今は酸素だけいらない


*虎杖成り代わり(女)です。悠仁は出てきません。
*前世の話が絡みます(若干オリキャラ要素あり)
*死生観、倫理観が特殊です。
*死の表現(若干の暴力表現等)が含まれます。
*暗め、シリアス、大分狂ってる。途中から少し明るい
*苦手な方は各自プラウザバックで自衛してください。人を選ぶ話です。あくまでフィクションです。これらを推奨する意図はございません。読了後の苦情等は受け付けておりません。

◇◆◇







__息苦しい。


水面が遠い。ぼんやりとした光に照らされた"あちら"は段々と遠くなっていく。"ヤツ"の笑った顔がまだぼんやりと見えた気がした。藻掻いてみる。ゴボボボ。肺に大量の水が入る感覚がしてさらに息が出来なくなった。

どうにか上に、地上に上がりたい。見慣れた空ははるか遠く、もうその色が目に映らない所まで落ちてしまっている。手を伸ばせど、もう"あちら"には帰れないのだろう。さっきまで絞められていた首に手を当てる。それから視線を自分の右足に持っていく。足首に巻かれた鎖のずっと先に重い重いコンクリートの塊。これのせいで私は空から遠く突き放されていくのだ。

震える肩を抱いて、首に手を回して自分の好きなように私で遊んでから、"ヤツ"はほとんど動けなくなった私を着飾った。髪を自分の好きなように整え、どこで知ったのか綺麗にメイクを施し、自分の好きな色の服を着せ、左手の薬指にお揃いの指輪を付けて、首輪のようにネックレスをかける。そして、全てが終われば心底幸せそうに嬉しそうに笑ってキスを落とす。最悪だった。何もかも思い通りじゃないか。逃げれなかった私も悪い。捕まった私が悪い。でも、でも___。


__ああ、息苦しいよ。


全部、全部、"ヤツ"の思い通り。理想で塗り固められた"私"。足に重りをつけて水の中に沈めようだなんてよく考えたものだ。あのうっとりと歪む顔を今すぐ殴り倒したい。

酸素が足りない。何もかもが足りない。でも、何だかあまり怖くない。息苦しいし、身体中痛いし、寒いし、思い通りに着飾られたし、気分は最悪だ。でも、やっとやっとやっとやっとやっと____、にげれるんだね。


暗がりに落ちていく意識に引き摺られながら、水面を見上げる。ああ、随分深いところまで来た。よく見ると"この世界"はなんて美しいんだろう。息苦しさはもう感じない。私はこの水の中の住人になれたらしい。ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ。

薄れる意識の中、口からは小さな小さな泡が零れて行くのが見える。私の代わりに空を見上げようとそれらは昇っていく。それをぼんやりと見てから目を閉じる。右足が重たい。まだ水底は遠いのか。そんなことを考えているうちには、世界は暗転していた。


◇◆◇



パチリ、目を開ける。瞬きを数回。あれ、ここはどこだ。水、の中じゃない。ぼんやりと頭の中を整理していく。でも、随分とふやけたらしい思考は、何かをかたどる前に泡のように消えていってしまった。

「………」

目の前に誰かいる。屍の山に囲まれソイツはそこに座っている。ずっとそこで詰まらなそうに片方の立てた膝に肘を乗せてこちらを見ていたというのに、気づくのに随分と時間がかかった。自分の顔によく似た、でも少しだけ違う男。きっと私が男ならこんな見た目になるんだろうな。なんて、女物の着物を身にまとう呪いの王をやっとしっかりと見つめた。やっとこの世界に"私"が帰ってきて、追いついたらしい。

「……小娘、オマエの夢はいつも水の中だ」
「そうかな」
「オマエはいつも溺れているな。なんだ、そうやって死ぬのが望みなのか?」

低い低いそして何より綺麗に響き耳に残る声。聞き慣れたくはなかったが、その声のおかげでやっと"自分"を認識した。ここは、宿儺の生得領域。何回が訪れたことのある彼の世界で、三角座りをする私。

