ブーゲンビリアに口付け


「よし。今日の任務は...。うん、全部完了かな」

誰に言うでもなくそう呟いて辺りを見回す。今日の任務のターゲットは全て仕留めたし、他に任務はないし、連絡もない。

ということは、

「報告と事務のために高専に行かないとか...」

名前にとってのこの世界の敵は主に呪霊、そして呪詛師である。

まあ、私が呪術師なのだから当たり前か。しかし、何故前述で敢えて"主に"などと言ったかというともう1つ、...というか、"2人の敵"がいるからだ。


「お願いします。今日は高専にいませんように。都合よく県外出張とか入んない?もはや国外でもいい。......こういう時に働けよな、腐ったミカンのバーゲンセールな上さんたち」


いや、彼らは味方なんだけどね。うん。任務の時とかは全然超頼もしい味方なんだけどね!それ以外がダメだ。却下だ。

迎えは頼んでないから、電車に乗るために駅に向かう。迎えを頼んでしまうと直行で着くので心の準備ができない。あと、同乗してくる可能性がある。その場合、心の準備の"心"という言葉すら出てこないくらいのカオスに陥ってしまう。


__あー、電車遅延しないかな。

__緊急もしくは代打で任務とか入んない?

__自分、直帰希望したいっす。


高専にたどり着くまでの間そんなことを考えるが、そんな時に限って大抵そんなことは起こらないのだ。知ってる。もう何回これを乗り越えてきたと思っている?いや、数えたくはないけどね。


わざと駅のコンビニに寄って、トイレに行って、そしてゆっくり店内を一周して、飲み物と軽食を買って、と時間稼ぎをした。

しかしコンビニである。思ったより時間が潰れない。

くっそ、大型スーパーを隅から隅まで見て回った方が良かったか?

そう後悔したが、それはそれで本当に高専に行く気が失せそうなのでコンビニでちょうど良いのかもしれない。

◇◆◇

「.....着いてしまった」

高専に入るなり、名前はキョロキョロと辺りを見回す。

__後ろよし、右よし、左よし、前よし、上も下もよし。

彼らは一般人じゃない、と思う。びっくりするようなタイミングで変なところから急に出てくるのだ。よくよく確認しておかないと明日は我が身である。この言葉の使い方がここであっているかは知らないがカッコつけたいのでそう述べておく。

「よしここは大丈夫そう」
「え、何がー?」
「何がって、それはもち、...え?」
「え、餅?」

もちろん、そう言いかけて振り返る。

なんでたった今確認したばかりのにそこに立っているの?

見慣れたその人が視界に入ってしまう。あ、振り返らず空気だと思って歩けばよかった。そう後悔したが、それだとまた後が面倒か......。


「餅がなんだって?」
「い、いえ、何でも。.....五条先輩、お疲れ様です」

現れた五条悟は相変わらず変な目隠しをつけて、ニコニコ笑ってやがる。

第1関門を突破した!と歓喜していた心が一瞬でマントルまで突き落とされた。なのに背筋は異様に冷たい。汗がツーっと伝っていく。名前はとりあえずいつものように顔に笑みを貼っつけてそう言う。あからさまに彼は顔を顰めた。


「ねえー、悟でいいよ!いつも言ってんじゃん」
「いえ、先輩なのでそういう訳には...」
「ほら、リピートアフターミー!さ・と・る!キャーー!」
「.....きゃーー」
「いや、そこじゃなくて」

キャピキャピ、キラキラ、ニヤニヤ。その歳になっても相変わらずテンションマックスな先輩を思わず死んだ目で見つめる。いつの間にか目隠しを外し、サングラスを掛けていた五条の瞳は相変わらずで、名前は「うらやましいくらい綺麗だな、くそ」と心の中で悪態をつく。


「可愛い顔が鯖みたいになってるよー」
「へー、そうなんですか」
「ほら、にっこりにっこり」
「へー、そうなんですか」
「.....おい」
「へー、そうなんですか。.....って、先輩、昔みたいな顔しないでくださいよ」

