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「次はこんなに小さな子どもを寄越してくるとは…」

水色のお兄さん(髪の色が水色なのでこちらはそう呼ばせてもらおう)が口を開いた。その目は可哀想なものを見る目で、思わず目を逸らした。


私を見れば小さい、小さいとみんな口を揃えて言う。
確かに全然平均身長には届かないし、小学生には間違われるし自覚はあるけど、直接口に出されると凄く悲しくなる。

あー!もう、みんな縮めばいいのに!ミジンコぐらいに……。

なんて少し現実逃避気味に頭の中で思ってみるが、もちろんそれでは今の状況が解決しないことなど分かっているためすぐに止める。

さて、どうしようか……。

目の前の彼らは先ほど思った通り刀剣男士で合っているだろう。


「一応聞くが、この本丸に何の用だ」


紺色のお兄さんが口を開く。大体推測は出来ているのか一応という言葉を強調してくる。答えた方がいいのかな?こちらを睨みつけてくる目を睨み返しながら考える。

「……ふぅ」

一旦、バクバクと五月蝿く鳴く心臓を落ち着かせるように息を吐く。


「本日からこの本丸の審神者になりました。星火と申します。」

相手を真っ直ぐ見据えてそうハッキリと声に出す。
それを聞いた彼らは一瞬目を細めたが、先程よりも鋭くこちらを睨みつける。

「今すぐ立ち去れ、小僧」
「今なら生きて帰れるが…」

とこちらに向けて言う二人。

ちょっと待て、紺色のお兄さん。い、今…小僧って言った?言ったよね!?私、女なんだけどっ!?と彼の発言にカチンと来る。

なんて危機感がないんだろう、私。今はそれどころではないというのに…。

「いえ、立ち去りません。通してください」

落ち着け、落ち着けと頬が引き攣りそうなのを我慢して自分にそう言い聞かせて、彼らに返答すれば、水色のお兄さんが刀に手を置くのが見えた。

あぁ、これは非常にマズイかもしれない。


「もう一度言う。立ち去れ」


その言葉に首を横に振れば、次の瞬間こちらに向かって駆けてくる水色のお兄さん。もちろんその手には刀。もう1人のお兄さんはその場から動かす静かにこちらを観察している。
段々と迫ってくるお兄さんから逃げるように、門から入って右側の方へと走る。…が、すぐに追いつかれそうになる。

「っわ」

少し振り返れば、刀を振り下ろされるのが見えて間一髪避ける。刃物がすぐそこを掠める恐怖はえげつない。素早さには自信があるため、次々にくるお兄さんの攻撃をどうにか回避しながら本丸の庭のようなところを走り回る。

あれ当たったら本当に死ぬって!私のこと子どもだの何だの言うんだったら手加減しろや!

そえ思いながら後方に向けていた視線を前に向ければ、すぐ目の前に紺と赤と金が映り立ち止まった。
嫌な予感がして顔を上へと向ける。

「……」
「……」


視界に映るのは傍観していた紺色のお兄さん。逃げるのに必死ですっかり存在を忘れてた……。あぁ…、これは……。要するに挟み撃ちってやつですね。

その手には刀が握られていて、ゴクリと唾を飲み込む。

前には紺色のお兄さん、後ろには水色のお兄さん。

「俺たちは先ほど警告はした。しかし逃げなかったのはお前だ」

三日月が浮かぶ冷たい瞳でこちらを見下ろしている。
その瞳を強く強く睨み返す。

「…っ」
「……?」

すると驚いたように目を見開き固まった。もしかして油断してる?そう捉えてまた走り出す。

「あっ…」

後ろから水色のお兄さんの驚いたような声が聞こえる。でも、今はそれに構っている暇はない。逃げないと、と小さく呟いてあることに気づいた。


逃げるってどこに?


よく考えたらここに逃げられるところなんてない。まだまだあの本丸の中には刀剣男士がいるだろうから隠れてもすぐに見つかるだろうし…。政府の建物への帰り方なんてもちろん知らないし……。

「うわっ」

バシャンッ

考えごとをしながら走っていれば、大きめの石に躓いて茶色く濁った池へと落ちてしまった。

「いったい」

膝を強く打ってしまい思わず声が出る。見れば血はあまり出ていない。

「何をしている」

呆れたような声が聞こえ慌てて振り向けばすぐそこにお兄さんたちがいる。取り敢えず池から出よう、と後ずさりをすれば、ザクッと音が聞こえて手のひらを水から出し見てみる。


「…っつ」


目に映るのは赤、血だ。

鋭く尖った石かなにかで切ってしまったようだ。思ったより出血していてドクドクと溢れているのをもう片方の手で抑えるが、手の隙間から溢れ腕を伝いポタポタと池へと落ちる。

それを見ていた紺色のお兄さんが池の中へ入って近づいてきた。殺される、とついに諦めてかたく目を瞑る。……が、次の瞬間私を襲ったのは痛みでもなんでもない、浮遊感だ。

「えっ?」

目を開けてみれば、脇に手を挟まれ持ち上げられている。そして池の中から外に出て地面へとおろされた。
一体どういうことだと彼を見上げれば、こちらをじっと見ている瞳と目が合う。

「一晩だけだ」
「はい??」
「一晩だけ泊めてやる。明日には帰れ」
「なっ」

どういった心境の変化か私に向かって発せられた言葉に素っ頓狂な声が出た。彼の後ろのお兄さんも驚いたように声を上げる。

「えっ、ちょ…」
「良いだろ?どうせこんな人間の小僧などすぐ殺せる」

また、小僧言ってる……。

「そうですが!しかし…」
「それに治して貰いたい刀がいてな」
「そ、それは……!」
「治す?」

ん?と首を傾げる。要するに手入れしてほしい、ということだよね。誰か怪我をしているのかな?と何やら会話をしているお兄さんたちの話を聞き流しながら考える。ああ、そっか。とブラック本丸について説明された数時間前を思い出して小さく呟いた。この本丸の見た目が凄すぎるのと、急な展開のせいでピンと来なかったが、ブラック本丸は外だけでなく内もブラックだ。刀は手入れされることなく放置だの、重傷の状態で遠征やら何やらに向かわされるなど、そんな話を聞いた。よく見ればお兄さんたちも傷だらけだな、痛くないのかな?と二人を見る。二人とも刀は下ろしているし、今は少し警戒を解いてもいいだろうか?


「聞いているのか小僧」
「っはい、聞いてないです……あ」

思わず素直に答えてしまった。やばい、怒りを買ってはいないだろうか。とそろりと2人を見るが怒っているというよりは、呆れているようにしか見えない。水色のお兄さんなんてため息をついてるし。

「もう一度言う。可笑しな行動はするなよ。殺ろうと思えばいつでもお主を殺せる」
「は、はぁ」
「油断はしないことだ」
「……」

怖い、怖いよこのお兄さん達。私、生きて帰れるのかな…。

「では、ついてこい」
「……はい」


(生きていける自信がないんだけど……)
(あと、手のひらが痛い…)
それはあの子の赤に似ている
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