「もー、なんでナマエってばロングブーツ履いてんの?面倒じゃん」
そんなの知ったことじゃない。確かに毎日紐を結ぶのは面倒だけど、それは私が好きでやっていることなのだから、文句を言われる筋合いはないはずだ。
心の中でいくら悪態をつこうと目の前の男にそれが伝わることはないのだが。
寮の二階、一番奥の角部屋。日当たりの良いそこを一年であるナマエが貰えたのは、卒業する4年生と入れ替わる形で野薔薇よりも早く入寮したからだった。
山奥ということもありすぐ横は森が広がり人目も気にならず、また扉の前を通る人もいない。元々インドア派、さらには読書と静かな空間が好きなナマエにとって最も落ち着けるこの部屋が一転、今は最も危険な部屋となっている。
どうしてこうなった、こうなってしまったんだ。いくら問いかけても、当たり前だが答えが返ってくることはなかった。
時は少し遡る。授業を終えたナマエは、虎杖と『呪力を使わず生身のみで戦う』という縛りでの戦闘訓練を行なっていた。
元々の身体能力の高さに加え戦術が身体を使ったものを基本とする二人は、こうして呪力ばかりに頼らない訓練をするのが欠かせないのだ。時には制服、時にはジャージ、時には普段着。ありとあらゆる場面、格好で訓練を行えばどんな時でも大丈夫という五条の教えの元、本日は制服での訓練だった。
そしてそんな日課をいつも通りこなし、辺りも薄暗くなり始めた頃。お疲れサマンサーの声と共にどこからともなく五条がやって来たのだ。
「お疲れ様です」「先生今日は仕事終わったんすか?」「用事があったからね、すぐ終わらせた」そんな当たり障りのない会話をしていると、不意に五条がナマエを見つめ、こう言い放った。
「ナマエには渡したい書類があるから、僕と職員室来てもらえる?」と。
この時少しでも疑っていればこんなことにはならなかったのだろう。ただ、教師と生徒としてごく普通の日常会話だっただけに、五条悟という人間はそもそも性格が悪いのだと嫌というほど知っているはずのナマエが彼の真意に気付けなかったのは、仕方のないことなのかもしれない。
じゃあ行こうか。移動面倒だから、僕に掴まって。そんな言葉と共に出された腕を掴み、虎杖に別れを告げた次の瞬間。ナマエが立っていたのは職員室の入り口ではなく、見慣れた自室であった。
頭の回転が早いのは、良いことなのか悪いことなのか。辛うじて『目の前の男がよからぬことを考えている』ということだけは一瞬で理解できて。
素早い動きで掴んでいた腕を離し、半歩後ろにある扉のノブへ手をかけた。が、ナマエにとっての一瞬は五条にとっての一分である。
小さな身体を荷物のようにあっさり小脇に抱えると、長い足を大きく開き狭い部屋を横断、躊躇することなくナマエをベッドへと放り投げたのだ。
──そうして、話はようやく冒頭に戻る。
投げられる瞬間見えた五条の足元。寮内は土足厳禁だからだろう、外から飛んだにも関わらず靴は履いておらず。
あのごたごたの最中にもご丁寧に自分の靴はしっかりと脱いでいるその余裕に若干イラつきを覚えていると、ごつん、と重たい音が響いた。どうやらあっという間に脱がされたヒールが、ベッド下へ落とされたようだった。
「はいちょっとごめんねー」
「ちょ、っ」
解放されたナマエの足首を掴むと、まるでどこかの居酒屋でも入るかのような軽い口調で身体を滑り込ませる。無遠慮に行われたその行為に驚いて声を上げるも、どこ吹く風。「よいしょ」と体勢を整えると、正座した自らの太ももにナマエの足を乗せその距離を縮めた。
大きな体躯の五条を挟む形となったせいでスカートは捲れ、重力に逆らうことなくずるずると滑り落ちあと少しでも動けば下着が見えてしまうだろうというところで止まった。
「せ、先生、待って、」
「待たない」
白い指先が黒いタイツの上を滑り、たゆんだ裾を覗き込むように持ち上げる。素肌を擽った寒さにナマエが足を跳ねさせれば、五条は「うわぁ」と感嘆の声を上げた。
「やっぱりガーターだったんだぁ…いいねえ、すごくえっち♡」
もういい加減にしてくれ。先生といえど、いや先生だからこそその発言は駄目だろう。