適当に相槌を打っていれば、最初はニコニコしていた癖に、一瞬だけ高専時代のおっそろしい先輩に戻ってしまったので思わず顔を顰める。

性格の悪さとか本質は変わらないが、雰囲気とか喋り方とかが1回月にでも突っ込んで帰ってきたのか?と思うくらいには様変わりしてしまった先輩は、名前と喋っている時に昔みたいになることがある。

懐かしい。そういえばあの頃も素敵だったな。なんて心に思っても決して顔には出さない。いや、硝子さんには言うかもしれないけど。


「私、仕事があるので失礼します」
「えー。せっかく名前の好きなタルトがあるのに」
「えっ」

踵を返そうとしていたが止まる。中途半端な身体の向きをそのままに名前は五条を振り返る。五条はにやりと笑った。

「それとせっかく1日50個限定のフルーツタルト買えたのにな」
「ふ、フルーツタルト!?あの世界のサトウが作った幻のスペシャルフルーツタルト!?」
「でも名前仕事あるんでしょ?」
「あー、任務から帰ったばかりだし、ちょっとティータイムしたくなってきたかも!」

これが"甘やかし"の罠であることなど、分かってはいる。しかし、分かっていても名前はその誘惑に惑わされる。

___掛かった!

なんて五条が思ってることも、その表情を見れば一目瞭然なのだが、フルーツタルトに頭がいっぱいの名前には全く映らなかった。


「おいしい〜」
「良かったねー」

くすくす笑う声が上から降ってくる。この体勢じゃなければさらに幸せだったんだけどなあ。

まさかこの歳になって、男の人の膝の上に座らせられるなど思いもしなかった。幸い誰も見ていないから良いが、普通に恥ずかしい。しかし、フルーツタルトはそれはもう素晴らしいくらいに美味い。

完全に五条の罠に捕らえられている。それを本人ももちろん分かっているが、ついのこのこ着いて行ってしまうのだ。彼女は全く学習していないのである。


「はい。あーん」
「.....」
「あーん」
「あー」

ぱくり。もぐもぐ。

「わあ、間接キス」
「.....」

いや、それを言いたいがためにわざとした癖に。分かってるんだからね!

「ふふん〜」
「.....」

上機嫌にはしゃぐ先輩兼上司(?)兼仕事仲間の彼はテンションだけなら高校生のそれだ。もぐもぐと幸せを咀嚼しながら名前はそっと息を吐いた。


腹に五条の腕が回っていて身動きが取れない。まず座高が違いすぎて床に足すらついていないし。あと、頭の上に時々乗る顎だとか、わざとスキンシップをとることとか、それら全てが気恥しい。何だか心臓の拍動が速くなった気がして名前はタルト食べる速度を少しだけ速めた。


それから数十分もの間、五条の相手をした名前は、フルーツタルトについてお礼を言うとようやく開放される。


予定より大分遅れてようやくたどり着いた本来の目的の場所には人の姿がほぼなかった。自分のデスクから任務の報告用の書類と、学校の事務の書類を取り出す。名前は呪術師だけでなく、高専の事務も担当していた。

「期限は1週間後と、これは今月いっぱいか」

新たに増えていた書類の期限を確認すると、期限ごとにいつも書類を分けて入れている棚にさっと入れ込む。今日処理するものは誰かがしてくれたのだろう。見当たらない。今日は報告書だけ書けば帰れそう。

「はあ、やりますか」

椅子に座ってから、ボールペンを取りだし内容を記入していく。今まで沢山してきているから書くのはもうお手のものだ。丁寧に、かつ素早く書類を仕上げ、グッと伸びをする。


「お疲れ様です」
「な、七海先輩。お疲れ様です」

彼がこの部屋に入ってきたことにはもちろん気づいていたが、タイミングを見計らってかけられる言葉には少しだけ驚く。力を抜いた途端に不意打ちのように毎回声を掛けてくるのやめて欲しい。


