この歳になって、ましてやスパイとして任務にあたってきたくせに、私はそれがどういったものなのか知らない。いや、その名前も、内容も知っている。ただ、こういう事を、実際に行ったことがなかったのだ。
 こんな事知られたら、きっと笑われてしまう。だって、あんなに男の落とし方を彼らに教授したというのに、その当人が男性と寝た事がないだなんて。
 今まで機会がなかった、なんて。ただの言い訳になってしまうだろう。作ろうと思えば機会はいくらでもあった。自分にその勇気がなかっただけの話だ。
 でも、それでもよかったのだ。なんせ機関が本格的に始動するようになってからというもの、私のスパイとしての仕事はほぼなくなっていた。悔しい事に、私よりずっと優秀な彼らに任せておけば、ほぼの任務は成功するからだ。それはとても喜ばしい事なのだれど、それにより機会はますますなくなっていって。ついに今日に至ってしまった。
 それを目の前の人に告げたら、どうだ。驚きを隠しもせずこちらを見ているではないか。やはり言うものではなかったのだろうか。まあそうか、男性にとって初めては面倒だというし。
けれど予想外だったのは、止めますかという私の言葉とは裏腹に、「お前の初めてが俺なんて、嬉しくて死にそうだ」なんて、彼が至極嬉しそうに笑ったこと。その顔を見た途端、この体でここにいられることを、とても誇りに思えた。


 長い指がゆっくりとボタンを外していく。蛍光灯の下、露わになる下着。視界に入ったそれは、盛大に転んだあの時のものだと同じということに気づいてしまい、一人で恥ずかしくなった。別に狙っていたわけではないのにこのタイミングでこれを着てきてしまうなんて。

「お、あの時の桃と黒」
「…そういうの気づいても言わなくていいですから!」
「ごめんごめん」
「っわ!」

 なだめるように頭を撫でながら横抱きにされる。突然のことに驚いている間に背中へと回された腕は、ホックを外し、スカートのファスナーを下ろし、足から抜き去っていく。私の腰を支える手はそのままに全てを片手で器用に行うものだから、手際の良さに驚いてしまう。
 そうして彼の手が止まった時私が身にまとっているものは、ボタンが全て外され全開になっているワイシャツと、上下揃いの下着のみだった。しかもその下着も、ホックが外されかろうじて腕が通っているだけの状態だ。
 彼の着衣は一切乱れていないというのに、私だけこんな格好になっているなんて。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。

「あ、あまりさ、」
「んー、いい眺め」
「っう、なんで、私だけっ」
「いいから。大人しくしてろ」
「なん、っんう、」

 唇を塞がれ、隙間から舌が差し込まれる。驚いて無意識のうちに引っ込めようとするけれど、絡められてそれも叶わなくなる。送り込まれる唾液に苦しくなり彼の胸を叩けば、意外にもあっさりと唇が離された。

「ナマエ、飲んで」
「っ、ん、んん、ぐ、」
「…ん、良くできました」

 言われるがまま溜まったそれを喉を鳴らし飲み込めば、甘利さんは満足気に頬にキスをしてきた。褒められた。そのことに嬉しさを感じ彼の胸に擦り寄れば、力強く抱きしめられる。香水の甘い香りが一気に脳内へ入り込んできて、頭がくらくらした。

「っ、!」
「はは、すごいドキドキしてる」

 優しく左胸に添えられた手。異性にそこを触られるなんて初めての経験で。すでに壊れそうに音を立てていた心臓の動きがさらに大きくなる。もう口から飛び出てしまいそうだ。

「っ、ふ、」

 少しだけ硬い指先が、中心を避けるように撫で回す。徐々に芯を持ち始めるそこを弾いたり、押し潰したり。まるで遊んでいるような手つきで触れられ、自分でも驚くぐらい甘い声が漏れてしまう。
 なんか、なんだか、下半身が熱い。思わず膝を擦り合わせれば、それに気づいたのか彼の手がするすると下がっていき、骨張った指がそこを撫でた。ぐち、とわずかに鳴る音にかあっと顔に熱が集まる。

「うん。ちゃんと濡れてるな」

 止めて、いちいち言わないで。確認するように頷きながら、甘利さんの指が数回そこを撫でていく。時折指先が押し込まれ、じわじわと快感が生まれ始める。

「ひ、あ、」
「ちょっと力抜いておけよ」

 下着の中へ差し込まれた手が動き、何かが自らの中へ埋まる感覚。何かがなんて、見なくてもわかる。甘利さんの、中指、が。
 ゆっくりと探るように入り口付近を撫で、徐々に押し込まれていく。その異物感に恐怖を感じ、彼のワイシャツを握りしめる。

「っううぅ、あ、あっあ、」
「痛い?」

 心配そうな声で問いかけられたから、首を必死に振る。ここで私が少しでも拒絶の言葉を告げれば、彼はすぐにでもこの行為を止めるだろう。それだけは嫌だ。

「あっ、ふあ、あ、」
「んー…」

 甘利さんは何かを探すようにゆるい抜き差しを繰り返しながら、時折壁を擦っていく。腰がびくびくと跳ねる。異物感は相変わらずだけれど、少しづつ、身体は違和感以外のものを感じ始めていた。

