重く湿った空気が漂う。季節のせいというのもあるのかもしれないが、理由は決してそれだけではないと、身体を支配する熱に浮かされながらナマエは思った。

「考え事か?ずいぶん、余裕なんだな、っ」
「っ、!」

 体重をかけ、こつりと骨が当たる場所まで田崎が侵入すれば、ナマエの身体は大げさに跳ねる。そんな情けない姿をさせているのは他でもない目の前の男だというのに、縋るように掴むその腕のいじらしさに、田崎の加虐心はひどく煽られる。

「やだ、あっああぁ、っう、んん、ひあ、はあっ」

 そしてナマエ自身もまた、悪戯に、それでいて愛おしそうに細められる瞳に腹の奥底が疼くのを抑えられずにいた。
 田崎の首へその細腕を回しこれ以上ないくらい密着すれば、応えるようにナマエの背にも腕が回される。それに安心したのもつかの間、田崎は腰の動きを早めナマエを追い詰めていく。

「あ、やだっ、あ、あっああ、あ、!」

 ごつんと音を立てて子宮口へと侵入された事により、ナマエの身体はあっさりと上り詰めてしまう。同時に強くなる締め付けに、田崎も同じように上り詰め、最奥へと欲を吐き出した。

「っ、んん、んっう、」
「っは、あ…」
「ふあ…」

 全て出し切った後も数度押し付ける動きをし、田崎はようやく萎えたものをナマエの中から抜き出した。それにより栓を失ったそこからはごぽりと音を立てるように白濁が溢れ、その感覚にもナマエは声を漏らしてしまう。
 荒い呼吸を整えようと全身をシーツへと投げ出すナマエを、体力の差もあってか心身ともに既に冷静になった田崎が見下ろす。

「ナマエ」
「ふえ…?、っ!」

 そして何を思ったか、情けない返事をするナマエの背へと腕を回し、そのまま半回転、うつ伏せにさせてしまう。突然の事に驚いて振り向こうとするナマエを制するように、未だ力がうまく入らないその腰を持ち上げた。
 そうして完成されたその体勢。自身が今どうなっているのか、いくら行為後で思考回路が普段よりも回らないとはいえナマエも訓練を受けていた人間。瞬時に置かれた状況を理解し、途端に襲い来る羞恥に掠れながらも声を荒げた。

「やっ、こんな格好っ、!」
「なんで?すごくいいと思うけど」

 なにが良いもんかと悪態をついたところで田崎が引き退るような男ではないと充分理解しているナマエは、大人しく屈辱的な格好を維持する他ない。それを田崎もわかっているからこそ、さも当たり前のようにナマエの臀部と腰に手を添え、体勢を崩さないよう行動で命令をする。
 抵抗をしなくなったナマエに満足したらしく、田崎は左手をわざとらしくするすると下ろし、未だひくつくそこへと勢いをつけて指を挿し入れた。

「ひっ、ん!」

 一気に奥まで侵入をしてきたそれに驚き思わず身を引くナマエだが、添えられた手により元の位置へと引き戻されてしまう。そしてそのまま前後に激しく抜き差しすれば、ナマエの身体は再び熱を持ち始める。

「あ、っうあ、はっひあ、あ!」

 中指と人差し指、二本の指を性器に見立て、わざと音を立てるような動きに変える。爪先で痛くない程度に腹側を擦り、出る瞬間に入り口を擦ってやれば、堪らないとばかりにきゅうきゅうと締め付けてくる。

「んあっあ、ああっ!」
「ほらナマエ、溢れてきてる」

 先ほど田崎が吐き出した白濁が抜き差しと共に溢れ落ち、ナマエの腿を伝っていく。それを責めるかのような口調に、知らないですよ!と思いつつも、口から出るのは聞くに堪えない甘い声ばかりで。
 そんなナマエに「仕方ないな」とわざとらしく呆れた声を出しながら、田崎は抜き差しを止め、今度は指先を奥に押し付けるような動きへと変える。

「っん!んんっ、ふ、うっ!」

 田崎の指は男にしては長く、それでいて美しかった。普段はその指先がカードを扱う姿に図らずも心を奪われていたナマエであったが、今回ばかりはそれを恨んだ。そのせいで指だけで奥まで侵入を許し、あまつさえ下りてきた女の部分を弄られる羽目になったのだから。
 せり上がってくる圧迫感と、田崎により教え込まれた快楽が綯い交ぜにナマエを支配する。身体を支えていた腕には既に力が入っておらず、情けなくも目の前の枕へ縋り付くような姿になってしまったのも、田崎のこの行為を助長させる一因となっていた。