「先輩、今日はもうお帰りですか?」
「はい」

時計を見ながらそう尋ねればすぐに返事が返ってくる。そろそろ定時だ。あの針が12を指したら、彼は帰るはずだから、と名前はまだ手をつけるつもりがなかった書類を取り出した。

丁寧な素敵な大人感を漂わせているくせにこの人もある意味で五条と同種なのだ。


「.....」
「.....」

それから数分。無言の空間に耐えかねて、名前はちらりと七海を見やる。いつもと変わらぬ顔でそこに座っている七海は名前の視線に気付くと口を開いた。


「一緒に帰りませんか?」
「.....えっと、仕事がですね」
「その書類をまだ先の期限のものが入ってる棚から取り出したのを見ました」
「.......。はい、一緒に帰ります」

だよなー。七海先輩のことだもん。ちゃんとそういうとこも見てるよなー。

心の中でそう言って項垂れる。分かってる、彼はそういう人だ。もう素直に頷くしかできない。名前は今見ていた書類をキリのいい所まで進めると、棚に戻した。そして筆記用具やら書籍やらを纏める。もう少しで定時が来る。


「さて、帰りますか」
「はい」

時計の盤のところにある「12」を長い針が指すと、七海が立ち上がる。名前もそれに倣い立ち上がって荷物を持った。

2人で廊下を歩く。二人の間に弾むような会話がないのはいつものことだ。ただ静かに一緒にいる方が楽という相手もいる。名前の周りには割と騒々しい人が多い、__いや多かった分、七海という人は心地が良かった。決して言ってやる気はないが。

「夕食、ご一緒しませんか?」
「...先輩、知ってます?」
「なんです?」
「私たち週に3〜4回一緒にご飯食べてますよ?」
「今週はまだ2回です」

だから何ですか。そう思いながらジトっと七海を見やる。週に3〜4回一緒にご飯を食べるうち、ほとんど七海の手料理を食べている。しかもそれが美味しい。自炊が趣味と言うほどある。

名前は完全に胃袋を掴まれている。しかし、だからといってただの先輩後輩、しかも異性でこの頻度の食事って可笑しくないか?

昔は七海や五条がしてくるそういうことを、ちっとも可笑しいと思わないくらい世間知らずであったから流されていたが、今は違う。

今日はお断りしないと、そろそろ本気でまずい。

「ちなみに今日はアヒージョです」
「行きます」

即答である。先程までのあれこれを一瞬で忘れて、名前は今日もご飯をごちそうになることにした。

こればかりは仕方ない。七海のアヒージョはそれはもう美味しい。昔、魚介はあまり好きではなかった。しかし、その好き嫌いを克服したのは七海のアヒージョのおかげである。その日その日で少しずつ具材が違うのもまたいい。

「私、マッシュルームが入ってるやつがいいです」
「そうですか。では買い物もしないと」
「はーい」

急に意見を変えて素直になった名前を見て、七海はくすりと笑ってしまった。彼自身、彼女の胃袋を掴んでいる自覚もあるし、上手く機嫌を見分けて上手くコミュニケーションもとれる。

「先輩、お酒も買いましょう!」
「すぐ潰れるでしょう」
「何か言いました?」
「いえ」

いつもツンケンしているくせに、こういう時はニコニコと上機嫌になるのを見るのは面白い。

2人でスーパーに寄って、具材を選んで、会計であれこれ言い合って結局割り勘して帰路につく。七海はこの時間が何となく好きだった。


「先輩、私これ飲む」
「度数見てください」
「このくらい余裕だって!」
「さてはもう酔ってます?」
「まだシラフです!」

名前はジトっといつものように七海を見て、それから頬を膨らませた。

◇◆◇

最初はちょっと嬉しかった。

だって普通さ、こんな経験しないじゃん?まだまだ青かった恋に恋する若い私は乙女心とかそんなやつを燻られて2人の"それ"について何も言わなかった。

向こうが勝手に甘やかしてくれるのだから、名前はただそれを享受するだけである。

どうせ一過性のすぐ終わるできごとだろうと思っていた。思ってたのに...。

「しょ、硝子さーん。あの2人絶対何かに取り憑かれてるって!おかしいよ。いつまでこの"甘やかし"は続くわけ?」
「自慢?」
「そんな感じに見えます!?」
「冗談だって」

