※個人カラー企画で書いたもの
道夫→パーソナルカラー:オリエンタルブルー・群青色


 仕事が互いにオフの日はどちらかの家に泊まるのがお約束となっているのだが、先に起きるのは決まって規則正しい道夫の方だった。
 目を覚まし、キッチンから聞こえる音とに後ろ姿を見つけては、また後になってしまったと後悔するのだ。もっとも、ナマエの起きている時間も休みにしては早い方なのだが、それでも早い道夫には勝てたことがない。一体いつになったら、眠たげな様子で起き上がる姿が見れるのやら。
 道夫さん。未だ忙しない背中に声をかけようと口を開いた瞬間、あることに気付き。ナマエは思わず言葉を飲み込んだ。
 家ではくつろいで欲しいというナマエたっての希望で、最近では道夫も出かけるまでの間は、ラフな格好のまま行動することが増えた。そのためナマエの自宅には道夫専用に、グレーと、ウルトラマリンブルー、いわゆる群青色に近い、少し明るい落ち着いたブルーの、部屋着兼寝間着がそれぞれ置いてある。だがよほどのことがない限り、彼はその几帳面な性格から上下揃いで着回すのが常であった。
 しかし今台所に立つ後ろ姿は、上がグレーで下が群青という、道夫にしては珍しい、そしてひどくアンバランスなものだった。
 二つとも同じシリーズの色違いを買っただけのため、そういった意味での違和感はないが、道夫が上下不揃いのものを着ているという点が、ナマエにとっては違和感大アリで。体調でも悪いのかと一瞬心配になったが、何故そうなったのか、その答えはすぐに見つかる。
 不意に出たあくびを抑えようと口を覆った、自身の手。妙に大きな服だと思ったら、着るそれはまさしく、道夫が下に履く色と対になる物だったからだ。
 昨晩は散らかった服を集めることもしないまま寝てしまったため、寒さに弱いナマエを気遣ってくれたのだろう。しかし下を履かせるのはさすがにはばかられたのか、上着だけでとりあえず止めておいたらしい。それが見事ダボついた、いわゆる彼服というシチュエーションを作り出しているということは、おそらく道夫の頭にはない。

「…道夫さぁん」

 自分でも驚くぐらい甘えた声になったことは、とりあえず置いておいて、真面目に手元を見つめる背中に抱き着く。道夫は少し驚いたように肩を跳ねさせた後、けがをしないようにと即座に火を消し背後のナマエへと声をかけた。

「おはよう、ナマエくん。よく眠れただろうか?」
「…道夫さんがいなかったので目が覚めちゃいました」
「そうか、それは…すまなかった」
「ふ…ここは謝らなくていいところですよ」

 背中にぐりぐり頭を押し付けると、本当に申し訳なさそうに謝るのだから面白い。腕の力を緩めれば、道夫はくるりと向きを変え、正面からナマエを抱きしめた。

「あ、道夫さん、前髪跳ねてますよ」
「む…」
「ふふ、珍しいですね。道夫さんが髪も整えずに」
「ああ…」

 元々くせ毛だから気付きにくいが、泊まりの時でもなるべく身なりは外出時と同じようにしている道夫にしては珍しく、鏡を見れば自分でも見つけられるであろう前髪部分が跳ねていて。
 ナマエの言葉にどこか煮え切らない様子の道夫に、これまた珍しいなと思っていると、背後からピロンという聞きなれた音が聞こえる。見れば、すぐ後ろの机に置かれた道夫の携帯が、ちかちかと光っていた。
 そういえば、一昨日からご両親と妹さんが東京に来ていると言っていた。もしかしたらそのことかもしれない。「道夫さん、連絡きてますよ」そう言いながら伸ばしたはずの腕は、携帯へ触れる寸前で止まってしまった。
 ナマエの記憶が正しければ、これまでの彼の待ち受けはデフォルト設定されたものだったはずだ。変えないのかと舞田が尋ねた際、あまり写真を撮らないからと返していたのは記憶に新しい。
 つまりは、ここに表示されているべきは何の変哲もない、よく見る画面のはずなのだ。
 けれど今ナマエの眼前に映るのは、毎朝鏡で対面する見慣れた顔。唯一違うのは、画面の自分が来ている服は、今と同じ、道夫の服ということだ。

「…道夫さん、」
「………」

 ちらりと視線を向ければ、逃げるようにゆっくりと逸らされる。上下違うスウェット、珍しく直っていなかった寝癖、妙に煮え切らない反応、寝顔の写真──驚きで一気に覚醒した頭は、全ての物事のつじつまを合わせてしまう。
 ナマエを気遣ったのは本当だろう。しかし彼ならば、着せている最中にでも最終的にどうなるか気付きそうなものだが、それでもあえて着させたままにしたというのは、目的があったからで。
 その目的とは、作り出していることすら気付いていないだろうと思っていた、"いわゆる彼服というシチュエーション"そのものだったのだ。
 恥ずかしさと、まさかあの道夫がという予想外の行動、そして妙に幸せそうな顔で眠っている、画面の中の自分。──様々な出来事に間抜けにも固まってしまったナマエの手から力が抜けた瞬間、伸びてきた手が素早く携帯を取り上げてしまう。

「ちょっ、やだもう!それ消してください!」
「ナマエくんには悪いが、これは消せない」
「ええ!?」

 ナマエも背は高い方ではあるが、道夫に腕を高く上げられてしまえばさすがに届かず。それでもなんとか爪先立ちで必死に腕を伸ばすが、窘めるように道夫の空いた片腕が腰へと回り、ナマエの身体を拘束してしまう。
 こうした軽い強行手段に出る辺り、無自覚で頑固な道夫は、本当に写真を消さないだろう。

「ちょっ、道夫さん!」
「ナマエくん、今日は映画を見に行く予定だっただろう。早く朝ご飯を食べないと間に合わなくなってしまう」
「…後で消してくださいよ」
「……」
「黙らないでください!」

 結局その後数分押し問答をするも、道夫が写真を消すことはなく。それどころか、見つかったことで何か吹っ切れてしまったのか、隠すことなく、しかし隙をついて写真を撮るようになるのだが、それを今のナマエは知る由もなかった。





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