任務地から車で三十分ほどの場所にある五条のマンションにナマエが訪れたのは、午前を少し回った頃だった。 都心部での単独任務を無事に終え補助監督の運転で高専へと戻ろうとしていたところに、ちょうど同じく上層部との用事を終えたという五条から連絡があったのだ。
 『お疲れサマンサー!任務どうだった?まあナマエのことだから大丈夫だと思うけど。あ、一緒に行ってるの伊地知だよね?僕今近くにいるから迎えに行くねー。一緒に帰ろ♡』
 スピーカーにしているわけでもないのに、少し離れた位置で待機していた補助監督…もとい伊地知にもその内容は聞こえていて。
 申し訳なさと、情けなさと、その他色々。様々な想いを浮かべるナマエの顔に伊地知は「一緒に待ちますので…」と苦笑いを返すしかできなかった。
 それから約十分後。文字通り車をかっ飛ばして来た五条は、理由を聞こうとナマエが口を開くや否や「まあまあ。とりあえず帰ろ」と、半ば無理やり彼女を助手席へ押し込んでしまう。
 先生!と咎めるも聞く気はないらしく。共にいた伊地知へ、あとはよろしくと一言残しあっという間にその場を走り去ってしまったのだ。
 彼の言う『あと』とは、報告書やその他諸々のことだろう。本来なら自身がやるべき内容を、よりにもよってこんな時間に任せてしまい罪悪感でいっぱいになる。
 とりあえず伊地知へ謝罪の連絡を送っておこうと頭を抱えていると、ふと視界に写る景色が、高専までの道のりではなくマンションが立ち並ぶ住宅街へ進んでいることに気が付いた。

「先生」
「んー?」
「こっち住宅街ですよね。高専に帰るなら、高速乗らないといけないんじゃ…」
「ああ、うん。今日はあっちの家行くよ」
「え、別邸の方ですか?」
「違う。マンションの方」
「ああ…どうしてですか?」

 確かに、ここから郊外にある別邸に向かうのであれば高専へ帰るのとほとんど変わらないだろう。時間も時間だし、ここから近いマンションへ向かう方が楽なのかもしれない。
 とはいえ、そちらのマンションへはナマエが寮へ入ってから行ったことがほとんどなかったため、どうして五条がわざわざ迎えに来てまでそこへ共に帰ろうとしているのか検討がつかなかった。

「ナマエさ、明日…というか、着くくらいには当日になってるか。誕生日でしょ」
「え…ああ、そういえばそうですね」

 ちらりと見えた時刻は二十三時四十分。五条の言う通り、着くころには日付が変わっているだろう。
 日付が変わったその日は、まさしくナマエの十五歳の誕生日だった。とはいえそのことを当人はすっかり忘れており、おそらく五条に言われなければ当日も普段通り過ごしてしまっていたかもしれない。

 とはいえ、なぜ今そんなことを。口ぶりからして祝うためにわざわざ迎えに来たのだろうけれど、それは明日でも問題はないはずだ。
 そんなナマエの考え分かっていたのだろう。それまで隣で呑気に鼻歌を歌っていた五条が、不意にまじめな声で、こう言った。

