「あ、悪趣味ですよ!」
「なんとでも」

 私の反論なんて関係ないとばかりに、田崎さんの手は器用に服を脱がしていく。おかしい、何がおかしいって、この状況がだ。
 ──アーロン・プライス。イギリスのスパイ。彼の張り巡らせた日本国内の情報提供者のリストを盗むことを目的とした任務に当たった際使用した憲兵の制服を田崎さんはいたく気に入ったらしく、終わった後も少しだけ貸していて欲しいと申し出てきたのだ。
 その時点でなんとなく嫌な予感はしていたが、それだけで断るわけにもいかず。何より、結城さんに「好きにしろ」と言われてしまえば仕方がない。外に出ないのならばという条件のもとそれを承諾したのだ。
 だが、私は今それを激しく後悔している。まさか、それを着たまま押し倒されるなんて、予想もしないであろうことが起きてしまったからだ。あの時感じた嫌な予感を信じていればよかった。
 軍人は好きじゃない。そう言っていたくせに、こういうことには利用するんだから。本当に性格が悪い。

「田崎さん、やめ、っ」

 ボタンは全て外され、露わになった肌に手が這う。何度も彼に抱かれた体はそれだけで反応してしまう。

「っ、う、ん」
「ナマエ。体、跳ねてる」
「やっ、ちが、ひぅっ」

 するすると降りていった右手は躊躇することなく、スカートのさらに奥、下着の中へと差し込まれた。入り口を撫でながら時折上部の突起にも触れられ、じわじわと体が熱くなっていく。微かに水音が聞こえ始めると、待ってましたと言わんばかりに指先が侵入してくる。
 そこでふと、つぷりと埋まったその感覚がほんの少しいつもと違う気がして。驚いて彼の手を見ると、何故か手袋をしたままだった。慌てて止めようとするけれど、動き出した指に遮られてしまう。

「ひ、っう、いた、っや…」
「本当に?」
「やだっ、あ、んあっ!」

 布が擦れる感覚が普段とは違う痛みを生み出す。けれどそれが快感にもなっていて。きっともうほとんど意味を成さないだろうけれど、抵抗をするように必死に彼から視線をそらす。

「えーっと、たしかこの辺り…」
「んうっ、あ、あぁ、ああぁ!」
「ああ、見つけた」

 その言葉と共に、奥のある一点を突かれる。どこかはわからないけれど、そこを触られるとまずいという事だけはわかる。止めてほしいと目で訴えるが、にっこりと笑った彼は非情にもそこを指先で刺激し始めた。

「んあっ!や、あああっ!」
「ほらナマエ、力抜いて」
「やだっ、あ、あっ…」

 彼の指が入るそこがどんな状態になっているかは、部屋に響く音で否が応でもわかってしまう。かき回しながら、時々押し付けるように動く指はどんどん本数を増やされ、最終的に三本の指が好き勝手に暴れていた。

「ん、あ、やだっ、やだっああ、あ、ひっああぁ!」

 一瞬、足がぴんと宙へ伸びたと思ったら、そのままばたりとベッドへ落ちる。震える体には力が入らず、田崎さんが指を引き抜く動作にさえ素直に反応して声が出てしまう。

「ナマエ」
「は、あ…はい…」
「外してくれる?」

 目の前に差し出された右手。その指先は濡れていて、やらしく糸を引いている。恥ずかしい、って分かっててやってるんだよなこの人は。けれどここで私が外さなければ、田崎さんはそのまま行為を続けるだろう。そっちの方が嫌だ。彼と恋仲になって学習したことだけれど、彼の要求には早い段階で応じておいた方がいい。断れば後々もっと酷い目にあうからだ。
 恥ずかしさで震えながらなんとかその手を掴もうとすると、ちょっと待ってと制止を掛けられる。

「…なんですか」
「噛んで」
「は、か、え?」
「噛んで、取って?」

 何ですかそれ。何でそんな爽やかな笑顔なんですか。私が、濡れたその手袋を、噛んで、取れと?