「はっ、あ、っあ、ああ…!」
「ナマエ、気持ちいい?」
「んっあ、ああ、や、っあああ」
「嫌、じゃなくて。気持ちいいならきちんと言わないと…な?」

 いきすぎた快楽はもはや地獄となる。以前一度だけその経験をしたナマエは、身をもってそれを理解していた。だからこそ田崎のこの言葉には素直に従わないと大変な目に合うと悟り、震える唇で必死に言葉を紡ぐ。

「んっんんん、あ、き、もち、きもちいっ、です、は、あっ」

 枕ははしたなく溢れた唾液と涙で濡れ、それがさらにナマエの羞恥を高める。その言葉に田崎は満足気に微笑み、ご褒美だと言わんばかりに埋めたままの指を中で好き勝手に暴れさせ始める。

「っふ、あ、っああ、あ、んっ…!」

 奥を突く指はそのままに、臀部に添えられていた手がそこを割り開き、ある場所へと指先が触れた。その感覚にわかりやすく体を跳ねさせたナマエに、田崎は内心笑みを溢す。それが快楽ではなく、驚きだと知っているからだ。

「今度、こっちも使ってみようか?」

 繋がりよりもやや後ろ。普通ならばそんな思考には至らないであろうそこの縁を撫でながら、答えなどわかりきっていながらわざとらしく問う。ナマエはぼやけた頭で言葉の意を理解し、一瞬遅れて身体から血の気が引くのを感じた。

「や、だ、だめ、そんなとこ、」
「駄目?うーん…」

 青い顔で必死に懇願するナマエに田崎は一瞬考えるそぶりをしたものの、すぐに訓練時に見せるような冷たさを含んだ顔へと変わり、添えた指へと力を込める。

「でもそう言ったとき、ナマエの中、締まってたよ」
「っん!」

 同時に止まっていた指の動きも再開され、先ほどよりもやや乱暴に奥を刺激し始める。増した痛みと快楽にナマエの身体はさらに跳ね上がり、その反応がさらに田崎を悦ばせてしまう。

「こっちだって最初は痛がってたけど、徐々に慣れてきただろ?それと同じだよ」
「同じなわけ、なっ、あ、やだ、ああっ、」

 ナマエが反論の言葉を紡ぐ前に、田崎は親指で窄まりをなぞり、あろうことかそのまま指先を差し込んできた。ほんの少し、入り口を引っ掛ける程度の挿入ではあるものの、本来排出しかされないその場所に侵入物があったこと、なにより全てをさらけ出している恋人とはいえそんな所にまで触れられたという事実に、ナマエの身体は恐怖と困惑で悲鳴をあげる。

「やだやだやだっ、たざきさ、やだあっ!」
「ナマエ、さっきも言っただろ」
「っう、やだ、やだあ」

 再び咎める口調で名を呼ばれるけれど、今度は構ってなどいられなかった。ナマエは子供のように必死に拒絶の言葉を発するが、田崎の手は止まらず、まるで自分の行動が間違っていないとでも言いたげな目をしていた。
 そんな田崎の視線をわずかではあるものの背後から感じていたナマエであったが、それでもそんな所という、唯一残された理性が彼女の口から拒絶の言葉を吐き出させていた。

「あ、や、やだっあ、あ、あ、っ…!」

 しかしそんなナマエの意思とは裏腹に、与えられる快楽に身体は上り詰めてしまう。うねる奥まで入る指と、ほんの少し侵入した指先。その両方を締め付け、ナマエの身体は陸に上げられた魚のように跳ね上がった。
 ずるりと指が抜かれ、支えていた手も離される。今度こそ力なくシーツの海に沈んだナマエの身体を、それまでの行為が嘘のように優しい手つきで田崎は自身と向かい合わせにさせた。

「ナマエ」
「っう、ふう、う…」
「ナマエ、泣くな」

 子供をあやすように頬へと添えられた手に、ナマエはほとんど無意識のうちに擦り寄る。震える自身の手をその上へと重ねれば、普段は無機質なほど冷たい指先が、ひどく熱を帯びていることに気がつく。
 ぼやける頭で必死に視線を向ければ、そこには同じように熱を帯びた瞳でこちらを見つめる、先ほどまでとんでもなく歪んだ癖を垣間見せていた男と目が合い、ナマエの背筋に絵も言われぬ感覚が走る。

「たざきさ、ん…」
「ナマエ」

 全部知りたいんだ。最もらしい理由をつけ、吐息交じりそう囁く。ありえない場所を暴かれる恐怖と、恋人に対する甘さ、そして生まれたほんの少しの悦に抗う術など、田崎という男の毒に浮かされたナマエは到底持ち合わせてなどいなかった。


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