▽2017/07/04(Tue)
同僚との距離感は難しい
国際警察
百鬼(なきり) (レントラー ♂)
依(より) (エネコロロ ♀)
ちょっぴり玖々通(くぐつ) (★メタグロス ♂)
山積みにされた書類を前に何度目かの溜息を吐いたがそれで書類が減るわけではない。一枚一枚目を通しながら普段こんな面倒な事をしているのか、と自称天才を名乗る同僚の姿を思い浮かべてはすぐさま消す。
本来雑務と呼ばれる作業は自称天才、ではなく玖々通の仕事なのだがその張本人は「これ以上に無い天才的な発明を思いついた!!」と叫びながら自宅へと帰宅。呼び止める暇も無く颯爽と帰っていく様は種族柄を忘れてしまいそうな程素早かった。そのまま帰宅すれば良かったものの困り顔の同僚に捕まってしまい得意では無い作業へ入って早数時間。
終わる気配が全くしない、そう思うのは他にもいるようなのだが黙々と作業をしている為言い出せず此方も作業を続ける以外選択肢が無い。
無意識に増える煙草の量。あまり吸い過ぎるなと注意されたばかりなのだがこれは吸っていないと続けられそうに無い、後程謝っておこう…そう決意しつつ読み終えた書類に判子を押す。同じ作業の繰り返しの筈なのに減る様子が無いのは溜め込んでいたのだろう、と結論付けるしか無い。
「ごめんね百鬼君。呼び止めちゃって」
「いや」
ポツリ、隣から漏らされる言葉に短い返事が溢れる。ちらりと視線を向ければ案の定困った笑みを浮かべる同僚、依の姿がある。少し間を置き自分が素っ気ない態度をした事を思い出せば自然と溜息が出てしまう。言葉が足りない、態度が無愛想過ぎる…と何度も指摘された事が改善されていない事実にどれだけ自分が器用じゃ無いか思い知らされてしまう。
謝るべきだろう、だがタイミングで謝るべきか分からない。間を開けてしまった今謝っても大丈夫なのだろうか、不審な顔をされないだろうか。どうにも人付き合いが得意では無い、特に異性との距離感は未だに掴めないでいる。しかも彼女は歳上だ、あまり失礼な態度を取るわけにもいかない。
「でもありがとう百鬼君、貴方が居たから助かっちゃった」
「……あ、いや」
「喉乾いたよね?飲み物買ってくるから休んでていいよ」
「……」
謝る前に御礼を言われ、訂正する前に席を立たれた場合はどうするのが正しいのだろうか。小走りで自販機まで行くであろう彼女の背中を眺めつつ行き場のない手が揺れる。やはり彼女との距離感は分からない。歳下扱い
というのか…何処かむず痒い感覚がして苦手なのだが他意はないのだろう。寧ろ彼女は殆どの人達に俺と同じ対応をしている気がする、元犯罪者や犯罪者との繋がりが主な此処にしては随分と珍しい人だ。
彼女からは悪い噂は聞かない、寧ろいい噂ばかり。国際警察の唯一の砦と言っても過言では無い心優しい人物、そう認識されている事が多い。部隊が違う為そこまで接点があるわけでも無いが一応隊長同士他の同僚達よりは交流はある筈だ。だからかなのか、俺には彼女が本音を隠しているようにも見える。気のせいだとは思うが時折見せる儚げな表情が引っかかってしまう。普段とは違う、何か…そう何かを思い出している表情だ。いや待て、あの表情は確か他にも誰かしてきた気がする。一体誰だったか、ぐるっと思考を巡らせていれば頬に伝うひんやりとした感覚に思考が停止した。
「っ、!」
「あ、ごめんね?飲み物買ってきたんだけど考え事してたみたいだったから。…お邪魔だった、かな?」
「いや問題無い。悪いな、いくらだった」
「ううんいいの、付き合ってもらってるお礼だから」
「…ならば有難く頂戴する」
また彼女は困った様に笑う。
癖なのか、それとも条件反射なのか、彼女は俺に対してよく困った顔をしている。怖がらせるような事をした覚えは無いが表情があまり変わらない俺に対してならば困りたくもなるだろうな。
ひんやりと冷たい缶は少し蒸し暑いこの時期には有難い物でやはり気遣いの出来る彼女は俺が一度珈琲を飲んであまり進みが悪かった事を覚えていた様だ。甘いミルクティー、と書かれた羅列をなぞりつつ平気な表情で珈琲を飲む彼女に気を遣わせてしまった事を心中で謝罪する。珈琲を飲めない訳ではないがどうにもあの苦味は苦手な分類に入る、微かに眉を潜めて飲んでいた事を同僚に揶揄われた事は記憶に新しい。お子様だと思われたか、視線を横に向ければパチリと交じり合う視線に向こうも驚いた表情を浮かべていた。
「どうした」
「あ、えっと、ミルクティーで良かったかな、と思って」
「…問題無い」
「良かったぁ、本当はね珈琲にしようと思ったんだけど押してから百鬼君苦手なの思い出しちゃって。慌ててミルクティー押しちゃって、飲めるなら安心だね」
「?、あんたは珈琲好きじゃないのか」
「え?あー…、実はちょっと苦手で、でもいいの偶にはね」
どうやら盛大な勘違いをしていたらしい。
彼女の好みを把握していなかったのは誤算だ、まさか苦手な物を飲んでいるとは思いもよらなかった。平気な表情で飲んでいると思っていたが我慢していたのか、流石にそれは此方としても気まずいものがある。
口が開いた缶と未開封の缶を見比べつつ、手を伸ばし入れ替えれば案の定驚いた彼女がいる。独特の匂いに反射的に顰めてしまうがそんな事は御構い無しに一気に口の中に放り込む。口内に広がる苦味はやはり好きになれそうに無い、半分程飲んだ所で流石に一気は厳しい為口から離せば目を丸くしている彼女の姿が。
「な、百鬼君、それ、あの」
「気を遣わせて悪い。俺はこれを飲むからあんたはそれを飲め」
「えっとあの、そうじゃなくてそれ私が飲んでやつで…」
「?」
「だからその、間接キス、ですそれ」
一度持っている缶と渡した缶を見比べ、先程彼女がこの珈琲を飲んでいる事を思い出す。嗚呼そういえば口を付けていたな、と何処か他人事の様に考えつつ言われた言葉をなんとか噛み砕けば再び失礼な事をしてしまった事に気付く。
じわりと白い肌が赤みを帯びるの視界に収め背中から何か嫌な汗が出る感覚がした。関節キスなんてこの歳になって気にすることでも無いししかも相手は同僚だ尚更気にする必要がない、のは同性までの話。今目の前にいる彼女は紛れも無い女性で俺は男な訳だ、俺が気にしなくても彼女は気にすることぐらい何故理解しないんだ俺は。
やけに静かな会議室が更に静かになった気がする、二人しかいないこの状況に逃げ出したくなったのはどうか許してほしい、引き攣る口元と握りつぶしそうになった缶を机に置いてそろっと書類に向き直る。
「………、悪い」
「……ううん、いいの」
かちん、と隣から缶を開ける音を聞きやはり交換しなければと少しばかり後悔する自分がいる。こんなにも気まずくなってしまった原因の自称天才は明日任務でこき使おう、そう決意しながら珈琲を飲めば少しだけ甘い感じがしたのは気のせいだと思いたい。
(ちょっと何で君はさっきから俺にばっかり指示出すんだい!?)
(煩い、黙って動け)