ちゅぽんっと音を立てて引き抜かれた指に身体を震わせ、熱い息を吐く。中で散々暴れ回り未だ挿入に至ってもいないというのに身体をくたくたにさせたものを恨めしく思うべきなのか、夏油傑という人間の優しさと思うべきなのか。
 もはやこの際どちらでも構わないが、ナマエはとにもかくにも、早く先に進んでこの快感の沼から引き上げてほしかった。

「夏油さ、もういいです、から…っ」

 だからこそ、今、目の前でこの沼に引き摺り落とした張本人でもある夏油にそう懇願をしたのだ。
 けれどナマエが初めてということ、なおかつ体格差がそれなりにあるという事からなのだろうか。夏油は、もはや何度達したのか、ナマエ自身が数えるのも困難になるほど彼女の身体を丹念に解していた。

「ん…でもまだちゃんと慣らさないと、痛いと思うけど…」
「や、も、充分ですよぉ…」
「うーん…」

 ふにゃふにゃと半ば泣きそうな声と顔のナマエに、僅かに動かしていた手を止める。
 たしかに、夏油としても早くナマエの中に入りたいという気持ちはある。けれど困ったことに、自身の動き一つでされるがままの無垢な身体を暴いていくのが楽しくなってしまったというのも、また事実なわけで。
 とはいえ最初はこの行為に多少の恐怖感を持っていたナマエ本人からそろそろ良いのではというお達しがきた、もといお強請りをされてしまったのなら、優しくすると言った手前答えないわけにはいかない。

「……でもやっぱり心配だから、もう一回だけね」
「や、っあ!♡夏油さ、あっ♡だめ、やだ♡やだぁっ!♡」
「これが最後だから。ほら、頑張って」
「っあ♡ひ、ぁ♡も、離してっだめ、だめ…っ!」

 けれどまあ、せめてもう一度いかせるくらいは許されるだろう。それっぽい理由をつけ、再び指を挿入し濡れた音をさせながら動かす。二本の指がざらざらと引っかかる部分を強く擦り、親指が皮の剥けた突起を押し潰しす。
 ぞくぞくぞくっと背筋に痺れが走ったと思ったら、ナマエの身体は叫びのような甘い声と共に大きく跳ね、潮を吹き出していた。

「あっ、はあ、はっ、はぁ…っ♡」

 肩で息をするナマエの頭を撫でこめかみに唇を落とすと、柔く締め付ける中から引き抜く。何度も達した身体はその些細な刺激にも震え、甘い声を漏らした。

「よしよし。よく頑張ったね」

 金属音と共にベルトが外され、窮屈そうにテントを張る下着が現れる。その中心は先走りで濡れて、早く外に出してくれと訴えているようで。釘付けになるナマエの視線で射抜かれそうだった。
 ごくり、と堪らぬ様子で上下に動く細い首に夏油は小さく笑みを溢し、わざとゆっくりと焦らしながら下着を下ろしていく。少し引っ掛けながらもようやくすべてを下ろし切れば、大きく上を向いた熱が、べちんっと元気よく夏油の腹筋を叩いた。
 そうして眼前に現れた性器は、ようやく繋がれると浮足立っていたナマエの脳内を、一気に正常な状態へと戻してしまう。

「今ゴム付けるから、ちょっと待って……ナマエ?」
「っ、き…」
「き?」
「規格外すぎません…!?」

 引いていく熱の代わりに込み上げてきたのは、生物としての本能的な恐怖だった。これに貫かれたら、確実におかしくなる、と。
 脳内でけたたましく鳴る警報に思わず後ずさるも、既に腑抜けた身体で大した動きは出来ず。それどころか逃げると察した夏油は、素早い動きでシーツを蹴る足首を掴みナマエを自らの元へ引き戻した。

「布団から落ちるよ…それよりもナマエ。規格外って言ってたけど、君、他の男の見たことあるの?」
「や、それはない、ですけど…」

 先程までの優しげな声とは打って変わり、地を這うような怒りを含んだ声が響く。何やらとんでもない勘違いをしていることに気づいたナマエは、慌てて訂正をする。
 というよりも、ナマエに経験がないのは誰よりも夏油が知っているはずだ。育ての親でもある五条に引き取られたのが七歳の頃。そして夏油と知り合ったのもちょうどその時で、それ以来ナマエの心は他の誰でもない、夏油だけのものなのだ。
 たしかにこうなるまでに紆余曲折はあったものの、その間誰かにナマエが身体を許したことなど一切ない。

