三日ぶりの上陸だった。
 以前の島へ辿り着く際には約二ヶ月近くかかったというのに、今度は三日で次の島へ到着することとなるとは。なんとも感覚の配分が悪い航行に、備蓄や、閉鎖空間に閉じこもる船員のことを考えもう少しバランスよく島があってほしいと思わなくもないが、偉大なる航路は気まぐれ、そんな願いを聞き届けてくれるわけもない。
 それどころかスネイクに聞いたところ、ナマエが仲間になるよりも以前に、最長三ヶ月、大地を踏めなかったこともあったというのだから、むしろ二ヶ月で済んだだけまだ良い方なのだろう。
 そうして三日という短期間の航行の後上陸した今回の島は、ログが貯まるまで四日を有し。到着したのが昼頃ということもあり、出航はログが貯まるその次の日の、同じく正午となった。
 とはいえ必要物資の補給は前回の島で済んでいる。島もそれほどの規模でないため、ここしか調達できない特有のものがあるわけでもない。そのため数人の船番を除きほとんどの船員が、特に仕事もなく上陸ができることとなり。ライムとナマエもまるっと四日、暇を貰うことができた。
 互いに仕事や当番のない上陸時の二人の過ごし方は決まっていた。部屋を取り、出航のその日まで連泊する。昼間は大きな島であれば観光や買い物に出かけたり、小さな島であればしばらくの散策の後、部屋で静かに読書をして、ただ何となく会話しながら過ごしたり。時間のすべてを文字通り隣で過ごし、夜には身体を重ねる。
 普段ライムに我慢を強いていることに、仕方がないとはいえ少なからず申し訳なさを感じているナマエにとって、せめて上陸のこの間は、"ライムの好きにさせる"と密かに決めている期間でもあるのだ。特に前回の島では二ヶ月ぶりということもあり、日数のほとんどをホテルで過ごしてしまったくらいだ。
 だから今回もそうなるのだろうと、当たり前のように思っていた。

「………」

 それが、これはいったいどういうことなのか。ナマエは胸中で小首を傾げる。
 外はすっかり更けていた。歓楽街からも少し離れたこのホテルは客自体が少ないらしく、別部屋からにぎやかな声も聞こえてはこない。
 静かな部屋の中、隅に寄せられたダブルサイズのベッド。互いにシャワーも終え、唇を寄せ、なんとなくそういう雰囲気になって──と思ったら、何故かライムは隣に寝転ぶと、瞳を閉じ寝息を立て始めたのだ。しかも律義に「おやすみ」と挨拶までして。
 なにが起きたのか、しばらくの間ナマエは理解ができなかった。ようやく理解する頃には、隣の男はすっかり寝入っていたのである。ナマエが驚いて横臥したその身を起こそうと目を開けないのがその証拠だ。
 ──まさか、今日はしないのだろうか。まるで自分から積極的にそうしたい、と思っているような思考ではあるが、これまで出航から上陸まで、たとえどれだけ短い期間であろうと上陸時にはほぼ確実に身体を重ねていたのだ。この疑問は浮かんで当然のものだろう。
 とはいえそれは、今までがそうだったから今回もそうなのだろうと、ナマエが決めつけていただけ。絶対にセックスしようなんて、そんなことを約束をしているわけではないのだ。
 ライムだって人間だ。今日はそういう気分でないのだろう。ならばナマエも、落ち着いてその腕の中で眠ればいいだけの話だ。だから別に、少しだけ待っていただとか、短い期間でまた触れ合えると思っていただとか、そういうことではない。絶対に。決して。
 浮かんだ疑問と恥ずかしい思考を振り払うと、ライムの胸元へと擦り寄る。ゆっくりと瞳を閉じ、まあどこかでそうなるだろうと、ぼんやり考えながら。


 おかしい。なにがって、ライムがだ。
 文字通り眠るだけの一日目の夜が過ぎ、迎えた二日目。驚くことにその日の夜もまた、ただ隣で眠るだけで終わってしまった。
 とはいえたった二日と少し程度。やはり"そういう気分だったのだろう"で充分済ませられる期間だ。けれどナマエがこうして、おかしいと思うのには、きちんとした理由があった。
 物理的な接触があったのだ。二日目、つまりは昨日の夜に。手を繋ぐだとか、抱き締めるだとか、そんな生易しいものではない。もう明け透けなく表現するとすれば、それこそセックス一歩手前くらいといってもいいくらいには、濃厚な接触が。しかも夜、部屋にいるとき。
 実際それでナマエは欲が呼び起こされてしまったし、そんな雰囲気になるのだろうという顔を、ライムもしていたと思う。けれど唇が離れるや否や、ライムはもの言いたげに唇を引き結び。そうして「…寝るか」とナマエを抱き寄せると、そのままやはり文字通り、眠りについてしまったのだ。
 そうして迎えた三日目の今日。ライムに続いてナマエがシャワーを浴び終えた今に至るまで、一度もセックスには至っていなかった。昼間の時間を差し引くとはいえ、これはさすがにおかしい。他の恋人同士の頻度などは知らないが、少なくとも二人にとっては、"おかしい状況"である。
 もはや無視のできなくなった違和感と現状を打破するため、ナマエはあるひとつの行動に打って出ることにしたのだった──。