「オマエはあの夢を見ると、性格が変わるな。いつもの阿呆はどこへ行ったのか」
「………」
「ふむ、無視とはいい度胸だ」
「……水」
「…水?がなんだ?」

息苦しい。息苦しい。上手く呼吸ができなくなっていく感覚。あれが欲しい。あそこに帰りたい。私の居場所は__、

「水の中に帰りたい」
「何を言っている。死ぬぞ。まあ、その前にその身体は貰うがな」
「……ここは息苦しい。地上は息苦しい」
「………」

手を己の首に当てる。もうそこにあの手形はない。あの首輪のようやネックレスもない。なのにあれは私に未だにしがみついている。絡みついているらしい。

「……ふむ。随分と業の深い呪いだな。そろそろ食っても……いや、ケヒ…、ヒヒヒ、このままの方が面白いな」
「面白い?」
「ああ、それはオマエに絶望を与え、それと同時に酷い安心感をもたらしている」
「何言ってんの?……大丈夫?」
「…フン、いつものが戻ってきたようだな。だが、今は気分が良い。1回殺すだけで許してやろう」

ニタニタ、歪んだ笑みを浮かべる宿儺と"ヤツ"の顔が重なることはない。宿儺は異質で、"ヤツ"もある意味では異質なやつだ。やっと逃れられるつもりで生きてきたのに、結局はこの世界でも逃げられないらしい。"前"よりも随分と随分と強くなった身体。人より早く疾く走れるし、ちょっとしたことじゃあ疲れはしない。あの息苦しさを求めて、死ぬ気で走ろうとしてもそれを手に入れるのには随分と時間がかかることに気づいてやっと、やっと"私"を捨てることができるのだと思ったのに、これじゃあね。

「……呼吸をしていないな」
「…は?」
「小娘、オマエは先程からずっと息を止めているぞ。…ああ、オマエの身体の話だ」
「え?それってまずくない?まだ生きてる?私、また…!」
「やっと阿呆が戻ってきたか。まあ良い。さっさと戻ることだな」
「え?___ぎゃあああ!」

容赦なく、容赦なくいきなり真っ二つにされたぁあ!次会ったら絶対殴る。そのニタニタ顔をぶん殴る。そして土下座させて、えっとえっと……なんて考えているうちには世界は暗転する。


◇◆◇



「おーい、名前?ってあれ、いないじゃない」

コンコン、ノックをする。反応がないからと施錠されていない扉を開けるが、そこに目当ての人物はなく野薔薇はため息をついた。

「部屋に居ないなら、鍵閉めてけってーの。てか、居ても閉めろよ」

そう危機感のない彼女に対して悪態をついて扉を閉めた。一応身体能力がバグっていようが、腕っ節がゴリラだろうが虎杖名前は女の子なのだ。特に見た目、"見た目だけ"は性格やその身体能力と結び付けれないほど可憐である。認めたくはないが、あれは儚い雰囲気を纏ったくそ美少女なのだ。喋ると全部破壊してしまうが。それを認識してるのか、していないのかあれに危機感はない。全くない。街で声をかけられても、引っ張られそうになってもニコニコと阿呆みたいに笑っている。伏黒が頭に手刀を落として、野薔薇が引っ張って連れ戻して、五条に爆笑されるのがいつものテンプレートだ。「あの人、道分かんないって言ってたけど」だの良いように言いくるめられていることに気づかず、「大丈夫かなあ」なんて呑気に言う彼女はこちらが過保護になるくらいに危機感をどこかのドブに捨てた女の子なのだ。それが例え宿儺の指を食った器だろうが関係ない。てか、あの美少女が指食う所なんて想像したくない。


「あ、ねえ名前知らない?せっかくアイス買ってきたのに」
「見てない」

ショッピングに出かけていた野薔薇よりも、任務から少しだけ先に帰ってきていた伏黒に聞いてみるが知らないらしい。今日はどこにも行かないと言っていたし、先程ばったり会った2年の先輩たちとも一緒にいなかった。伏黒も見てないなんて一体どこへ行ったんだ。緊急で任務とか?いやでも任務の時はSNSでメッセージをくれるしなあ。そうじゃないなら先生に呼び出されたか、散歩だろうか。アイスを一旦冷凍庫に放り込み、そう考えながら寮の談話室に行けばソファに見慣れた姿があった。

