触れるか触れないか。絶妙な力加減で、指が這う。少しだけ伸びた爪が時折引っかかり、痛みと共になんとも言えぬ感覚を残していく。ゆっくりゆっくり下りていき、弾力を楽しむように腿の上をはずみ、目的の場所を撫でる。濡れた音がして、指先にはつぅ、と光る糸が引く。何度もなんども、触れては離れ、離れては触れ。そうしていくうちにみるみる潤って、卑猥な音を静かな部屋に響かせる。
そこへ触れる時だけ、田崎さんは行為をゆっくりと進めていく。わざとらしいその動作が、余計に私を興奮させることを、この人は知っているのだ。ぬぽ、ぬぽ。緩慢な動きで、まるで確かめるように抜き差しされる。もどかしささえ感じるその早さに、無意識のうちに腰が動いてしまう。
田崎さんのあのしなやかな指が私の中で動いている。そう想像するだけで死にたくなるぐらい恥ずかしいから、できれば前戯は短くしてほしい。
以前、必死の思いで告げたそんな言葉は、彼を楽しませる材料にしかならなかったのだ。少し考えれば分かることだったのに、熱に浮かされた頭でまともな思考ができなかったとはいえ、そんなことを馬鹿正直に言ってしまうなんて。私はなんて間抜けなんだろうか。
「も、指、やだっ」
たぶん、中指と人差し指。二本まとめて入れられているそれらは、私の訴えでぴたりと止まった。
「これじゃ足りない?ナマエは欲張りだな」
「ちがっ、ひ、ああっ!」
それまで抜き差しされるだけだった二本の指が、今度はばらばらに動き始めた。一気に快感の質が変わり、出てしまう声の大きさも変わる。わざとらしく空気を含むように動くおかげで、卑猥な音がより一層大きくなった。
「や、らめ、もっんん、」
「達しそう?我慢しなくていいよ」
「あっ、あああ!やだやだやだっ、あ、あ、っ〜!!」
抉るように奥を擦られ、高ぶっていた体はあっさり上り詰めてしまう。力を込めて丸くなる足先が、快感を逃がそうとシーツを蹴る。けれどそんな私を嘲笑うように、中の指が再び動き出す。先程より少しだけ強い力で抉られ、普段なら痛みを感じるその愛撫も、敏感な身体には恐ろしいほどの刺激になる。
「あ!田崎さ、なんでっ」
「だってナマエの中、まだ物足りなさそうだから」
「そんなことっ、あ、っああ!んううっ、ひ、あああ!」
中を弄る手の動きはそのままに、体の中で一番敏感であろう突起を親指で強く押し潰される。襲いかかる快楽。跳ねる足に、また達したんだと遅れながらに理解した。自分でも気付かうちに、なんて、私の体はいよいよおかしくなってしまったのだろうか。
「も、やああっあ、う、あっ!」
「ナマエ、あーん」
「あ、っあ、ん、ぐっ、」
わけもわからず言われるまま素直に口を開けば、頬に手を添えられ、彼の親指が口内へ入ってきた。頬の内側を擦られ、舌を押され。恥ずかしいから嫌だとか、そんな考えはもう浮かんでこなかった。ただただ、彼の指の動きだけに全神経が集中していて。閉じることが出来ない口からは唾液がだらしなく溢れていた。
「んんっ、ぅ、ぐ、っんぅ!」
「っ、はあ…」
「ふ、はあっ!あ、っああ、あっ」
中から勢いよく指が抜かれ、息つく間もなく熱が押し込まれる。油断していたから驚いて口内の指を噛んでしまった。田崎さんは少しだけ顔を歪めたけれど、腰の動きは止まらず、お仕置きだと言わんばかりに激しくなる。ぐちゅ、ぐち。耳を塞ぎたくなるような音と私の声が脳内に響いてぼんやりと靄をかけていく。
「あ!あっ、た、ざきさ、あ、ごめんなさ、っゆび、」
「ん、ああ…別に、構わないよ」
「っ、でも、」
「いいから、今はこっちに、集中しろ、っ」
「ひ、んあ!あ、んん!あっああ!」
腰を掴まれ、勢いよく最奥を突かれる。腿に当たる腰骨の痛みが妙に生々しくて、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
