「ナマエ、ようやく出来上がったぞ!」 

 燦々と輝く太陽が辺りを照らす昼下がり。珍しく朝からナマエを残し出かけていたアポロンは、夫婦の居城である神殿へ帰って来るや否や、勢いよく扉を開け放ちながらそう言った。
 すぐに戻るから絶対に部屋で待っていてくれ、という言葉に従い読書をしながら待っていたナマエは、突然開いた扉に驚くこともなく。慣れた様子で読んでいた本から視線を上げる。

「……おかえりなさいませアポロン様。扉はもう少しゆっくり開けていただかないと、壊れてしまいますよ」
「ああそうだな。そんなことよりも、これを見てくれ」
「………」

 そうだなと言いつつ一切聞く気のない返事はいつものことである。言ったところで、アポロンの腕力があれば壊れるときは壊れてしまうのだと分かっているナマエも、特にそれ以上は言及しようとはしなかった。意味がないからだ。
 本はしおりを挟む間もなく。つかつかと近寄って来たアポロンの手によって奪われ、近くのソファに退かされてしまい。代わりとばかりに開いた机上に置かれたのは、おそらくナマエが片手で持つには少し大きく、けれど厚さ自体はそれほどない箱だった。

「…何ですか?これ」
「キミへのプレゼントだ」
「ぷれぜんと」
「ああ」

 そう言いながらアポロンは嬉々とした様子で箱を開け、その中身をナマエの目の前へと取り出してみせた。

「………」
「どうだ、美しいだろう?少し前から作っていたものなんだが、デザインや質感に悩んでいてね…アフロデティに何度かアドバイスを貰って、ついさっきようやくオーケーが出たんだ」

 服。洋服。和服。その単語たちはナマエの頭の中をぐるぐると巡ったが、目の前に現れたものは、少なくともナマエが認識するそのどれにも属してはいなかった。
 ──肩口は紐のみ。胸元が大きく開いているのは、まあまだ頷ける。確かキャミソールという形なのだと以前聞いたことがあった。
 全体はアポロンの髪のようなローズピンクで、一見してそれ以外の色味は見当たらない。ほんのわずかな光沢感の中、月桂樹の葉のような模様が、裾まで散りばめられている。
 どこまでいってもアポロンを彷彿とさせるそのデザインは、美の女神に意見をもらっていたというだけあって、色も装飾も、確かに思わず息が漏れそうになるほど繊細で美しかった。
 そこまではいい。些か露出は多いが、ギリシャの女神たちの普段の服装を考えれば、これでもまだ少ない方だろう。一応ワンピースのような形をしていて、おそらく胸元から太ももの中ごろまでは覆ってくれるだろう丈の長さはあるのだから。
 問題は、その生地だ。

「…薄く、ないですか?」

 そう、薄いのだ。一部ではない。服全体が。それこそ、服の向こう側にあるはずのアポロンの手や腕、そして身体がはっきりと見えてしまっている程度には。
 ナマエの言葉に、アポロンはきょとん、とした様子で「レースだからな」と言った。まるで、何を言っているんだ、といった顔だった。
 おかしいのは私なのだろうかとナマエは自身の感覚を疑ったが、相変わらず掲げられたままの服を見て、その考えは間違っていないことを確認する。
 レースで出来ていたら、それはもはや服ではなく下着なのでは?いや、もしかしたら下着の方がまだマシなのかもしれない。なにせ下着は、大切なところを隠すのが本来の目的なのだから。
 確かに、ギリシャの神々は布一枚で出来た、素肌の露出が多い服を身に着けている者も少なくはない。元々そういったデザインを好むという文化的な面も大きいのだろう。何よりそれが楽だというのも、妻としてこちらにやってきた際、彼らと同じ衣服を身に纏うようになったナマエも理解はしていた。
 けれどそれを差し引いても、この服は違うのではないか。身体のラインどころかその中まで透けてしまう。服としての機能を成さない、これは。

「………アポロン様」
「ん?」
「贈っていただいた身で大変心苦しいのですが、こちらは私には少し…いや、だいぶハードルが高いです」
「そんなことないだろう。絶対似合うぞ」
「そう言っていただけるのはありがたいんですが…」
「………」

 ナマエの意志が固いことを悟ったのだろう。数度目の断りの後、それまで上げていた口角をスッと横一文字に戻し。アポロンは黙ってしまった。
 喜ぶと思って持ってきた物の受け取りを拒否されたら、誰だって良い気はしないだろう。しかもそれが、相手を想い試行錯誤したものなら、なおのこと。ナマエとて愛する夫からの贈り物を受け取らないというのは、妻としてとても罪悪感を覚えているのだ。
 けれど流石にこれは無理だ。受け取れば最後、絶対にアポロンの前でこれを身に付けなければいけないのだから。
 自らこういったことを考えるのはいささか憚られるが、こうした服が何をするため、もとい何を盛り上げるためのものなのか。それくらいはナマエにだって分かる。
 ただ間違えないで欲しいのは、ナマエとてそうした行為が嫌なわけではない。ただ、それを着て、なおかつアポロンに見られるというのが、恥ずかしくて嫌なのだ。そしてそれはアポロンもよく分かっているはずだ。それでもなお着せてその姿を見たいという欲が強いのだろうけれど。