 フロントタイプのホックを止め、ナマエは壁に掛けられた鏡を見やる。四角い枠の中に映る身体を包み込んでいるのは、黒い下着だ。一見すると普通に見えるそれには、実は秘密があった。
 ──ブラジャーのカップ。ストラップから胸のトップを一本のラインが通り、それをフリルのあるレースがカーテンのように覆うデザインをしているのだが、実はこのライン、ただの模様ではなく。レースを退ければ左右に開くようになっているのだ。そのため動きによっては、わずかに突起が見え隠れしてしまうだろう。
 それだけではない。ショーツも同じく全体がレースでできているのだが、細かくあしらわれた模様のおかげで露出はさほど多くはない。けれどよく見ればその下、ぴたりと重なるあわいのちょうど上の辺りからはレースの質が異なり。そこからクロッチにかけて、うっすらと透けて見えるシアー生地になっているのだ。しかもこのクロッチ部分も、実はブラジャーと同じく布が重なっただけ。左右に開けば秘部が見えてしまう。脱がしたりずらしたりせずに挿入できる、いわゆるオープンクロッチと呼ばれる代物だ。
 そして最後の仕上げとばかりに、ウエストの部分は細い紐のみ。やわ肉に、ぱちんっとわずかにくいこむ様が、なんともくすぐったかった。
 もはやほとんどその意味を為していないといっても間違いないような、挑発的なデザイン。そんなものに手を出してしまったことに、ナマエは今さらながら途轍もない羞恥に苛まれていた。あああ、とうめき声をこぼさない代わりに熱くなっているであろう頬に触れる。だって、キャラじゃない、こんなの。
 昼間に外へ出た際、ライムが「飯の美味い店はないか」と地元住民に聞きに行ってくれているその隙に購入したのだが、いつ帰ってくるのかという時間との勝負でもあったため、しっかりと見ておらず。だから思っていたよりも過激な、とんでもないデザインになってしまったのだ。
 ──なんて、分かっている。どれだけあれこれ理由を並べようとも、最終的にそれを選んだのは間違いなくナマエで、着たのもナマエ本人だ。その事実だけは変わらない。ただ、購入時の想像ではなく、しっかりと着用したその姿を見た途端、妙な生々しさと、本当にをライムを誘おうとしているのだということに少し冷静になってしまっただけで。
 駄目だ、これ以上見ていたらもっと冷静になってしまう。こういうことは冷静になったら終わりなのだ。
 浮かんだ考えを振り払うように、ナマエは頬をぺちんと軽く叩く。棚に置いていた、上陸時だけに着る柔らかいスウェット生地のトレーナーに頭を通し、同じく船内ではめったに履かないショートパンツを履き、いざとばかりにバスルームの扉を開いた。心情は、さながら戦いに行く戦士であった。

「…ライム?」

 けれどそうして静かに飛び出た先にいたのは、ダブルサイズのベッドに仰向けで寝転ぶライムの姿だった。

「…ライム、眠いの?」
「んー…」

 ベッドに乗り上げ顔を覗き込む。既に寝る準備は万端とでもいうようにプラチナブロンドも乾かされ、シーツの海を泳いでいた。

「いや、眠くねえよ…」
「嘘。…声が眠いって言ってる」
「そうかぁ…?」

 呼びかけにも生返事。微睡みに半分以上足を突っ込んでいるらしい。
 帽子もサングラスも無く、普段よりよく見える眉間にぎゅうとしわが寄せられる。これは冗談抜きで眠い時の顔と声だ。ナマエの中にわずかな焦りが生まれる。
 焦るとか、そんなのちょっと、まるで私がセックスしたくて仕方がないみたいじゃないか。いや、でもこうして下着を用意している時点で否定しようのない事実なんだけども。
 もしかしたら、日中散々歩いたせいで疲れてるのかもだとか、この島につくまでは冬島の海域だったのに、それを抜けた途端夏の気候になったから、ちょっと体調が悪くなったのかも、とか。色々可能性は考えられるというのに。今のナマエには、そういうことを気にしている余裕などなかった。
 震える手で赤いシャツの裾を数度引く。くんっとわずかに伸びたシャツにライムは目を開き。どうしたと、訊くようにナマエを見やった。

「し、…ないの……?」

 絞り出すような声。最後はもはや聞こえたのかどうかすら怪しかった。握りしめた手に、きゅうと力がこもる。
 同時に言葉にしたことで、散々誤魔化しと綯い交ぜにしていたその感覚がついに勝り。お腹の底が締め付けられるような、熱のこもった居心地の悪さを覚えた。
 ──セックスしたいみたいだとか、そんなの、当たり前じゃないか。大所帯の船ではめったに二人になんてなれないし、部屋にいるとしても、そもそも同じエリアにホンゴウの部屋だってあるのだ。満足に触れ合うことなど、できるわけもない。
 確かに、普段そういった触れ合いに関してはライムの方が積極的で。引き換えナマエは受け身で、自分からいくことはない。だから抑制できていると、そんな風になりがちだけれど。
 ナマエとて、ライムのことを好きな一人の人間なのだから。そういう欲は当たり前にあるのだ。

「……してェの?」

 今、自分がなにを言われたのか。ライムの脳は理解できていなかった。
 けれどそれもほんの一瞬で。眠たげだった瞳を徐々に見開いていき。そうして、先ほどまでののんびりした様子など微塵も感じさせない素早い動きで起き上がると、心底驚いたといった様子で尋ねた。
 その言葉で、誘っているのだとさらに自覚させられ。ナマエの顔は火でもついたかのように真っ赤に染まっていき。ついには言葉なく俯いてしまう。

「ナマエ」

 ライムの手が、それを咎めるようにナマエの顎を撫でた。そのままゆるりと顔を上げさせられる。優しいはずの手付きに、なぜか抵抗ができなかった。
 青い瞳が、戸惑いがちにライムを見上げる。次の瞬間ナマエの瞳に映ったのは、ひどく落ち着いた面持ちでこちらを見るライムの姿だった。──いや、違う。一見すると落ち着き払ってる顔。けれどナマエは知っている。あれは、敵を目の前にしたとき。抗いようのない昂ぶりを、それでも必死に抑え込んでいるときの顔だ。
 ライム──思わず呼ぼうと名前は、気付いたときには息ごと飲み込まれていた。
 触れる寸前、ひどく熱い息が、ナマエの唇を撫でていった。



「ぅあ、まっ、ん、ん゙ーっ!」

 ベッドに倒れ込み、制止の言葉も紡げぬまま唇が重ねられる。押し返そうにもベッドと身体の間には腕が差し込まれ、押し潰さんばかりに強く抱き締められているせいでそれも叶わず。ナマエはその身をライムに委ねるしかできない状況だった。
 ただひたすらに舌が絡められる。口の端からは飲みきれなかった唾液がこぼれ、もはや舌の感覚さえ鈍くなってきていた。合間に鼻で息をするのも追いつかず、酸素の足りない脳には徐々に靄がかかり始める。
 限界だ。辛うじて残された意識を総動員し、ナマエはライムの後頭部に手を添える。そうして髪をひと房掴み、そのままぐいっと引っ張り上げた。
 加減したつもりだったがさすがに痛かったのか、ライムがわずかに息を呑む音が聞こえ。その後すぐに唇が離される。ぱっと離した手に綺麗なブロンドが数本残っていた気がしたが、そこは許してほしい。
 待ちわびた酸素が入り込み、ナマエは大きく咳き込む。けれどわずかに上体を起こしたライムは、多少息を乱しながらも咳き込むことはなく。ナマエをただじっと、静かに見下ろしていた。
 数度大きく息を吸い込み、肩を揺らしながらもようやく呼吸が整ってきた頃。それを待っていたとばかりに再び影が、ナマエへと覆い被さってくる。