「帰ったら、お前のこと抱くから」



 誘拐とはまさにこんな感じなのだろうか、とナマエは思った。
 てっきりあの後「嘘だよー、びっくりした?」なんて軽い口調で続くとばかり思っていたのだが、五条はその言葉を皮切りに無言になってしまい。
 それは、先程の言葉が決して冗談などではないとナマエに自覚させるには充分で。そうなってしまえば、ナマエも同じように黙るしかできなくなってしまった。
 そうなる──つまりは抱かれることが、嫌なわけではない。
 十四歳の頃、それまで仮初であった婚約という形を正式なものとすることが決まってすぐに、五条から告げられていたのだ。
 十六歳になったら籍を入れる。でもその前に、十五歳になったらなんと言われようと抱く、と。
 生まれた瞬間から忌み嫌われる存在でもあった自分自身を受け入れ、あまつさえ愛を与えてくれた五条の言葉を受け入れないという選択肢は、そもそもナマエの中には最初から存在していない。
 とはいえ。こうした経験がないゆえにどうなるかが想像できないから少し怖いという点に関しては、動物的な本能なのだろう。しかたがないことだ。
 なんて、脳内でいくら考えようとこの状況は変わらず。家に入るや否や、一息つく間もなく風呂場に押し込まれた。剥かれた洋服はその場で洗濯機に放り込まれ、今は五条の服と共に静かに回されている。
 ナマエの目の前で洗濯機に放り込んだのは、帰りたいと言っても服がないから帰れないという状況を作るためだろう。なんとも古典的だが、もっとも有効的な手段であるともはや感心してしまう。そんな中でも、なんとかショーツだけは死守した自分を褒めてやりたい。
 風呂を出る時見えた時計は、五条の予想通りとっくに日付を超えていて。うるさいのが嫌だと言って秒針の音がしない時計を買っていたこともあり、室内は異様なほど静まり返っていた。

「ナマエってば、テレビもつけず何ぼけっとしてるの」
「ひっ…!」

 不意に耳元で聞こえた声に方が跳ね上がる。ごちゃごちゃと考えていた間に五条はシャワーを終えていたらしく、湯気の立つ身体を惜し気もなくさらけ出しながら、ナマエを見下ろしていて。
 寝間着だろうスウェットを履いている。けれど上は着ていない。ああそっか、上は私が借りているのか。大きすぎてワンピースのようになっていたから、そういうタイプの寝間着なのかと思っていた。
 普通に考えればそんなことはないだろうと気付けることでも、今のナマエは状況整理のために脳内全てが使われていたため、彼服などという、分かりやすい五条の罠もすっかりスルーしてしまっていた。

「…なに、緊張してんの?」
「そっ、そりゃそうです、よ…」
「えー、今更じゃない?ちゅーだって何度もしてんじゃん」
「それとこれとは、話が別でしょう…」

 大げさに驚いたナマエの様子に五条は碧眼を歪めにんまり笑うと、いつもの軽口で強張る身体を持ち上げ、自身の膝の上で背後から人形のごとく抱きしめた。
 二人分の体重を受け止めた黒い革張りのソファが、ぎしりと音を立てる。

 五条の言う通り、これまでキスは何度もしてきた。それこそ舌を絡めるような深いものだって、もう数えきれないぐらい。
 それでもこれは、これから行われる行為は全く次元が違う。暴かれるのだ。身体の中まで、文字通りすべてを。
 いよいよ物理的な接触があったとなってはもはや思考回路は使い物にならず。未だそわそわと視線を彷徨わせているナマエの頬に軽く唇を落とす。

「せっ、先生…!」
「慌てないでさ、身体の力抜いて。僕に全部任せてよ」
「ま、任せてって…っあ、」

 耳元で低く囁かれ、緊張で強張っていた肩がびくりと跳ねる。なにか掴めるものをと右往左往する手は不安に震え、漏れる声を抑えようと口元へとその位置を移した。
 抑えられると余計に出させたくなるという、こういう状況での男の心理を知ってか知らずか。おそらく後者ではあろうが、無意識のその行動に誘われるように五条の手はナマエの身体を蛇のごとく這い回る。

「ひっ、あ、んん…っ」
「おっと、」

 恥ずかしさからナマエの身体は逃げようと咄嗟に前へ傾く。けれどすぐに腕を取られ元の位置へと戻されてしまう。それどころか這い回る手はさらに大胆さを増し、ついにだぶつく服の中へと侵入を果たした。
 滑り込んだ大きな手に驚く間も与えず脈打つ心臓を包み込むかのように触れれば、風呂上がりということもあり柔肌は手に吸い付くようで。五条はくらりと軽いめまいを感じる。

「ナマエ、ブラジャー着けてないの?」
「だ、って先生が洗濯機に…っ」
「あーそっか、一緒に入れちゃったんだっけ。ごめんごめん」
「や、ぁん、っ!」

 まったく心のこもっていない謝罪をしながら、五条はすっぽりと覆った胸を揉み始める。
 感触を楽しみながら、時折指の間へと先端を挟み込む。綺麗に爪を切り揃えた指先はそのまま先端をすり潰しながら、時折きゅっと摘まみ上げる。それだけで、つつましやかな突起はあっという間に硬く芯を持ちはじめた。