「…でも、貰えたことは嬉しいので、大切にしますね。とりあえず箱に…、」

 とはいえ貰ったという事実に関しては、こちらを想ってのことだったのだからお礼を述べ。未だ窓からの陽に透かされる服をとりあえず箱にしまおうと、ナマエはアポロンが持つ服へと手を伸ばした──その瞬間。アポロンの手が、ナマエの手をガッと掴んだ。
 驚いて視線を向ければ、アポロンはにっこりと笑い。けれど影のある顔でこちらを見下ろしながら、ゆっくりと口を開いた。

「…着ないとここから出さないぞ☆」

 あ、これ本気のやつだ。加減はしているが掴んだ手にぐっと力を込めている辺りに、アポロンの本気度合いが窺い知れ。ナマエは一瞬で全身から血の気が引いていく感覚を覚えた。
 アポロンの"ここから出さない"、という言葉は、文字通り"死ぬまでここで抱き潰してやるから、当分、下手したら抱きかかえてもらわないと外には出られない身体にしてやるぞ"、という意味なのである。
 以前、ナマエが勘違いとはいえアポロンの不貞を一瞬でも疑い、あまつさえ仕方のないことだと勝手に片付けようとした際には、一晩かけて言葉の通り身体に教え込まれ。結果、アポロンという神の眷属だと一目見ただけで分かるような身体に作り変えられてしまったのだ。
 幸いとはいえないが、それでもあのときは一日で済み、事が終わった後も意識はあった。けれどこの、自らの我が儘を通すときの今のアポロンでは、そうはいかないだろう。
 そしておそらく、いや確実に。もはや瞬きすらも億劫になるほど抱き潰された後、アポロンの手によって結局その服、もとい下着を着せられてしまうのだ。自分で着るか否かの違いだけだ。
 どちらを選ぼうと行き着く結末は同じなのだということ、ナマエは嫌というほど分かっていた。この目をしたアポロンはそういう状態なのだ。

「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……わ、分かりました、から………」

 無言の攻防の末、結局いつものように折れたのはナマエだった。
 いや、これまでの小さな諍いで無言のアポロンと争うことはあったが、それとは比べ物にならないほど、今回の彼は妙な気迫を持っていた。仕方ないと折れてしまった、というよりは、折れざるを得なかったと言った方が正しかった。
 ナマエが了承した瞬間、「そうか!」と、同じ笑顔でもあからさまに雰囲気を変えた笑顔になったアポロンは、返事を聞くや否や、持っていた服をナマエへと手渡した。
 ここまで来てなお、受け取るのも一瞬迷ったものの、言ってしまったことを訂正など今さらできるわけもなく。数度視線と手をさ迷わせながら、ナマエは服を受け取る。

「……せめて向こうで着替えてもいいですか」

 着ることは了承した。けれどせめて着替えだけは別でさせてくれ。
 そんなナマエの願いを察したのだろう。アポロンは部屋から続く夫婦のクローゼットにちらりと視線を向ける。──クローゼットの入口は二柱がいるこの部屋にしかないため、逃げ出すこともできない。せっかくならば手ずから着替えさせたかったが、自身の我が儘を通した自覚が多少なりともあるだけに、これくらいは夫として聞いてやらねば。
 アポロンはそこまで考え、「構わないぞ」と了承する。

「着方は分かるか?なんなら着替えさせてやろうか」

 何故ここで、"下心の全くない善意から言っている"といった様子で申し出ができるのだろうか。普通なら、着替えを見たいだけだろうと疑うところだが、アポロンの場合は本当に善意からなのだろう。きっかけはともかく、"手伝う"ということに関してだけは。
 ナマエはなんとも複雑な気持ちになりながら、「大丈夫です…」と小さく返し。重たい足取りで隣に続くクローゼットへと向かった。渡された服のやたらと心地よい手触りに、こんな形でなければその質感に感嘆の声を漏らしていただろうと考えながら。



 渡された服を広げて見た瞬間、ナマエは固めたはずの決意が揺らぐのを感じた。理由は至極簡単。その服の薄さを改めて実感してしまったからだ。
 ──胸元は多少生地を厚めにしているようだが、それでも突起の位置が分かってしまうくらいの厚さだ。心もとないどころの話ではない。そもそも見えているのだから。
 葉の模様で少しは隠されるかと思っていた下半身も同様で。一応従来の形の下穿きは付属しているが、それも胸元と同じく薄い生地で出来ており。むしろ中身がちらちらと見え隠れすることで、よりいやらしさが強調されていた。
 ずっと思っていたが、もう断言してもいいだろう。これは服ではない。下着だ。でも今ナマエは、その下着姿でアポロンの前に立っている。もう何でこうなってしまったのか、たった数分前のことだというのに、ナマエにはよく分からなかった。

「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……な、何か言ってもらえませんか…」

 あまり見えないようにと、胸元を抑え裾を引っ張りながらクローゼットから出たナマエは、てっきりアポロンが「流石オレ様が選んだものだ」と前口上のように述べると思っていただけに、再び訪れた沈黙に耐え切れず。思わずそう懇願してしまった。
 けれどそんな必死の願いを聞いたはずのアポロンは、それでも始終無言で。そしてそのまま椅子から勢いよく立ち上がったと思ったら、ナマエの元へつかつかと近付いてきた。

「あ、え…あっ、」

 妙な気迫に押され思わず半歩後ずさったナマエの腕を逃がさないとばかりに掴むと、アポロンはナマエの背が弓なりにしなるぐらい強い力で、ぎゅううっとその身体を抱き締めた。
 突然の抱擁に当然のごとく驚くナマエだったが、次の瞬間、大きな手が身体を這う感覚に再び驚くこととなった。