「あまりさ、あっ、ひぅ、はっ」
「ここか?これともこっち?」
「な、にいって、っあ!?」
「お、」
「や、なにっ、」

 ある一点を押された途端、全身に電流が走った。それまで以上に跳ねる腰と丸くなる足先。驚いて彼を見れば、楽しそうに笑った後、再び指が動き始める。しかも、今度は的確にそこを狙って。

「ここ?」
「あ、あああっ!やっ、ひぁっ、なんで、っ」
「ナマエの気持ちいいところ」
「あ、やあぁっ、あ、っあ!」

 止めようと彼の腕を掴むけれど、力が入らずほとんど意味をなさない。それどころかむしろ添えるようになってしまい、まるで彼の手を借りて自分でしているようにさえ見えた。
 いつの間にか二本に増やされていた指が中で好き勝手に暴れる。彼の腕を掴む手に、力がこもる。

「や、あまりさっ、なん、へんっ」
「ん。平気だから、そのまま力抜いてな」
「やだっ、やだやだ、っう、あ、ああっ…!」

 ぎゅうっ。身体中に力が入り、びくっと大きく跳ねる。一瞬目の前が真っ白になり、すぐに力が抜けていった。

「っ、は、ふあ、はあ…」
「頑張ったな」

 呼吸を整えようと必死に息を吸い込む私の額に優しく口付けながら頭を撫でてくる。その手にすら反応してしまい、自分はこんなに敏感だったのかと靄がかかった頭で考える。
 ちゅぽん、と卑猥な音を立てて抜かれた指をじっと見つめたと思ったら、彼はそのままそれをぺろりと舐めはじめた。…は?え、なに、

「な!なにしてるんですか…っ!?」
「ん?勿体ねえなと思って」

 勿体ないってなんですか。甘利さんは私を恥ずかしさで殺す気ですか。長い舌が指に絡まる姿がひどく扇情的で。無意識のうちに下腹部に力がこもる。
 ごくり。音を立てて唾液を飲み込む。震える手を彼の首へ回し、隙間がなくなるぐらいぴったりとくっついた。

「どうした?疲れたなら寝ても…っ、」
「甘利さん…」

 胸を押し付けながら、耳元で囁く。意図せず熱い吐息になってしまったのは、彼のせいだ。

「おいっ、ナマエ、」
「ほしい、です」
「っ!」
「いれ、て、下さい…」

 きっと甘利さんは、今日はこれで終わらせるつもりだったのだ。それは私が行為の前に、怖がって虚勢を張っているということに、気づいていたから。
 けれど私だけ気持ち良くなるのも、甘利さんに我慢をさせるのも、嫌なんだ。顔を見られないよう彼の肩口に顔を埋め、恥ずかしさで滲んだ涙をワイシャツで拭う。これぐらいは許してほしい。

「おねがい、甘利さん、からだ、あつい…」

 目の前にある耳を咥える。縁を舌でなぞり音を立てて吸えば、切羽詰まったような声が彼から漏れる。甘利さん。もう一度、今度は意図的に熱を込めて呼べば、彼の手が私の肩を掴み勢いよく引き剥がされた。そのまま強引に押し倒され、足の間に彼の体が入り込んでくる。

「あ、あまりさっ、わあ!」

 彼らしくない乱暴な手付きで脱がされた、いや、剥ぎ取られた下着は、ベッドの下へ投げられた。そのまま勢いよく押し倒され、身体が跳ねる。驚いて名を呼ぼうと開いた口からは、突然中へと入ってきた熱により喘ぎ声しか出なかった。

「ふあ、ああ、あっ!」
「ナマエっ、」
「あまりさ、あっああ!」

 大きな手で太ももを掴まれ、少しだけ腰を持ち上げられる。繋がっているそこが丸見えの状態になってしまい恥ずかしさで顔を背けるけれど、許さないとでも言いたげに奥を突かれ、そのまま壁を抉るように腰が動かされる。

「はげしっ、あ!ひっあ、はああっ!」
「っ、お前が、煽るからだ、ろ!」
「煽ってなんかっ、あっああ、ふあっ!」
「はっ、無自覚?なおさらタチ悪いな…っ」
「ああっ!」

 そこはたぶん、先程指で触られた場所。彼の先端がそこをぐりぐりと刺激をしてきて、苦しい、のに、それ以上に気持ちいい。お腹の中が熱くて、そこから溶けてしまいそうだ。

「やら、あまりしゃ、そこっ」
「はは…呂律回ってないな」
「んぅ、んっはぁ、ふあ、っ!」
「あ、こら。噛むの止めろ」
「っう、あ、」

 彼の視線が恥ずかしくて。固く目をつむり、声を抑えるため指を噛む。痛みを感じていた方が気を紛らわせられる。そう思っていたのに、その手は半ば強引に引き剥がされ、ベッドへと縫い付けられる。

