉に心臓は高鳴るばかりで。完全にキャパオーバーしてしまった私は思わず彼の頬目がけて右手を振り上げる。ばちーん、と大きな音が鳴って頬へともみじを咲かせながら悶えるホロホロを前に私は足早にその場を離れた。
これをきっかけに今後、この男を視線で追うようになるなんてこの日の私は思いもしなかった。
To be continued ...