ある日、家入と2人でカフェに来た。相変わらずのそれを思わず家入に言えば、家入も名前のことを揶揄ってくる。それにムッとすれば、彼女はふふっと大人っぽく笑った。

「.....はあ」
「名前は何だかんだ言って、2人のこと大好きだろ?」
「そりゃあ、超尊敬してますよ。"甘やかし"だって度を超えてなければ全然良いんです」
「さすがちゃっかりしてるね」
「貰えるものは貰う主義です」
「そういう所は嫌いじゃないよ」
「えへへ」

もう随分長い付き合いとなるが、相変わらずの関係に何だかんだ居心地がいいのは口にしない。高専時代、何だかんだ合って暫く関わらない時期だってあった。しかし、また顔を合わせるようになれば"あの日々"が少しだけ戻ってくる。


特に親しくしていた 彼ら2人の先輩ももう居ない。

"名前自身だって、もう___である。


それなのに彼らの関係はまだ変わらない。変わっていなかった。

「まあ"あと少しだけ"だもんね」
「.......」
「硝子さん、そんな顔しないでよ。こればっかりはとっくに決まってたことなんだから」
「.....そうだね」

名前はそう言って、先程運ばれてきたカフェラテに口をつける。3人の関係のように絶妙に苦くて甘いそれをぼんやりと見つめて曖昧に笑みを浮かべた。

◇◆◇

名前がまるで"充電切れ"を起こしたように急にパタリと倒れて眠ってしまうことは高専ではよくあることだった。

今日だって先程まで忙しそうにあちこちを駆け回っていたくせ、仕事が一段落ついた途端にふらりと身体を傾かせる。その"眼"のお陰か何となくそのタイミングが分かっている五条は、床に彼女が顔面を強打する前にその身体をサッと支える。


そういえば昔、名前が顔面を強打したまま眠っいてたことがあった。鼻を打ったため鼻血が出てしまっていたが、彼女自身眠っているため、それを止める行為などもちろん出来ていなかった。そのため、発見した夏油と五条、そして灰原が「え?殺人事件?」と騒ぎ立てたことがある。

今ではもう懐かしいその記憶を思いがけず思い返しながら、目を瞑ってピクリともしない名前の脈を一応ではあるが確認する。しっかり脈が触れてはいることが触知できたので、五条は人知れず安心した。


「.....」

もうとっくに慣れてることなのにやはり妙に落ち着かなくて、五条は名前の顔にかかった髪をそっと払いのける。その時に彼女の吐く息が手を掠めた。それを知覚しながら、五条はその身体を横抱きにする。

__あれ、また軽くなったかも。

よく運ぶからそんなことすらよく分かる。元から生きてる?ってくらい軽かったくせに、その重さは更に軽くなっている気がした。

__いつか。...いつの間にか消えてしまいそう。

思わずそんなことを考えた。


初めて彼女に会った高専時代、急に"それ"が"ぷつり"と切れるのを見てから、五条は毎回内心ではあるが肝を冷やす。いつものことではあるけれど、気が気でない。

最初はなんだコイツ?と思っていたのに、本人の意志とは関係なしに勝手に途切れていく"それ"が全部切れてしまったら彼女はどうなってしまうのだろう。

「.....あーあ」

きっと、その結末が良くないことは火を見るより明らかだ。その身体を大事に抱えて五条は歩き出す。

あと1秒後にその呼吸が止まるかもしれない。心臓が血を巡らすことをやめるかもしれない。すっとその身体が冷たくなって、永遠と温もりを作ることなく空っぽになるかもしれない。

