ハリネズミとジレンマ


はい、またやってしまいました。
心の中で泣きながら反省すること…何回目になるだろう。もう覚えてないくらいにはこの反省会をひっそりとやっている気がする。私も学ばない人間だなあ。本当に。
勢いよくベッドにドボンとダイブして頭を抱えて、寝返り打って、出てくるのは後悔後悔後悔。

「あ、謝ろう…」

先程ベッドに放り投げたスマホを探す。毛布の海に埋もれ溺れてしまったスマホは中々見つからない。その間にも自分の心の中では、泣きたくなるくらいネガティブな考えが、ぐるぐると渦潮のように渦を巻いていて目が回りそうだった。
やっとのことでスマホを救出すると、枕を抱えて壁に寄りかかる。慣れた手つきで操作して、SNSを開く。あ、彼から何か連絡来てる。見慣れた名前を見つめたまま、中々タップする気にならず、心を落ち着かせるために先に友達への連絡を返してしまう。

「……何て来てるんだろう。別れよう、とかだったらどうしよう。……え、無理。いや、でも私みたいの早く別れた方が……」

ネガティブ思考は1回ハマると中々抜け出せない。嫌なことばっかり考えちゃう自分にイライラしてきた。すー、はー、深呼吸をしてその名前をタップする。

「……へ?」

別れよう、だとかそういったことが書いてあるんじゃないかと考えていた私の思考は物の見事にひっくり返される。

『今日はそっち冷えるみたいだから暖かくして寝ろよ』

たったそれだけ。でもそれだけでも私のテンションは上がる上がる。いや、優しいかよ。いや、優しいのは知ってるんだけどさ!そういう所が好きなんだけどさ!!じゃなくて、

「え、何て返せば良いの?」

数秒悩んで打った文字は『空却も』という簡素な言葉。それを打って送信。すると直ぐに既読。

「え、既読早っ。え、ちょ待って…」

何故か急に慌てふためいてしまう。取り敢えず電源を落として、ベッドでじたばた。お母さんに見られたら絶対怒られるやつ。まあ、一人暮らしだから誰も怒らないけど。

ピロン、軽快な着信音。SNSの通知に設定してる音。スマホの画面が勝手につく。それをぼんやり見る。ゆっくりとスマホを掴んだままの右手を顔の前に持ってきて、アプリを開く。

『おう、ありがとう。おやすみ』

何てことない文。でもそれだけでも満足する私。指を滑らせて『おやすみ』と返してスマホを枕元の定位置に放った。

「……結局、謝れなかった。うう、ごめんなさい」

謝るべき相手はこの空間に居ない。でも謝罪の言葉はポツリと零れる。電話する時か、会った時に謝ろう。いつもごめんって言わないと。そんなことを考えているうちには眠りについてしまった。

◇◆◇


「ど、どうしよう。十四くん」
「ええ…」

久しぶりに地元に帰ってきた。大学を東京にしてしまったのは未だに後悔している。でも自分のしたいことをする為に頑張ると決めたのも自分だ。
帰ると恒例の私の懺悔パーティー(と勝手に思ってる)を十四君と開く。ここは空却の家であるお寺のとある客間だ。お茶を取りに行った筈の空却が何故かお父さんに怒られる声が聞こえてきたので、ここに来るのは遅くなるだろう。懺悔パーティーを開くなら今だ!と十四くんに切り出した。てか、何で懺悔パーティーなんて呼んでるんだ、私。変な名前すぎる。


「この前電話した時も、つい悪態ついちゃった。その前もやらかしたし、絶対嫌われた。私、もう人生終わった方が良いかなあ」
「……えっと名前さん」


毎回困惑しながらも聞いてくれている十四君は、今回も例に漏れず困惑した表情を浮かべている。ごめんね、何かいつも。面倒だよねえ。


「ああ、本当に空却は悪くないんだよ。こう嬉しくて舞い上がっちゃうとつい悪態ついてしまうというか何というか。どうやったら素直になれるかな。あと、どうやったら謝れるかな?」
「(……本当にツンデレだな、この人)」
「空却はちょっと短気かもだけも、ぶっきらぼうな所あるかもだけど、優しくて、かっこよくて、男前で___」

本人の前じゃ出ない素直な自分が大量に溢れる。本人に聞かれたら絶対睨まれそう。てか、こんな話を十四くんとしてる事がバレたら、うじうじしすぎたと怒られてしまいそうだ。


「(いや、あの本人が後ろに……)」
「昔はこんなことなかったのになあ。悪態つかないことってこんなに難しいっけ?……って十四くん?」
「っいや、なんでもないっス!」


彼の視線が私じゃなくて、私よりも更に遠くを捉えていることに気付いた。不思議に思いながら振り返る。襖は開けられたままなので、庭がよく見える。が、特にいつもと変わった様子はない。


「(……ひええ、めっちゃ睨まれてる。それに口パクで何か言ってる。え、なんスか? こ っ ち 見 ん な。…はいい!見てません、見てません!)」
「十四くん何かすごい汗かいてるけどどうしたの?体調悪い?」
「いや、そんなことない、です。……えっと、多分あの人はそんな風に名前さんのこと思ってないんじゃないかと。きっと考えすぎですよ」
「そうかなあ。そうだといいなあ」

正座したままだった足を崩しながら呟く。相変わらず汗かいてる十四くんは「それに…」と続けた。

「それに?」
「あの人、寧ろ名前さんのこと滅茶苦茶好きだと思ってるんじゃ……」
「え?」
「ゴフッ」
「ん?何っ!?」


後ろから何が聞こえて振り返る。が、そこには何も無い。ん?気の所為か。とまた十四君に向き直った。あれ、さっきより体調悪そうだけど本当に大丈夫なのかな?と思いながら尋ねれば「大丈夫」と何回も頷いた。


「今回も聞いてくれてありがとう十四くん。本当にごめんね。はあ、神様仏様十四様アマンダ様様だよー」
「いえいえ」


ある程度気も済んでぺこりとお礼の言葉と一緒に頭を下げる。十四くんも同じようにぺこりと頭を下げた。それから直ぐに空却がお茶とお菓子を持って入ってくる。その顔は何故かニヤニヤしていた。何だろ、嬉しいことでもあったのだろうか?


「空却、どうしてニヤついてんのさ」
「名前には教えない」
「はあ?」
「はは…(殆ど全部聞かれてたとか言えないっス)」



◇◆◇
(追記)
ツンツンツンデレ夢主とちゃんとその本音が分かってて1人で楽しんでる空却くんのお話。
十四くんとはそれなりに打ち解けている。そして厨二病発言をさせて貰える余裕すら与えてくれない。(十四くんも結構な頻度で夢主に相談に乗って貰うこともあるのでお互い様)
十四君は夢主がナゴヤに帰るといつもこの2人のコミュニケーションの間に挟まれてる。

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