「ちょ、っと待ってってば…!」

 視界を埋めたライムの顔に、ナマエは慌てて額をぺちんと叩く。さすがにこれ以上続けられたら冗談抜きで死んでしまう。
 必死なナマエの様子にこれ以上は本気で怒られると察したのか、ライムは上体を起こしゆっくりと離れていった。不承不承といった様子ではあったが、聞いてくれただけマシだろう。

「訊きたいことがあるんだけど…」
「…なんだよ」

 ナマエはライムの下から這って抜け出すと、同じく起き上がり、ライムの目の前にぺたんと座る。そうして、少し戸惑いながらも尋ねた。

「…その…なんで、せ、っくすしようとしなかったの…?」

 これまで二日、どれだけ濃厚なキスをしようとセックスに至らなかったというのに。何故今はこんなことになっているのか。こんなことを訊くのは当然羞恥があるけれど、訊かなければそもそも解決もしない。こんな下着を着て腹を括った以上、選択肢などもはや残されていなかった。

「なんでって…」
「…今まで上陸したら、絶対してたでしょ。…でもこの二日、全然しようとしなかったから…なんでかなって思って……」

 まさかの疑問に、ライムは驚いたように目を見張り。「あー…」と、少しばつが悪そうな顔をしながら、話し始めた。

「…この前の島でよ、一日目の昼に少し出た以外は、ずっと部屋に籠ってただろ」
「え、うん…」
「そのせいでお前、最後ほとんど動けてなかったし…今回も同じようにさせんのは、さすがに悪ィと思ったんだよ」

 確かにこの島に来るひとつ前の島では、およそ二ヶ月ぶりということもあり、その日数のほとんどをホテルで過ごしていた。そのせいでナマエは最後にはライムに背負ってもらわないと動けないほど、文字通り精魂尽き果てしまったのだ。
 いつもは遠慮のないライムであったが、久方ぶりの上陸をほとんどベッドの上で過ごさせてしまったことに、さすがに罪悪感を覚えたらしく。だからこの島では、代わりにもならないかもしれないが、せめてナマエがのんびり過ごせるよう手は出さないでおこうと、そう決めていたという。
 ただ、とはいえやはり一緒に過ごすのであれば、少しでもくっついていたい。だからキスはした。一度箍が外れそうになりかけたが、なんとか我慢してた、と。そういうことらしい。
 まさかそんなことを考えていたとは。ナマエの心が、脱力感と同時に、それを上回る安堵に包まれる。
 その話を聞き、"おかしい"、どこか曖昧だった思考に対する、もっと明確な言葉がナマエはようやく理解できた。──不安だったのだ。もしかしたら、ライムに飽きられたのかもしれないと。
 あの大喧嘩以来、感情をさらけ出すことにあまり抵抗がなくなったとはいえ、それでも素直とはまだほど遠いだろう。いつまで経ってもそんな様子だから、ついに愛想をつかされてしまったのかと、心のどこかで不安を感じていたのだ。

「…正直、私に飽きたのかもって、ちょっと心配してた……」
「そんなわけねェだろ。むしろなんでンな思考になってんだ」
「うん…そうだね。変なこと考えてごめん」
「…いや、不安にさせたなら俺も悪かったな」

 ほっと胸を撫で下ろすナマエを、ライムは胸元へと抱き寄せる。そうして一度小さく唇を重ねると、額を合わせ、鼻先が触れ合う距離で見つめ合う。

「つーか…こっちはむしろ許されンなら、ずっと触っててェくらいだっての」
「ふ…なにそれ……」

 少しだけからかいを含んだような口調。唇を小さく尖らせるその顔が、どうしようもなくナマエの心を掴んだ。
 ごめんねと小さく呟きながら、今度はナマエから唇を寄せる。ライムは少し驚いたようだったが、すぐに口端を上げ。後を追うように再び唇を重ねた。
 絡まる舌に漏れる吐息。腰を支えていたライム手がゆるりと動き、ナマエの服の裾から忍び込んでいく──その瞬間、ナマエの脳裏に浮かんだものがあった。

「っあ、ま、待って…!」

 慌てた声と共に、ナマエはライムの身体を再び押し退けた。先ほどより力が込められていなかったおかげか、今度はあっさりと離れてくれる。
 けれど再び剥がされたことに、今度は納得がいかなかったようで。ライムは「あ゙?」と不機嫌をあらわにする。

「や、ごめん、嫌とかじゃなくて…」

 何度も待ったをかけ申し訳ないとは思いつつも、ナマエも譲れぬ状況だった。
 ライムの手が裾から侵入したことで、思い出してしまったのだ。なにをって、決まっているだろう。あの下着のことをだ。
 こうなることを望んでいたとのは確かだ。とはいえ、ライムの事情を聞き、勘違いしていたことに気付き。いくばくか冷静になってしまった今これをさらすのは、どうしようもなく躊躇われた。
 もう勢いそのままにいってしまえば良かったのかもしれない。けれど止めてしまった以上それも今さらだ。
 今から着替えるなんてこともできるわけがないし、そんなこと、何か隠していると言っているようなものだ。そもそもライムから逃げられる気がしない。なにせ止めたにもかかわらず、腰を抱くライムの手からは、絶対に逃がさないという強い意思を感じるのだから。
 徐々にライムの全身から、「いつまで待てばいいんだ」というオーラが出始める。まるで大好物を前に涎を垂らす犬のようだ。これは長くは持たないだろう。
 最初は腹を括ったのだ。今さら怯むな。──意を決し、ナマエは「逃げないから…」と小さく呟きながら、腰を抱くライムの手を離させる。その言葉に従い大人しく離れたライムから視線を逸らし、一度小さく息を吐く。そうして自身の服の裾に手をかけると、ゆっくりと持ち上げていった。
 薄い腹が見え、あの下着があと少しで見える──ナマエはそこで一度手を止めると、伺うようにライムを見た。