それが恐ろしくて、愛しい彼女を見て五条は静かに息をついた。


「おっ、七海」

ガラリ、行儀悪く足で扉を開けるとそこには七海がいた。どうやら書類を作成していたらしい。彼は、ちらりとこちらを見ると、立ち上がってすぐ側の長椅子に枕を置いた。五条が名前を横たえる。用意周到にタオルケットを取り出した七海が彼女にそれを掛けると、また席に着いた。


「名前はかわいいね。今も昔も」
「.....」
「"あの日"から見た目は何にも変わってないしさ。.....あーあ、本当に。悲しいくらいに哀れで、可哀想で、そして何よりかわいい」
「そうですね」
「ふーん。珍しく同意するんだ?」
「ええ」

五条は長椅子の横に椅子を持ってきて座ると、寝息をたてて眠る名前を見つめる。彼のその"眼"に映る彼女はとっても綺麗なのに、彼女を作る"それ"はぼろぼろで、それでいて今にも切れそうだ。初めてあったあの日からその"危うさ"をずっと抱えながら、何事もなく笑って、騙されやすくて、人のために簡単に命をかけてしまう詰まらないくらい、びっくりするくらいに可哀想で、何より哀れで、それでいて憎たらしいくらいに可愛い彼女。

「.....残酷だね」
「不運ですね」

五条と七海は顔を見合わせてそう言った。そしてまた彼女を見やる。

彼女がどんなに嫌がろうと、もう放してやる気はない。離れてやる気もない。何だかんだ言って、こちらのことが嫌いなわけではないことも知っているし。


「.....大丈夫、もう1人にはしない」
「五条さんが言うと気味悪いですね」
「はあ?こんなイケメンに言われたら幾ら名前でもイチコロでしょ!」
「それを言葉にすると更に台無しですよ」

何年経ったって、いつだってこちらをハラハラさせる彼女のその"性質たち"が2人の心を奪って離さない。

気まぐれで、"甘やかし"を享受したかと思えば、急にツンケンして、時々デレる。そう、まるで猫のようだ。何だかんだ寂しがり屋なくせに構えばムッとするし、1人になると「不安です」という感情が誰が見ても分かるくらいに鮮明に浮かぶ。そんな子を"あの日に取り残して行く"だなんてきっと五条にも七海にもできないのだ。

___そう。もう離れてやる気はない。

"甘やかし"の結果、あわよくば、うっかり、"自分だけ"にその瞳が向けばいいのに。いい大人のくせに年甲斐にもなくそんなことを心に忍ばせながら彼女の寝顔を見つめた。


◇◆◇


「.....んん。...っ、??.....う、ぇ、先輩!?ちっか、うっわ」
「何その反応。さすがに傷付くんだけど」
「げっ、しかも2人揃ってるし」
「...はあ、寝起き早々騒がしい」

五条が至近距離でその寝顔を覗き込んでいれば、起きたらしい名前がそう声を上げた。超絶美形を目の前にしてその反応は如何なものか、と五条は何となく解せなくて顔を顰める。

急に騒々しくなった室内に書類を作成していた七海は思わずため息をついた。どうして起き抜けであるというのにそんなに元気でいられるのだろうか。


「名前。はい、悟くんにおはようのチュー」

そうからかい半分に言って、顔を差し出す五条に苛立って、名前は軽く拳を握ってその頬を押してやろうと思うが五条の術式のせいでどうしようもなかった。

あとほんの少しのところで、くうに邪魔されて中途半端に止まった手を死んだ目で見つめていれば、五条がその手を掴み恋人繋ぎの容量で繋いでくる。

「七海先輩、お助けーー!」
「.....対価は?」
「.....あ、やっぱいいです!五条先輩、手を離して!!」
「やだねー」

いつもの日常が彼女を少しずつ"置き去り"にして進んでゆく。


__まだ"残酷な未来"がやってくることなど夢にも思わない彼らは、いつかのように今日を生きてゆく。


(七海。僕さ、引く気はないからね)
(五条さんも余裕綽々としていたら足元すくわれますよ?)

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