※大学生設定です。
※白布くんの口が若干悪いです。
※若干の下ネタを含みます。
「賢二郎くんって性欲ないの?」
交際歴四年、同居歴一年半。
毎朝顔を合わせて毎晩同じベッドで眠る。
それなりに手を繋ぐしキスもするしセックスもする。
仲が良いというかもういて当たり前の存在だし、まだ大学を卒業してないから気が早いわけだけど、たぶんこのまま結婚するんだろうと思う。
そう想像するたびに「白布ナマエか、ごろ悪いな」とぼんやり思う日々だ。
そんな恋人がある日突然言った言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けた。
「は?」
「性欲ないの?」
「……どの口が言ってんだよ」
「この口」
けらけら笑って自分の口を指さしたナマエは恐ろしく楽しそうに見える。
いや、意味が分からない。
俺が?
性欲が?
ない?
一昨日抱かれたばかりの恋人に言われる筋合いはない。
なんだ、浮気をしろってことか?
外で男を磨いてこいってことか?
それとも回数が足りないってことか?
それとも子ども早く作って結婚したいと暗にアピールしているのか?
レポートを書いていた手を止めてナマエとの会話に脳みそをフル稼働するが、正直いって意味が分からない。
「変な顔してる〜」と指をさされて笑われるのも不本意だ。
人を指さすな。
あと変なことを言われたら変な顔をするのは当然だ。
「……欲求不満なのか?」
「ちがうし!」
コーヒーどうぞ、とノートパソコンの横にコップを置いてくれる。
笑いつつも俺の隣に座って洗濯物を畳み始めた。
いよいよ意味が分からない。
自分が欲求不満だから回数を増やせとかそういう話ではないのか?
もしかしてもっと面白みのあるセックスをしろってことか?
わけが分からなくなってきた。
「昨日ね、友達とおしゃべりしたんだけど」
「……おう」
「週六なんだって」
「なにが?」
「えっち」
「…………元気だな」
「でしょ?」
俺のシャツを畳みながら「それでね、あんたんとこはどうなのーって聞かれてさあ」と一人で大笑いしながら俺の背中をばんばん叩く。
痛いんだけど。
口には出さないまま話を聞いていると、そのときありのままを答えたらしい。
「うちは週二か週一だよーって言ったらさあ、ものすごく驚かれて」、いやお前、なんで他人に夜の事情しゃべってんだよ。
「友達は二回戦三回戦もするらしくてね〜」、いやお前、他人のとこの夜の事情を詳しく話してんじゃねえよ。
「友達に賢二郎くん、本当は性欲ないんじゃないって言われてさ〜」
「はあ?」
「ないならないでいいんだけどさ、我慢してるなら言ってほしいな〜?
と思って〜?」
性欲がないわけでもないし我慢してるわけでもない。
世の中の男が全員週六で二回戦三回戦かませると思わないでほしい。
「まあ頻度は抑えてるけど」
「え、抑えてるんだ?」
「かといって週六は無理」
「なんで抑えてるの?」
洗濯ものをすべて畳み終わったナマエがきょとんとした顔をする。
その顔から目を逸らしつつレポートに戻る。
ナマエはそれを見るなり「あ!
逃げた!」と俺の頭を両手でがしっとつかんだ。
ぐりぐりと頭を揺らされつつレポートを書き進めていく。
ナマエは楽し気に俺の頭を揺らし続けたのち、「ねえ、本当になんで?」と顔を覗き込んできた。
「なんか間違いがあると、申し訳ないだろ」
「申し訳ないとは?」
「お前んちのご両親に」
「……子どもできちゃったら、ってこと?」
「卒業も結婚もしてないのに、そこの順番間違えたら、本当顔向けできないし」
だからですけど。
ちゃんと避妊しているとはいえものすごく可能性は低いけれども、できちゃった例もあるし。
それになにより子どもを作るわけじゃないのに、なんていうか、そういうことするっていうのは、ただ単に性欲を吐き出すための行為になってしまうというか。
ナマエがそういうことに積極的な性格だったら違っていたかもしれないけれど、ナマエは別にふつうだし。
終わったあと結構しんどそうにしてるの知ってるし。
別に、そういうことしたくて、ずっと付き合ってるわけじゃないし。
言いたいことは山ほどあったけど、とりあえず黙っておいた。
「へ〜?」
「……なんだよ」
「ん〜ん?」
「だからなに」
「愛されてるなあと思って?」
「……」
「うれし」
「はいはい、よかったね」
ぐえ、と思わず声がもれるほど首に抱き着かれる。
ナマエは何度も何度も「嬉しい」と言って、ずっと笑っていた。
きっと永遠を知るんだ
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