「女性に花を贈るときは、きちんと意味も添えて」

 色とりどり並ぶ花たちを見つめながら話す田崎さんはどこか楽しげで。そんな講義、私には必要ありませんよ、なんて心の中で悪態をつく。
 現機関員は皆、ジゴロによる女の口説き方なんてものを学んでいるけれど、その方法はやはり個々の癖が出るのか様々だ。たとえば、神永さんはストレートに話術で攻めるし、甘利さんは気遣いやさりげない仕草で攻める。田崎さんは、なんというか、天然気質。いや、それも計算されたものなのだけれど、彼の爽やかさや知的な雰囲気が、どれだけ甘い台詞でも違和感なく相手の胸の内に入ってくるのだ。それに落ちてしまう女性はとても多いと思う。現に私がその一人だし。
 ありがとうございました。店員の声を背に店を出る。ようやく出来上がった大きな花束は、鮮やかな赤一色で。あまり見かけないものだったから、彼がどんな意味を込めてその花を選んだのかは分からない。

「綺麗ですね」
「ああ。アネモネっていうんだよ」
「アネ、モネ…?」
「こっちだと牡丹一華…花一華ともいうかな」
「へえ…ちなみに、どんな意味があるんですか?」

 きちんと意味も添えて。さっき彼はそう言った。ならばその花束にも何かしら意味が隠されているのだろう。誰に送るのかは知らないけれど、せめて意味だけは知りたい。
 私の問いに少し考える素振りをした後、何かを思いついたように彼は意地悪く笑った。

「それは自分で考えてもらわないとな」

そう言って、田崎さんはその大きな花束をこちらへ差し出してきた。目の前に赤が広がり、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。

「え…」
「大切にしてくれよ」

 驚いて彼を見上げるけれど、どうやら答えを教えてはくれなさそうだ。
帰ったら急いで調べなくては。花言葉の本なんて持っていたかしら。結城さんならもしかしたら知っているかもしれないけど、人に聞いて知るのは何だかいけない気がする。
 だって、普段静かな田崎さんが、あんな熱い視線を向けてくれたんだから。私も誠意を持って、込められた意味と、この気持ちと向き合わなきゃ、失礼な気がするから。


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