「あ、ここにいた」
「おい、起きろ」
「___」

伏黒が近づいて声を掛ける。うんともすんとも言わない。野薔薇も近づいて声を掛ける。随分と穏やかな表情で寝ているその顔を見ると、何だか起こす気は失せてくるが、今こんなに寝てしまうと夜は眠れないだろうから起こさないと。だって明日は朝から任務だし。つらつらそんなことを考えて、身体をゆすろうとする。が、それを伏黒が制した。少しだけ開いた口の前に手を翳した伏黒は声を荒らげた。

「は、息してないぞ!」
「え?えっ!?」

確かに寝息は聞こえないし、ぴくりとも身体は動いていない。いやでも、苦しそうな表情は浮かべてないし。

「なんで、病気?大丈夫、死んでない?」
「いや、生きてはいる。くそ、揺すっていいのか分かんねえ」
「と、取り敢えず誰か呼んでくる!」

急な非常事態に狼狽えながらも、どうにか鈍い思考を回し野薔薇は慌てて寮を出て、校舎に向かって走り出す。取り敢えず五条と家入は呼ばないと。まだ夕方だ。五条も「今日は任務ないよ」と言っていた。家に帰ってなければきっといるはず。もし居なかったら、居なかったで他の先生や大人に声をかけないと、そう焦った思考を抱えて走る。


「……クソ」

野薔薇が出ていって、1人残された伏黒は頭を抱えた。ぴくりとも動かない目の前の女は高速で思考を巡らしている伏黒の気持ちなんて知らないのだろう。随分と穏やかだ。揺すっていいのか。いや、でもこれが病気によるものだったとしたら、揺すってはいけないかもしれない。声を繰り返しかけるが反応はない。脈は止まってない。心臓も動いている。AEDって使っていいんだったか?……ああ、くっそ!!冷静に考えようにもそれは上手くいかない。いざと言う時ほど、冷静でなければいけないというのに。あらゆる可能性をひたすら考えながら声を掛ける。背中を叩いた方が、いいのか。体勢は?人工呼吸はいるか?宿儺を取り込んだ後遺症が来たのか?まさか自発的に呼吸を止めてるわけじゃないだろうし。

「おい!虎杖!起きろ!」

肩を叩いて呼ぶがやはり反応はない。てか、救急車呼んだ方が絶対良かっただろ!なんて今更思うが生憎携帯を部屋に置いたままにしていたことをすぐに思い出す。何から何までついていなかった。

「何何、名前が息してないってマジ?」

急に現れた五条は軽い口調とは裏腹にその顔は焦っていた。伏黒は急に真後ろから聞こえてきた声に、少しだけ驚いたが同時に安堵する。野薔薇から話を聞いてすぐ飛んできたのだろう。目隠しをサッととって五条は名前を見たあと、その身体に手を伸ばそうとした。

パチリ

目が開いた。

「い、虎杖」
「__?」
「取り敢えず意識は取り戻したみたいだけど…」

自分で目を覚ましたらしい名前は、伏黒と五条を見て「え?何?」とでも言うような表情を浮かべた。意識はしっかりしたようだ。そんな虎杖を五条が起こす。いきなり起こされて更にぱちくりと瞬きをした。

「ちょっとごめんねー」

バシン!