 それは夏油も理解しているのだろう。ただ思わず出てしまった、そんな様子だった。
 ナマエの否定にようやく少し冷静になった夏油は、代わりに別のことに気が付いたらしく。人当たりの良い笑顔をぱっと浮かべると、ナマエとの距離を一気に詰め、楽しげな瞳で彼女を見つめる。

「…ああ、じゃあ想像してたんだ。私のが、どれくらいの大きさかって」

 あまりに恥じらいも何もない物言いは、逆に自分がおかしいのではと思わせるぐらい堂々としたもので。
 しかしその指摘は紛れもない事実で、だからこそナマエは全身から湧き上がる羞恥心に押し潰されそうだった。

「そ、んなこと、っ」
「嘘付かないの。……ねえ、教えて?」

 少しだけ深爪気味の指先が、ナマエの鳩尾に触れる。びくりと跳ねた身体は、追い詰められたという恐怖に対する本能なのか、それとも別のものなのか。
 かっと熱くなる顔に思わず唇を噛み締めるも、早く言え、と促すように指先が動き出す。

「あ、げ、夏油さ…っ」

 ゆっくりと、時折柔らかな肌を堪能するように、するすると下りていく。その度びくびくと嬉しそうに跳ねる身体がなんとも憎らしい。

「私のものは、どれくらいの大きさで君の中に入っていたのかな」

 そうしてちょうど臍の下辺り。ぴたりと止まったその指先が、柔らかな肌にぐっと沈み込んだ。

「っは、ぁ、あ♡あ…っ!?♡」

 その瞬間、それを待っていたと言わんばかりに身体中が切なく疼き始める。子宮から広がった快感は瞬く間にナマエの全身を駆け巡り、中を乱暴に掻き乱した指の、あの感覚を思い出させる。

「ほら、ナマエ」

 ただ一点を撫でている。言ってしまえば、たったそれだけのことなのに。目の前に広がる単純な光景と全身を犯す複雑な感覚。ちぐはぐな両者に困惑するナマエの様子を、夏油はただ見つめているだけだった。

「あ、う…こ、ここ…?っ♡」

 秘部とへその穴からちょうど半分辺りを、震える指先で指し示しす。
 恋人の性器の大きさを勝手に想像し、あまつさえそれを本人に伝えなければいけない、とは。何というとんでもない羞恥プレイだろうか。
 口にしたことでさらに増した羞恥心のせいなのか。自分で軽く押した腹の僅かな圧迫感にさえ、秘部は切なげにきゅうっ♡と疼く。

「うん、そっかそっか。よく言えたね」

 ようやく聞けた答えに満面の笑みを浮かべる夏油は、震えるナマエの手を掴み、そのままゆっくりと上へ滑らせていく。

「でも残念。正解はね…」

 指し示した場所の、さらに1センチ程上。そこはもし挿入した際少し無理に押し込めば、臍まで届いてしまう程度には、十分な大きさだった。

「ここ♡」
「へ…っあ!?〜〜ッ♡♡」

 その大きさと位置を揺れる瞳でナマエが確認した次の瞬間。狭い入り口を割り開き、夏油のものが入り込んできた。突然の暴力的な刺激に、油断していたナマエの身体は一気に絶頂へと追いやられ。視界は白み、ちかちかと火花が散る。

「ひ、あッ♡あ…?あ…っ♡」
「ん…急に入れて驚いたね。ほら、ゆっくりでいいから、落ち着いて深呼吸してごらん」

 痛いくらいに締め付ける中に夏油も苦し気げな声を漏らしながらも、達して力が入る身体をまるで子供をあやすように宥める。

「っう、はぁ、は、あ♡は…っ♡♡」

 言われた通り呼吸をしようにも、頭を撫でるその手の動きにさえ快感を覚えてしまい。息を吸い込む度にきゅうきゅうと締め付ければ、隙間なく埋め込まれた熱の形がはっきり分かり、落ち着くことなどできるはずなどなかった。

「…ね、ナマエ。辛そうなところ申し訳ないんだけど…もう少し入ってもいい?」
「は♡っあ…?う、んぅ、ん…っ♡」

 既に腹の奥までその質量を感じているというのに、これ以上なにが入るというのか。夏油の言葉の意味が分からず、分からないながらも返事をしなければと、ぼやけた頭でなんとか頷く。
 夏油もその返事はほぼ無意識のものだと分かっているものの、理解できていないのならばこれ幸いとばかりにナマエの体を抱え直すと、そのまま腹筋に力を込めさらに奥へと腰を進めた。

