✦まほやく夢について
夢主の設定がかなり特殊なものとなっているため、閲覧の際には下記設定をご確認いただきますようお願いいたします。
なお、読了後の苦情等は受け付けません。
✦夢主
not賢者。女性しかいないという『果ての国』からやってきた『巫女』。戦うことより、他者を守る魔法が得意。魔法使い達が集う魔法舎を守護しており、ここにいるだけで魔法使いたちはある程度回復できるようになっている。
礼儀正しく誰に対しても社交的で、偏見なく接してくれた賢者に対しては特に好意を見せている。
見た目はだいたい18〜20歳くらいだが、年齢は100歳ほど。皆からは主に『巫女様』と呼ばれている。
現在魔法舎では、4階のムルの隣に住んでいる。
✦巫女について
厄災と戦う賢者の『補佐』として選ばれる、他の魔法使いとは少し違った存在。
巫女の扱う『加護の魔法』は賢者の存在そのものを媒介とするため、賢者自身の力が弱ければ、賢者の身そのものを滅ぼしかねない。それゆえ年に一度やってくる厄災との戦いに参加できないことあり、その存在は戦いに参加した魔法使い達でもごく一部のものしか知らない。
そのため他の魔法使いからは「都合のいい時だけいる悪女」と呼ばれ、あまりいい目で見られないこともしばしば。(実際過去にも何度か戦いへ参加していた北の面々からは、初対面の時にはあまり良い態度を取られなかった。ナマエのことを知りその見解も改められたらしいが)
今回招集されたナマエは、それも事実だが選ばれたからには全身全霊を持って戦うという思考の持ち主。
✦最果ての国について
女性のみで独自の文化を築いた国。子を産む女性は国を出た際、他所で子供を作り国内で出産。男児の場合は養子として外に出されるなど、徹底して女性のみで繁栄してきた、世界でも稀な国。閉鎖的なため偏った考えの者も多く、世界は女性に統率されるべきと本気で考えている者もいるほど。
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西の魔法使いというのは、享楽的で気まぐれだ。それはどんな物事に対してもそうであり、シャイロックもまたその例に漏れることはない。男性であろうと女性であろう魅了してしまう彼は、相手の気持ちを悪戯に酷く弄ぶようなことはしないものの、それでも自身の言動一つで一喜一憂する相手を見て楽しんでいる節はあった。
のらりくらりと躱し、興味が湧けば時折相手をしてあげる。まるで猫のようなその在り方は、きっと彼に伝えれば「猫は私ではなくムルでしょう。気まぐれなところはそっくりですよ」と笑われたことだろう。
──そうして結局、その本心は聞けぬままなのだ。
そんな相手に恋をするというのは、とても辛いことなのだろう。そして例え叶ったとしても、結局は彼の想い全てを手に入れることなどできず。もどかしさと諦めで、期待すら忘れてしまうのだ。それは他でもないナマエ自身が、嫌というほど理解していた。
何故ならほんの数ヶ月前。ナマエはそのシャイロックに好意を告げ、何が起きたか恋人という立場になっていたからだった。
「巫女様。今晩九時に、私のバーへ来てください」
魔法舎にいるうちの約半数が街へ出かけ、珍しく人影もまばらになっていた、昼過ぎのこと。早めの昼食を済ませ食堂を出ようとしたナマエに、どうやらたった今起きたところらしいシャイロックが、ひどく甘い声でそう言ってきた。
耳元で囁かれた突然の誘いに驚くナマエの瞳と、寝起きだからだろうか、どこか蕩けたワインレッドクがばちりと合う。その近さと色気に一瞬で顔を赤らめ言葉を失った様子が面白かったのか。シャイロックは小さく笑うと、「お待ちしてます」と指の背でナマエの頬を撫で、そのまま食堂へと消えていった。
──相変わらず心臓に悪い。未だばくばく高鳴る胸を抑え、この真っ赤な顔のまま誰にも出会さないようにと祈りながら、ナマエは逃げるように小走りで部屋へと戻っていった。
「ああ、お待ちしていました。どうぞこちらへ」
いつものカウンターに立つシャイロックは、まるでナマエの訪問を待ち侘びていたかのように、扉の開く音にぱっと顔を上げた。
その表情がなんとも彼らしくない、なんだか子供のような無邪気さえ感じられ。想像もしていなかった光景に少し面食らったナマエは、瞳をぱちくりさせてしまう。
驚いた様子で立ち尽くすナマエの様子に、今度はシャイロックが疑問符を浮かべる番だった。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもありません…てっきり他の方もいらっしゃると思っていたので。少し驚いただけです」
