肌寒さに目が覚めた田崎は視界に入った見慣れぬ風景に、意識がなくなる直前のことをぼんやりと思い出し始めた。
 ──雑務に追われていた恋人を何度も誘いようやく外へ連れ出し、以前見つけた雰囲気の良いバーで何気ない会話を楽しんで。もう帰るかと最後にトイレに立ったその隙に愛しの恋人がどこぞの男に声をかけられている姿を見てしまい。早々に支払いを済ませほとんど衝動のまま円宿へと連れ込んでいたのだ。
 その先は想像に容易い。華奢な身体をあっさり組み敷いて、有無を言わさぬまま口付けて。ボタンを引きちぎるような勢いで服を脱がし素肌に触れ、壊さんばかりに繋がった。
 まるで子供のような性急さだとようやく覚醒してきた頭で、自身の行動にやや遅すぎる後悔のため息をついた。しかし同時に、久方ぶりに触れられた柔らかさに心が温まったのも事実で。これが幸せというのだろうかと柄にもなく思いながら、自身の胸元でわずかな呼吸音さえも立てぬほど静かに眠るナマエへと視線を向けた。
 長く黒い睫毛は伏せられ、薄く開いた唇から覗く舌は同じくらい紅い。横を向いて寝ているため寄せられた胸元は、シーツによって絶妙にその姿を隠していた。
 その姿を見て、田崎はふと思う。普段からあまり隙を見せないナマエであったが、それは情事の最中においても同じであった。声を出して欲しいと言っても頑なに唇を噛み締め声を殺し、達したくないと限界まで耐えようとする。いくら身体を繋げても根底までは曝さないようにとする姿はスパイとしては優秀なものだが、恋人としては面白くないもので。
 人間とは欲の尽きない生き物である。無防備に寝る姿を晒してくれているという点でもだいぶ進歩したと言えるのだが、すっかりそれ以上を求めるようになっていて。もっと無防備な姿を、直接的に言えば恥を捨て全てを曝け出して欲しいと、邪な考えを田崎は常日頃から持っていた。
 そして今こそが、その欲を満たす時ではないか。田崎が起きたことにも気がつかず未だ眠っている様子を見る限り、雑務に追われていた疲れがナマエを深い眠りに落としているのは確実で。ならばこれを逃す手はないと、悪魔の囁きが田崎の脳内を天使が出る間も無く埋め尽くした。
 それからの彼は早かった。少しも躊躇することなく布団を剥ぎ取り、ナマエを仰向けにさせるとそのまま大きく足を開かせる。下着を身につけず寝たためあっさりと眼前に曝け出されたそこをぐっと親指で割り開き、唾液を含ませた舌で舐め上げれば、ナマエの体はぴくりと跳ねた。

「ん…」

 起きる気配はない。ここまでされておいて起きないのはスパイとして如何なものかと思うが、それほどまでに心を許してくれていると考えればそれはそれで気分が良い。なによりこの状況ならば、少しの間起きないでいてくれた方がありがたい。
 今度は迷うことなく、溢れた蜜を掬うように舐め上げ同時に入り口の上にある小さな突起もこねてやれば、顔の横に立てられた膝がシーツを蹴り始めた。

「は、あ…んんっ…」
「ん…」
「ふ、あっ、はぁっあ」

 声を殺すことなく素直に反応するナマエの様子に気を良くした田崎は、さらに行動を大胆なものへと変えていく。
 柔らかな太ももに手を添え、膝がナマエの胸につきそうなぐらいまで持ち上げる。自然と浮き上がる腰と露わになる濡れたそこに尖らせた舌を差し込み内壁をえぐるように奥へと進んでいけば、視界の端で小さな足先がきゅうと丸くなるのが見えた。

「は、あ、ああっ♡あ、あっあぁあ…!」

 荒い呼吸と共にナマエの細い腰が大きく跳ねると、それを追いかけるように蜜がごぽりと溢れ出た。達するのが普段より早いのは無意識下の抵抗がないからだろうと、興奮しつつもどこか冷静に田崎は分析をする。
 口内を満たす液体を味わうように音を立てて飲み干せば、そんなはずはないのにひどく甘く感じた。
 さすがに起きたか?ナマエの反応や行為の大胆さにそう思いそこから顔を上げた田崎の目に入ってきたのは、息を荒くしつつも未だ瞳を閉じるナマエの姿であった。さすがにこれでも起きないとなると、これはもう一種の才能なのではと妙な関心さえ生まれる。
 好機とばかりに田崎は力の抜けたナマエの身体を起こさぬようゆっくりシーツへと沈め、再び大きく足を開かせた。陽に晒されず白く柔い内ももを指先でなぞりながら、余韻からだろう物欲しげにひくつくそこを割り開き避妊具を被せていない性器をぴたりと押し当てた。

