さわさわ。何かが肌を撫でる感覚に、ナマエの意識が浮上する。目を開けた先、しっかり服を着ていたはずの胸元は寒々しく開かれ、代わりとばかりにふわふわとした赤色が動いていた。

「…え?」
「お、起きたか」

 間抜けに漏れた声に反応した赤色はぱっと顔を上げると、待ちくたびれたと小さく呟き、流れるような動作で再びその顔をナマエの胸元へと埋める。

「え、ちょ、な、何して…」
「お前こんな所で寝てんなよ。風邪ひくぞ」
「は、あ、はい…」

 いや、そういうことじゃない。一体これはどういうことだ。
 寝起きの脳内をフル回転させ何とか記憶の糸を手繰り寄せる。たしか今日は朝から空却さんが天国さんの所へ出かけていて、でも夕方頃には帰れるから、夕飯は何が食べたいとか連絡が来てて、それで…ああそうだ。夕飯の準備までまだ時間があるから部屋で過ごしていた時、連日の疲れもあって、少しだけいいだろうと寝てしまったのだ。寝た、はず。それから…あれ?空却さん、いつの間に帰ってきたんだろう。
 そこまで思い出したのも束の間、じゅる、と胸元で響いた音とずくりと下半身に感じた重たさに、ぼんやりと糸の続きを手繰り寄せていたナマエの脳内は一気に覚醒した。え、なんで、え、

「な、んで入って…」
「…ここまでされて今気付くってお前…遅すぎだろ」
「や、あっ!待って、動いちゃ、あ、あっ」
「ほんっと、危なかっしいな」

 なんて責任転換も甚だしい。胸元へ顔を埋めていたのはどうやら甘噛みをしていたかららしく、起きたことで気遣いが要らないと判断したのか濡れて光る突起を、真っ赤な舌が舐め上げた。びくりと跳ねるナマエの身体を押さえ付けると、押し付けるだけだった動きをゆっくりした抜き差しに変えていく。
 入り口まで引いたと思ったら、わざとらしく、ざらついた箇所をえぐるように侵入する。普段の激しさと違い静かに、けれど的確に気持ち良い処に触れるその動きは、枯れる程声がでるような快楽ではなく呼吸が上手くできなくなるような、じわじわと追い詰められていく深い快楽をもたらす。

「や、あ、まって、ご飯、の、準備、あっ、してな、っ」
「あ?…んなもん、っ後でいいだろ…」
「そ、んなもん、て、あ、だって、お義父さんもいる、の、にっ」
「親父なら、お前が寝てる間に、っはあ…裏の爺さんとこ行ったぞ。ぐっすり寝てて、疲れてるんだろうから起こすなって、言われたんだけどよ…っあー、やべ、」
「う、あ、はっあ、あ、」

 意識をなくす直前まで取っていた連絡内容をそれらしく振ってみたところで、当たり前だが意味はなく。それどころか逃げられない理由まで提示されてしまえば、ナマエにはもう為す術がなかった。
 ずっ、ずり。はだけたナマエの下半身と空却の膝が畳に擦れる音が、布団を敷く余裕もなくことに及んでしまっている事実を否が応でも突きつけてくる。いや、ただしくはナマエは巻き込まれた形なのだが、こうなってしまえば結局は同じだ。

「んん、ひっあ、あ、っ」
「おい力抜けって…、あーくそ…っ」
「ひ、う、んんん…っ!♡」

 きゅうきゅうと締め付けてくる中に空却は小さく舌打ちをすると、両手をナマエの膝裏に回し、そのまま勢いよく上体を倒す。内壁を強く擦りながら奥を突かれたナマエの身体は跳ね、より一層中のものを締め付けた。

「はっ…出る、っあ゛、はー…」
「あ、あっあ、は…ん、ぅっ♡」

 蠢く中に引きずられ空却が熱を吐き出した瞬間、注がれるそれがいつもよりずっと重く、熱く感じて。まさかと思い繋がるそこを見れば、あってはいけない予想通りの光景が広がっていた。