昼間のように高鳴る胸を押さえながら、促されたカウンターの席へと腰掛ける。そこは、いつもならばフィガロやブラッドリーといった魔法使いたちが、少なくとも一人は常に座っている場所で。今日のように誰もいないというのは、とても珍しいことだった。
動揺を隠すように同時に感じていた疑問を口にしたナマエに、シャイロックはわずかに目を細めた。
「…ええ、今日はお店を開けていませんから」
「あ、ああ…そうなんですか」
その返事にわずかにピリッとした空気を感じたナマエは一瞬肩を跳ねさせるも、「ですから、どうぞリラックスしてください」と微笑むシャイロックの声は、すっかりいつも通りになっていて。気のせいだったのかと思い直し、案内された席へおずおずと腰掛けた。
店を開けていないの言葉通り、よく見ればたしかにシャイロックは、普段の服装よりは幾分かラフな格好のようにも見える。おそらく部屋着のようなものだろう。少なくともナマエは一度も見たことがない服装だった。
なにより思い返せば、今し方開けた扉に掛かっていた看板も、CLOSEと書いてあった。それにも気付けなかったとは、呼ばれたことによほど緊張していたのだろう。仮にも恋人だというのに、自身の意識の低さに笑いすら出てきそうだ。
真正面に腰掛けたナマエは、飲み物を作るシャイロックをじっと見つめる。長いまつ毛は彼の頬に影を落としていて、それさえもその美しさを強調させるスパイスとなっている。
この美しい男が自分の隣にいることを選んでくれたということが、ナマエは未だに信じられないでいた。流石に本人へ直接言ったことはないけれど。自信がないのはいつものことだった。
「…えっと、それで、シャイロックさん」
「はい?」
「なにかあったんですか?」
「…なにか、とは?」
「いえ、他の方もいらっしゃらないのであれば、皆で一緒に飲むとか、そういうことでもないんですよね?だとしたら、私になにか用事があったのかと…」
思ったんです。そう続くはずだった言葉は、すっかり喉の奥へと消え失せてしまった。それまで楽しげだったシャイロックが、どこか寂しそうな顔をしていたからだった。
普段滅多に表情と余裕を崩さない彼の初めて見る表情に、ナマエは大きく目を見開く。ああ私は、なにか彼を傷つけてしまったのだろうか。そんな後悔がナマエの脳内を過った。
言葉を失うナマエを見つめていたシャイロックは、それまで動かしていた手を止めると、彼女の前にグラスを一つ差し出す。ワイングラスよりは小さいもののよく似た形のそれに注がれているのは、彼の瞳のような真紅の飲み物で。離れていてもわずかに香る甘酸っぱさとアルコールが、どこか心地よかった。
「ずっとレシピを考えていたのですが、先日ようやく完成したんです。どうぞお飲み下さい」
人当たりの良い笑顔を浮かべつつも、どこか有無を言わせぬ雰囲気のシャイロックが飲むように促す。
会話の流れを切るかのように突然出されたそれに戸惑いつつも、特に断る理由がなかったので、小さくお礼を言い素直に一口吞んでみる。
するとその瞬間、さきほど鼻で感じた香りの通り、ふんわりとした甘さがナマエの口内に広がった。喉が焼ける感覚もほとんどないことから、普段あまり酒を飲まないナマエのためにそこまで度数の高くないものを作ってくれたようだった。
「わ、おいしい…」
「それは良かった」
「………」
「…ちなみに、お呼びした理由はそれではありませんよ」
「えっ、」
シャイロックの言葉に、ナマエは黒く大きな目を丸くする。もしかしてこのお酒は今度バーで出す新作で、自分はその試飲のために呼ばれたのだろうか。飲んだ瞬間そんな考えが浮かんだものの、即座に否定されてしまった。
ならばいったい、何のために。
相変わらず首を傾げ続けるナマエをじっと見つめると、シャイロックはわずかに眉を下げ、困ったように笑った。
その顔は、わずかにナマエが気付いてくれることにも期待していたようにも見えた。
「…愛しい恋人と、ただゆっくり過ごしたかっただけですよ」
──愛しい恋人。その言葉がナマエの脳内をリフレインする。そうしてその意味をようやく理解する頃には、既に彼女の顔は真っ赤に染まっていて。ふふ、とシャイロックが溢したことでようやく自身のその状態に気が付いたのか、ナマエは慌てたように俯き顔を隠した。