「は?」
「っ!?うっ……はっ、ゴホゴホ__」

五条が虎杖の背中を叩いた。伏黒は急な行動に驚いたが、五条は、激しく咳き込み思い出したかのように呼吸を再開した名前にやっとほっと息をついた。彼女は意識を取り戻してもなお、呼吸をしていなかったらしい。ゲボゴホゴホ、喉が傷ついてしまうのではと思えるくらいに激しい咳に、時々漏れる苦しそうな呼吸は見ているこっちが苦しくなりそうだった。数分し、ようやく落ち着いた頃に家入がやってきた。聴診器を取り出す様子を見て、男である五条や伏黒は一旦席を外す。

「…うーん、大丈夫だねえ。もう息苦しさはない」
「はい。私、そんなにヤバかったんスか?」
「そりゃ、呼吸してないはヤバいでしょ」

全く肝を冷やしたわ、と名前の問いに代わりに答えた野薔薇は呟く。当の本人である名前は「ふうん」とぼんやりと曖昧に応えた。そして「またやっちゃった」とポツリ呟いた。

「こういうこと、何回かあった?」
「……そうですね、昔何回か。無意識に自分で呼吸するのを止めてる?らしくて。さすがにって、じいちゃんと何回も病院行ったんですけど、毎回素晴らしいほどの健康体ですよって言われました」
「そうなのね。はい、終わりね」
「あざす」

これが初めてじゃなかったんだ、しかも自分で呼吸を止めてるってどういうこと?

その様子を見ていた野薔薇は話を聞きながら考える。名前が衣服を整えている間に、五条と伏黒が帰ってきた。五条と何か話すと家入は寮から出ていってしまった。

「大丈夫?」
「あ、センセ。大丈夫ですよ。なんか心配かけてごめんなさい」
「調子悪かったらすぐ言うんだよー」
「はーい」

そう応えながら、名前は自分の首に手を持っていく。何かを気にするように、しきりにそこを撫でたあとその視線は自分の右足に移った。くるぶし辺りを気にするがそこには何もなかった。でも、ずしりとしたあの重さはそこにあるような気がしてならない。そんな様子を見ていた野薔薇、伏黒、五条は3人で目配せをする。「何か声掛けた方がいい?」「ここは空気いつも読めない五条先生が声掛けて」「え、酷くない?」小さな声で話し合いをしていれば、「みんな仲良いねー」と名前が笑う。いつも通りの笑顔に数回目の安心感を覚えた。それからはいつものような会話が始まる。いつもの日常がようやく帰ってきた。


「水…」

コップに入った水を見て名前は呟く。喉を潤すそれはあの時のような"安心感"を与えてはくれない。足りない。足りない。足りてない。

「水、もう少しいるか?」
「……苦しい」
「は?やっぱ、病院に…」

五条は帰り、野薔薇は自室にアイスを取りに行った。一気に水を飲み干した名前の小さな呟きを聞き取った伏黒は、そう言ってコップに水を入れようと立ち上がるが、名前は聞いていない。「苦しい」というその言葉に慌てて肩を掴んだ。ぼんやりとしたその目と目が合う。こちらを見ているようで見ていないその目が怖かった。

「帰りたい、水の中に。…ここは息苦しいよ」
「お、おい!ちょ、やめろ」
「……っ」
「ああ、おい!」

水の中に帰りたい?息苦しい?お前は魚類か何かか!とツッコミを入れたい気持ちはあったが、それよりも今はこの状態をどうにかしなければ。伏黒は焦った。気が付けば名前の腕が首に回っている。完全に抱きつかれているのだ。いや、離れろ!と抗議するが、名前はいつの間にか眠ってしまっているらしかった。え?ついさっきまで起きていただろう。入眠の早さにさすがに引いた。引き剥がそうとするが、離れない。寝ているくせに凄い力だ。

「ちょ、おい!起きろ!虎杖!」

スースー、気持ちよさそうな寝息が耳元から聞こえる。これを見られたら、先輩たちや野薔薇に絶対誤解される。しかも責められるのは俺だ。と悟り肝が冷えた。

「名前、チョコとバニラ…って。あら、お邪魔した?」
「違ぇ!こ、こいつを離してくれないか」

あたふたしているうちに野薔薇が戻ってくる。こちらを見た瞬間、驚いていたがすぐにニヤニヤと笑みを深めた。助けを求めれば、その視線は伏黒に抱きついたままの名前に向く。名前が眠っているのを悟ると何やら全てを理解したかのように笑った。

