「ナマエさん、起きてください」

 頬を軽く叩かれる感覚と淡々とした声に名を呼ばれ、ナマエの意識はゆっくり浮上していく。ぼやける視界の中にようやく見えたのは、珍しくほのかに汗をかいている実井の姿だった。

「ふ、あ…?」
「ふあ、じゃないですよまったく…簡単に意識飛ばしすぎです」

 呆れたように言う実井に、ナマエは徐々に現在の状況を思い出し始める。
 ──その日は数日に一度行われる、とある薬の訓練日だった。協會にて行われる訓練は通常、薬を打たれる当人と尋問役、そして介護役の三人で行われ、そのうちの介護役はもっぱらナマエが担当となることが多かった。
 というのも、そもそも介護役というのは存在しておらず、訓練で疲れ切った身体をせめて女性に癒してほしいという、なんとも煩悩にまみれた提案を神永がしたことが始まりだった。もちろん癒しといっても決して性的なことではないとはいえ、疲れ切っているところを野郎に介護されては癒しもクソもないなどという、男としてはある意味至極もっともな意見は機関生全員の同意を得、さらには結城の「好きにしろ」という言葉のいただいたため、ナマエは望んでもいない介護役を任されることになったというわけだ。
 しかしそんな介護役にも一つ、投与後は当人に近寄るなと結城直々に警告されている訓練があった。そこで使用される薬は自白剤などの抵抗力を無くすものとは違い、打たれた当人の興奮を促す、極端に言ってしまえば──媚薬のようなものだ。
 自白剤のように力が入らない、もしくは獣のように暴れてしまうのならナマエ一人でもまだ対処はできたものの、そこに性的なものが混じってしまうとなれば話は別で。分別のつかない人間に襲われ最悪の事態になってしまっては元も子もないと、この時ばかりはナマエも決して彼らには近づかないようにしていた、のだが。

「あっ、は、あ…っんん、あ、うっ」

 ナマエもいくら訓練を受けていたとはいえ、現役であり、なおかつ純粋な力勝る男が相手となってしまっては、もはやされるがままとなるしかなかった。
 普段鍵をかけている寝室に実井が侵入したことに気づけなかった自身の落ち度もあるが、なによりも実井に、八人の中では一番薬の効きにくいとはいえ恐ろしいほどの量を盛っていたことをどうして教えてくれなかったのだと、ある意味責任転換も甚だしい文句を頭の中で上司に訴えるも時はすでに遅く。ナマエの身体は目の前の男にとうの昔に押し倒され、さらには気を失うまで暴かれてしまっていたというわけだ。

「これぐらいでへばらないでくださいよ」
「これぐらいって、も、何回目だと、」
「さあ…おそらく六回目、ですかね」

 さらりと言ってのける姿に若干の恐怖を覚えたナマエであったが、こうなってしまっている以上目の前の男が飽きない限りは解放されることはないのだと、どこか諦めにも似た気持ちを持っているのは確かであった。
 というのも、まったく普段通りのように振舞っているとはいえあの実井がはっきりと行為の数を覚えていない辺り、やはり薬はしっかりと効いているのだと嫌でも理解してしまったからだ。それに加え抜かずに六回ともなれば、もはや体力的にも諦めてしまうのは仕方のないことだと言える。

「んっんん、ん…あっ、はあ…あ、」

 出しすぎて若干かすれてしまってはいるものの止めることのできない声に、こんな状態になってもまだまだ身体は熱を欲しているのかと、ナマエは自嘲にも似た薄笑いを浮かべる。先ほど実井のあげた回数は間違っておらず、たしかに六回、彼は達していた。
 しかしそれは実井に限った話であり、ナマエにとってはそれにあと三回は足しておいて間違いはないだろう。いくら平均よりも体力があるとはいえそこに終わりの見えない快楽というものが加わるとなれば、いくらナマエであろうと笑う以外の選択肢が見当たらなかった。

「はっ…なに、笑ってるんですか」

 ゆっくりと動かしていた腰を止めた実井は、その大きな瞳を細めナマエを見下ろす。温度がないように見える黒はその実燃えるように揺らめいていて。ナマエの正常な思考をじりじりと焼き尽くしていく。

「ん、あっ、あ…」
「教えてくださいよ、なんで笑ってたんです、か」
「ひっ…んあっ、はあ、あっああ、」

 少しでも冷静になったら終わってしまうような気がして。ナマエは快楽に溺れ実井の声が届いていないふりをした。
 けれどそんなわずかな抵抗はあっさりと見破られ。実井はわざとらしく卑猥な音を立てて中を擦り、聴覚からもナマエの身体を支配していく。