「…見ても、笑わないでよ」

 呟かれた言葉に、ライムが「なんのことだ」と聞こうとした、その瞬間。ナマエは勢いよくトレーナーを脱ぎ捨てた。

「は、」

 ナマエが自ら、目の間で服を脱ぐ。それだけでも驚きだというのに。次いで現れた光景に、ライムは言葉を失ってしまう。
 その反応にナマエは咄嗟に、両腕で自身の身体を隠すように抱き締めた。けれどそうしたことで、胸はより強調され。さらにはレースに隠されていた淡い突起が、その間からちらりとその姿を見せているのだ。
 ライムは思わずナマエの腕を掴んだ。縮こまっていた肩がびくりと跳ねるも、抵抗する素振りは見えない。それどころか、掴んだその腕を退かせるように動くと、それに従い力が抜けていっている。ナマエらしからぬ行動だった。
 ライムは掴んでいた腕を離すと、今度は震える手を伸ばし。下から持ち上げるように、寄せられた胸へ、指先でそっと触れてみせる。

「っ…、」

 薄く開いた唇から、戸惑いと、わずかな熱を孕んだ吐息が漏れる。その度黒いレースのフリルに覆われたやわらかな胸が、ふるりと揺れていて。ライムはその光景に誘われるように、今度は明確に、しっかりと掌で触れ。感触を確かめるように、やわく揉み込み始める。

「ん、っ…ぁ、」

 胸をすっぽりと覆う掌を、ゆるく勃ち上がり始めた突起が押し返す。本来は隠され、裸にならなければ感じ取れないはずのその感触を、着たままでも感じ。やはり先ほどレースの間から見えたのは見間違いではなかったのだと、ライムの頭をぐらりと揺らしていく。──見たい。そのレースを退けて、淡く色付く突起を。
 それでも頭の片隅で「まだだ」と、わずかに残された冷静な自分が待ったをかける。下着は普通、上下セットだ。じゃあ上がこれなら──下は?
 ライムは震える手を細い腰のラインに滑らせながら、徐々に下ろしていく。そうして腰の辺りでぴたりと止めると、震える声で訊く。

「し、たは…?」

 訊いておきながら、その先もいつもとは違うのだと、少しだけ分かっていた。なにせ腰の辺り、はだけたショートパンツのウエストからは、本来見えるはずのない下着のラインが見えている。しかもそれが、黒く細い、紐のようなものなのだから。普通のショーツであれば、ウエスト部分は紐にはならない。それはつまりショーツの形も、普段と違うというわけで。
 ライムの言葉に、ナマエはゆっくりと膝立ちになる。それ以上動かないところを見ると、脱がせと、そういうことだろう。魅力的なお誘いだ。
 眼下から文字通り目の前へとやってきた胸に、正直なところ視線が向いてしまうが、とりあえず今はこちらだと、ライムはショートパンツをゆっくりと下ろしていく。ナマエもそれを手伝うようにわずかに腰を動かし、するりと足を抜き去った。
 そうして現れたのは想像していた通り、ウエスト部分が紐になっているショーツだった。もはやその部分それだけでも、ライムにとっては堪らないものではあるが、それを形作る生地が、さらに追い打ちをかける。
 クロッチだけが、うっすらと透けている。本来秘めたるその形を、くっきりと示すほどに。ブラジャーと同じくこちらも挑発的なものだろうとある程度予想はしていた。とはいえ、すべて脱がせてようやくその全貌が明らかになると、わずかに身構えていたはずの心はいとも容易く崩壊してしまった。

「おま、これ…なん……え?」

 混乱と興奮でもはやまともな言葉は紡げず。ナマエは気まずさと羞恥が入り混じったよう顔をしながら、ぽつりと呟く。

「…こういうの着れば、ライム、手出してくれるかな、って……」

 最後は尻すぼみになり、ほとんど音にはなっていなかったが、ライムの耳にはしっかりと届いていた。
 なんだそれ。つまりは俺のために着たってことか?このばかエロい下着を。俺とセックスがしたくて、俺を誘うためだけに?
 ライムは自身の顔を片手で覆い、すー…と細く息を吸う。

「……俺、鼻血出てねえ…?」
「え…いや、出てないけど……」

 指の隙間から漏れ出る低い声と突然の発言に、ナマエのはもう恥ずかしいという感情が若干なくなってさえいた。むしろ様子のおかしいライムに、戸惑いを覚えているくらいだ。

「…ちょっと、待ってもらえるか……」
「う、うん…」

 まさか今度はライムが待ったをかけるとは。かなり混乱していることが伺える。一瞬、がっついているようでさすがに萎えたのかと心配にもなったが、それはないと断言できる。
 というのも、ライムが片手で顔を覆い隠し、すー、と細く息を吸う、あの仕草。あれは彼が、自分の中の感情、もとい興奮と理性が必死に戦っているときの仕草だと知っているから。恥ずかしい話ではあるが、もう何度も抱かれていれば、そういうこと事も自然と解ってくるのだ。
 そしてナマエのその推測は大当たり。ライムの脳内はもはやお祭り状態だった。それでも理性を飛ばし欲望のままに動かないよう、ぎりぎりのところで耐え、考える。
 ──これはナマエには秘密なのだが。ライムはナマエが所持する下着のほとんどを把握している。そもそも買い替えを頻繁にできないため、長く使えるものをあえて買っているという前提もあるのだが、それ以外にもどうやらナマエには、購入時のルールのようなものがあるらしく。着心地や機能性なんかを重視した結果、特定のブランドで気に入ったデザインのものを、一度の買い物で二つずつ購入する、といった形を取っており。
 結果、数は増えてもデザインの変更があまりないおかげで、ライムがすべて把握できているといった状態なのである。
 だからナマエが、合理的に見え若干面倒とも取れるそのこだわりをわざわざ変え、機能性などほとんど皆無といってもいいであろうデザインのものを選んだ。それだけでも驚きだというのに。己を誘うために、どれがいいかと店で考え、扉一枚隔てた向こうで準備をして。羞恥を押し殺し、目の前でストリップまがいのことをして、触れる手を拒まなかった。ナマエ自ら、すべて準備をした。ライムに喰べられる、ただそれのためだけに。
 幸せなことが一度に起こりすぎている。明日自分は死ぬのだろうか。いや、むしろ今から、興奮のしすぎで死ぬのかもしれない。でも、もうそれでもいいかとさえ思えた。脳みそが馬鹿になっていた。

「…こっち、来い」

 ライムは今一度細く小さく呼吸をすると、ナマエの腕を掴み、自身の元へと引き寄せる。ナマエは戸惑いつつも従い、あぐらをかいているライムの足を跨ぐように、膝立ちで近付く。