「ふ、あっあ」
「…ナマエ、なんか思ってたより胸大きいね」

 思わず出てしまったといった風の言葉にナマエの顔が赤く染まる。耳元でそんなことを言わないでほしいと、せめてもの抵抗で背後にいる男を睨み付けるが、やはり意味はなく。
 それどころか「このままでもいいと思ったけど、見たいしやっぱ服脱ごっか」とナマエの許可を取ることなく、あっという間に服をひん剥いてしまった。外気に触れたことでぞわりと全身が粟立つ。

「ちょ、まっ…て、展開が早い…!」
「だって脱がせていいかって聞いたら、ナマエ絶対脱ぎたくないって言うでしょ」
「分かってるなら脱がせないでくださいよっ…あ、っあ、あ!」
「嫌だ。はー…やっぱ柔らか」
「あ、やだ、っ!」

 掌全体で柔らかさを楽しむように揉みしだきながら、尖る桃色の突起をぴんっと弾かれ、ナマエの肩がびくりと跳ねる。
 五条は先端に軽く爪を立て転がしながら、目の前で真っ赤に染まる耳をわざとらしく音を響かせながら舐め上げナマエの身体と精神を犯していく。

「ん…ナマエ、足」
「は、あ…?」
「力抜いて」

 ばたつく足を軽く叩き、くっついたままの膝を離すよう促す。無理やり割り開こうと思えばできるのにしないのは、優しさなのか、それとも自ら開けという命令なのか。
 早く、と促すように膝小僧を撫でれば、ナマエは恥に耐えながらゆっくりと足を開いていく。
 掌一枚分。ようやく滑り込ませられる程度まで開いた瞬間、その隙間へ半ば無理やり右手を差し込んだ。その突然の行動にナマエは慌てて足を内側に寄せるも、逆に腕を固定するような形になってしまいますます自身を追い詰めてしまう。
 五条は柔らかな太ももに挟まれたまま手を器用に動かし、指先を下着の中へと侵入させるとぬかるむそこへと躊躇なく触れた。
 その瞬間、ぴちゃりと濡れた音が静かな部屋に響いた。

「うん、ちゃんと濡れてるね」
「や、やだっ!音、はずかし…っ」
「恥ずかしくなんかないよ。しっかり感じてる証拠なんだから」
「あ、っ」

 だからそれが恥ずかしいんですよ!そう心の中で叫んでも意味はなく。五条はもはや濡れて意味をなさない下着を指に引っ掛けると、まるで見せつけるようにゆっくりと下ろしていく。
 まさかこの歳になって他人に下着を脱がしてもらうことになるとは。いや、この歳だからなのか。ショックやらなにやらでいっぱいいっぱいになりながらその様子を見続け、ついに足先までくぐり抜けてしまう。

「指入れるよ。痛かったら言ってね」
「っう…は、い…」

 空気に晒されて震えるそこに右手が再び触れる。円を描くようにくるくると入り口をなぞられ、ゆっくり離された指先には透明な糸が纏わりついていた。
 指全体にたっぷり蜜を絡ませると、濡れそぼったそこへゆっくりと指が侵入をしていく。まずは一本。数度抜き差しをし、ナマエの反応を伺う。まだ戸惑いの方が勝っているのか、困惑気味に声を小さく上げている状態だ。
 しかし痛がる様子はないと判断し、五条はやや性急であるとは感じつつも指を二本へと増やす。途端にそれまでとは違う圧迫感に、ナマエが息を詰まらせる。