「ふ、あ…♡」
「はは、ぐっすりだな、っん…」

 押し当てた先端を埋め込めば、途端に脊髄を駆け上がる快感に田崎は熱く息を吐く。普段はなかなかできない避妊具無しでの行為はここまで気持ちの良いものだったかと、思わず漏れそうになる声をなんとか堪える。
 歯を食いしばりながらゆっくりと腰を進めていけば、こつんと先端に骨が当たる感覚がし、ようやく全て入ったのだと安堵にも似た気持ちが生まれた。
 上半身を倒し、小さく寝息を立てるナマエへと顔を近づける。薄く開く唇をぺろりとひと舐めし、細い腰に手を添え一気に突き上げた。

「あっ、は、ああ…!」

 びくん!と大きく跳ねた腰を咄嗟に押さえつけ、そのまま律動を始める。うねる壁を抉りながら、記憶の中にあるナマエの反応が良いところを刺激してやれば、抑えられぬ声は室内に甘く響く。

「っ、あ、あ、は、あっあ!」

 意識のない人間相手に行為をする趣味はなかった。ましてやナマエは恋人なのだ。やはりあの熱のこもった瞳で見つめられ、声を抑えながらも恥ずかしそうにねだられるのが一番いい。
 だが、しかし。こうして声を抑えることなく素直に反応を示している姿も、たまになら良いのかもしれない。
 クセになりそうだと、ナマエにとってよからぬ思考を頭の片隅で巡らせつつ田崎は最奥を突いていく。

「ひっう、あ、あっ、あぁあ、あんっ!」
「っ、うぁ…」

 一度入り口付近まで抜いた性器を、ごつんと音がするぐらい勢いよく突き入れる。するとついに刺激に耐え切れなかったらしく、背中を反らし声を上げながらナマエは達してしまう。その強い締め付けに耐え切れず、田崎も小さく声を漏らしながら中へと精を吐き出した。
 息を荒くしながらも、溢れる熱を奥へと擦り付けることは忘れない。未だ先端から出ている精をそこへ押し付けていると「ん、む…?」と妙なうめき声を上げながら、ようやくナマエが目を覚ました。まるで狙ったかのようなタイミングで起きたことに逆に感心しながらも、普段とは違った姿を見せてもらえたことに上機嫌な田崎は寝起きでぼんやりとしている恋人に満面の笑みを浮かべる。

「あ、え…?」
「ん、おはようナマエ」
「あ、お、はよう、ございます…?」

 覚醒のしていない頭で目の前の状況を必死に理解しようとしているらしく、瞬きを何度も繰り返す姿はまるで子供のようだった。
 仕方がない、とばかりに田崎はため息をつき、未だ繋がるそこを刺激するようにゆっくり腰を動かす。
 あ、うわずった声を上げ、驚いた様子で己の下半身へと視線を向けたナマエは、そこでようやく自身の置かれた状態と状態を理解したらしく困惑の混じった顔で田崎を見た。

「た、ざきさ…なに、して…」
「ぐっすり寝てたから、つい」

 つい、では済まされない。信じられないといった雰囲気を一気に醸し出すナマエなど気にしていない様子の田崎は、熱を吐き出しすっかり萎えた性器を引き抜いた。
 そしてなにを思ったのか、混乱で未だ固まるナマエの肩を掴みうつ伏せに押し倒すと、腰を持ち上げさせ自身の精が溢れるそこへ再び性器を押し当てる。

「な、なにっ、あ!」

 慌てて振り向いたナマエが静止の声をかける前に、腰を掴んで侵入を果たす。
 普段ならばもう少し体力は残っていたかもしれない。しかし眠りにつく前すに行われた数回の行為に加え寝ている間の一回は、ナマエの身体に確実にダメージを残していた。シーツをつかむ手には全く力がこもっていない。

「う、んん、ひっあ、ん!」
「あ、こら逃げるな」

 無意識のうちに逃げようとするナマエの腰を、田崎はまるで子供でも叱るような口調で抱えなおす。無慈悲にも引き寄せられたことで再び奥を突かれたナマエの腕にはすでに力が入っておらず、情けなくもシーツへと顔を埋めてしまう。それでもなんとか抗おうとする姿を見て妙に加虐心が煽られてしまうのは、好いた相手がいる男としては仕方のないことだとまるで言い訳のように田崎は思った。
 らしくもなく欲望に忠実に、小さな身体を覆い隠すように被さる。片手は腹の前に回しもう片手は淡く色づきその存在を主張する突起へと添え先端へほんの少し爪を立ててやる。するとナマエの体は面白いぐらいに反応を示してくれるものだから、面白くなった田崎はさらにその指腹で圧し潰すようにこね回す。