「っ、」

 やわらかな胸が眼前にきた途端、ライムは躊躇することなく再びそこに触れ。今度は突起をきゅうと摘まみ上げた。

「あ、んん…っ」

 掌で押し潰すよりも明確な刺激とはいえ、それでもやはりレース越しだからか、ナマエはもどかしそうに唇を噛み締めている。
 ライムも直接触りたいのは山々なのだが、せっかくナマエが用意してくれたのだ。可能ならば脱がせずに楽しみたいという思いもあった。
 とはいえこのままではナマエも可哀想だろう。胸を揉む手はそのままに、ライムは腰を支えていた方の手を滑らせ、開かれた足の間にゆるりと差し込んだ。
 肩を掴むナマエの手に力が込められ、やわい内ももがぎくりと強張る。それでも手は止めず。するすると内ももを撫で上げながら、そっとクロッチに触れた。そこで気付く。
 
「う、お…」

 思わず感心したように声を漏らしてしまったライムに、ナマエは「それ止めて…」と半ば懇願のように呟く。けれどライムからしてみると、そんなこと言われても、といったところなのだ。
 あわいが見えるほど透けているうえ、まさかクロッチは重なっていただけの、左右に開けばすべてさらけ出されるデザインだったとは。
 触れて初めて気付く、ただセックスをするためだけのデザイン。それにライムは心臓がばくばくと痛むのを感じた。もはや心臓が跳ねるだとか、そんな生易しい表現ではない。痛いのだ。
 耳の奥に響く鼓動に促され、ライムは秘部に触れる。ぐち、と粘ついた音と共に、指先に蜜が垂れ絡む。一度も触れていないにもかかわらず、そこはすっかりぬめりを帯びているようだった。

「あ、んあ…っ♡」

 布と共にあわいを割り開き、入口を数度なぞれば、頭上からは甘い声が降り注ぐ。ナマエの両手は今、ライムの肩に添えられている。だからきっと何にも隠されることなく、その顔をさらけ出しているのだろう。快感に塗れた顔を見たい。けれど、目の前の光景からも、ライムは目を離すことができなかった。
 指を往復させる度、じれったいのかナマエの腰も小さく動いている。かくかくと前後するその度に、隠れていた突起がレースを押し上げ、まるで触れてくれとばかりに見え隠れしている。

「ひ、ぁ…あっ!?♡」

 それに応えるように、ライムは突起を親指でぐにゅりと押し潰しながら、中指を一本挿し込んだ。突然強すぎる刺激を与えられ、ナマエは大きく声を上げてしまう。

「あ、あ゙…っ♡ああ、んあ、あぁ、ッ♡」

 締め付ける壁を軽く引っかくように指を曲げれば、こぷりと蜜が溢れ出す。ねっとりと指に絡む蜜はすぐに掌に溜まり、内ももを伝ってシーツへと落ちていった。

「ひ、う、ん゙ぅう、〜ッ♡」

 ぐうと背中を丸め、ナマエはライムの肩に顔を埋める。肩を掴んでいた手はそのまま首に回り、ライムの後頭部を掻き抱くように髪へと絡まった。顔は見えなくなってしまったが、代わりにライムの耳元では、耐えるような甘ったるい声が、より響くようになる。耐えているその快楽を与えているのは目の前の男だというのに。その張本人に縋る姿は、ひどく加虐心を煽った。
 このまま一度絶頂させてもいいのだが、せっかくならばその姿で耐える顔が見たい。ライムは心を鬼にし中から指を抜くと、ナマエの身体も引き剥がし、そのままベッドへと押し倒した。力の抜けたナマエの身体は、あっさりその身をシーツの海へと横たえる。
 こちらを見上げる青い瞳に、ライムはにこりと笑みを返す。そうして投げ出された細い足を掴むと、そのまま大きく開いてしまう。

「やっ…!やだ、やだぁ…ッ!」
「こら、暴れんなって」

 遅れて状況を理解したナマエは抵抗するも、ライムはそれを太ももに両手を添えることで押さえつけた。当然の如く、それまで重なり隠されていたクロッチとあわいも、ライムの目の前で開かれることとなる。
 さらされた秘部は、蜜でその身にぺたりとクロッチを貼り付け。呼吸の度、黒いレースの奥でわずかに閉じたり開いたりしながら、ひしめく淡いピンクの肉をきゅうきゅうと怪しく蠢かせていた。

「も、やだっ、ひ、ぁ…っ!?♡」

 顔を真っ赤に染め、涙混じりになおも暴れるナマエを無視し、ライムはレースの間から覗く突起にちゅるりと吸い付いた。

「やっ、ああ゙ぁ、っ!♡」

 尖らせた舌先でくりくりと弄る。突起はレースで少し隠れているため刺激も少し鈍いかと思ったが、レースそのものが薄いからか、あまり関係ないらしい。
 それどころか胸と異なり、蜜でぴたりと貼り付いているおかげで滑るそれが、わずかな摩擦となり快感を生み。普段とは少し質の違う快感に、ナマエは声が抑えられていない様子だった。

「あ、ん゙ぅうっ♡ひぐっ、あぁ、ッ♡」

 抵抗はとうになくなり、押さえた太ももはライムの顔の横で、快楽に耐えがくがくと震えている。
 これならやりやすいと、ライムは再び中へと指を今度は二本差し挿れる。ぐにゅりと形を変え指を飲み込んでいく肉壁。指で届く限界まで進めば、そこは入口付近よりもさらにやわらかい。すっかり待ち侘びるように蠢くそこに指を押し当て、とんとんと小さく揺り動かす。

「…ッ〜!!♡」

 ナマエの背が仰け反り、腰が押し付けられるように軽く持ち上がる。薄い腹がぐうとへこみ、奥からはごぷりと重たい蜜が溢れ、付けられたライムの唇を濡らす。達してはいないが、その直前まで押し上げられているようだった。
 揺り動かす指はそのままに、溢れた蜜をすすり、舌先で突起に絡め、吸い上げ、弾き遊ぶ。敏感な場所を中も外も同時に弄られる強い快感に、ナマエはシーツを破れんばかりに握り締める。

「はー、っ♡や゙、あぁ!あ、んぁッ♡」

 気持ちいいのがじわじわと溜まっていく。その感覚に口からは咄嗟に拒絶の言葉が出るけれど、身体は喜びと共にもっとと強請っている。
 腹の奥底に、じゅわりと何かが滲む。出てしまうと、咄嗟に頭に浮かぶ。それは慣れたくなかったけれど慣れてしまった、慣れさせられてしまった感覚だった。