「あっ、やだ、そんなのっ、ひあ、」
「んー…ふふ、」
「っう、たざきさ、はあっうあぁ!」
胸の突起に吸い付かれ、固く尖らせた舌が先端を嬲り、時折押しつぶすような動きをする。ちらりと視線を向ければ、その光景が間近で目に入ってきて。あの田崎さんが、赤ん坊のように、私の胸、に、
体中の熱が顔に集まったんじゃないかってぐらい熱くなって。生理的なのか恥ずかしさからなのか、もう分からない涙がぼろぼろ落ちていく。
「っはあ、んんん、あっ、たざき、さん」
「…ん?」
「も、らめっ、おかしく、なっちゃ、」
「ああ…いいよ、っ」
「っあ!やらっ、あっああ、あ…!」
あのしなやかな指が私のそれと絡まり、力強く握り込まれる。優しい声で囁かれた瞬間、今までで一番強く奥を突かれ、あっけなく達してしまった。
一瞬、火花が散ったと思ったら、次の瞬間には涙でぼやけていく視界。力が入らず重たい体をベッドへ沈め、息を整えるため必死に酸素を吸い込む。
「無理させて悪かったな…おやすみ」
田崎さんの声が遠くで聞こえる。優しく頭を撫でる手のあたたかさに安心して、そのまま瞳をゆっくり閉じた。
目が覚めると、同じように眠る田崎さんの顔が目の前にあって。驚いて離れようと体が動くけれど、背中に回された腕がそれをさせてくれない。仕方なくその状態のまま視線を彼へと向ける。普段と違ってどこかあどけなさの残る寝顔。薄く開かれた唇からは、わずかに吐息がもれている。可愛いな、となんとなく思った。
しばらく眺めていると、ふいに眉間にしわがより、小さな呻き声と共にゆっくりと瞳が開かれた。
「……………」
「お、おはようございます…」
「ああ…おはよう」
寝起き特有の掠れた低い声がひどく蠱惑的で。彼の無意識のうちに出されるこの魅力こそが、彼の最大の武器なのだと再認識させられる。なんていうか、男性なのに、ずるい。
そんな私の考えを知ってか知らずか。微笑みながらするすると髪を撫でている手を見れば、親指の付け根にくっきりと残る痕。
「………………」
「ナマエ?」
「指、すいませんでした…」
「ん?ああ…いいよ。無理矢理咥えさせた俺が悪いんだし」
「次はしないでくださいね」
「どうして?」
「どうしてって…傷になるからですよ」
左手の親指の付け根。くっきり残った噛み跡を撫でながらそう言えば、不思議そうな顔で尋ねられる。どうして、と聞くということは、また同じことをしようと考えているということだろうか。痛いと分かっているのに受け入れるだなんて、まさか、
「…田崎さんってもしかしてそっちの趣味がおありで…」
「違う」
言い切る前にきっぱりと否定される。まあそうですよね。今更新事実発覚かと思ってびくびくしちゃいましたよ。
じゃあなんでですか。そう問いかければ、彼は少し微笑みながら、全ての女性を虜にしてしまいそうな声で呟いた。
「消えるからこそ、意味があるんだよ」
立場上、素性につながるようなものは残せない。ましてや彼のように、仕事で女性を口説くことがある人物はなおさらだ。けれど噛み跡なら、一時間もあれば跡形もなく消える。鬱血よりはるかに早く治るため、いくら残そうとも気にならない。消えてしまったらまた付け直せばいいのだから。
噛み跡なら、なんて。ずいぶん歪んでいるなと思う。でもそれに同意してしまう私も私だ。さて、次は彼のどこに噛みつくことになるのだろうか。なるたけ恥ずかしくないところにしてほしい。
そこまで考えて、この思考が既に恥ずかしいということに気付いたけれど、まあいいかと頭の片隅に追いやった。
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