「あ、っアポロン様…っ!?」

 戸惑うナマエを置いていくようにアポロンの手はするりと滑り、薄いレースに覆われたお尻へと添えられる。そのままゆるゆると柔らかさを堪能するように揉みしだき、徐々に捲り上がっていく裾の下から滑り込んだ指先が、まだ固く閉ざされた入口を撫で上げた。
 その動きにナマエもようやく、アポロンがこのままこの部屋で"こと"に及ぼうとしているのだと気が付いた。
 真昼間から致すということはこれまでにも何度かあっただけに、良くはないが、時間についてはもはや些末事となってしまっている。そもそも明るいうちにこんな服を着ている時点で、気にしているという説得力もないだろう。
 けれど今はそうはいかない。何故なら今いるこの場所は、夫婦しか立ち入れない寝室ではなく、誰でも入ることのできる普通の居室だ。昼間ということは、掃除のためにメイドが入って来ることも充分にあり得る。見られるリスクが段違いなのだから。
 流石に行為を誰かに見られる趣味も、もちろん見せる趣味もナマエにはない。ナマエは慌ててアポロンに制止の声を掛ける。 

「アポロン様っ、せ、せめて寝室で…、」

 蠢く手に翻弄されながら吐き出した声はどうやら届いたらしく。ナマエの言葉にぴたりと動きを止めたアポロンは、痛いほど抱き締めていた身体を、驚くほどあっさりと離した。

「…そうだな。せっかくこれを着たキミをこんな所で愛するのは、美しくないね」

 そういうことではないのだが、全て間違っているわけではないのでそれでいい。とにかく場所がここでなくなるのなら、ナマエはもうなんだってよかった。
 アポロンは「急いてしまってすまなかったね。オレ様としたことが、野蛮な振る舞いだったよ」と謝罪すると、隣にある寝室へと向かうためナマエを優しく抱き上げた。

「おっと、その前に…」

 何かに気が付いたようにそう言うと、アポロンは近くのソファに掛けてあった適当な布を一枚手に取り。ナマエの身体へぐるりと巻き付けた。
 露出の多い服、もとい下着を着せられたと思ったら、今度は突然みの虫のようにされ。当然の如く戸惑うナマエのこめかみに、アポロンは落ち着けとばかりに口付ける。

「少しの移動とはいえ、そのままでは寒いだろう。キミが風邪をひいたりしたら大変だ」

 その寒そうな格好をさせたのはあなたなんですよ、とは言えなかった。
 普通ならば、多少の移動であれば構わないだろうとそのまま連れていきそうなものなのに。アポロンはどんなときでもナマエを気遣い、決して無体を強いたりはしない。確かに少し強引な面もあるが、ナマエが心の底から拒絶をすれば、きっと今回のことだって諦めていただろう。
 こういうところがあるから、どれだけ我が儘で多少強引だろうと、結局許し、受け入れてしまうのだ。
 きゅううっ、と心臓が締め付けられるような感覚と一気に熱を集めた頬を隠すように、ナマエはアポロンの胸元へ顔を埋めると、「ありがとうございます…」と呟く。
 そんなナマエの様子に、アポロンは「相変わらず照れ屋だな」と嬉しそうに笑い。隠し切れなかった赤く染まる耳へ、再び小さく口付けた。


 アポロンの居城は少し変わった造りをしている。部屋数が多いのはおそらく他と変わらないが、夫婦が過ごす居室、寝室、書庫などは、一応それぞれ壁で区切られてはいるものの、その全てが専用の短い廊下、もしくは下がり壁で繋がっており。都度メインの廊下に出ずとも行き来ができるようになっていた。
 そのため先程までいた部屋も、もちろんそのまま寝室にも繋がっていて。誰の目に触れることもなく二柱は寝室へやって来ることができるのだ。
 アポロンの妻となった当初は面白い造りだと思う程度だったが、ナマエは今ほどこの独特な間取りに感謝したことはなかった。みの虫状態で顔を真っ赤にした妻を夫が抱え部屋の奥へ向かう姿など、勘のいい者が見れば、これから何かをしようとしているのは明らかなのだから。
 足早に、けれどナマエを気遣いながらようやく辿り着いた寝室のベッドにナマエを下ろすと、アポロンは自身も同じように膝をつきそこへ乗り上げた。
 ナマエははだけそうになった布を咄嗟に掴み身体を隠そうとするものの、止めるようにアポロンの手が重ねられる。縮こまるナマエを伺うように見つめ、小さく微笑んだ。

「…見せてくれるかい?」

 移動する合間に幾分か落ち着きを取り戻したのか、重ねた大きな手が、ナマエの心を解すように、手の甲をゆるりと撫で。柔らかな声音でそう囁く。
 優しく甘やかな雰囲気に促されるように、ナマエは胸元を抑えていた手から力を抜いていく。アポロンは嬉しそうに「いい子だ」と笑うと、ゆっくりと、まるで壊れ物でも扱うかのような仕草でナマエを覆う布を取っていく。アポロンも緊張しているのだろう。触れた手はとても冷たかった。
 どうしようもないほど長く感じたそれも、時間にしたらほんの数秒で。ナマエが小さくひと呼吸する間に、アポロンの目の前にその姿が曝け出されていた。

