「あいつらは人間じゃねーもん」


今日は授業がなく、身体測定とスポーツテストがある。今日が1年で、明日が2年、明後日が3年。各学年クラスが多いため、1学年ごとしか行えないのだ。

「し、身長がちょっとやけど伸びてる!」

自分たちのクラス(といっても男女別れるので男子)はまずは身長と体重を測定するところから始まった。ドキドキしながら測定してもらい、数字を伝えられる。そして伝えられた数字を聞いて嬉しくなって思わず声に出してしまった。

179cm。179cmやて。やばい、あと1cmで180cmやん!これは兄ちゃんたちに追いつけるのでは?いつものように負けず嫌いスイッチが働く。

小学生の時は実は兄たちよりも身長がちょっとだけ高かった。でも中学に上がる頃には2人に追い越されていた。僕の成長期は兄弟の中で割と遅くて、2人に散々「チビやな」とからかわれた。しかし、僕も中2の終わりくらいから少しずつ成長期が来て、そしてやっと170cm後半。今や後ちょっとで180cm!こんな嬉しいことはないだろう。


「えー、俺はまず170ほしいわ。宮くん。たっかいなあ」
「そ、そそそうやろか。僕なんてまだまだや。やって、バレー部とバスケ部のみんな見てみ?」

僕のクラスの男子は運動部が多い。あと身長が高い人も多い。この前栄くんが言っていたが、見た感じ男子の平均身長は1年生の中だとこのクラスが優勝らしい。180cm前後って割と高い方ではあると思われるが、残念ながらこのクラスにいると、低い順から数えて男子で真ん中くらいになるのだ。


列に戻って僕の持つ紙を覗き込んだ男子だけの出席番号が僕と前後の彼は自分の身長を指でなぞって、それから口を尖らせた。

「あいつらは人間じゃねーもん」
「おい、聞こえてんぞー?」
「うっせ、バスケ部」

彼の横にいたバスケ部の子がニヤニヤしながら肩に手を回している。彼は186cmだったらしい。それこそ「たっかいなあ」である。仲良しな2人をみて笑っていると、「次の測定に行こう」と声が掛かって立ち上がった。


「なあ、宮くん」
「な、なんやあ?」
「あいつらから1cmずつちぎり取るの手伝って」
「おー、ええな。手伝うわ」

いつの間にかクラスの人(男子限定)と話すことにほんの少しだけ慣れた。というか僕のこのコミュ障ぶりにみんなが慣れただけかもしれない。しかし、バレー部以外の人ともわりと話せるようになったのだ。

そのことを嬉しく思いながら彼と会話をする。彼が指さしたのはクラスで190cm以上ある男子たちだ。あれくらい高いと少しだけ生活が不便そうだが、あの高さの景色を見てみたいとも思う。僕は彼と目を見合わせてニヤリと笑う。

「え、俺からは?」
「うるせ、186cmは引っ込んでろ」
「なんかあたり強くね?」

さっきから彼に絡んでくるバスケ部の子は「えー」と口を尖らせた。それを見てくすりと笑うのだった。


◇◆◇


「祈くん、なんかご機嫌だね」
「うん。ちょっとやけど身長伸びててん」

最初は真面目に出席番号順に並んで行動していたが、測定を進めていくうちにいつの間にか適当に移動するようになっていた。測定場所に着いてから並べばいいからだ。

いつものバレー部のメンバーでクラスの子たちを追いかけながら会話をする。涛治くんの握力がゴリラだという話で盛り上がっている栄くんとそれをいつものようにニコニコしながら聞く隆良くん。その2人のすぐ後ろで涛治くんと並んで歩いていると、僕の様子に気づいたらしい涛治くんが声を掛けてくるのでそれに返す。

「お、何cm?」
「179cmやで。そういう涛治くんは?」
「俺?俺は191cm」
「な、なんやて...。191cm」

高い高いとは思っていたがやはり高い。ここにもさっきまで話していた子の「身長1cmずつちぎる」対象がいるとは。手伝う宣言したからもちろん涛治くんからも1cmちぎり取らんとなあ、さっきの冗談を思い出しながらぼんやりとそんなことを考える。


「次は外か...」

太陽にあまり強くないらしい涛治くんは沢山日焼け止めを肌に塗っている。途中涛治くんが出しすぎた日焼け止めを貰いつつ靴に履き替えた。

外に出ると女の子たちがグランドを走っている。スポーツテストの項目の一つである持久走は、4クラスずつ大体の集合時間を決めて集合して走ることになっていた。

「うわー、あの子速いね」
「あの子かわいい」

ぼそぼそと男子の会話が聞こえてくる。それに混ざって栄くんの「今度、涛治くんにリンゴを握り潰してもらおう」という声が聞こえてきた。すかさず隆良くんが「もったいな」と零す。