静まり返ったバーに、聞こえてしまうのではと思うぐらい、ナマエの心臓は音を立てている。どうしよう、なにか言わなければ。淡白だと思っていた恋人からのまさかの言葉に、分かりやすく慌てる脳内で必死に考えていると、はらりと落ちたナマエの髪を、シャイロックの手がかき分け、そっと耳に掛けた。
熱くなった耳に触れた冷たい指先に小さな肩が跳ねる。その様子にシャイロックはくすりと笑うと、「ナマエ、顔を上げて」と優しく囁いた。その声に誘われナマエはゆっくり、じれったくなるような動きで、彼を見上げた。
伺うように上げた視線が、ばちりと合う。その瞬間、ナマエはなにかが背中を這い上がるような感覚を覚えた。言うことを聞くよう教え込まれているような、けれど褒めるよう優しく愛撫されてもいるような。甘く痺れるような、そんな感覚を。
「…どうして呼ばれたのかとか、そんな悲しいことは言わないで。私とあなたは恋人なんですから」
決して嫌悪を感じさせない熱に、このまま爆発するんじゃないだろうか。
そんな馬鹿げた考えが本気で頭を過ぎった時、それを遮るように、シャイロックの手がナマエの頬をするりと滑り、濡れた唇を親指で優しく撫でた。
「お呼びしたのは、ただあなたと過ごしたかったから。けれど自室では、お互いの隣人が真夜中まで騒がしいですからね…」
「あ、む、ムルさん…」
「ええ。彼の喧騒は普段ならば好ましい部分もありますが…あなたとの逢瀬は、どうしても邪魔されたくなかったんです」
甘く煮詰めたいちごジャムのようにとろりと溶けた瞳は、愛おしいものを可愛がりたい、けれど少し虐めたい。そんな、情欲を孕んだような色をしていて。
あの美しい男が。誰もがみな、その心を向けてほしいと願い、敵わずともその欲を捨て去ることができないほどの美しさを持ったシャイロックが。今、自分だけを見て、自分だけを欲している。そう考えただけで、ナマエの身体は歓喜に震えるた。
彼の魔法にでもかけられてしまったのかと思うものの、シャイロックはナマエに対して惑わす魔法は決して使わない。だからこれは、ナマエの心と身体が、シャイロックからの愛撫に喜んでいることに他ならないのだ。
口を開けば強請るような言葉が、吐息が漏れてしまうのではないか。そんな心配をする程ぐずぐずに腑抜けた感覚に戸惑うナマエの様子に、シャイロックは瞳をきゅっと細める。
「…今晩は、自室には帰らないでしょう?」
返事など分かりきっているくせに。わざとらしく催促する言動に、ナマエはぐっと息を詰まらせながらも「はい…」と蕩けた声で返事をする以外、なにもできなかった。
ガチャリ。ナマエの耳に、鍵のかかる音が聞こえる。唇を触れ合わせながら魔法を使うなんて、西の先生を務めるだけあって器用だなと、頭の片隅でぼんやり思った。
翌朝、といってもほとんど昼間近の時刻。シャイロックと共に食堂を訪れたナマエは、怠さの残る身体をなんとか鼓舞しながら、昼食を食べていた。
今日のメニューはエッグベネディクトとコーンスープで。やや寝不足の身体にしみる温かさにほっと一息吐くナマエに、正面に座るシャイロックはコーヒーを飲みながらくすりと笑った。その表情は、どこか嬉しそうにも見える。
つい先日まで感じていた不安など何処へ行ったのか。昨晩の濃密な時間のおかげですっかり不安の消えた単純な思考回路に我がことながら感謝していると、がちゃがちゃと食器の擦れる音と共に、大きな声が近くで響いた。
「わぁーい!俺もここ座っていい?」
「ん゙、っ!」
「おはようございます、ムル。埃が立ちますから、はしゃいでは駄目ですよ」
「はーい」
隣にやや乱暴に置かれた昼食を運んだ張本人──ムルはシャイロックの言葉に、聞く気があるのかないのか、ふわりとした声で返事をした。
驚きで若干咳き込んだナマエに気付いたのか、「驚かせちゃった?ごめんね」と、弧を描いた眉を下げながら、ナマエの顔を覗き込む。
「大丈夫です、こちらこそごめんなさ、っ」
普段ならば気配で気付くはずの存在に、熱に浮かされ気付けなかったことに若干の情けなさを感じながら返事をしようとしたものの、それを遮るようにムルが距離を詰めたあげく、くんくん鼻を鳴らし、ナマエの匂いを嗅ぎ始めた。
いつもと変わらぬ様子でその光景を見ていたシャイロックも、これにはさすがに驚いたらしく。ティーカップからわずかに零れ、テーブルのクロスにシミを作ったコーヒーに目を向けることもしないまま、目を見開いていた。
「む、ムルさん?」
「巫女様、シャイロックと仲良しだ」
「へ…」
「だって、シャイロックの匂いがすごいするもん!」
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