「ああすごく……美しいな」

 とろりと下がり、きゅうっと細められた金色の瞳はまるで蜂蜜だった。薄くオレンジに色付く唇からは、一瞬小さく飲み込んだ息が震えながら、細く長く吐き出されていく。陶器のごとく滑らかで美しい白い肌は、わずかに紅潮していた。
 恍惚とした様子のアポロンに、ナマエは唇を噛み締める。見られていることももちろんだが、うるさいほどに褒めちぎるでも、口数が多くなるでもなく。ただ"堪らない"といった様子で見つめられることが、ナマエの羞恥を煽ると同時に、"アポロンに喜んでもらえた"と、どうしようもないほどの歓喜を覚えさせた。

「あ、ぽろん、さま…、」

 隠すなと言われたわけでもないというのに。透ける身体をアポロンの眼前へ素直に曝け出したまま、ナマエは乾いた喉から絞り出すようにアポロンの名を呼ぶ。その声色がいやに甘ったるく媚びた音をしていることに気付き。ナマエの瞳がじわりと潤んでいく。シーツを掴む手は汗ばんでいるというのに、指先が異様に冷たく感じられた。
 その声と瞳に誘われるように、アポロンはナマエを抱き寄せ、唇を重ねる。

「っん…ふ、ぅ……ッ」
「…は、ん……っ」

 重なった途端滑り込んできた舌がナマエの口内で蠢く。舌先で歯列をなぞり、頬の内側を撫で、尖らせた先で上顎をくすぐり。くちくちと音を立てながら唾液を含ませ、舌の根元からまるごと絡め取る。
 その激しさに呼吸が苦しくなったナマエが思わず身を引くも、後頭部と背中に回されたアポロンの手がそれを許してはくれず。むしろより密着するような形にされてしまう。
 酸素が足りない息苦しさと、漏れる互いの吐息さえも興奮材料となり。ナマエは背中を走る感覚にぞくぞくと下半身を震わせる。

「あ、っ♡ん、ぅ…ふ、んぁ…っ♡」
「はぁ…飲めるかい…?」
「ん、…ッ」

 ようやくわずかに唇が離れた瞬間そう囁かれ、ナマエは言われるまま、口内に溜まった唾液を喉を鳴らし飲んでいく。どろりと流れ込んでくるそれはひどく甘ったるく。ナマエの喉へと絡みつきながら落ちていった。
 甘いと感じるのは比喩でも、ましてや欲にまみれた錯覚などではない。アポロンの神気を注がれ身体が作り変えられたことによって、ナマエはアポロンから与えられる体液を、文字通り"甘い"と感じるようになってしまったのだ。
 だからナマエは行為の度、嫌でも自覚してしまう。頭のてっぺんからつま先まで全て、アポロンという神に支配され。そうして身体と精神がどろどろに溶かされていくことが、どうしようもないほどの喜悦を生み出しているのだということを。

「っん…、♡」

 細い喉が最後に大きく上下したことを確認すると、アポロンはご褒美だとばかりに、今度は顔中に啄むようなキスをし始める。
 これまでとは打って変わって戯れるような口付けに「くすぐったいです」と嬉しそうに笑うナマエに、「我慢してくれ」とアポロンも同じように笑う。

「ナマエ、寝かせるよ」
「ん…」

 数度の口付けで緊張が和らいできたのか、アポロンの言葉にナマエは小さく頷くと、肩を押す力に身を任せベッドへと倒れ込んだ。
 ぎしりとベッドを軋ませながら、アポロンはナマエに跨る。落ち着いたように思えたけれど、やはり興奮は収まらぬようで。ナマエの潤んだ瞳に見上げられた瞬間、アポロンは自身の下半身がずくりっと重たくなるのを感じた。
 再び唇を重ね、角度を変えながら舌を絡ませる。今度は言われずともこくこく喉を鳴らし飲み込んでいくナマエを満足げに見つめながら、アポロンはするりと手を滑らせ、上下する胸を柔く揉み始める。

「んぅ、っ♡ん、ふ、ぅ、ッ♡」

 ふるふる揺れる胸の形を確かめるように動く手は、先程までのキスですっかり勃ち上がった突起に添えられる。そこは指の背ですりすり撫でるとさらに硬くなり、もっと触れてくれとばかりにレースを押し上げていた。
 アポロンは唇を離すと、首や鎖骨に、肩口にキスをしながら胸元へと顔を下していく。柔らかなそこに痕を残しつつ、両脇から包み込み真ん中に寄せ。ぽふんっと効果音を付けながら顔を埋めると、勃ち上がる突起を二つまとめて布越しに口に含み。尖らせた舌先でその先端をべろりと舐め上げた。

「やっ!♡あ、あ゙…!?♡」

 両胸に与えられる刺激に腰を大きく跳ねさせた身体を押さえつけながら、アポロンは突起を強く吸い上げたり、唾液を絡ませながら全体をぐるりと舐め回したり。かと思えば時折軽く噛んだり、押し潰したりしながら、口内で好き勝手に弄んでいく。

「あっ♡あぽろ、さま、っあ、や、ぁ♡」
「ん…」
「や、あ゙…ッ!♡」

 これまでより強めに噛んでやれば、軽い痛みも快感になったようで。胸だけで軽く達したナマエの足先が、びくびくとシーツを蹴っている。
 その様子に楽しそうに笑みを浮かべたアポロンは、揺れる下乳を柔く噛み、脇腹にキスをし、尖らせた舌先で臍を舐め。今度は身体全体を堪能するように愛撫していく。
 けれどそのどれもが、薄いとはいえ布越しでの刺激のため、軽くとはいえ一度達したナマエの身体は物足りなさに震えてしまう。