「ッ〜〜!!?♡♡」

 今度は言葉どころか声も出ず。こちゅんっ、と腹の奥底で音がしたと思ったら、ナマエは陸に上げられた魚のように全身をがくがく痙攣させると、背中を弓なりにしならせ再び絶頂に達してしまった。
 信じられないことに、最初に突き入れられた時にはまだ全て入り切っておらず。今ようやく根元まで入ったらしい。
 もう少し入る、の言葉の意味はこのことだったのだとようやく理解しても既に遅く。ぎちぎちと腹を満たす圧迫感は、乾いた呼吸音を惨めに喉から出すことしかさせてはくれなかった。

「ナマエ、動くよ」

 絶頂に震えるナマエを見下ろしながら、夏油は熱のこもった声で囁く。それはもはや承諾を得るためではなく、これから行う行為の警告のようなものだった。

「やっ♡まだ動いちゃ、あ!あ゙ああ!♡♡」

 いくら散々慣らしたとはいえ初めて異物を迎え入れたそこは、痛いくらいに夏油を締め付ける。
 この締め付けと僅かに滲む血が、ナマエは未経験だというなによりの証明なのに。その反応は処女とは思えないほど甘いもので。
 そうなるように散々解したとはいえ、これまでの経験で積み重ねてきた男としての経験や知識が崩されていくのが、なんとも堪らない。

「うっあ゙♡げと、さ、くるし、はぁっゔ♡あ、あ!♡」
「うん…ごめんね、ナマエ。でも私、ナマエの中に全部入れてもらえて…すっごく嬉しい」

 耳元で吐息混じりに囁き、びくり跳ねる肩を押さえ付けわざとらしく息を吹き込むと、そのままぬるりと舌を侵入させる。ぐちぐちと粘着質な音を立てながら耳からもナマエを犯すせば、脳内に直接響く卑猥な音に彼女もはやパニック寸前だった。

「うっ、耳やだ♡は、あぅ♡」
「そうなの?でもすごく締まったけど…っ」
「きゃ、んぁ!奥っ…ぐりぐりしちゃ、っ♡ 変になっちゃ、あ゙、ああぁ!♡♡」
「ん゙、っあ…」

 小刻みに動き吸い付く奥をくすぐれば、甲高い鳴き声と共にきゅっと丸くなった足先が数度布団を蹴り、そのまま糸で釣られたようにぴんっと張る。次いできゅうきゅうと締め付ける中に夏油も小さく声を漏らすと、腰を震わせ膜越しに欲を吐き出した。
 一度吐き出したことで襲う束の間の疲れに息を切らしながら、引き抜いた先端にたっぷり重みを残した避妊具を口を縛ることもせず床に放り投げる。べしゃりと熟れすぎた果実が落ちるような音がした。

「はは…何度もイってるからかな。白くなってる」

 漏れる蜜は何度も絶頂を迎えたせいか重く粘度を増しており、ナマエが呼吸をする度小さく泡を立てている。
 新しい避妊具を素早く被せると、投げ出された両足の膝裏を持ち上げ、そのまま一気に、耳の横に付いてしまいそうなぐらいまでひっくり返す。あまりに軽々持ち上げられた身体に「うぐっ」とナマエが苦しげな声を漏らした。

「夏油さ、なっ、なに、?」

 部屋は薄暗いとはいえ、既に暗闇に慣れた夏油の目には、空気に曝され余韻でひくつく秘部が丸見えだろう。いくら上手く機能しない頭でも、これがとんでもなく恥ずかしい格好だということぐらいは分かる。
戸惑いと不安を滲ませたナマエを見下ろす夏油は、少し乱れた呼吸を整えながら、にっこりと微笑んだ。

「せっかく奥まで少し入れるようになったんだし、今後のためにもやっておきたくてね」

 ナマエは知っている。こういう顔と声色の夏油は、自らの要望を押し通すために多少の無茶も辞さない思考回路になっている時だということを。
 瞬間、すっと冷えた脳内と背筋に、ほとんど無意識のうちに身体が逃げる体勢を取るため、腕に力を込めていた。
 けれどそれを見逃してやるほど夏油は優しくはない。曝け出された秘部に先端をあてがうと、自重を掛け一気に押し込んだ。

