VSイケメン嫌い女子


___イケメンは嫌いだ。

だって顔だけのやつが多いもん。偏見だっていうけど、仕方ないでしょ。今日まで生きてきて、イケメンで性格が良い奴なんてほとんど会ったことない。見かけは良くても実際に接して本性が見えるとやっぱりって思ってしまう。

ナルシストであったり、高圧的であったり、すぐ浮気したり、自分よりあの男が良いのかとか言ってみたり、自分より友人を選ぶのか?とか言ってきたり、あと友達に泣かされてた子がいる。あとはモテる自覚があるからすぐ取っかえ引っ変えする。そして誰にでも愛想振りまいてニヤニヤしている。

イケメンはテレビの画面越しに見るくらいが丁度いい。関わるとろくなことないから。


__だから彼、宮祈も絶対そう。

「祈!教科書貸してくんない?」
「何のやつ?」
「数T」
「はい」
「あざっ!今日の自主練の時ブロック練習付き合うわ!」
「ほんまに!?嬉しいわあ」

隣のクラスのバレー部が教室に入ってくる。そして1番後ろの席の宮くんに話し掛けていた。いつも休み時間に勉強してる宮くんが顔を上げた。その会話は隣のクラスのバレー部の声がでかいから全部聞こえてくる。


宮祈はこの学校では有名だった。

まずはその顔立ちがイケメンだから。女子だけじゃなく、男子の中でも話題に上がるらしい。あとは関西弁で喋るとことか、人見知りというギャップとか、何だかんだ優しいらしいとか。あとは頭が良い。この前のテストで10位以内に入ってたって聞いた。全国常連のバレー部に入ってて、週に数回は選択授業を取らずに部活に行ったり、1日練習試合に行ったりするくせにすごいと思う。でも、それはそうか。授業は毎回しっかり聞いてる。休み時間は移動教室のときと友達と雑談している時以外はずっと課題や授業の復習をしてる。くそ真面目な人だとは思った。よくどっかの漫画から出てきたんだろ?と言われてる。それは分かる。

あと悪い噂は聞かない気がする。どちらかと言うと隣のクラスの"微妙にイケメン"の方が既に悪い噂が流れてる。

「な、祈くん。このサーブやばくね?」
「え、どこ高の人やっけ?前よりヤバくなっとるやん!」

温海くんが声をかけると宮くんが顔を上げた。きっとバレーの話だろうな。楽しそうに「負けられへんね」とつぶやく横顔を見つめて思う。

......あれ?そういえば、なんで私こんなに宮くんのこと見てるんだろ?


◇◆◇


「最悪」

今日の体育はバレーだ。運動が苦手な私にとってはまず体育自体が嫌なのに、競技が球技だと更に気が滅入る。うちのクラスは男女ともに運動部が多くて、しかも全国に行くような部活に所属している子達もいる。だから運動神経が異常に良い人が多い。球技が得意な子もとても多い。もちろん文化系の子もいるけど、その子たちですらわりと動ける。

体育館の半分を使っている男子はとても楽しそうだ。本気でやって怒られてるバレー部の姿を見ながら思う。女子だってもちろん楽しそう。

「お願い!」
「あ、うん」

あ、やっぱり無理だな。ボールは腕に当たったけど思ったところにいかないや。あとめっちゃ痛かった。

ローテーション早く回らないかな。

「はあ...」

そんなことを考えながら思わずため息をつく。少しするとローテーションがようやく回った。ほっと息をつきながら、コートから出てステージの上に登ると同じくあまり運動神経がすこぶる良いとはいえない友人が寄ってきた。

「男子めっちゃ面白いよ!」
「あ、うん」

腕を引っ張られて男子の方の試合を見に行く。私たちと同じようにステージに座っている子達も結構いた。私立だからか知らないけれど体育はわりと緩くて、ガチでやっている子以外はステージに座って男女の試合を見て歓声をあげている。先生もとりあえず1回コートに入れば良いみたいなスタンスだから、気にしていないようだった。まあそれで成績が悪くならないのならいいやと思う。

「がんばれ!斉藤くん!」
「みっちゃん、やれー!あ、温海くん凄い!」

隣の子は男子と女子が試合しているコートを交互に見ながら応援している。凄いな、と思いながらステージの上で体育座りをしたまま私も同じように両方を交互に見る。

女子の試合では、うちのクラスで一番背の低い子がコートの中で頑張っている。それを見て、がんばれ!と心の中で応援する。

ダンッ!

