I have a story to tell.


異能力を持っているのは本当に一部の限られた人間だ。しかし、世界を見渡してみれば思ったよりも多く、そして様々な異能力を持つ人間がいる。人によっては生きることを酷く便利に、人によっては取るに足らないほど詰まらない力を、人によっては簡単に人を__。

中には身に余る力をも有しているものだっている。それに溺れてはいけない。それは何もかもを駄目にする要因の一つだ。慢心を棄て、己のためだけでなく誰かのためにも使えるようになればいいな。


「そんなことさ、云われたってさあ」

いつの日か云われたことをふと思い出した。自分の力に慢心なんてものは無いが、それと同時にいい意味で誰かのための力に成り得るものでもない。はああ、いつもよりも大きなため息。元から無いやる気も更に減っていく。


「先刻からブツブツと何を…」


怯えた瞳が此方(こちら)を捉えた。あちこちを殴られ酷くボロボロで不格好な男はビクビクと震えている。名は知らない。知っているのは敵対組織の首領(ボス)であるということくらい。左手でそいつの肩を掴み、揺れる眼をぼんやりと見つめる。

1、2、3

心のなかでそれだけ数えると手を離す。そしてうわあ、と思いながら服で手を拭う。それからパタパタと手を振った。よし、これでOK。後でしっかりと洗おう。5回くらい。この服はもう捨ててしまおうか。買って随分経つし。そんなことを思いながら口角を上げた。

「ひぃ…っ!」
「ふぅ」

いや、笑っただけで怯えないでよ。如何にも私が悪者みたいじゃん。お前だって世間一般から見れば明らかに悪者だろうに。お互い様じゃあないか。なんて思いながら呆れた。これが首領かあ。うちの首領なんてあんな余裕そうな笑みを浮かべてニコニコ、ニヤニヤと幼女と戯れているのになあ。そんなことを思いながらもう一度目の前のそいつを見やる。決して嫌味じゃないよ?血の滲む口の端もその怯えた目も全然うちの首領とは似ては似つかない。こいつの部下は優秀だとは聴いたけどこいつはそこまで優秀そうに見えない。うーん、と思いながら口を開いた。視線は後ろに居る男から資料を受け取りそれに目を落とす。


「2週間前の水曜日、アンタらはウチに何かをしたね?何をした?」

何をしでかしてくれたかは知っているが一応問うてみる。コイツらは此方が気が付いていることを知らないようだしね。泳がされていたなんて露とも思ってないんだから、ウケる。なんて思いながらそいつが口を開くのを待った。

「……」
「云うわけないだろ、そんな情報。ポートマフィア何かに教えてたまるか。絶対にこれだけは云わない。云ってたまるか。それにしても2週間前か。確か2週間、前は…お前らのシマのとこの会社に___」

よし、ペラペラ喋り始めた。男は自分の口からスラスラと出始めたその情報達に目を見開く。成程、今彼は心のなかでこんなことを考えているのか。しかし、私たちに手を出したのが運の尽きだ。裏の取引から密かに手を結んでいる組織との繋がりについてまで全てを喋らされるだろう。

「却説、交代しようか。もし、途中で能力が解けたらいつもみたいに呼んでくれ」
「ええ、分かっています」

ここからは私の専門ではないからとバトンタッチして、地下から抜け出した。


何とも面倒な能力だ。我ながらそう思う。条件さえクリア出来れば人の思っていることをそのまま喋らせることが簡単に出来てしまう。普通の日常なら決して必要のない能力だろう。しかし私は今、ポートマフィアに所属している。いやあ、相手の情報を比較的楽に引っ張り出せるからこういう裏の仕事では使えるよなあ。ある意味天職だね。ちょっと不本意だけど。

途中手を石鹸を使い数回念入りに洗った。潔癖かと云われればそうだとは断言出来ないが、あまり見知らぬ人には触れたくないものだ。可愛い女の子ならまだしも、おじさんはちょっとね。なんて思いながらハンカチで手を拭いて廊下を歩き出す。


「…い!おい!」
「うわっ」
「先刻から呼ンでるのに手前ェはよォ」

手を掴まれてやっと自分が呼ばれていることに気付いた。手を掴んだソイツを見遣る。パチリと目が合って目を瞬かせる。

「あー、中也さん。こんにちは、お疲れ様です」
「おう、お前も相変わらずだな」

何だか久しぶりに見る気がして、全く呆れたと云う表情を浮かべるその人を思わずまじまじと見てしまった。


「ああ!!」
「っ、何だよ?」
「異能力……」
「はあ!?」
「発動したかも……」
「……」


彼が掴んでいるのは私の左手。少しの間、目が合ったままだったため明らかに3秒は過ぎている。はい、発動してますね。お疲れ様です。せめて右手を掴んでくれよ。そんなことを考えながら黙り込んだ中也さんを見た。きっと今必死に何も考えないように努めているのだろう。

「何も考えない、何も考えない……」
「中也さん、声に出てますけど」

呆れながらそう云えば、めっちゃくちゃ顔を歪めやがる中也さん。

「チッ、ふざけンなよ…」
「掴んできたのは中也さんじゃないですか…」
「うるせェ…、すッかり忘れてたンだよ」

でしょうね。でも毎回毎回こういうことが起こるから、もしかして解っててやってるんじゃ?なんて疑惑もある。それか本当に毎回忘れてるのか。まあ表情を見る限り後者だろうけど、それはそれで中々のうっかり者だと思う。

「ところで何か用ですか?」
「………」

必死に何も考えないように努めている彼は真顔でこちらを見やる。頑張ってるな。でも、この能力は迚(とて)も理不尽だからなあ。


「何も用はないけど、手前ェがいたからつい…」
「……うん」
「ンだよ!?その顔は!?」


顔を真っ赤にして焦る中也さん可愛い。あまり裏表ない人だからこの異能力発動してても、いつもよりも少しだけ素直になるだけで本質は変わらない。疾く解けろ!変なこと言う前に解けろ!って目の前で叫んでる中也さんは傍から見たらただの変な人だ。


「??変なことって?」
「…なッ、そ、それは………ン?」
「あ…、もしかして解けました?」


私の異能力は何回も何回も掛かると段々と効力が薄くなる。中也さんはもう両手じゃ数えられないほど掛かってるから、どうやら直ぐに解けてしまったみたいだ。


「ちぇ、詰まんない」
「クソ太宰みたいな顔すんな…」
「えー、そんな顔してました?てことは私、美形ってことですね!??」
「…フッ」

太宰に似てる=めっちゃ美人。
そう勝手に解釈すれば中也さんは鼻で笑いやがった。このやろー!!そう思って睨めば、更に笑う。


「もういいでーす」
「はいはい、美形美形。可愛い可愛い」


そう云って私のことを揶揄(からか)いながら頭をぐしゃぐしゃ撫でてくる。荒いなこの人。ニヤニヤしてるその顔が無駄にイケメンだったのでとても腹が立った。そんな彼を見詰めながら要らないことを思いついた私の行動は早い。そっと左手を中也さんの腕に添えて、1、2、3。


「中也さん」
「あ?」
「……気づきません?」
「何が…って手前ェまさかまた発動しやがッたな!?」


形勢逆転。さてさてさっきの続きを聞かせてくださいな。ニコリ、とびっきりの笑顔を向けて笑った。


「さあさあ、云ってください。ほら、疾く」
「……___」


(I have a story to tell.)
(__話したいことがあるんだ)

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