「あ゙…っ!?」

 先ほどのような、どこまで届くか確認するためのものとは違う。硬いものがぶつかるごつんっという音と、次いでごぷんっと何かを飲み込むような音。胎内に響いた二つの音を脳が認識する頃には、ナマエの全身は痙攣し、宙を泳いでいた足先は団子のように丸まっていた。

「あ、あぁ、ふあっ、あ゙、ああっ!」

 苦しげな声が響くけれど、今度は慣れるまで止まることはせず。抵抗する身体ごと圧し潰すように、どちゅっと音を立てて何度も最奥を突いていく。

「うあ゙、はっあぁ!げと、さっ、あ、あ…っ!」
「あー、やば…っ」

 千切られそう。ぽつりと呟かれた言葉は冗談のように軽い口調だったが、このままでは本当にそうなってしまうのではとさえ思う。それぐらいにナマエの最奥は、夏油の精を搾りつくさんと蠢いている。

「あ、あぁあ、おく、おくにっ、はぁ、あ゙、あぁっ!」
「すごいね…お腹、私のもので破けそう…っ」

 もう完全に子宮内に入り込んだ夏油の性器は、その先端がナマエの腹を押し上げぽっこりと浮き出ていた。本当に破られてしまうのではという恐怖と、それを上回る強烈な快感。
 繋がるそこから激しく出入りする様を見ていられず瞳をつむるも、嗜めるように、浮いた柔らかな尻を夏油の手が軽く叩く。

「く、るし、はっ、あぅ♡あ、あぁ、はぁっ♡」

 叫びといってもいいほどの鳴き声の中に徐々に甘さが混じり始める。苦しさが勝っていたはずの感覚は、既に快楽の方が上回っていた。
 溢れ出した蜜はナマエの腹をゆったり伝い、鳩尾の辺りに溜まりを作る。夏油は身をかがめそれを舐め取ると、そのまま流れるように唇を重ねた。

「ん♡ん、ぅ、んんっ♡」
「っは…んん…」

 唾液を纏った舌先で歯列をなぞり上顎を撫で、粘つく口内を掻き回す。だらしなく溶けたナマエの舌を根本から絡め取り、自らの唾液を喉奥へと注ぎ込む。
 苦しそうにしながらも素直に上下する喉に満足しながら、夏油はすっかり抵抗のなくなった両足を肩に担ぐと、腰の動きをゆったりとしたものに変える。

「あっぐ、ぅ♡ん、はっあ!やっ、それやらぁっ♡」
「なんで?気持ちいいんだろう?」
「や、らっ♡やなの、や、あぁっ♡」
「…ああ、」

 最早会話もできない状態らしいナマエは、夏油の問いに、嫌だとしか返さない。それでも彼女の反応から意味することを察した夏油は、言葉とは裏腹にナマエの望むように動く。

「そっか、ナマエは突くより…」
「んあ、あっ♡」
「こうやって、っん、押し付けられる方が、好きなんだ…?」
「ひ、ぅ…あ、あっ!♡あ゙♡だめ、あぁあっ!♡」

 奥へ入り込んだ先端をほんの少し引き抜き、内壁を抉るように腰を動かす。それでも甘い声は響くが、次いで押し付けた時の嬌声は桁違いのものだった。
 声も、締め付ける中も、縋る腕も。全身で"たまらない"と表現する様子に心臓を握り潰されたような感覚を覚え、夏油は顔を顰める。

「ひっう♡はっぁ、あ゙♡げと、さっ♡」
「ん…もうイきそう?」

 もはや返事もままならないらしいナマエは、なんとか必死に首を縦に振り肯定の意を示す。夏油はナマエの顔の横に手を突くと、ぐぐっと重く全体重をかけ、その感触を覚えさせるように奥に奥に押し付けていく。

「あっ♡はっあ゙♡あ、イッ、イっちゃ、っ♡あ゙、あっああ、う、んん゙ッ!♡」
「ゔ、っは、ぁ…」
「ん、ゔ…っ♡♡」

 大きな瞳をぎゅっと細め、髪を左右に振り乱しながらナマエは甲高い声を上げる。引きずられるように小さく声を漏らした夏油も、避妊具の中に欲を吐き出した。

「あ、あぁ♡あつ…♡あつい、ぅん゙ん…♡」

 薄い膜越しに注がれる熱さにもびくびく跳ねる身体が、ようやく布団へ下ろされる。ぐったり投げ出された四肢も、もはや筋一本さえ動かせない。腹の中を蹂躙していた熱が出ていく感覚にさえ、空気が抜けるような声しか出せなかった。