「......っ!?」

大きな音とともにみんなの歓声が急に大きくなって前を見る。目の前の男子の試合でどうやら隣のクラスの男子がサービスエースってやつを決めたらしい。どうやらバレー部の子みたいだ。うちのクラスの男子たちがワアワア言っている。

「そっちがそうならこっちもバレー部が頑張るからな!」
「えー」
「えっ」
「やんの?」

バスケ部の子の言葉に対して、うちのクラスのバレー部たちは驚いたように彼を見ている。さっきガチでやって怒られたから、色々言われるのが嫌らしい。

「来いよ!」

しかし、隣のクラスの男子が煽ってくる。「それならやるかー」とバレー部が腰を上げた。隣のクラスもバレー部のメンツと結構交代している。

「これ普通の部活の試合じゃん」
「それな」

思わずそう呟いた。隣の友人も頷く。「でも、面白そう」と友人は続けた。確かに面白そうではある。

「宮くーん!やっちゃえー!」
「頑張ってね!宮くん!」
「きゃーー!」
「お前らはこっちのクラス応援しろよ!」

宮くんがコートに入ると色んなところから応援の言葉が叫ばれる。向こうのクラスの男子が宮くんを応援する自分のクラスの男女を指さして喚いている。なんかとっても悔しそうだ。当の宮くんはというと困ったように笑っている。その背をバレー部がバシッと叩いた。


◇◆◇


「凄い...」

何だかんだ言ってやっぱりバレー部が沢山コートに入ると先程までの試合とはガラリと雰囲気が変わる。うちのバレー部は全国優勝するような高校だ。だから上手い人たちが全国からやってくる。そんな彼らが入って、しかも白熱するとバレーはとても輝いて見えた。

「げっ!」
「ナイス、祈くん!」
「なんで今の届くんだよ」
「どんまい、バスケ部ー!」

ネット前で背の高いバスケ部の子の打ったスパイクを宮くんが1人でブロックする。身長差は結構あったのに宮くんは全然余裕そうだ。更に歓声が大きくなるから、向こうのクラスのバスケ部の子は嫌そうに顔を歪めた。

「つーか宮のやつなんかいつもと違うくね?」
「確かに」

すぐそこで男子がそんな会話をしている。確かにいつもの宮くんより更にカッコイ.....、いや、なんか存在感がものすごくある。

イケメンで、運動神経良くて、頭も良くて、ギャップがあって.....。どれだけ徳を積んだらそんなスペックになるのかは知らないが、絶対に本性はヤバいと思う。

そんな偏見の目で相変わらず彼を見つめる。

「アウトー!」

そんな声が聞こえた。相手クラスの子がスパイクしたボールはまだ落ちてはいないがアウトらしい。やっぱり毎日部活しているとそういうの感覚で分かるのかな?そんなことを考えながら、ぼやっとそのボールを見ていると、そのボールが完全にこっちに向かってきているのに気づいた。全国クラスの男バレが打ったボールの勢いは全然落ちていない。

「あ、危ないっ!」
「.....っ」

誰かの声がした。

いや待って!?完全に私の顔面に当たるやつ...!

せめて顔を伏せればよかったが、まあ結局頭には当たる。目を瞑ることも忘れて固まっているとそれは起こった。

__ダンッ!

大きな音がした。気がついたら目の前のボールは違う方向に飛んでいってて、誰もいない方の壁にぶつかっていた。

「大丈夫?」
「えっ」
「怪我とかしてないな?」
「宮くん...?」

目の前には宮くんがいた。え?今、助けてくれたのって宮くん?ぼやっとその顔を見ていると、さっきスパイク打った男子も走ってくる。

「ごめん!怪我してないか?」
「え、あ、うん」

ステージの下からそう声を掛けてくる。回らない頭で頷いた。

「祈ありがと!お前が早めに走ってくれてて良かったわ」
「ええよ。角度的に危ないかな思ただけやし。びっくりしたよな。堪忍な」
「え、う、うん。大丈夫。ありがとう」
「おん」

宮くんは私の言葉ににっこり笑って頷いた。すぐそこの女の子が「ひっ」と悲鳴をあげかけてどうにか留めている。

__え、かっこいい。

女の子にあんな風に笑う宮くんなんて、スポーツテスト事件以外で知らない。あの時も遠目に見ただけだし。心臓がドクンと音を立てていた。滅多にないその笑顔に周りもザワついていた。

「.....あ、え、あはは。じゃ、じゃ続きしよ...」
「お前、素に戻るの早い!」
「何の話や。はよやろ!授業終わるで」

はっと我に返った宮くん。いつもクラスの男子やバレー部以外の子と話す時以外と同じで、急に顔を真っ赤にしてキョロキョロと視線を泳がせて照れている。照れながらステージからおりると、隣のクラスの男子とともにまたコートへ戻って行った。


「え、ヤバくない?」
「カッコよかったね.....」

友達の言葉に思わず頷いた。

宮祈。イケメン。まだヤバい本性があるかもしれない、とは思わなくもないが私の心は珍しくイケメンに揺さぶられていた。

__.....宮くんってイケメンなだけじゃない。超優しいじゃん。

(VSイケメン嫌い女子)
(勝者は.....?)


◇◆◇◆◇

*早めに走ってた祈がステージに飛び乗って、そのままボールを誰もいない方に弾いてます。


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