「っ、せ、んせ…」
「…あ、そうだ。ねえナマエ」
「ふ、あ…な、なんですか…」
「悟って、名前で呼んで」
「は、あ…?」

 ぴたりと手の動きを止めると、五条は唐突に、そう声を上げた。あまりに突然すぎるその発言に、当たり前だがナマエの脳内は困惑に染まる。

「え、い、今ですか…?」
「そう、今。だってナマエ、寮に入ってから全然名前で呼んでくれなくなったじゃん」
「そりゃ…一応学校ですし…」
「でもパンダや真希だって、僕のことは名前で呼んでるよ」
「先輩たちの立場から名前呼ぶのと、私の立場から呼ぶのは、全然意味合いが違うじゃないですか…」

 現在五条が担任として受け持っている一年生…つまりはナマエの先輩にあたる四名の顔を思い浮かべる。たしかに彼らは五条のことを『悟』と名前で呼んでいるが、それはあくまで『(一応)親しい教師と生徒』という枠を超えることはない。
 けれど婚約者であるナマエが五条のことを名前で呼ぶとなれば、話はまったく変わってくる。
いくら婚約しているのは周知の事実とはいえ、一応は教師と生徒という立場にもいる二人が公共の場でも名前で呼び合うといういかにもな雰囲気を出していたら、真希本人たちも気不味いだろう。
 だからこれから、少なくとも卒業をするまでは"五条先生"と呼ぶ。これはナマエなりのけじめでもあった。
の、だけれど、五条はそれが気に食わなかったらしく。子供のように頬を膨らませながら、不満を口にしている。

「違くないよー。僕はいつだってナマエに愛情をこめて、"悟♡"って呼んでほしいわけ」
「語尾にハートを付けたことは記憶にないですけど…」
「いっつも付けてるじゃん。べろっべろにちゅーとかした後とか」
「なっ…!?そ、んなことないです!適当なこと言わないでくださいよ!」
「ええー?事実なのに。照れるなって」
「照れてないですって、ふ、ははっ」

 こんな状況。いや、むしろこんな状況だからこそかもしれない。不安にさせまいと普段通りの軽口をたたく五条の気遣いを察したナマエは、張り詰めた緊張感が徐々に溶けていくのを感じた。
 この人のこういうところが好きなんだ。アイツは性格が悪いなんて言って誰も信じてはくれないけれど、彼の真綿のような柔らかな愛情は、ナマエにとって時に息苦しくなるぐらい心地良い。
 悟さん、と。小さく、呟くように名前を呼ぶ。ん?なんて、愛おしいという気持ちを隠すことなく、碧眼をたらりと溶かしながら蜜のような返事をする。
 ナマエの身体から力が抜けていくのを察したのか、五条は柔らかな頬に軽く唇を落とすと、入れたままだった二本の指を、何かを探すようゆるく抜き差しし始める。
 中を広げるためばらばらと暴れさせ、時折壁を抉って。異物感は相変わらずだけれど、少しづつ、ナマエの身体は違和感以外のものを感じ腰を跳ねさせていた。

「ん、あっ…ひぅ、はっ」
「ここ?これともこっち?」
「な、に言って、っあ…!?」
「あ、ここ?」
「あ、あああっ!やっ、ひぁっ、なにっなんで、っ♡」
「ナマエの気持ちいいところ♡」
「あ、やあぁっ、あ、っあ…!♡」

 ある一点を押された瞬間、全身に電流が走った。それまで以上に跳ねる腰と丸くなる足先。
 丸く見開いた真っ黒な瞳が五条を見上げる。涙をたっぷり浮かべたその様子に、碧眼は楽しげに笑うと、再び指を動かし動き始める。しかも今度は的確にそこを狙って。
 ぐぷ、ぐぽっ。粘り気を帯びた音が大きくなるのに比例して、ナマエの身体中に走る快感も大きくなっていく。
 わざとらしく響く音が恥ずかしくて止めようと五条の腕を掴むけれど、力が入らずほとんど意味をなさない。それどころかむしろ添えるようになってしまい、まるで手を借りて自分でしているようにさえ見えてしまった。
 いつの間にか三本に増やされていた指が、遠慮することなく好き勝手に暴れる。