「2人は女の子たちよりも涛治くんに夢中やな」
「ぶっ、なんか色々と語弊が生まれそうだから俺の握力の話題に夢中って言って欲しいな」
「あ、堪忍な」

確かに語弊が生まれそうだ。苦笑いした涛治くんの言葉に「うん」と頷く。

「ほら50mのところ行こう」
「せやね」

もう一度涛治くんの言葉に頷いて50m走の集合場所へと歩いていく。


◇◆◇


「はい、祈くんはこの列に書いて」
「わかった」

50m走、立ち幅跳び、ハンドボール投げが終わって残すは1500m走のみである。他のクラスのバレー部の子たちと集まって、今回測定した数値を順番に書いていく。スポーツテストの測定が書かれた紙はあとから集められてしまうため、その前に部活に提出用の記録用紙に書かないといけないのだ。僕らのクラスが最後に書くらしく、大分埋まっている欄の下の方に書いていく。やっぱみんな身長高いとか、やっぱり栄くんが言ってた通り涛治くんの握力凄いなとか考えながら埋め終えてそれを隆良くんに渡した。

「5分後俺たちが1500mだな」
「監督が本気で走って来いって言ってたから手は抜けないわ」
「監督俺らの1000mのタイム持ってるもんな」

他のクラスのバレー部の子たちと集まったまま、グラウンドに目を向ける。前の男子たちがみんな走り終え、先生が「次走るクラスはそろそろこの辺にいろよ」とメガフォンを持って喋っている。それを聞きながら軽くストレッチをし、そして立ち上がった。


「あ、あの...」
「う、うん?...て、え、なな何ですか?」

みんなの後を着いて行っていると声を掛けられた。振り返れば女の子が数人いて思わず声が裏返る。あれ?僕何したかな?と考える。身体は条件反射で勝手に後退りしようとしていた。「お、祈になんか用?」とバレー部の子に肩を押さえられたのでできなかったが。

彼女たちは目を合わせて頷き合うとこちらを向く。

え、ホンマになに?

「宮くん!走るの頑張ってね!」
「私ら、応援してるよ」
「してる!超してる!」

急にその言葉を伝えられて、酷く焦った。お、応援?してる?ありがたい言葉であるが、何故こんなに声かけられるん?

気がつけばまた数人女の子たちが増えた。後ろからバレー部の子たちに「おー羨ましいな」とバシバシ背中を叩かれる。いて、いてて。

「あ、えっと....その....」
「次走るクラス!そろそろ集合だぞー!」

頑張れ、と言われたらちゃんとお礼を言わないと。「人にして貰ったらちゃーんと返すんやで?ええな、祈くん」と昔ばあちゃんが言っていた。それに「うん!」と答えたのも僕である。1度言った言葉は違えてはいけないのだ。もちろんそんなこと言われてなくたって返すのは当たり前だけど、何故か今、ばあちゃんの声がふと頭を過った。

先生がメガフォンを使って何か言ってる。早くお礼を言わないと。そう思いながら口を開いた。

「お、おん。......あ、ありがとうな。僕、頑張るで」

どうにか思いついたその言葉たちを並べて、それから笑う。やば、なんかめっちゃ恥ずいやん、これ。

その恥ずかしさから逃げるように、そのまま曲がれ右をして「はよ行こ」とバレー部の子たちの背を押して駆け足で集合場所に向かった。


___その日、保健室に何故か鼻血が止まらないという1年女子が多く集まったらしい。その理由を知るのは居合わせたものだけ。


「祈くん、やっちゃったね」
「え、え?」
「コミュ障とのギャップで何人殺す気よ?」
「え、なんやそれ。誰も殺してへんけど?」

みんな何故か遠い目をして集合場所に立つ。みんな何処か居心地が悪そうだ。いや、僕も何だかみんな見てくるから居心地は最悪なんだけど。

「さっすが学年1。羨ましいような羨ましくないような」
「他の男子からのバレー部への視線が鋭いんだけど」

やれやれ、というようにみんなからため息をつかれた。

(は、え?何あの宮くんの笑顔)
(ありがとうな、だって)
(え、推すしかないじゃん)
(それな)


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星の唄聲が聴こえない