「っあぅ、て、はなして、」
「だーめ。離したらお前、また噛むだろ」
「かまなっ、や、あああっ!やだっふ、あ、」
「…っ、めったに見れないな、ナマエのこんな姿」
「はあっ、は、あ、あっ」

 こっちは恥ずかしさで死にそうなのに、彼はどこか嬉しそうに笑う。この人が時折見せる無邪気な顔が、私はとんでもなく苦手だ。だって、その顔を見た瞬間、壊れてしまうんじゃないかってぐらい胸が高鳴るから。
 ちう、噛んでいた下唇を吸われ不意に開いた隙間から舌が入り込んでくる。粘ついた唾液同士が絡まり、飲みきれなかったものが頬を伝って溢れていった。

「ふ、んっんんん、ふあっ、は、あ、っ」
「ん、ナマエ、こっち向いて」

 普段のような優しい声色で囁かれ、言われるがまま視線を向ける。ぼやけた視界の中、熱のこもった焦げ茶色の瞳が、私を見ていた。

「っ!ひ、あっん、んん、〜っ!」
「っ、ぐ…」

 目が合った瞬間、繋がっているそこから全身に電流が走り、ぎゅうっと丸まった足先がシーツを蹴る。甘利さんの手を力いっぱい握れば、耐えるような彼の声がした。
 力が抜け、浮いていた腰がベッドへと沈み込めば、労わるような手つきで頬を撫でられた。けれど、中にある彼のものは、まだその存在を主張している。

「…ナマエ、」
「は、っあ、は…」
「悪い、もう少し、付き合ってくれ、っ」
「え、っひ!ああ、あっあああ!」

 膝裏へ手が回り、持ち上げられた足が甘利さんの肩へ担がれる。それにより、中のものが、圧迫感さえ感じるほど奥へと押し込まれる。苦しい、だけど、気持ちいい。

「あ、っああ!ひぅっ、はあっ!」
「は…奥まで届くな…気持ちいい?」
「っあ、きもち、い、あまりさ、」

 みっともなく開いた口からは、同じようにみっともない声しか出てこない。涙と唾液と汗と、もろもろで顔はぐちゃぐちゃになっているんだろう。けれどそんなこともう気にしていられない。

「っん、は…なあ、出してもいい?」
「ん、ううっあ、あ!」

 掠れた声で囁かれた言葉に、訳もわからぬまま頷く。私の返事を聞いた甘利さんは、待ってましたと言わんばかりに腰の動きを早くした。
 私はといえば、一瞬置いて彼の発言の意味を理解したけれど、既に遅く。高まっていた体は意思とは関係なく達し、形が分かるぐらい彼のものを締め付けてしまう。

「あ、あっ、〜〜っ!」
「っ、ん…」

 お腹の中に広がる熱と、冷めていく頭の中。ああやっぱり、出すって、そういうこと、

「っあまりさ、なか、」
「は、あ…ナマエの中気持ちいい…」
「ひっ、う…」

 耳元で吐息交じりにそんなこと言うものだから、まだ中にいる熱をさらに感じてしまう。ようやく全て出し終えたのか、ほんの少し奥に押し付けるような動きをしてゆっくり引き抜かれた。そのわずかな動きにも体は反応し、小さく声が漏れてしまう。

「は、っあ…」
「お疲れ様」

 労いの言葉と共に、額に落とされるキス。本当に疲れた。なんていうか、肉体的にもだけど、精神的にも。恥ずかしさで人って死ねるなと本気で思った。
 今更だけれど顔を見られないようにと隣に寝転んだ甘利さんの胸に重たい体を動かし擦り寄れば、やんわり抱き締められる。

「どうした、もう一回する?」
「え、」
「冗談だよ。そんな不安そうな顔するなって」

 いや、今のは冗談じゃなかった。いけそうならって、顔だった。現に腰に回されていた腕がほんの少し不穏な動きをしていたし。あんなに動いてまだする元気があるというのかこの人は。恐ろしい。

「あ、」
「?」
「中、出したから掻き出さないと」

 閉じそうだった瞼が一瞬にして開かれた。その一言で彼の考えていることがわかり慌てて離れようとするけれど、腰に回された腕に阻まれてしまう。背中に冷や汗が伝うのを感じた。

「いっ、いいです!自分でやります!」
「いいから。身体辛いだろ?それに、早くやらないといけないしな」
「それなら最初からっだ、出さなければよかったでしょう!」
「え?だってナマエが中に出してって言うから」
「そんなこと言ってな、っうわ!」
「大人しくしてろよー」

 素早い動きで起き上がった彼にそのまま持ち上げられ、抵抗虚しく浴室へと連れて行かれる。

「あ、まりさ、」

 抱えられる寸前、一瞬だけ見えた彼の瞳が、最中と同じように熱を帯びていたことに気付いてしまった。あの瞳を見ると、自分の意思とは関係無しに身体中が熱を帯びて、浅ましくも彼を求めるただの女に成り下がってしまう。
 冷たい壁に背が触れる。押し付けられた唇と、濡れるそこに這う指の感覚に、腹の奥が喜びで震えるのを感じた。


BACK | HOME