「あっ、らいむっ顔、離して…!」

 ナマエは慌てて手を伸ばしライムの頭を押さえる。けれどその手に力が入るはずもなく。むしろその行動が、ナマエが慌て始めた理由をライムに察するきっかけになってしまう。
 そして察したライムがそれに従うわけもなく。抵抗する身体を押さえつけるように指と舌の動きを早めると、さらに突起にやわく歯を立て始めた。

「あ゙っ!?♡や、うそ、うそうそっ、やだ、や、あ゙、っああぁ、〜〜ッ!♡♡」

 声にならない悲鳴を上げ、うねる中が指を押し出すように締め付ける。ぷしゃりと噴き出した潮が顔にかかりながら、ライムの喉へと流れ込んでいく。

「ひ、ぃあ、あ♡…ッ♡」

 指を引き抜き、最後にじゅるっと吸い上げ口を離す。溢れた蜜が指先と口元とを、それぞれ糸を繋いでいた。

「ん…ごちそーさん」

 ひくりと震える内ももの付け根を、お礼とばかりにやわく噛み、吸い付き痕を残し。ライムは満足げに上体を起こす。
 見下ろしたナマエは、信じられないといったように目を見張り、なにか言いたげ唇を震わせている。けれど息が整わないせいで言葉が出てこないらしく。最後には、「うう、」と悲痛な声と共に、ライムの肩を軽く蹴るだけしかできていなかった。
 それでもやはり、ナマエもどこかまんざらでもなかったのだろう。なにせ普段の彼女であれば、本気でライムを止めたいのなら、多分その蹴りを、ライムの顔面に入れていただろうから。
 それに、まだ一回目の絶頂だというのにこうして潮を噴いているのだ。もはやそれが何よりの証拠だ。ただそれを言ったら確実に怒られるので、そっと心の中にとどめておくが。

「もうやだ…脱ぐ……」
「待て、そうはさせねェぞ」

 ナマエはもはや半べそ状態でショーツに手をかける。素っ裸の方が恥ずかしいのではとも思うが、いかにもなものを身に纏っているままの方が嫌なのだろう。その気持ちは分からないでもないが。せっかくの下着を早々に脱がれてしまっては困る。まだ楽しみたいことは沢山あった。
 ライムは逃げられぬようナマエに覆い被さり、濡れた手を乱雑に拭いながら前をくつろげていく。すでに痛いくらいに張り詰めていた屹立は、取り出した瞬間ようやく解放されたとばかりに、ぺちんと腹を叩いた。
 粘ついた唾液を嚥下し、ナマエの腰を両手で持ち上げる。そのまま自身の足の上にやわい尻たぶを乗せさせると、秘部へ先端をあてがい、ゆっくりと腰を押し進めていった。もちろんショーツは脱がさずに。

「や、な、んでぇ…ッ」
「せっかくなんだ、今日はずっと着たままヤろうぜ…」
「は、あ゙…っ!♡あ、ぁ、あ、……ッ!♡」

 まだ一回達しただけ、普段であればもう少し解さなければすべて飲み込むことはできないというのに。ずぷずぷと入り込んだ中は柔らかく温かく、そうしてひどくうねりながら屹立を締め付けてくる。そうなってしまうほど、ナマエも興奮しているのだと、考えただけで腰が重たくなる。

「は、ん…、ふ…っ♡」

 馴染むようにと動きを止め、ライムはじっとナマエを見下ろす。──柔らかな双丘を覆うレースの間から、淡く色付く突起が見え隠れしている。しっとりと汗ばみ赤らむ肌の上をわずかに光沢のある生地が飾り、薄い腹は飲み込んだ熱に疼きながら、呼吸と共に蠢く。視線を下ろしていけば、下腹部を覆う細かい刺繍のレースを、赤黒い屹立が割り開いていて。
 これがすべて、自分のために。自分を誘い、セックスをするためだけに用意をされたものなのだ。──ライムの脳内に火花が散る。絶頂にも似た気分だった。

「はっ…えっろいなァ……♡」

 堪らず呟いたその言葉に、ナマエは小さく肩を跳ねさせる。

「あ、っあ…、♡」

 その瞬間、結合部からぴゅるっと小さく潮が噴き出る。ふ、ふ、と短く、けれどひどく熱のこもった吐息が聞こえ。まさかとライムはナマエを見やる。

「はは…んだよ、見られて興奮してんのか…?」

 からかうように半信半疑で訊いたそれは、てっきり「そんなわけないでしょ」と突っぱねられると思ったが、ナマエはなにも答えなかった。けれどそれが、なによりの答えだった。
 全身の毛穴がぶわりと開き、汗が噴き出す感覚がする。羞恥で顔を真っ赤にしたナマエが、ちらりとライムを見る。青い瞳の奥には、確かに熱が揺らめいていた。
 互いの唾液に濡れ、淡く艶めく唇が、なにか言いたげに開いたり閉じたりを繰り返している。

「…教えろよ」

 言いながら、ゆるゆると腰を動かし。腹側のざらついた部分を先端で擦り上げる。

「やっ、あ゙、ああぁ…ッ♡」
「なあ、教えろって。…こんなえろいの着て、ぐっちゃぐちゃになってんの俺に見られて、興奮したのかって」

 少し強い口調ではあったが、今のナマエなら言ってくれる気がした。それでもやはり、まだわずかに羞恥が上回るらしく。言いかけて開いた唇は、すぐに閉じられてしまう。
 するとライムはお仕置きとでもいうように、掌で下腹を撫で、親指でくにくにと突起を揉み込み始めた。皮を剥き、むき出しの突起に触れる手付きはいつもより乱暴なだというのに、布越しのわずかな痛みさえ、ナマエの身体は快感として受け止めてしまう。

「あああ゙っ!♡一緒に、らめぁって、ひ、ぃん゙…ッ♡♡」

 細い指先が手首に必死に絡みつく。勢いはないが潮を噴いているところを見ると、小さく達しているのだろう。これは確かに辛いだろうなとは思いつつも、一切手を止める気にはならなかった。

「ほら、言えって」

 なあ、と促す声。与えられる快楽に飛びそうな意識のまま、ナマエは嬌声しか出ない唇で必死に言葉を紡ぐ。

「っ、し、た…した、からぁ…ッ!♡」

 青い瞳からぼろぼろと大粒の涙がこぼれる。泣き声に可哀想だと思うのに、その光景はひどくライムの心を煽った。

「…興奮したんだな?」

 はは、と笑みを浮かべながらわざとらしく訊けば、ナマエはこくこくと必死に頷く。その姿を見た瞬間、よく言えましたとばかりに、腰と手の動きを激しいものにする。
 返せば止めてもらえると思っていたナマエは、目を見開き、「どうして」という顔でライムを見上げた。