もっと見せろと言わんばかりに五条は目隠しを下ろす。恍惚とした表情と声でナマエを見つめる碧眼はどこまでも澄んでいるだけに、この発言と行動が冷静下の元行われているという事実だけが突きつけられる。
タイツのもたつきが戦闘時気になるからとガーターベルトへ変えたのは、当たり前だがなんの意図もない。そもそも変更したのはつい最近のことなうえ、そのつい最近の間に五条とこうした接触もなかった。
まあ遅かれ早かれセックスはするだろうから、知られるとしたらその時だろう。そもそもガーターベルトだって、ブラジャーやショーツと同じなのだ。機能性諸々、楽さや便利さを追求して使用しているわけだから、こちらが恥ずかしがることはない、とナマエは思っていた。思っていた、はずなのに。実際反応を目の前で見ると、どうしていいのか分からない。というか、やっぱりって、なんだ。
「悠仁と訓練始めたのって、四時くらいだったでしょ?」
「へ?ああ、たしかそうですね……なんで知ってるんですか」
「廊下歩いてたら、たまたま見かけてね。いやー青春してるなーなんて、なんとなく眺めてたんだけどさ」
「はあ…」
「そこでナマエが回し蹴りした時に、ふわ〜っとスカートが捲れて…これが見えちゃってさあ」
「は、」
「もう気になってなんにも手につかなくなっちゃって。残ってた仕事片付けて大急ぎで来ちゃった♡」
曝け出されたベルトとももの間に指を差し込み柔く撫で上げる。途端に軽く跳ねる身体をうっそりとした様子で見下ろす五条とは対照的に、ナマエは顔を引きつらせた。
そもそも、教師である五条と生徒であるナマエが世間一般でいわれる『恋人』という関係になった理由を知るためには十年ほど前まで遡らなければいけないのだが…閑話休題。それはまたいつかの機会にするとして。
まさかこの機能性重視で何気なく選んだ物が、ただでさえ激務の五条に時間を作らせるまでやる気にさせるとは。人はなにがスイッチになるか分からないものである。
「…そんなに良いものですかね、これ」
高身長、日本人離れした髪と瞳に、腰に響く甘い声。性格を除けば女が放っておかないほどのスペックの持ち主である五条ならば、ガーターベルトを履いた女性とぐらいセックスしたことはありそうなものだが。完全に偏見ではあるが。
あえて言葉を飲み込み冷めた目でそう問いかけると、「分かってないなあ」と呆れたようにため息をつかれる。
「普段何食わぬ顔で僕と話してるナマエが、実は制服の下でこんなえっちな恰好してるって思ったら…ねえ?」
なにが、「ねえ?」なのかよく分からないし、そもそも使用している本人に同意を求めるのはいかがなものなのか。
いよいよ呆れてなにも言えなくなったナマエに五条はご機嫌な様子で覆い被さると、さらに下半身を密着させる。
布越しでも分かるぐらいに主張しているものを、早く入りたいと言わんばかりにそこへ押し付けてやれば、ナマエが甘い声を漏らし始める。
「せんせっ、ん、あ、あっ」
「ナマエ、あーん」
「あ、んんっ、ふあ、んう…っ」
徐々に濡れた音を出し始めたそこに合わせるように唇が重ねられ、分厚い舌がナマエの口内へ我が物顔で侵入する。息苦しさを感じながらも受け入れ絡めると、良い子とでもいいたげに大きな手が頭を撫でた。
「ん…ちょっと窮屈かもしれないけど、一回だけ我慢してね」
「あ、っ」
唇を離し喉を数回上下させるナマエを満足げに見つめると、すっかり色の変わったクロッチをずらし指を侵入させる。
わざわざ少しずらして触れるということはおそらく、というかもうほぼ確実に、着たままことを進めるつもりなのだろう。
知りたくもなかった、けれどもはや逃げようのない現実にこうなってしまえばヤケだと、ナマエは喘ぎ声を抑えながらなんとか呟く。
「破かないで、っん、くださいよ…」
「大丈夫。破けたら僕が新しいの買ってあげるから」
それが嫌だから破くなって言っているんですよ。流石に歳上ということもありその言葉は飲み込んだが、それも分かっているのだろう。五条は楽しげに「とびきり可愛くてえっちなの、選んであげるよ」と笑い、淡く濡れる唇へと再び噛み付いた。
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