※ツイッターにてフォロワーさんのお誕生日という事で差し上げたもの。しかしお誕生日と呼んでいいのかどうかも微妙なネタです。
夢主の誕生日の時期などが少し特定されています。


「ねえねえ、ナマエ」
「なんで、っ!」
「はい、あーんして」

 ナマエを呼ばれ読んでた本から目線を上げた瞬間唐突に口元へ突きつけられたものに、ナマエは何事かと反射的に口を固く結んでしまう。
 それを見た甘利は緊張を和らげるためなのか、それともただ楽しんでいるだけなのか。小さく微笑み「口、開けて」と再び囁く。仕方なくゆっくりと口を開けば遠慮なく差し込まれた物は、つるりと舌に触れ瞬く間に口内へ甘い香りを撒き散らした。

「…枇杷?」
「正解。美味しい?」

 フォークを刺し、改めて一つ差し出される。何故枇杷がここにという疑問と、なんだか子供扱いされているようだと微妙な気持ちを感じつつも、ナマエは素直にそれを受け入れる。

「ん…どうして枇杷なんて買ったんですか?」

 食べやすく一口台に切ってあったおかげで咀嚼にはそこまで苦労はせず。はしたないと思いつつもナマエは口元を押さえながら至極もっともな疑問を口にする。
 すると甘利は、その言葉を待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに答えた。

「ナマエの誕生日。この時期だって言ってただろ」

 その言葉に、ナマエはある記憶が蘇った。
 それは何ヶ月か前のこと。甘ったるい情事の余韻に浸りながら、なんとなしに、互いの誕生日がいつなのか、という話をしたのだ。
 と言いつつも、甘利もナマエも互いにそれが本当だとは信じてはいなかった。違和感のないように口をついて出たものなのだということは分かっていたし、簡単に自身の事を漏らすほど馬鹿ではないことも分かっていた。ただその雰囲気を大切にするためのもの。それだけだった。
 にも関わらず甘利はナマエの言葉を受け入れ、プレゼントだといい決して安くはない季節の果物を購入してきたのだ。

「…それで枇杷ですか」
「そ。美味しいだろ?」

 そんな戯言にも近いものを間に受けるだなんていったいどういう心境の変化だと驚きつつも、美味しい枇杷に罪はないとナマエは最後の一つを受け取る。
 形に残る物は渡せない。かといって花も、枯れるとはいえ一定期間残ってしまい他の機関生に見つかれば何か言われることは避けられないだろう。ならば形の残らない食べ物にしよう、となるのは普通の思考で。そこであえて手料理ではなく果物という物を選ぶあたりが甘利らしいとナマエは思った。
 そして同時に、甘利は誕生日というものを意外と気にしていたのだということにも気が付いた。──互いに何も知らずとも、恋人という立場にいるからこそ何かをしたい。それならば自分達だけの記念日のようなものを作ろう。そしてそれは、捨てるべき時にはただの日付にもできるだろう、と。
 それがあの会話だったのだと、そこから仕組まれていたであろう可愛らしい罠にナマエは思わず笑ってしまう。

「じゃあ次は、苺とか買わないといけませんね」

 証拠隠滅とばかりに食器を洗う甘利へそう告げれば、彼は不思議そうにナマエを見つめた。どうやら自分が示したことについてはあまり覚えていないらしく、ナマエは「もう、」とわざとらしくむくれてみせる。

「だってその頃なんでしょう?甘利さんの誕生日」

 甘利が誕生日としてナマエに示した時期は、冬の寒さを超え柔らかな日差しが届く、あたたかい春の頃だった。それを聞いた時ナマエは、彼らしい時期だなと妙に納得をしたのだ。
 三月は苺が美味しい時期だ。それに柑橘類も。きっとケーキにしたらどれもとても美味しいのだろう。
 知識の中、思い付く限りの果物をあげていく。たとえ仮初めの誕生日でも考えただけでこんなに楽しめるのなら、一つの余興としては面白いかもしれない。ナマエは思ったよりも自身がこのイベントを楽しんでいることに驚きつつも、これぐらいは許してほしいと浮かんだ上司の顔に心の中で謝罪をする。
 そんなナマエを見つめ、甘利もまた「楽しみにしてる」と嬉しそうに笑うのだった。


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