「あ、はっあ、っあ!?」
「っ、あー…は、」

 突然、それまでとは明らかに質の違う快感がナマエの身体を襲った。途端に変わる声色に実井は彼女の身体になにが起きたか気づいたらしく、「ああ、」と合点がいったような声を漏らす。
 押し付けるような、とんとんとまるで扉をノックするかのように動かされる腰にむずむずとした感覚が生まれる。直接的なものではなく、背筋をなにかが勢いよく這い上がってくるような、そんな感覚。

「や、あ、はあ、あ、ああっ」
「子宮口、下りてきてるみたいだから当たってますね」
「ふ、あ、あっ、ああ」
「ここ、刺激し続けるとすごく気持ちいい場所らしいですよ。せっかくだし今度はここに出しましょうか」

 実井はナマエの腰を掴むと下半身を密着させ、より一層押し付けるように動き出す。少しの圧迫感と追い詰められるような快楽がじわじわと広がり、ナマエは呼吸さえままならなくなってくる。ただでさえすでに片手では足りないほど果てを経験してしまっているのだから、当然といえば当然であった。

「あ、んっ!ひぁ、あ、実井さ、やらっ、やらぁ!」
「ふふ、大丈夫ですよ」

 顔に似合わない低音が、真っ赤に染まるナマエの耳元で優しく囁く。かぷ、ちう。熱い舌が縁を這い、唾液の音が鼓膜を震わせ、さらに彼女の羞恥を煽る。
 いくら経験が人より豊富とはいえそこまで暴かせたことがなかったナマエにとって、自身でも理解の到達していない場所を他人によって暴かれることは、もはや恐怖に近かった。それを実井もわかっているからこそあえて半ば無理やり侵入をしているのだ。
 目の前のナマエという女の、誰も知らない場所を知りたいという奥底にしまい込んだ小さな欲望に、ほんの一時身を任せ。

「ひっい、うあっ!やだっ、も、」
「っ、ん…」
「あ、あっああぁ、っ!」

 達する寸前、実井は抵抗するように自身の胸元を押していたナマエの手を取り、絡めてシーツへと縫い付けた。体格の割に大きな手はすっぽりとナマエの手を覆い、まるで不安を取り除くかのように強く握りしめていた。ほぼ無意識のうちに、すがるようにナマエもその手を握り返す。
 いまだ奥底で吐き出される精液の熱に身体は震え、腹の中は歓喜にも似た気持ちで満たされていく。

「っひぅ、は、あ…、」

 何時間ぶりだろうか。ようやく中から抜け出た熱に、ナマエは安堵の息を吐いた。受け止めきれず溢れた液体が内ももを汚す感覚も今は気にならず、力の入らない身体をベッドへと投げ出す以外なにもできなかった。
 そんなナマエを、およそ青ざめるほどの行為数を終えたとは微塵も思わせない顔で実井は見下ろす。そしてなにを思ったのか、指先をナマエの内ももへと這わせ、溢れたそれを掬いながら中へと押し戻した。
 予想もしていなかったその行動に、ナマエは驚きで痛む身体も厭わず実井の腕を掴む。

「やっ、なに、して、」
「もったいないなと思ったので」
「なに言って、あっ…や、んんんっ、なか、戻さな、っ」
「駄目ですよ、きちんと入れておかないと」

 擦り付けるように指を動かし壁を刺激する。力の入らない身体ではそれを止めることは叶わず、ナマエの中は素直に指を締め付けてしまう。
 実井が吐き出したものに加え、掻き回されたことにより次々と溢れ出る愛液が精液と混じりながらこぽりと溢れる。それを見た実井はそのままナマエの膝裏に手を添え、閉じかけていた足を大きく開かせた。

「また溢さないように、蓋をしておきましょうか」
「っ!」

 ばちゅん、と激しい音を立てて実井は再び中へと侵入をする。突然勢いよく奥を刺激され、ナマエは声を出す間もなくもう何度目ともわからない頂点へ達してしまう。

「あっ、あ!うあっあ!んん、あっ!」
「はっ…ねえ、ナマエさん」

 上体を倒し、ぐっと顔を近づける。涙やら唾液やらで文字どおりぐちゃぐちゃになっているナマエの唇に自身のそれを重ね、まるで落ち着けと言わんばかりに軽い口づけを何度も落としていく。最後に唇をひと舐めし、鼻先が触れる程度離れ、言い聞かせるような口調で実井は言った。

「今度は溢さないで、しっかり受け止めてくださいね」

 普段の人当たりの良い笑顔は、ナマエにとってもはや悪魔のそれにしか見えなかった。反論しようにも口を開いた瞬間奥を突かれ、言葉を紡ぐことさえままならなくなってしまう。
薬の効果はとうに切れているはずなのに、中で蠢くものはなぜいまだに熱を
 持っているのかといくら考えようとも、ナマエがこの状況から抜け出せることは決してなく。自身の中で果てなく暴れる熱を、言葉どおりただ受け止めることしかできなかった。


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