「はっぁ、あ、ッ♡んうぅ…、あ、っ♡」

 アポロンはすっかり捲れ上がった裾から中に手を刺し入れると、腰骨の少し上でクロスされた紐の下に指先を滑り込ませ、わずかにできた下着の痕を楽し気になぞっている。まだ脱がせる気はないらしい。
 唇は身体の至る所へ痕を残しながらさらに下りていき、刺激に小さく強張る太ももへと辿り着く。秘められた場所へ触れようと、上体を起こしたアポロンがナマエの膝へ両手を添えた。

「あ、だめ、っ♡や、やだぁ…ッ」

 けれどナマエは慌ててそれを制する。こんな下着を着て、それをアポロンに見せ、あまつさえ恥ずかしいところに触れられて。それでもなお、秘められたその場所を曝け出すことに羞恥を感じているらしい。
 今さらだとは思いつつ、いつまで経っても初々しいその様子にアポロンはふっ、と笑い。強張る内ももに唇をひとつ落とすと、「ナマエ」と名を呼んだ。

「見せて」

 今度はお願いではなかった。いっとう優しいはずなのに、どこか有無を言わせぬ色を含んだその声に、ナマエは下唇を噛み締める。
 実際のところ、アポロンの腕力があればいくらナマエが抵抗しようと、全く意味はない。それでも優しく言うのは、無理やりではなく。あくまで、"自ら足を開く"と、他でもないナマエ自身に選ばせるためだった。
 アポロンの言葉の真意を理解してしまったナマエは、せめて最後の抵抗とばかりに両手で顔を覆い隠し。じれったくなるほどゆっくりと、足を開いていく。

「あ、っ〜〜…♡」

 直接的に刺激したのは胸だけだというのに、内ももまで垂れるほど溢れた蜜で布はぺたりと貼り付き。呼吸の度わずかに開閉する入り口さえも分かるほど、秘部の形をくっきりと表していて。アポロンの視線にさえ感じているのか、見ないで、と消えるように呟かれた言葉と共に、きゅうっ、と震えていた。
 淫乱に誘うそこに、アポロンは思わず唇を舐める。恥ずかしいと言いつつも与えられる刺激を素直に受け入れ。もっと触れて欲しい、足りないとばかりに蜜をこぼす姿は、どうしようもないほど欲を煽った。

「はぁ…いい子だ、ナマエ……」

 興奮して上擦った声だった。聞いた瞬間情けないと思ったが、今のアポロンに、そんなことを気にしている余裕はなかった。
 アポロンは両手を膝裏に滑らせると、さらに足を大きく開かせ、濡れた秘部に顔をぐっと近付ける。ナマエが驚きの声を上げる前に素早くクロッチ部分を指でずらし、曝け出されたそこを、迷うことなくべろりと舐め上げた。

「っあ゙!♡う、ぁんっ♡んぅうッ♡♡!」

 バタついた脚を押さえつけるアポロンの手が、ナマエの柔らかな内ももに沈み込む。強くしないようにと気を使っているようだったが、それでもくっきりと手の痕が残るほどの強さだった。

「や゙、あっ♡舐め、ないでぇ、ッ♡」

 アポロンの頭に伸ばし止めようとするも力が入らず。艶やかなローズピンクをわずかに乱すだけで。むしろ抵抗したことを叱るように、アポロンは入口の少し上にある慎ましやかに震える突起を口内に含み、ちゅうっと強く吸い上げ。さらに顔を出したところを舌先で嬲ってやれば、喜ぶようにごぷりと蜜があふれ出した。
 
「ハハ…ナマエ、キミの中は"もっとして欲しい"と言っているけれど?」
「っや、ちがっ、ん゙あッ!♡」

 ナマエが言葉を発すると同時に、アポロンは溢れた蜜をごくりと飲み込みながら舌を尖らせ中へと滑り込ませ。その美しい顔が汚れるのも気にせず、じゅるじゅると大きな音を立てながら肉壁を抉るように撫で回す。

「あ゙、や、っあ、あ゙あぁ、あ…っ!♡」

 時折蜜を掻き出すため硬く舌を抜き差しすれば、押さえた太ももがアポロンの顔の近くでぎくぎくと硬直しながら震えている。

「あ、あ゙、ぽろ、さまっ、も、やら、あ゙♡」

 泣きの混じった声と共に、丸まりピンッと張っていた足先が、どこか慌てたようにバタつき始める。アポロンの頭に添えるだけだった手にもわずかにだが力が込められていた。
 ナマエが必死に抵抗する理由は分かっている。限界が近いのだ。既に舌足らずになるぐらい感じているというのに、それでもまだ理性は捨てきれていないらしい。
 アポロンはそんな必死の制止も聞き入れることはなく。それどころか、限界ならばとナマエの脚をさらに大きく足を開かせる。集めた蜜を舌先に掬い取り、先程よりも大きくなった突起へ、にゅちにゅちと擦り合わせ始めた。

「あ゙、っ!♡うそ、や、やらっや、あ゙、!あぁ、あ、〜〜ッ!♡♡」

 大きな嬌声と共にナマエの秘部からはぷしゃっ、と潮が吹き出す。それは舐めていたアポロンの顔にももちろん掛かり。綺麗な凹凸をなぞるように伝いながら、ぽたぽたと落ちていった。