「や!なんかくるっ、怖いっこわい、♡」
「ん。怖くないから、そのまま力抜いてて」
「やだっ、やだやだ、っう、あ、ああっ…!♡」

 五条は自身の手首を伝いぽたぽたと床へ落ちていく蜜を親指で拭うと、入り口の上で小さくも存在を主張している突起を強く押し潰した。
 瞬間、ナマエの身体中に力が入り、目の前には火花が散ったようにいくつもの光が走る。

「は、あっ、ふあ、あ…♡」
「ん、頑張ったね」

 お疲れ様、と汗で額に張り付く髪を退け唇を落とすと、五条はくったり力の抜けたナマエの身体を抱えなおし、自身と向き合う体勢へと変える。
 そのあまりの行動の早さに驚きつつも、すっかり涙やらで真っ赤な顔を見られていることに恥ずかしさが生まれたのだろう。ナマエはうつむき、視線を下へと落としてしまう。しかし、すぐにその行動を後悔することになる。

「………」
「………」
「………」
「こら」
「あ…っ!♡」

 向かい合ってる今、視線を落とせば当然だが自身の晒された下半身と、五条の勃ち上がるそれがスウェット越しに見えるわけで。
 墓穴を掘ったと慌ててあさっての方向へ視線を変えれば、咎めるように腰を引かれ、部屋着越しにそこが触れ合った。
 五条が履く柔らかなスウェットの生地に、ナマエから溢れる蜜が染み込んでいく。

「は、あっん♡あぁ、ふぁっ♡」
「あーあ、僕これ着て寝るんだけどなあ…はは、これじゃ無理だね」

 そうなると分かってこの行動を起こしたはずなのに。五条はわざとらしくそう呟き、器用にスウェットと下着をずらし勃ち上がる熱を取り出した。
 ナマエが実際に男性のものを見るのは初めてで。自身の体には決してないその熱と迫力に、圧倒とはまた違う、どうすればいいのかといった困惑にも似た気持ちが生まれてくる。
 そんなナマエの気持ちを察したのだろう。五条は無意識のうちに逃げ腰になるナマエの身体を引き寄せると、その薄い腹へと熱を押し付けた。ぬかるむ入り口に脈打つものの根元が触れ、ぐちゅりと卑屈な音が響く。

「悟さ…っ」
「ねえナマエ、見てよこれ」

 長い指先が上下に動く胸に触れる。そしてナマエの視線を誘導するように滑らせながら腹へと到達すると、ちょうど自身の熱の先端。ナマエのへその幾分か下辺りを指差し、軽く凹む程度に押してみせた。

「これ。ここまで届いちゃうんだよ」
「う、んっ…♡」
「ナマエのお腹は薄いからなあ…突き破っちゃいそう」

 五条の大きな手が、確かめるようにナマエの腹を撫でる。大げさかもしれないが、両手で輪っかを作れば一周できてしまうと錯覚するほどナマエの腰は細く、その華奢さに時折心配になる。
 だからこそ、体格も全く違う自身を受け入れることができるのか。負担になることは間違いないとはいえ、それでも出来る限り少なくしてやりたいというのは、恋人ならば普通の考えだろう。
 遠回しではあるものの、五条はある意味忠告とも、自身への牽制とも取れる発言をする。そしてナマエも、そのたった一言が意味することに気付いてしまう。
 年齢差、互いの立場、身体への負担。多少なりとも五条が抱く、罪悪感。
 なにを今更とは思いつつも、ある意味では当たり前なその思考に、この人もそんな普通の考えをするのかとナマエの脳内にどこか的外れな考えが浮かぶ。同時に、なんで馬鹿な考えなのだろう、とも。
 劣悪な環境から助けられたときも、婚約者として迎え入れられたときも。互いの本当の想いを知ったときも、十五歳になったら抱く、と言われたときも。
 子供だったけれど。いや、今もまだ子供だからこそ。この人の考えていることも全て分かって、全て受け入れた。怖いとかそんなの、とうの昔に消えた感情だというのに。

