「膝、立てて」
「……は?」
ワイシャツを脱ぎ上半身裸の波多野さんと、何も身に纏っていない、纏わせてもらえない、私。何をしているかなんて一目瞭然の場に、ついいつもの調子で間抜けな声を響かせてしまった。
その返事は予想していた。そう言わんばかりに、私の腰に手を添えたまま波多野さんは再度要求してくる。
「だから、膝立てろって」
「い、嫌ですよ!何言ってるんですか!?」
それまで熱に浮かされていたはずの頭は一気に冷静さを取り戻した。ほぼ脅しに近い状態で裸にされ?上に乗って自分で入れろと言われ?あげく膝を立てろ?いやいやいや、ははは。冗談にしては内容が酷すぎる。
引きつる私の顔が気に食わなかったのか、添えられた手に力が込められたと思ったら、波多野さんの腰がゆるゆると動き始める。
「っあ、波多野さ、んん」
「こら、逃げんなって」
「っこ、んな状態で、ふ、膝、なんて、あ、」
波多野さんがわざといいところを突くせいできちんとした言葉にはならなかったけれど、言わんとしていることは気づいているはずだ。それなのに彼はどこ吹く風。しれっと言ってのける。
「馬鹿かお前。そんなこと分かってて言ってるんだよ」
「あっ、さ、最低です…ひぁ、」
「男は皆最低だよ。ほら、早くしろって」
「う、い、嫌ですっ絶対無理!」
基本的に彼の言うことには従ってきた。現に今だって、上に乗って自分で入れろって言われてその通りにしちゃってるし。けれど、さすがに私もこればかりは譲れない。
だって、それに従ってしまったら、この先これ以上のことが要求されるようになるのが目に見えているからだ。
「うっあ、も、はたのさっ」
「はいストーップ」
あと少し。そう思っていたのに、腰の動きがぴたりと止まる。驚いて彼を見れば、あのしたり顔。これはまずい。この顔は、私を苛め尽くしてやるという顔だ。すんでのところで発散されなかった熱に、無意識のうちに腰が動いてしまう。
「こら、何腰動かしてんだよ」
「う、だ、だって、」
「だっても何もない。早く」
「っ…」
「それとも、ずっとこのままでいるか?」
このまま、とは、決定的な刺激を与えてもらえないもどかしいこの状況の事だろうか。そんな酷いことがあって良いのか。恥ずかしさや苦しさに必死で耐え、ようやく自分で入れたというのに。こんな状態がずっと続くのは、肉体的にも精神的にも辛い。それは波多野さんも同じなのに、私の方が追い詰められている気がするのは何故だろうか。
「っ…」
重心を後ろにずらし、震える足を片方ずつゆっくり立てていく。波多野さんの視線がそこに集中しているのがわかって、泣きたくなった。
「っう、も、勘弁してください…」
「…まだ駄目」
堪えていた涙はついにこぼれてしまう。隠そうと膝同士を合わせるけれど、ほとんど意味をなさなかった。
「っほら、ちゃんと開けって、」
「や、むりですっ、力、入んな、っ」
「簡単だろ…ほら、」
「っ!?や、やだ!」
足首を掴まれ、そのまま左右へ広げられる。力の入らない体で抵抗したところで、彼には関係ないらしい。み、られ、てる。両手で顔を覆う。波多野さんが生唾を飲んだ音が聞こえた。
「はたのさ、手はなして、っ」
「はは…いい眺め」
熱に浮かされた声が脳に響く。足首を掴む手は大きくて。死んでしまいたいぐらい恥ずかしいのに、私のそこは喜びを感じて彼のものを締め付けている。
「すげえひくついてんぞ」
「あ、やだぁ!触っちゃ、っああ!」
繋がっている部分の少し上にある突起を摘まれ、大きな声が出てしまう。彼の手はもう足首を掴んでいないのに、閉じることを忘れてしまった膝が情けなく震える。
怖い。恥ずかしさとか、強すぎる快感とか、いうことを聞いてくれない体とか。色々なものが入り混じって、一種の恐怖さえ感じる。その不安は声にならない代わりに涙となって外に出てきて。まるで子供のように泣き声をあげてしまう。
「っふ、ひ、ううぅ…」
「…泣くなよ」
「だ、って、波多野さん、が、」
「…ナマエ」
ん、と差し出された手を訳もわからぬまま掴めば、そのまま引かれ距離が縮まる。唇が重なると同時ににゅるりと入り込んできた舌に驚きながらも自分のそれを絡ませれば、含みきれなかった唾液が口端から溢れてしまう。
「ん、ふ、んん」
「っは、」
「んうっ、ん!ふあっ、」
空いた手が私の胸を揉み、時折先端を弄る。ああ、なんか、もう、恥ずかしいとか、よくわからなくなってきた。
「あ、んっあ、!」
「っ!」
震えていた足がとうとう限界を迎え、波多野さんを圧し潰すように倒れ込んでしまう。突然のことにさすがに彼も驚いたのか、肩がびくりと跳ねた。
「ふ、あっ、ひあ、はたのさん、っ」
「おま、急に倒れてくんなっ、あ、」
「ごめんなさっ、も、力はいんな、て、んあっ」
「耳元でしゃべんなっ、くそ、!」
先程までとは違い焦ったような声を出したと思ったら、両手で腰を掴まれ勢いよく奥を突かれる。
「あんっあ、いっあ!ああ、っふあ、!」
情けなくも力の入らない体は、ぐったりと波多野さんの上に倒れこんだままで。突き上げられ、腰が落ちる瞬間に再び大きく突かれる。休む暇もないその動きに、意識は靄がかかったようにぼんやりとしてくる。
「っう、ん、んん、っは、あっ!」
「っは、はあ、ナマエっ、」
「あ、はたのさん、っきもちぃ、ふあっん、」
彼が動く度、胸板と突起が擦れて小さな快感が生まれる。あんなに恥ずかしがっておいて、結局は彼との行為に溺れてしまうのだ。あとで後悔することもわかっているのに、浅ましくも快楽を追うことに必死になってしまう。
「っ最初からそう、素直になってろ、よ!」
「ふっあ!あ、んうっ!」
言葉と共に最奥を突かれ達する寸前、後頭部に手を回され再び唇が重ねられた。がちん。歯がぶつかって鈍い痛みを感じたけれど、波多野さんは気にすることなく舌を絡ませてくる。
「っん、〜〜〜っ!」
うまく呼吸ができないまま達した体は熱を逃がせず、思い切り中のものを締め付けてしまう。波多野さんが小さく呻いた後感じた熱さに、彼も達したのだと理解した。
「ふ、あ…」
ようやく離れた唇には糸が繋がっていて、しばらくしてぷつりと切れた。ぼやけた視界のまま彼を見つめれば、大きな手が前髪をかきあげ、額に唇が落とされる。
「お疲れさん」
「………もう二度とやりません…」
「何だよ、お前だって最後は気持ちいいって、」
「わー!止めてください!!」
慌てて彼の口塞げば、再びあのしたり顔。完全に遊ばれてる。
それが悔しくて、笑う彼の顔を無理矢理引き寄せ口付ける。離れる瞬間下唇を噛んでやれば、口をぽかんと開けた間抜け顔。妙な達成感に今度は私が笑えば、生意気とばかりに再び唇に噛み付かれた。
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