「言ってくれた礼」
「や゙、なにそれぇ、あっ♡ひっ、!あ、ああ…ぃ、ぐ、っいっちゃ、あ、ぁあ…ッ!♡」

 まとめた三本の指の腹を突起に押し当て、全体を揺らすように小刻みに動かす。レース越しに扱けばぐちゃぐちゃと音が響き、ナマエが腰を跳ねさせた。嬌声と共にびしゃりと噴き出た潮が、ライムの腹筋へと飛び散る。

「はは…俺の腹、びちゃびちゃ…っ」
「あっ、とまらな、またい、いく…ッ♡♡」

 派手に達した余韻から抜け出せず、細い腰はがくがくと跳ね上がる。そのせいで中の屹立が浅いところを刺激し、「っ、う…♡…ッ、♡」と小さく呻きながら、ナマエは何度も小さな絶頂を繰り返していた。
 その度漏れだす潮がショーツにじゅわじゅわと染み広がっていく。元々溢れていた蜜も相まって、下着はとっくにその意味を成してはいなかったが。

「っあ゙ー…やべ、きっつ……」

 もはや暴力ともいえるその光景と、うねり、ぎゅうぎゅうと締め付ける中にライムは息を詰めなんとか耐える。まだ、まだこの身体を暴きたい。
 ナマエの息が整うのを待つことなく腰を掴むと、今度は奥へ、がつんっと先端を押し当てた。

「あ゙、い゙ぁっ!♡ああぁ♡」

 勢いで上にずり上がった身体を無理やり引き戻し、がつがつと最奥を穿つ。その度、開いた子宮口が屹立の先端に吸い付いているのが分かる。

「っぁ、いむ♡は、ああ、ぁ…ッ!♡」

 ずるると腰を大きく引き、腹側のざらついた部分を抉りながら、再び柔らかな壁を割り開き進む。こつんと子宮口に辿り着けば、先端をはめ込むように押し潰す。ナマエの瞳にはちかちかと白い星が散らばり、涙と混ざりながらこぼれ落ちていく。

「んっとによお…お前、なんでんなに可愛いんだ?あ?」
「あ、んぁ…あ、?♡」

 多分、もうなに言われてるか分かってないのだろう。帰ってくるのは、返事にもならないうわ言だけで。肢体はすっかり抵抗もなくなり、無防備にシーツの海へと投げ出されている。
 汗と諸々の体液で濡れた下着はもはや綺麗とは言い難かったが、視覚的にはこれ以上ないほどいやらしかった。

「ら、いむッ♡ぁ、いむ、…っ♡」

 自らを攻め立てる男の名を必死に呼びながら、ナマエは手を伸ばす。ライムはその手を取り自らの首に絡ませると、震える身体をぎゅうと抱き締めた。
 安心したような息遣いが耳元で響く。格好は見えなくなるが、これはこれでやっぱりいいのだと心が満たされる。
 どちらからともなく顔を寄せ唇を重ねた。前のめりになるライムの身体につられ、ナマエの下腹部がわずかに浮き上がる。それを支えながら腰を押し付け、すっかり柔らかくなった子宮口に先端をはめ込み、ゆさゆさと小刻みに揺さぶる。
 屹立の先で感じるやわい肉が痙攣する感覚が堪らない快感となって、ライムの腰を痺れさせていく。もっと、もっと奥でくっついていたい。

「ん゙っ、ふぅ、ん♡〜〜ッ!♡♡」

 薄い腹の奥で、ぐぽっと呑み込む音が聞こえる。入口をこちゅこちゅくすぐる動きに、ナマエの足先がぴんっと伸びては宙をさまよう。
 喉の奥に消える甲高い嬌声。薄い腹がぐうとへこみ、繋がるそこからぷしゃり潮が溢れた。
 ライムは今度こそ締め付けに抗うことなく。がくがくと揺れる身体を押さえ付け、溜まった欲を最奥に吐き出した。

「ふ、ぅ…あ、…♡」

 小さな舌をちゅるりと吸い上げ唇を離す。同時に屹立を抜けば、栓をなくした秘部から精液と蜜が混ざり合い、最後には潮も加わりながらシーツに染みていった。
 ナマエは力なく四肢を投げ出し、熱の冷めぬ瞳はぼんやりとどこかを見つめている。さすがにやりすぎたかと、ライムの心にわずかな申し訳なさが生まれる。後悔はしていないが。
 半開きで濡れたままの唇を拭ってやる。力の抜けたナマエはされるがまま、ゆるりと青い瞳でライムを見上げ。それどころかどこか気持ち良さそうに身を委ねてさえいた。
 そのまま手を滑らせ、頬に張り付いた髪を退かし、首筋の髪も払う。顎先、浮き出た鎖骨、まろい肩、そうして、やわらかな胸元へ。
 寄せられた双丘と、レースの間から覗く淡い突起が、ナマエが呼吸をする度静かに上下している。やわい胸へふにふにと指先を埋め遊んでいたライムの脳裏に、ふとある考えが浮かんだ。

「…なあ、ちょっとやって欲しいことがあんだけどよ」
「…なに?」

 わずかに余韻も冷めてきたのか、ライムの言葉にぼんやりながらもナマエは反応を示す。
 けれどライムはそれ以上言葉を続けず。代わりにじっとナマエを見つめると、遊んでいた指先で、とんとんっと谷間の辺りを叩いた。

「…挟んでくんねェ?」

 その言葉に、ナマエは一瞬きょとんとして。けれどすぐに、ぼっと火が付いたように顔を赤くした。そして力なく横たわっていたことなど微塵も感じさせないような勢いで身体を起こし、ライムと距離を取る。

「あ、う……」
「………」
「…ほ、本気…?」
「本気」
「………」
「………」

 あからさまな困惑を浮かべた青い瞳がきょろきょろと泳ぐ。けれど視線を逸らさないライムに本気だと悟ったようで。一度、逃げるように俯き。きゅうと下唇をやわく噛むと、震える声で呟いた。

「ら…ライムが、したい…なら……、」

 いいよ、と続いた言葉が、ライムの脳内に何度も木霊する。
 幸せなことが一度に起こりすぎて明日死ぬのかも、なんて。最初はそんなことを冗談半分に思っていたけれど。たぶん明日死ぬ、本気で思う。そんな馬鹿げた考えが浮かぶ程度にはライムは動揺していたし、ナマエの返答は、良い意味で信じられないものだった。