「悟、さん…」

 息も絶え絶えに、熱を帯びた声で名を呼ぶ。伏せられた碧が、普段が嘘のように自信をなくした様子でナマエを見た。

「大丈夫です。大丈夫、だから…」

 語尾が弱々しくなったものの、その言葉は確実に五条の耳へ届いていて。同時に、男は何かに一瞬でぐるりと脳みそをかき回されるような感覚に襲われる。
 大丈夫。たったその一言で、ナマエの抱えた感情全てを、五条も気付いてしまった。
 伸ばした手はナマエの後頭部へと回り、互いの距離を一気に縮める。歯がぶつかりそうな勢いで顔が近づき、唇が触れ合った瞬間、舌が狭い口内へ滑り込んでいた。

「んっ…!う、ん、んうぅっ!」

 直前、まともに息を吸えなかったナマエはあっという間に息が苦しくなり始める。離してほしいと訴えるため胸を叩くも、五条はそれに構うことなく舌を絡め続ける。

「っは、あぅ…♡んぐっ、ふ、あんん♡ん、ん、んーっ!」
「は、っあ…」
「んあっ♡ふ、は、っあ…?♡」

 ようやく離れたと思ったら、再び塞がれ絡み合う。根元を吸われ、歯列をなぞり、尖らせた舌先がナマエの頬の内側や上顎を擦る。自身の口内にも関わらず逃げられないという興奮から、背中にはぞくぞくと快感が走り、身体は小さく跳ね続ける。
 これ以上はまずい、ナマエがそう感じた瞬間。まるで見計らったかのようなタイミングで唇が離された。
一気に肺を満たす酸素に大きく咳き込むナマエの頬を、混ざり合った唾液が伝う。五条の親指がそれを拭うと、薄く開いたままのナマエの口内へと戻された。

「悟さ、っあぁ!」

 どこか安心したようにその手にナマエが擦り寄った時、下半身になにかが触れた感覚がする。慌てて視線を落とせば、溢れる蜜を使い勃ち上がる熱がゆるく動かされ、入り口上部の敏感な突起を刺激していた。

「あっ、や、悟さ、それやだぁ♡」
「ごめんね…ナマエが可愛くて、つい」

 余裕なさげにそう呟くと、腰を掴んだ大きな手がナマエの身体を持ち上げる。そのままぬかるむ入り口に先端をぴたりと触れ合わせると、先走りを溢す先端をわずかに埋めた。
 入り口を割り開こうとする熱に驚いたのかびくりと震えるナマエの身体に、五条の手は一瞬止まるものの、今度は構うことなくすぐに中へと押し進んでいく。

「ん、うぅ…っ♡」
「もう少し…はっ、♡」

 労わりながら侵入を果たす熱に、じわじわと広がる快感が全身を支配する。縋るように五条の首に回した腕に力を込めなんとか耐えれば、耳元で「全部入ったよ」と低い声が響いた。

「やぁ、あっ♡は、はっあ、♡」
「あー、これ…まずいなあ…んっ」
「う、っんん…♡」

 五条が背中を丸めナマエを抱え込むと、女性にしては平均よりやや背の高い彼女の身体もすっぽりと覆われてしまう。
 体勢がきついのだろう。背中を仰け反らせどこか苦しげにな様子に多少の罪悪感を抱いた五条は、労わるようにナマエの腰に手を添え、少しでも楽な体勢を取らせてやろうと力の抜けた身体を軽く引き寄せる。

「あ、あっん、んんぁ…!♡」

 その瞬間、首を締めるかのような強さがナマエの腕に込められ、背中がさらに仰け反った。魚のように痙攣し、内壁が蠢くと熱をきゅうきゅうと締め付ける。

「っ、ごめん…軽くいっちゃった…?」
「は、っあ、ぁあ♡あ、♡」
「落ち着いて。ほら、深呼吸」

 ナマエの顔に張り付く髪を退け、落ち着かせるように現れた額に唇を落とす。背中を軽く撫で共に深呼吸をすれば、ナマエの呼吸も段々と落ち着き腕の力も弱まってくる。
 ほんの少し距離を取り、互いの顔を覗き込む。こつんと額を合わせ視線を絡めれば、ナマエのまつげに雫が輝くのが見えた。
 五条が小さく、「ナマエ」と呼んだと同時に、ナマエの震える手が、五条の乱れた前髪を退ける。そして現れたそこに、先ほど自身がされたことと同じように小さく唇を触れさせた。
 これはさすがに想定外だったらしく。五条は元々大きな瞳をさらに大きく開き、驚いた様子でナマエを見た。