「ナマエ、大丈夫……ではないか」

 先端にどっぷり液を溜めた避妊具の口を縛りながら夏油が問いかける。けれどナマエが言葉を紡ぐ前に、その姿を見れば答えが分かったのだろう。苦笑いと共に、節くれ立った手が涙の跡を労わるように撫でた。その心地よさに擦り寄ると、襲ってくる倦怠感に誘われるまま、ナマエは瞳を閉じた。




「傑さぁ、ほんと…ちょっとは考えてやれっての。この馬鹿」
「…悟、人に話しかけるときは、いきなり暴言を吐いたらいけないよ」
「うっせ。こんなの見せられるこっちの身にもなれっての」
「何なの?突然」

 翌日。夜蛾に次の任務のことでと呼び出された、その帰り道。突如として五条が夏油に対し暴言を吐いたのだった。
 しかしそこは長い付き合い。いつものことだと嗜めるが、今回の五条の怒りはそれを上回るようだ。学生以来久しく見ていなかった口の悪さに、これは厄介なことをしたようだと、自身が原因にも関わらず夏油は他人事のように思った。

「お前、昨日ナマエのこと抱いただろ」
「……まあ、そうだけど」

 夏油とナマエが恋人というのは周知の事で。しかもその後押しをしたのは、今目の前にいる五条なのだ。今更隠すことでもないだろうと一瞬迷ったものの肯定すれば、五条は「はぁあ゙あぁ〜〜!」とわざとらしくため息を吐く。

「ちょっと、なんだいそのため息」
「あのなぁ、全部見えてんだよ」
「だから、何が?」

 妙に煮え切らない答えに苛つくことはさすがにないものの、物事ははっきり言うタイプの五条がここまで言葉を濁すことは珍しく。別の意味で何をしてしまったのか気になってしまう。

「だーかーらー!ナマエの腹にお前の呪力がべっっっっとり!こびり付いてるわけ!」

 きょとん。漫画ならそんな効果音が付いているだろう表情で、夏油は五条を見る。そうしてようやく、彼が言葉を濁していた意味も、こうまで口調が荒くなった理由も理解したのだ。
 困ったことに親友の六眼には、唯一無二の友人と愛しい我が子の間に昨夜何が起きたのか。文字通り"全て"見えてしまっているらしかった。

「…こびり付いてるって、言い方」
「それ以外に何があんだっての」
「え、うーん……マーキング、とか?」
「どっちもどっちだろ、それ」

 べっとり、の部分をこれ見よがしに強調したのは、それほどまでに五条の怒りが大きいという事だろう。いや、これは怒りというよりも、戸惑いの方が合っているかもしれない。きっと今の五条は、さながら親の情事を雰囲気などから間接的に悟ってしまった、年頃の子供のような感情なのだろう。
 一般家庭でありがちなその感情を、非現実的な家庭で過ごした五条がそれを体験することになるとは。本人も思っていなかっただろう。
 そもそもこれを体験したがる人間など世界中どこを探しても、おそらくいないだろうが。

「というより、六眼ってそこまで見えるんだね」
「…ナマエのあれは一応呪いだからな。術師が関与すれば分かる」
「うーん、じゃあこれからナマエとする度、悟にはバレちゃうってことか。困ったな」

 眉を八の字に下げ唇を尖らせる。分かりやすく、困りました、なんて表情を作って見せる夏油に「困ってないだろお前」と五条は舌打ちをする。
 そもそも夏油の中に、セックスをしないという選択肢は存在していない。止めろと言われて素直に従うわけなどないのだ。なにより、恋人として愛のある営みを、いくら関わりの深い五条といえど制限する権利などない。
 それは本人が痛いほど分かっている。けれど望まずとも知ることに対しては文句ぐらい言わせろという、せめてもの抗議だったのだろう。

「まあ今度から気を付けるよ。そこまで見えるってことは、ナマエの身体にも関わるかもだし」

 とはいえ一度でも欲望のままに抱いた以上、簡単に暴走が止められるのかは、本人もその状況にならないと分からないだろう。戦闘と同じで、興奮した脳内で冷静な判断は、中々に難しいということだ。
 おそらく、というよりも確実に"気を付ける"つもりのないその言葉に、五条は再びわざとらしくため息を吐く他なかった。


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