■ ■ ■

「初めまして」
「は、はじめまして」

さて、これは一体どうなっているのだろうか。誰か私にわかりやすく、そして簡潔に述べてほしい。
心底そう思いながらその人にそう挨拶をした。


◇◆◇




朝、今日もいつも通りの時間に登校した。登校してから15分後には点呼が終わり、ホームルームの時間も終わる。すぐその後に担任の先生に呼びれた。

「放課後また昨日の進路室に来てほしいの」
「放課後ですか?はい、分かりました」

やはり高校のことだろう。そろそろ本当で決めないといけないからね。きっとそのことについての話を今日もされるのだろうと予想し先生の言葉に頷く。
昨日のパンフレットの高校を受けると言おう、などと考えながらいつものようにギリギリに登校してきた友達の所へ向かった。


そういえば、確かこの子も同じところを受けるのだと言っていたっけ?

なんて数週間前に聞いた話を頭の片隅で考えながら、この前借りた雑誌を彼女に返すついでに、内容について語り合う。

彼女がよく好きだと言っていたモデルが表紙を飾っていたその雑誌は凄く面白かった。自分では中々買わないのでとても新鮮だった。

今流行っている服のコーデや、化粧の仕方についてのポイントが纏められていたり、最近の女子高生の実態というものを面白おかしく四コマ漫画にしてあったりして思わずニヤニヤしながら2人で読み返す。これめっちゃ分かるわー、なんて言ってゲラゲラと笑う友人につられて私も笑う。この子と高校も同じだったらきっとこんな風に楽しいだろうな。高校生活でのひとつの楽しみを思い浮かべながら次のページを見る。
あれが良かった、これが良かったなどと言っているうちには1時間目が始まる5分前のチャイムが鳴った。
また後で話そう、そう言ってお互い席へと着いた。


さて、今日の授業も頑張ろう。3年生なんだからそろそろ本腰入れて勉強しなきゃ、そう意気込みながら、今日の時間割を改めて見る。
あ…、1時間目から理科だ。そう認識した途端、私は絶望の底へと突き落とされた。
理由を簡単に言えば、理数系の科目が苦手だからだ。さっき迄の意気込みがジェットコースターで急降下したくらいの勢いで何処かへと消えていく。
はあ、と重い重いため息を一つつくのだった。


◇◆◇



放課後になった。先生に言われた通りに進路室に来てみれば、担任の先生と何故か校長、そして黒いスーツを着たちょっとイケメンのお兄さん椅子に座っていた。

ガラガラ、と何も考えないで扉を開けてしまった自分を恨む。3人分の視線がこちらへと一斉に降りかかった。

ん?これは一体どういう状況だろうか?と瞬時に状況把握が出来ず、思わず顔を引き攣らせた。
あれ?もしかしたら来るのが早すぎたのかもしれない。校長先生もいるし、何か大切な話し合いの途中だったらどうしよう。一気に血の気が引くのが分かる。
無言でこちらを見つめてくる彼らに、もうどうすればいいのか分からず涙が出そうだ。

うわ、やらかしたよ。

結局色々と考えてみて至る結論はこれだった。お客さんが来てるとか知らなかったし…。でも、何も考えずに扉を開けたのは私か。取り敢えず謝罪して出直そうとすれば、担任の先生に「入ってきていいよ」などと何故か言われた。え?入っていいの?と内心不思議に思いながら、言われた通り大人しく部屋へと入る。

「ここに座りなさい」

と入るなりソファに促された。言われた通りに黒いスーツを着たお兄さんの前に座る。私、高校の進路について話に来たつもりだったんだけど。

これは一体なんだ?私、何か問題でも起こしてしまったか?ともしかしたらこの人、教育委員会とかの人だったりして…。という思考が頭を過ぎったことでビクビクと内心震える。

「はじめまして」
「は、はじめまして」

そう言って私にぺこりと頭を下げたお兄さんを見やる。まずは誰か私にわかりやすく簡潔に述べてほしい。心底そう思いながら私も挨拶をした。

「伊村さん。この方はね、政府の___」

え、え?いいい今なんて言った、このハゲ校長?何!?政府って!!
いやいやいや!なんで自分と政府の人が関係あるの?昨日の高校の話の続きとかじゃないの??私、別に犯罪とかそういうの何もしてないからね!と、少し心の中の声があまり宜しくない言葉遣いで荒ぶる。
いや、少しどころか大変荒ぶっている。台風の日に大荒れの海の如く大荒れだ。
あれ?今の日本語可笑しかったかも…。もう訳分からなすぎて日本語もあやふやだ。

「政府」という社会の時間とかテレビとかでしか馴染みのないワードが出てきたためか混乱していた。あまりの驚きと、特に何もしていないのに何故か襲ってくる謎の不安感とで校長の話を殆ど聞き流してしまった。


「すいません、伊村さんと二人にしてもらっても良いですか?ちょっと大事な話があるので…」
「は、はい!分かりました。席を外しますね」
「え、あの……」
え?この人さ、今何て?二人になりたいって…?ちょっと待って。
話とかちゃんと聞いてなかったし、どうすれば…なんて考えているうちにはペコペコしながら、担任と校長は言われるまま部屋を出ていく。それを呆然としながら目で追いかけた。

進路室には私と政府のお兄さんだけになった。先生たちが出ていった扉から目線を移し目の前の彼を見れば、ニコッと爽やかに笑う政府のお兄さんと目が合う。無駄にイケメンなのせいか不覚にもときめいた、とか絶対ないはずだ。うん。


「俺は政府の人間で、黒宮くろみやといいます」

黒宮さんね、黒宮さん。と彼の言葉を心のなかで繰り返してみる。あ、自分も自己紹介した方がいいのだろうか?向こうも自己紹介してくれた訳だし…。

「伊村真白です」

ぺこりと頭を下げて自己紹介をすれば、黒宮さんも頭を下げた。

お互いに顔を上げればそのまま彼の話が始まった。先程の校長の説明を殆ど聞いていなかったことに気付いているのか、また最初から話してくれた。気の利く人である。

「その…突然なんだけど、審神者っていう仕事に興味ないかい?」

突然砕けた口調になった黒宮さんがそんな問いを私に投げかける。

ん?…ハニワ?

「……はにわ??」

ハニワってあの埴輪?え、日本史とかに出てくるアレかな?お墓とかにあるやつだよね。知ってる知ってる。で、つまりどういうことだ…?と思いながら、思わずそう呟けば黒宮さんが可笑しそうに苦笑した。あれ?何か変なこと言っちゃいました?

「ハニワではなく審神者です」
「あ、はい、すいません。サニワですね、……審神者?」

心の中で改めてさにわ、サニワ、審神者と何回か繰り返す。先ほどのハニワ発言が何だか凄く恥ずかしくて少し顔に熱が集まった。

……ところで審神者ってなに??

新たにできた疑問にまた首を傾げるのだった。

(非日常な日常まで、)
(彼らに会うまで、あとすこし……)
いつの日か海でいきをする
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