「ん…盛大に吹いたな」

 アポロンは自身の顔に掛かった潮を軽く拭い、唇に流れたものも躊躇することなくぺろりと舐め取っていく。
 押さえつけていた太ももを解放すれば、ナマエの脚はベッドへと投げ出される。尻たぶが濡れるような感覚に、シーツには水たまりができてしまったのだと、否が応でも理解してしまった。
 アポロンは上体を起こし、脱力するナマエに覆い被さると、頬に手を添え、舐め取ったばかりのその唇をそのままナマエのそれに重ねる。ゆるりと入り込みぐちぐち口内を舐め回す舌は、最初のときのような、ナマエを気遣うものではない。ただ衝動に押されるまま、好き勝手にナマエの口内を犯してやろうと。そんな意思を感じられるものだった。
 
「はっ、ん゙、んむ、っう…ッ!?♡」

 優しく頬に添えられていたアポロンの手が、不意にナマエの両耳を塞ぐ。突然くぐもった水音しか聞こえなくなったナマエは慌て離れようとするも、アポロンがそれを許すはずもなく。むしろ角度を変えより深く口付けられ、響く音は激しさを増してしまう。

「ん゙、んんん〜ッ!♡っ、♡♡!」

 直接的な刺激を与えられているわけではないというのに。耳をふさがれ、それ以外の音が遮断されてしまうと、こうも全身が敏感になってしまうのか。くわえて、耐えるように目をつむったことも仇となったようで。ぐぷりと粘つき、ぐちゃぐちゃと絡み合うその音に、ナマエは聴覚から全身に響くを犯されている感覚に飲まれてしまう。
 アポロンの、低く熱のこもった吐息までもが音に混ざり。ナマエがもう駄目だと思った、次の瞬間。喉にどろりと流れ込んだ甘さに、ナマエの目の前には強い光がばちばちと走り。脳みそが焼き切れるような感覚に襲われた。

「っ!?あ゙っ、〜〜ッ、♡♡」

 大きく身体を跳ね上げ、丸まった足先が何度もシーツを蹴っていて。腰は浮き上がり、触れられてもいない秘部の奥からは、ごぷりと蜜が溢れる感覚がした。

「おや…キスだけで達してしまったのかい?」
「あ…ぁ…?♡」

 自身の身体に起きたことが理解できていないようで。白々しいアポロンの言葉にも、ナマエは返事にもならないうわ言をこぼすしかできなかった。
 唇と唇を繋いでいた糸がぷつりと切れ小さな口端にだらしなくこぼれるのを親指で拭ってやりながら、アポロンはナマエとベッドの間に手を差し込み。腰を上げさせ、自身の太ももに座るような形にしてやる。

「あ…、」
「…どうした?」
「や、破れちゃ、…あ、」

 腰を高く上げられたことでずるっと落ちたナマエの身体を、下着を掴み咄嗟に支えたアポロンに、ナマエは思わず声を上げてしまった。
 その言葉が耳に届いた瞬間、アポロンはぴたりと動きを止め。そしてナマエ自身も、自らが何を口走ったのか理解し。脳内は一気に冷静になっていく。──破れちゃう、だなんて。まるでこの服がそうなることを、残念に思っているような口振りだ。

「…すみません、今のは、」
「そうか…!やはりナマエも、この服を素晴らしいと思ってくれていたんだな」
「いえ断じて違います…」
「素直になれよ」

 案の定、アポロンはナマエの言葉をとても好意的に受け取ってしまったようで。ぱああっと効果音が付きそうなほどの笑顔になっている。いや、ナマエがうっかり言ってしまと分かったうえで、そう受け取っているのだろう。ポジティブが過ぎる。

「心配しなくても、これはオレ様の糸で出来ているから、何をしても破れないぞ」

 アポロンはそう言い、薄いレースを少し強めに左右に引っ張る。けれどそれは言葉通り破れることはなく。その形をしっかりと保ったままだった。

「糸、って…もしかして、」
「ああ。アルテミスの糸だ」
「……神器の?」
「ああ。キミの素肌を包み込むんだ。オレ様の糸以外にそんなこと、許すはずがないだろう?」

 ナマエはそこでようやく合点がいった。──だからあのとき、"少し前から作っていた"や、"出来上がった"などと言っていたのだ。他でもないアポロン自身が、彼の作り出す糸で作り上げたのだから、その言葉も頷ける。
 アポロンは誰もが認める"努力のひと"だ。ただその努力は、周囲の理解から外れたものであることも、しばしばあり。特にことナマエに関することには、よく分からない方向への努力を惜しまないのだ。そうなったところで、夫婦のあれこれに口を出す者なども、当たり前だがいるはずもないため、アポロンを止めるものも何もなく。そうしてナマエがことに気がついたときには、既に準備を終えている、といったことがほとんだなのだ。
 まさしく、ナマエの知らぬ間に、しかもアフロデティにアドバイスまで貰いに行き、自らの糸でこんな下着を作ってしまったように。
 神器である糸をそんなことに使わないで下さい、とはもはや言えなかった。言ったところで既に物は出来上がっているのだから意味もないのだから。

「しかし嬉しいな…そこまでナマエが気に入ってくれたとは…♡」
「あ、ッ♡」

 アポロンは嬉しそうに小さく頷きながらナマエの腰を抱え直し、未だ一切乱れていない自身の服を裾をくつろげると、痛いほどに勃ち上がった熱を取り出した。
 そのままぬかるむ秘部へ下着越しに押し当て、濡れたクロッチ全体を裏筋ですりすりと擦り始める。

「あ゙、あぽろんさま、っ♡あ、やあ、ぁッ♡」
「滑りがいいなぁ…聞こえるかい?キミが出したもので、いやらしい音が響いてる」
「あぁッ♡い、言わないでっいい、です、ぅあ、あ゙、っ!♡♡」