「ふ、ふふ…」
「…笑わないで。驚いたんだよ」
「仕返し、ですよ」

 好き勝手された仕返しとでもいうのだろうか。不安をさらけ出し、苦しげに眉間にしわを作った五条の気持ちを和らげるようにナマエは微笑む。
 ──甘えているのだ。この小さな、大人びた姿に見えてその実とても幼い、少女に。そしてそれはひどく心地よく愛おしさを芽生えさせ、ますます心を離れ難くさせていく。
 好きだ、愛している。年甲斐もなく夢中になる目の前の存在に溢れる想いをぶつけるかのように、五条はやや乱暴に唇を重ねた。

「ん、っんん♡ふ、あっ」
「っは、じゃあ僕も、生意気なナマエに仕返ししちゃお…♡」
「ひ♡あっ!はあっあ、あ!♡」

 細い腰を掴み奥へと突き上げれば、こつんと先端に当たる感覚。搾り取るように下りてきたそこに思わず舌なめずりをすると、五条は半ば無理やりにこじ開けるつもりで何度も腰を打ち付けた。

「は、あっや♡や、あっあぁ!♡」
「っ、大丈夫だから…ほら」
「あっああぁ、や、らぁ、っあ、♡」

 腰を掴まれ自身で動くことは叶わず、ただ与えられる終わりの見えない快感に恐怖で涙が溢れ汗と共に顎を伝う。それを伸ばした舌で舐め取り、流れるようにそのまま唇を重ねる。
 くぐもった声が互いの咥内へ響き、脳みそまで溶かされていくような気さえした。ギシギシと、遠くでソファが悲鳴を上げている。

「ん、ふあっ♡うっんん、はっんぁ、っ♡」
「ナマエ、っ」
「悟さ、あ♡はっあぁ♡んぅ、」

 徐々に高くなる声と強くなる締め付けにナマエの限界が近いことを察すると、五条は腰の動きをゆるやかなものにし、今度は奥へと押し付けるものへと変える。

「や♡それやっ、だめ、だめだめっだめ…っ!♡」

 より深く的確に奥を狙うその動きに、すでに破裂寸前の水風船のようであった快楽の塊はさらに膨らみを増していく。もはや正常な言葉は紡げず。ただただ無意識の拒絶を繰り返す。
 五条もそれを分かっているからこそ動きを止めず、入口近くまで自身を引き抜くと、最後とばかりに最奥まで突き入れた。

「ひっあぁ、ぁ…っ!♡んんぅ、!♡」
「く、あ…っ」
「あっあ、ふあっ、あ、」

 注ぎ込まれる熱に、達した直後ということもありナマエの身体は過敏に反応を示す。丸まった足先がシーツを蹴り、細い腕がこれでもかというぐらい五条の首に絡まる。

「っは♡ う、んんっ、ん♡」

 全て出し切るようにぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせながら数度最奥へ押し付け、ようやく中に全て出し切ると、ゆっくりとナマエの腕から力が抜けていきそのままがくんと身体が傾いた。
 慌てて背中を支えてやれば、涙の滲む瞳が五条を見つめ、微笑む。

「ね、大丈夫だった、でしょ…?」

 疲れ切った顔でそう呟くと、魂が抜けたようにナマエの意識は途切れた。
 ネジの巻かれていない人形のようにぐったりと動かない身体を優しくソファへ横たえ、涙の跡を拭う。
 まさか最後の最後まで目の前の男のことを気にかけるとは。言葉だけではない、文字通り身体で受け止めてくれたその優しさと愛情に、もはやごちゃごちゃと考えていることが無駄なのだと、そう感じた。

「…本当、ナマエには敵わないね」

 してやられたと苦笑しながらも、五条はどこか嬉しそうに笑いそう零す。そして薄く開き寝息を漏らす淡い唇へ、まるで誓うかのように自身のそれを重ねた。


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