「だけど、その…あんまり大きくないから、ちゃんと挟めるかは、分からないけど…」
「いやその点は別に問題ねェ。つーか挟むだけがすべてじゃねェというか、重要なのはむしろその状態と状況っつーか…」

 不安げに呟くナマエの肩を掴み力説する。その内容は素面で聞けばあまりにも馬鹿らしいというのに、ライムのあまりの権幕に、「え、う、うん?そうなんだ…?」と、ナマエもたじろいでしまう。

「あとたぶん、お前の胸は世間的にはでかい」
「…ああ、そう」

 最終的にフォローにもなってないフォローをされながらも、期待を込めた眼差しを向けられ。ナマエはおずおずと再び寝転ぶと、脇から両胸に手を添え、そっと寄せてみせた。
 むに、と盛り上がる双丘。下着をつけているとはいえ寝転んでいるにもかかわらず、この大きさ。やはりナマエは大きい方だと思う。
 ナマエは普段着に白いワイシャツを、谷間が大きく見える程度に開けるような着こなしをしている。だから少し雑な言い方ではあるが、ナマエの"谷間"、というものだけにフォーカスすれば、ライムにとってもは見慣れているものでもあった。だからこれだって、同じと言ってしまえばそうなのだが。
 やはり、"ナマエが自らそうしている"という、それだけでその光景は一気に色味を変える。正直、生々しさだけで達してしまいそうだった。
 もはや肩で息をしながら、ライムはずりずりと膝を擦り寝転ぶナマエの腹の上へと跨る。そうしてナマエの顔の横に手をつき上体を屈めると、屹立の先端を、胸の下辺、寄せられできたあわいへ、ぴたりとあてがった。

「あ、あ、…♡」
「ゔあ、…っ」

 そのまま腰を進め、寄せられた肉を割り開く。避妊具もつけずにナマエの中にいたこと、なにより先端から先走りが溢れているおかげで、屹立はなんなく飲み込まれていった。
 根元がくっつく寸前、同時に先端がナマエの顎に触れる直前で進みを止める。濡れた肉壁に包まれるのとは違った感覚。ナマエの心臓がどくどくと脈打つ音が伝わる。ライムは声が漏れ出るのを抑えきれなかった。

「は、ん゙…っはぁ…ッ」

 奥歯を噛み締め腰を動かす。ぐちゃぐちゃと粘ついた音と、ぱつぱつと肌がぶつかる音が響く。

「っう、うう…、」

 なにかを耐えるような、悲しげな声。けれどライムには分かる。あれは、ナマエのあの声は、混乱しながらもひどく欲情している、そんな声だ。
 ライムは一度、重たく息を吐き出す。そうして腰の動きを止めると、片手をナマエの胸へと伸ばし。覗き突起を、きゅうと摘まみ上げた。

「ぁ、んっ…!♡」

 油断していたのかナマエはびくりと身体を跳ねさせたけれど、その手を止めようとはしてこない。つまりこれは続けていいのサインだと、ライムはそのまま突起の先端を引っかき始める。

「あんっ、あ、あぅ、んぅ…っ♡」

 かりかりと爪先で強めに引っかかれ。かと思えば、くるくると指の腹で優しく撫でられ。そうして、時折根元から摘まみ上げられ。緩急つけ与えられる刺激にナマエは身を縮こまらせながらも、胸を支える手はそのままで。今日はどこまでも受け入れてくれる気らしい。喉の奥でくつりと愉悦を浮かべる。
 ライムがぐっと首を落としたとき、耳にかけていた髪がひと房はらりと落ちる。それはナマエの顔の横に揺れ、彼女の頬をくすぐった。
 触れた金色に、それまで強く閉じられていた青い瞳が、反射的にライムを見上げた。
 羞恥で涙を溜めた瞳は、それでも隠しきれない欲を孕んでいた。高揚する頬、濡れて甘い声を出す濡れた唇。白い体液に汚れる下着、ふるふると揺れるやわい胸に、ぐちゃぐちゃと下品に粘ついた水音。
 あ、駄目だ。ライムの頭にそんな考えが浮かぶ。ずるっ!とあわいから勢いよく屹立を引き抜いた。次の瞬間、先端からは勢いよく精液が吐き出た。

「ん゙っ…!」

 寸前で引き抜いたものの間に合わず、吐き出したすべてがナマエの胸へとかかる。そのうち一部は顔まで飛んでしまい。白い頬を伝い、薄く開く唇の中へとこぼれ落ちていった。

「は…っ、悪ィ…」
「ぁ…分かっててやったでしょ…んぅ…、」
「おう…」

 謝りながらもあまりに素直な返答はいっそ清々しい。怒ってはいないから、別にいいと言えばいいのだが。
 口内に滲むわずかな苦みを転がしながら、ナマエは目を閉じ、精液を拭うライムの手に身を委ねる。と、ふいに腕を引かれ。浮遊感と共に身体を起こされた。
 驚いて目を開けば、目の前には近付いたライムの顔。膝の上に乗せられたのだと気付いたのは、数度瞬きをした後だった。

「…え?」
「あ?」
「や、なにしてるの…」
「だってお前イってねェだろ」

 当然だろうといったような、その口調。嫌な予感にナマエが身体を引くもいつの間にか背後に回されていた手が、制するように尻たぶをわし掴み。あろうことがぐにぐにと揉んでいるでないか。

「や、もうい、っぃあ、あ…ッ!♡」

 そのまま、密着した下腹部がゆるゆると動かされる。未だぬかるんだままの秘部を屹立の裏筋がずりずりと擦り上げていくその動きに、ナマエの中でくすぶっていた熱が呼び起こされてしまう。

「ん゙ぅ、な、でぇ…♡」
「は…、まだあと一日あんだ。せっかくナマエから誘ってもらったんだし…心底堪能しねェと悪ィだろ」
「も、いいってばぁ…!」
「そう言うなって」

 ライムは揺れる胸へと手を伸ばし、フロントホックをぷつりと外す。そのままブラジャーを腕から抜き取り、ベッドの下へと投げ捨てる。散々堪能させてもらっておいてなんだが、今度はきちんと素肌で触れ合いたかった。
 ばか、むり、と言いながらも甘い声を漏らす唇に、いいからと嗜めるように噛みつく。シーツを蹴っていたナマエの足先が、ライムの腰にするりと絡みついた。





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