「空却さっ、なん、で、付けてないの…っ」
「あー…取り行く暇なくてな……」
「入ってるの…そこの引き出しじゃないですかあ……」
「…悪い」

 余裕がなかったのか面倒だったのか。理由は定かではないが、出してしまった時に本人もまずいと思ったのだろう。手が届く場所にあるあれこれする時のあれやそれやが入っている棚から気まずそうに目を逸らす姿に「空却さんのばかぁ…」とぐずぐずとと鼻を鳴らしながら悪態をつく。
 そもそも、寝てる間に勝手にことに及ばれた自体、ナマエにとっては大問題なのだ。誰も家にいないからこその行動ではあるだろうが、それでも突然すぎる。ちゃんと起きている時に言ってくれれば心構えもできたというのに。目覚めたらいきなり入ってました、なんて。誰にも話せない悪い冗談だ。

「も、抜いてください…っ」
「あ?あー…」
「っひ、あ!?」

 ナマエの言葉に少しだけ迷った素振りを見せた後、何を思ったのか空却は胸の突起をべろりと舐め上げた。しかも今度は、ご丁寧に柔らかく噛むオプションまでつけて。

「やっ、ちょ、噛んじゃ、あ、あっ♡」
「あんま動くとまた奥入っちまうぞ」
「ん、んんんっ、ふ、」

 だったら止めて欲しい、なんて訴えを空却が聞き入れるはずもなく。受け止めきれず溢れた精液を奥へ押し込むように腰を揺らされ、細い腰がびくびくと跳ねる上がる。

「あ、なんっ、身体、へん、あ、あっ」

 というか、なんか、熱い。いつもとは明らかに違う、腹の奥底が痛いぐらいに戦慄いているその感覚にナマエが戸惑いを隠せずにいると、空却が思い出したように「ああ、」と呟く。

「お前、寝てる時二回ぐらいいってたからな」
「…え?」

 寝てる時?嘘でしょ。ああでも、起きた瞬間からの怒涛の勢いに気付かなかったけれど、考えてみれば確かに辻褄が合う。
何もせずに挿入などそもそも無理な話だし、何より、ここまでされて今気付くなんて遅すぎるという、あの言葉。
 以前がっつり噛まれていた時もそうだったけど、いい加減好き勝手されすぎではないだろうか。あと、我ながら冗談のように眠りが深すぎる。
 空却の行動もだが、何よりその言葉通り自身のあまりの腑抜けっぷりに信じられないと絶句してしまう。そんなナマエの様子に空却は意地悪く笑うと、下りていた子宮口をこじ開けるように勢いよく先端を押し付けた。

「ひっ、あ!」
「だからよお…はっ、いつもより中が凄えんだよな…う゛」
「あ、奥やだ、あ、ぁああ、あっああ、あ…!♡」
「ぐっ…う゛ぁ…」

 付けた先端で入り口をくすぐるように犯した途端、限界だったナマエの身体はあっさりと、それでいて深く達してしまう。種を搾り取ろうと蠢めく中に耐えようとしたものの、結局空却も誘われるまま再び中へ精を吐き出してしまった。

「ひっ、う、ん、ふあ、んん…っ」
「は、ん…」

 最奥に直接叩き込まれる感覚に何度も背を反らすナマエを労わるように軽く唇を落とすと、すっかり力の抜けきった身体を抱き上げる。「風呂沸かしてあっから入んぞ」だからもう少し踏ん張れ、そう意味を込めて声を掛ければ、首に回された腕がぴくりと反応する。

「……空却さん…お風呂、いつ沸かしたんですか…」
「あ?お前が寝てる間」
「洗ってなかったです、よね…」
「拙僧が洗ったに決まってんだろ」
「…洗う余裕があったなら…なんでゴム用意しなかったんですか…」
「………」

 返事がないことはわかり切っていたが、生憎それを咎めるほどの気力がナマエには残っておらず。代わりにしがみ付いた背中を軽く叩くと、許せとでも言いたげに腰を撫でられた。
 また流されてしまったと、もう何度目かもわからない反省を心の中でしながら、いっそ部屋に鍵でもかけた方がいいのだろうかとさえ思っていると「余計なこと考えんなよー」とからかうような口調で言われる。あれ、私今声に出してたっけ。



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