田崎さんは、綺麗という言葉がとても似合う人だ。簡単に分類してしまえば三好さんや実井さんも当てはまるのだけれど、田崎さんのそれはまた違ったものだと思う。何というか、男らしさの中の綺麗さ、というか。
 惚れた贔屓目と言われてしまえばそれまでなのかもしれない。それでもやっぱり、彼は綺麗だと自信を持って言える。あの切れ長の目とか、薄い唇とか、白い肌とか、細くて綺麗な指とか。挙げればきりが無い。流石に恥ずかしくて本人には言えないけれど、彼を見る度そう思うのだ。

「んん…」

 だからその綺麗な顔がこんな間近にあると、照れるのは当たり前の事で。ましてや酷く優しく触れてくるものだから、それだけで脳が蕩けてしまいそうになる。

「っは、んう」

 舌を絡めるだとか、息をつく暇もないだとか、そんな激しいものではないのに、何故だか息が苦しくなって、更には胸まで苦しくなる。小さな音を立てて何度も何度も触れ合う唇に、全てが奪われていくような感覚さえする。

「ふあ、はっ、う、」
「はぁ…ん、」
「っん!」

 薄い唇からのぞいた舌にぺろりと舐められ、思わず肩が跳ねる。その反応が面白かったのか、田崎さんが小さく笑ったのが分かった。
 後頭部と腰に回された腕は動く事を許してくれない。ただただ押し付けられる唇に、いよいよまともな思考が出来なくなってくる。縋る様に力を込めた手は、彼のワイシャツに皺を作っていた。

「ん、」
「っん、は、あ…はあ、は…」

 どれ程そうしていたのだろうか。漸く離された唇から、荒い呼吸が漏れる。けれど田崎さんはそんな素振りなんて見せず、それどころか優しく頭を撫でてくるものだから、その差に何だか悔しくなってしまう。
 未だ鼻先が触れ合うぐらいの距離にいる彼を見る。そこでふと、その唇が少し赤くなっていることに気付いた。しまった、そういえば今日は赤い口紅を付けていたんだ。

「すいません田崎さん、口紅が…」
「ん?ああ…」

 私の言葉の意味が分かったのか、田崎さんは自分の唇をゆっくりなぞった。それはまるで女性が紅を引く時のような仕草で。彼は男性なのに、見とれてしまうぐらい様になっていた。白い肌に薄っすらとのった赤が酷く官能的で、意図せず唾を飲み込んでしまう。

「っあ、す、すみません、今拭くものを…」

 その考えを振り払うように彼から目線を逸らし、ポケットの中へ入れていたハンカチを取り出そうとする。けれど、それを遮る形で大きな手が重ねられた。
 ナマエ。名前を呼ばれ視線を上げた瞬間、まるで小鳥がついばむ様な小さなキスをされる。あまりにも突然の事で、目を瞑る暇さえなかった。呆然とする私を見て、田崎さんはあの人当たりの良い顔で微笑む。けれどそこにどこかいやらしさが含まれているのは、きっと気のせいではない。自らの唇に触れながら、低く、吐息交じりに囁く。

「移っちゃったな」

 好青年だなんて、一体誰が言い出したんだか。私がその表情にめっぽう弱い事を、この人は知っている。知っていて、敢えて目の前で笑うのだ。
 彼の瞳に映る私は、みっともなく蕩けた顔をしている。強請る様にワイシャツに再びシワを作れば、彼の目が嬉しそうに細められた。


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