「あー、寝てるの。じゃあ無理ね」
「は?」
「その子、寝ている時に抱きつき癖があるの。名前が離れない限り、起きるまでその状態だから」
「……え、いや」
「せっかくアイス持ってきたのに。はあ、また置いてこないといけなくなった」
「た、助けろよ……」
「じゃ」

片手を上げて、野薔薇は歩いていってしまった。「じゃ、じゃあねーよ!」と声を荒らげたが、彼女はとっくに廊下の向こうへと消えてしまっている。どうしたものかと名前を見る。顔は自分の肩に埋まっていて分からない。自分の胸に柔らかいものが当たっているのに気づき、はっとする。いけない、自分は何を考えていた。そんなことより引き剥がさないと。

「おい、起きろって」

さっきとは違って揺すってみるが、起きる気配はない。ついさっきまで寝ていたくせにまだ眠れるのかよ、と同時に呆れもした。


「お、何してんだ?」
「すじこ」
「よう」

伏黒はまた焦った。待て、野薔薇は名前の抱きつき癖を知っているらしいから良い。しかし、2年の先輩達はどうだ。完全に誤解される。ネタにされる。最悪、五条にまで話が行きイジられる。頭が痛い。頭痛が痛い。ばか、頭痛が痛いはおかしいだろ。伏黒の頭の中は荒波の立つ海のように、嵐のように吹き荒れていた。

「あ、名前じゃん。お前らってそんな関係だっけか?」
「しゃけ」
「寝てるな」
「いや、違いますよ!こいつが眠ってしまってて」

ほら、先輩たちもニヤついてる。終わった。何か色々終わった気がする。

「あー、どんまい。そいつ抱きつき癖あるもんな」
「しゃけしゃけ」
「この前の棘は最高だったな」
「おかか!!すじこぉ!!」

あれ?抱きつき癖のこと知ってるんだ。てか、狗巻先輩顔真っ赤だな。もしかしてこの被害に遭ったことあるんじゃ。

「顔真っ赤にしてずっとプルプルしてたよな。しかも四時間」
「よ、四時間」
「明太子…ツナ…」
「あ、しょげた。ごめん、からかい過ぎた」

真希とパンダにイジられる棘の顔はそれはもう真っ赤だ。三角座りでソファの前の床に座り込んで俯く。真っ赤な耳は丸見えだった。

「まあ、どうせもうすぐ晩飯だ。腹が空けば起きるだろうからそれまでの辛抱だ」
「しゃけ」
「え、助けてくださいよ」
「ムリだな、引き剥がそうとしたら更にギュッと抱きつかれるぞ。何なら頬擦りされる」

試してみるか?と邪悪に笑う先輩たちの表情を見て伏黒は凄い勢いで首を振った。これは狗巻先輩の時に経験済みだな、と確信しながらどうしたものかとため息をつく。


結局、本当に晩御飯の時間まで伏黒が解放されることはなかった。


「あれ、くるしくない」
「起きたかよ」

第一声から相変わらずよく分からない。「んん?」と不思議そうに声を上げた名前は自分の状態を改めて認識して飛び上がった。その光景に、話に付き合ってくれていた2年の先輩たちと野薔薇は笑い声をあげる。

「ごめん!ごめんね!伏黒!」
「いや、まあ…」
「じいちゃんにあんなに怒られたのに!野薔薇の時も狗巻先輩の時もすっごい反省したのにまたやらかしたあ!」
「………」

頭を抱えて叫ぶ名前を見ていると何だかどうでも良くなった。どうやら本人は無意識下の行動であるらしい。

「こんな可愛い子に抱きつかれて、棘も伏黒も良かったな。役得じゃん」
「ぶっ」
「…おかかっ!」

完全に遊ばれている。いい弄りネタを手に入れた真希もパンダも野薔薇も随分と楽しそうに笑っている。それを見て名前だけが不思議そうに首を傾げるのだった。

(この苦しみから逃げたくて)
(深い深い水の中に溺れていく)

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