 先端の段差がぷくりと勃ち上がる敏感な突起を引っかく度、ナマエの腰が跳ね上がり。奥から溢れた蜜でさらにぐちゃっにちゅっ、と聞くに堪えない水音を響かせた。
 時折先端が浅く入り口を抉るけれど、布のせいでそれ以上挿入ることはなく。アポロンの舌で浅いところを虐められただけの中は、奥に刺激が欲しいとばかりにごぷりと蜜を溢れさせ。余計に滑りがよくなってしまう。

「や、あ゙ぁ!♡あ、あぁ、ッ♡ゔ、あ、あ♡」

 とはいえ、与えられる刺激は確かに溺れそうなほどの快感だが、やはり布越しでは物足りず。擦られる度腹の奥がもどかしさにじくじくと疼いていく。──はやく、はやく中に欲しい。奥を突いて、熱いもので腹を満たして。余韻に震える身体に、もっと快楽を叩き込んで欲しい。
 熱に浮かされ、脳内を占める感情に抗うことなく。ナマエは強請るように何度もアポロンの名を呼ぶ。

「あ゙っ♡あぽろんさまっ♡はぁ、あっ゙♡あぽろ、さまぁ…ッ!♡♡」

 アポロンは返事をすることはなく。代わりにふるふると揺れる胸に手を添えると、勃ち上がるピンクの突起をぎゅうっ、と摘まみ。同時に腰を引き、裏筋で抉るように秘部を撫で上げた。

「ゔ、ぁっ!?あっ♡らめ、ぇ!♡い゙、いっあ、っあああ゙、〜〜ッ!♡」

 背を仰け反らせ、がくがくとナマエの身体が跳ねる。擦っていたそこからびちゃっという音が漏れ。シーツを何度も蹴る足先が、今のでナマエが達したことを示していた。

「はあ゙っ、あッ♡あ、あッ…あ゙、っ〜〜、あ、あ゙…ッ♡♡」

 何度も達して限界なのだろう。涙をこぼす瞳はどこともつかぬ場所を見ていて。身体は陸に上げられた魚のように痙攣していた。
 けれどアポロンはそんなナマエを気遣うことはできず。秘部に貼り付き役に立たなくなったクロッチに指をかけ横に、呼吸の度物欲しげに開閉すると入口をあらわにする。そのままナマエの溢れた蜜と先走りで濡れた熱の先端を宛てがうと、ぬかるむ中へ、迷うことなくと挿入した。

「あ゙、っ…!?♡」

 舌で浅いところに触れた程度にもかかわらず、ナマエの中は充分過ぎるほど解れていて。簡単にアポロンのものを飲み込んでいく。
 そうしてあっさり届いた最奥は、ようやく欲しかったものが貰えたと喜び。その先端にちゅうちゅうと吸い付いていた。

「あ、ぁ、ッ♡あ、はぁ、あ゙、〜〜ッ♡♡」

 圧迫感と、それを凌駕する快感。入れられただけでどうしようもなく気持ちが良くて。身体を震わせ、髪を振り乱し、みっともなく涙に濡れた顔を見られたくないと、ナマエはシーツを手繰り寄せ顔を隠してしまう。

「こらこら…いけない子だな」
「あ、…!」

 けれどアポロンはナマエの手首を掴むと、そのまま自身の方へと引き寄せ。文句を言わせないためなのか、がっちり固定しながら、乱暴に腰を打ち付け始めた。
 腕を寄せたことでナマエの胸がぐっと中心に寄ったことでより強調されるようになり。突き上げる度ふるふる揺れ、アポロンを視覚からもこれ以上ないほど煽っていく。

「あ、手♡はなして、ぇ、あ゙、っ♡」
「駄目だよ。離したらキミはすぐ隠そうとするからね」
「やっ、しない、しないからぁ…っ!♡」

 腕を引かれたことで大きく開くしかできない足が、行き場を無くしたように宙を掻いている。掴まれた手も何も握ることができなくなったせいで、快感の逃げ場がないのだろう。
 泣き声に嗚咽を混ぜながら、ナマエが数度目の絶頂を迎えたとき。自身の限界が近いことを察したアポロンは名残惜し気にナマエの手を解放すると、さらに奥へ入れるため、代わりにナマエの腰に手を添えた。

「あ、ま、まって…っ」

 それを制するように、ナマエの手が再びアポロンのそれに重ねられる。細い指先が骨ばった手の甲を、何か言いたげにすり…と撫でた。
 直前で止められたことにもどかしさは感じつつも、ナマエが言ったのであれば聞かない理由はない。アポロンは動きを止め、努めて落ち着いた声音で「…どうしたんだい?」と問いかける。

「手、にぎってほしい…」

 ナマエは少し迷ったようなそぶりを見せた後、ふにゃふにゃした声音でそう言った。誰に対しても使っている敬語が外れていることから、ほとんど無意識に言葉なのだとすぐに分かった。
 聞いた瞬間、アポロンは心臓を矢で射抜かれような感覚だった。射抜いたのは弓の神たる己ではない。目の前のナマエだ。

「ああ…もちろんだ」

 脳内には馬鹿みたいに「かわいい」という単語しか浮かんでこず。アポロンは一瞬天を仰ぎ見ると、心臓を落ち着けるため細く長く、息を吐き出し。すぐにナマエの瞳を見つめ、そっと手を握り返した。