「いっ、嫌です…!」
「そう?じゃあこのまましちゃおうか」

 ああやっぱり。私が嫌がるのを、この人は何よりも悦としているのだ。
 濡れた指先が胸元を這い、立ち上がった突起の先端を弄ぶ。摘まれ、時折強く引っ張られ。普通なら痛みは感じないほどの刺激なのだろうけれど、手袋をしているせいで、布の摩擦がわずかな痛みをもたらす。

「い、あ、やだっ、」
「でも、外したくないんだろ?」
「っは、はずします、からぁ!」

 だから止めて。そう小さく呟けば、彼の手はすぐに離れていった。そしてそのまま、早く開けと催促するように、指先が私の唇をなぞる。

「ん、」

 薄く開いた唇の隙間から、やや強引にねじ込まれる。布だけを歯で固定しゆっくり頭を引けば、するすると田崎さんの手が表れていく。手袋を嵌めるその手が綺麗だなとは思っていたけれど、まさかこんな恥ずかしい状況になるだなんて、想像もしていなかった。
 差し出された左手も同じように抜き取っていく。全て外し終えれば、頭を優しく撫でられた。

「いい子」

 頬に添えられた手に擦り寄る。それまでの強引さが嘘のように優しく涙を拭っていくものだから、なんだか力が抜けてしまう。
 ナマエ。名を呼ばれ彼を見上げれば、熱のこもった瞳がこちらを見ていて。ぞくりと何かが背筋を這い上がった。
 いつの間にか取り出されていた彼の熱を余韻でひくつくそこに当てがわれ、無意識のうちに腰を引いてしまう。けれど大きな手に掴まれ、一気に押し込まれる。

「ひ、あ、ああっあ!」
「っう、ん」

 勢いよく奥まで入ってきたと思ったら、すぐに抜かれ、また突かれる。突然の強過ぎる快感に恐怖を感じ彼の胸を押すけれど、その手は掴まれベッドへと縫い付けられてしまう。骨が軋みそうなぐらい握り込まれた手首は悲鳴をあげる。

「田崎さんっ、まって、やだっ、ああんっあ、ああっ!」
「っ、憲兵に反抗する悪い子には、お仕置きしないとな…?」
「なに言ってっ、あああ!んあっ、あ!」

 いい子って言ったり、悪い子って言ったり。しかも言うに事欠いて、憲兵に、だなんて。悪趣味にもほどがある。
 涙で滲んだ視界で彼を睨み付ければ、生意気だとでも言いたげに先ほど指で擦られた一点を抉るように突かれ、全身が粟立つ。

「あん、ん、田崎さっ、田崎さん、あ、んああっひぅ、あ、!」
「は…っほら、ごめんなさい、は?」
「うっあ、ごめんなさ、いっ、ごめんなさっああ!」

 言い切る前に再び奥を突かれ、まともな言葉が発せられなくなる。閉じることを忘れた口の端から溢れた唾液を田崎さんの舌が拭い、そのまま唇が重ねられる。上も下もぐちゃぐちゃに混ざり合って、まるで一つに溶けているみたいだ。回らない思考の中で、ふと思った。

「っふ、あっ、たざきしゃ、も、いっちゃ、っああ!」
「ん、っあ、」
「あっああ…っ!」

 足先がぎゅうと丸くなり、身体がびくびくと跳ねる。それと同時に、田崎さんが耳元で小さく呻き、中へと熱が広がる感覚がした。掴まれていた手首はようやく解放され、痛みにほんの少し顔を歪めてしまう。
 汗で湿った前髪を掻き上げながら、鬱陶しそうに制服のボタンを外し、乱暴にベッドの下へ放り投げる。気に入ったと言っていたわりに、扱いは雑だなと思った。

「…まさか田崎さんにこんな趣味があるとは思いませんでした」

 そういえば以前、田崎さんが酒の席で、少し趣向を変えて致してみたい、とこぼしていた。なんていらない報告を神永さんから受けた覚えがある。
 その時は冗談だと思っていたのだけれど、どうやら本当だったらしい。それが任務で使った、ましてや彼が嫌う軍人の服だなんて。趣向を変えるどころの話ではない。使えるものはなんでも使う。スパイである彼らしいとも言えるけれど、それにしたって、だ。
 たっぷり皮肉を込めてそう言えば、悪びれた様子もなく、平然と彼は言ってのける。

「どうせもう二度と使わないんだ。有効活用できるなら、それに越したことはないだろ?」
「有効活用がこれって…」
「それに、ナマエも楽しんでたんだから。お互い様だ」

 本当に悪趣味ですね。彼の言葉にぶわっと熱くなる頬を隠しながらそう呟けば、笑い声と共に唇を塞がれる。絡まる熱を感じながら、もうこういう事はないようにと、頭の片隅で思った。
 数ヶ月後、その願いも虚しく女給の服を持った彼に押し倒されることになるのを、この時の私はまだ知る由もなかった。


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