「も、あっ…ひう、んぐっあ、はあっうう、ん、」

 苦しげに声を漏らし耐えるナマエであったが、限界を超えてしまっているのは一目瞭然だった。

「ね、また出していい…?」

 そう問えばびくりと肩を跳ねさせ、すっかり涙でぐちゃぐちゃになった顔で振り返る。それは少しの絶望と、沢山の期待を含んでいるように見えた。

「やら、も、っ、おなかいっぱいに、なっちゃ、」

 力なく頭を振り嫌だと意味のない抵抗をする様はひどく淫猥だ。腹を空かせた獣はこんな気分なのだろうと、湧き上がる高揚感に田崎は思わず舌舐めずりをする。

「いっぱいにしてあげる」

 わざとらしく熱を含み、赤く染まった耳許でそう囁く。舌を尖らせ音を立てながら穴へと差し込めば、抗うようにシーツを掴む手に力が込められる。
 脈打つそれで何度も奥を穿ち、時折溢れ出る液を押し込むように腰を動かせば、ナマエはもはや悲鳴に近い喘ぎ声を室内に響かせた。声だけならば悲痛な泣き声にも聞こえるだろう。まあ、ある意味で鳴き声ではあるのだが。

「ひっあ、っああ、んんっ…!」
「いっぱいになったら、はあ…っ、子供ができるかも、な…っ」

 それも良いかもしれないな。笑い混じりにそう呟けば、中の締め付けはよりいっそう強くなる。自分でもわかったのだろう、元々赤かった顔はさらに真っ赤になった。

「っはは…今想像しただろ、ここに出されるの、」
「やらっ、あっあ♡ああぁ…っあ、は、あ♡あっあ、ああっあ…!」

 ここ、とノックをするように奥を叩けば、漏れる声はさらに悲鳴へと変わる。
 シーツを掴む手に自身の手を重ね、ますます逃げられない状態へと追い詰めていく。汗ばむうなじへ舌を這わせればわずかに塩の味がした。

「あっ、らめ、そんなとこ入らなっ、あっああ、あああっあ、あ…!」

 閉じられたそこをこじ開けるように先端を押し付け奥を犯した途端、耐えきれずナマエは達してしまう。種を搾り取ろうと蠢めく中に耐えようとしたものの、結局田崎も誘われるまま精を吐き出してしまった。

「っひ、あ、あっぁあ、」

 じわじわと中を満たす熱に未だ声を漏らす。強すぎる快感の波はなかなか引かないらしく何度も腰を跳ねさせ全てを受け止める様子を、田崎は徐々に冷静になりつつある頭で見つめていた。

「ん…うっ、んんん…っ♡」

 引き抜けば、栓を失ったそこからごぽりと重たく溢れ出す。音を立てて力なくベットへ沈み込んだナマエは呼吸を整えようと必死に息を吸い込んでいく。

「ナマエ」

 名を呼ばれ、未だ焦点の合わぬ瞳をなんとか田崎へと向け「なんですか」とかすれ声で返事をすると同時に、腕を掴まれ身体を反転させられた。
 今度は背中からベットへ沈み込む。ようやくまともになってきた頭で何事かと考えていれば、しっとりと汗ばむ手が腰に添えられた。

「え、っあ…!?」

 まさか。ようやく田崎の行動の意図を理解したナマエは、慌てて止めようとするも一歩遅く。再び侵入を果たした熱に奥を突き上げられ、見開かれた瞳から涙がこぼれた。

「あっ!たざ、きさ、なんでっ」
「ん、ごめんもう少し…っ」
「らめっうごいちゃ、っひ、あ!んぁっあ!やっ、またきちゃっ、きちゃうからあっ…♡」
「いいよ…もう一回、」

 長い行為と立て続けに達したことで敏感になっているナマエの身体は簡単に次の果てへと向かってしまう。
 終わりのない快感は恐ろしい。それを以前の薬物投与の講義で知っていた田崎は、安心させるためなのかナマエの頬に手を添え涙を拭ってやる。

「うっ、ううんっふ、うっあ、は、あっ」
「ほら、泣くなって。もう少しだから」

 それでも嫌だとかぶりを振るナマエの目尻に唇を落とし、シーツと背中の隙間に手を差し込む。そのまま抱き寄せ隙間なく密着すると、田崎の背にも細い腕が回された。

「あ、っんああ、はぁっあああ…!」
「っ、あ…、」

 もう何度もかもわからない果てに、ついにナマエは気を失ってしまう。さすがに疲れたのだろう、田崎はらしくもなく大きく呼吸を乱しながら、同じようにベッドへと沈み込んだ。
 先ほどまでの喧騒が嘘のように静まりかえった室内には、死んだように瞳を閉じるナマエのわずかな呼吸音だけが響いていた。
 涙の跡が残る頬を指の背で優しく撫でれば、くすぐったいのか小さく身をよじる。力なく投げ出された腕を取り自身の胸元へ引き寄せ、壊れんばかりの力で優しく抱き締めた。

「…さっきの言葉、本当だって言ったら……どうする?」

 細い髪に顔を埋めながら、期待するように、けれどどこか諦めたように囁かれた言葉は、静かな部屋に煙のごとく消えてしまう。らしくないなと眉間にしわを寄せ、田崎は手繰り寄せたシーツでナマエごと包み込むように丸まり、静かに瞳を閉じた。
 自身の言葉にナマエの肩が小さく跳ねたことには、気が付かないふりをして。


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