「…ありがとうございます……」

 さらにしっかり指を絡ませ、きゅうっと柔く繋ぎ直す。ナマエの小さな手はシーツに縫い付けられるように、アポロンの左手にすっぽりと覆われた。
 掌から伝わる温度に安堵したのか、繋がれたそこにそっと顔を寄せながら、ナマエは嬉しそうに笑っている。その表情に誘われ、アポロンは思いをぶつけるように唇を重ねた。

「ん、んむ…っふ…んうぅ…♡」
「は、あ…ナマエ…ナマエ、」
「あ、ぽろん、さま、っはぁ、あ…ッ♡」

 何度も重なる唇にナマエが再び蕩け始めた頃。アポロンはベッドとナマエの間に右手を差し込み腰を抱え直すと、より密着した腰をゆるゆると動かし始める。
 先程までの奥を突き上げる動きではなく、こちゅこちゅと擽るようなその動きは、弱い快感をナマエの身体に溜めていくようだった。

「あ、♡い゙、ひぅ…っ♡は…あ゙、あぅ……ッ♡♡」
「はあ…ナマエ、気持ちよさそうだな?」
「は、ひ…ぅ…?♡あ、あ゙っ♡あ、あぁッ♡♡」

 もはや返事になっていたのかも分からない。喉を曝け出しながら、ナマエはただ聞かれたことにうめきとも取れるような音で返すしかできなかった。
 たんったんっと一定のリズムで奥を突けば、ぐぷんっと埋め込まれる先端に、熱いものが欲しいとぬかるむ壁が吸い付く。何度もそれを繰り返してやればその度ナマエは身体を震わせ、小さく潮を吹き出し。アポロンの服を汚していく。
 アポロンは腰を高く上げたことで捲れ上がり意味をなさなくなった下着の裾を胸元まで退かすと、ナマエの薄い下腹をするりと撫でる。そこは柔く突く度その振動を手へと伝え、自身の熱が確かにこの奥へ入っているのだと感じさせてくれた。
 
「や゙♡おなか、っあ゙、っあ、ああぁ…ッ♡♡」

 ぎゅうっ、と軽く押すだけでも堪らないのか、ナマエは喉を曝け出し喘いでいる。

「い゙っ、ぅの、♡とまらなっ…あ゙、あッ♡」

 ずっと達していることに恐怖を覚えているけれど、それを上回る快感が、ナマエの身体を支配していて。逃れようという意思さえも消し去ってしまう。
 未だ一度も達していないことと、先程直前で止めたこともあり。限界を感じたアポロンは、奥を突きゆるく動かすだけだった腰を、今度は熱が抜ける寸前まで引いていく。ナマエが腹の喪失感に喉を引き攣らせた一瞬、内壁をごりごりと抉りながら、口を開いた奥へと突き刺した。

「ひっ!ぃあ゙ッ!!♡はぁ、あ゙あぁ!!♡や、あ、あ、〜〜っ!♡♡」

 びしゃっと吹き出された潮は、ずらした下着さえなければアポロンの腹に盛大に掛かっていただろう。シーツと自身の服に染みていくだけの光景にどこか勿体ないという気持ちさえ感じながら、ぎゅうぎゅうと締め付ける中にアポロンも精液を吐き出した。

「い゙、ぁ…ッ♡♡ぃ、っ……♡♡」

 仰け反っていた身体がベッドに深く沈み、繋がれていた手も同時に離れる。四肢を投げ出し、ひゅうひゅうと喉から息を漏らすナマエの頭を撫でてやりながら、アポロンは余韻で震える中からずるりと熱を引き抜いた。

「ナマエ、大丈夫かい」
「ん…っぅ…♡」

 汗や体液で濡れた身体を労わりながら、アポロンは乱れた下着を掴み、ナマエの身体から次々と剥いでいった。最後に足から抜かれ、秘部とクロッチを繋ぐ糸がぷつりと切れる。水分を吸ってぐっしょり重たくなったそれは、そのままベッドの下に落とされた。
 その様子をナマエはぼんやり眺めながら、あれだけ強情になって着せたのに最後の扱いは雑なんだな、と思っていると、早々に自身の服も全て脱ぎ捨てたアポロンが、再びナマエへと覆い被さった。

「ま、だ…するんですか……」

 その行動の真意を、蕩けた脳内でも瞬時に理解してしまったナマエは、かすれた声でそう尋ねる。流石にやり過ぎたと自覚があるのか、アポロンは少し困ったように眉尻を下げた。

「すまない…けれど今度は素肌で、キミと触れ合いたいんだ」

 汗で貼り付くナマエの前髪を退かし、額にちゅっと唇を落とすと、アポロンは硬くなった熱を再び秘部へと宛がう。ちゅぷんっと先端を飲み込んだ途端、精液を溜めた腹の奥が疼き出した。

「っあ、ぅんん…ッあ、あ゙、〜〜っ♡」

 何の抵抗もなくぐぷぐぷと飲み込んだ秘部は、あれだけ達したにもかかわらず、喜んで熱を締め付けた。
 奥に辿り着き、アポロンが小さく息を吐く。戯れるように唇を重ねながら、汗ばんだ肌の温度を混ぜ合った。

「あの下着…気に入ったのならまた作ってやろうか。今度はキミの意見も、ふんだんに取り入れたものをね」
「け、結構です……」
「そう照れるな」

 ──その後。器用なアポロンは一度作り上げたことで要領を得たらしく。言葉通り二着目を早々に作り始め、ナマエはそれに付き合わされることとなり。結果、二着目を着てまた"こと"に及ぶことになってしまうのだった。


BACK | HOME