朝、アラームが鳴る前に目が覚めてしまい、なんだか眠くもなかったので顔を洗いに行くことにした。
他はみんな眠っているので起こさないように忍び足で部屋を出て、洗面所がある一階へ降りる。
台所の方からは今日の朝食係のマネージャー三人の話し声が聞こえて、思わずどきっとしてしまった。
思い出すな、平常心でいろ、ただホワイトデーのお返しあげただけだし、別に意識するところなんて一つもない。
そう自分に言い聞かせて洗面所のドアを開け、気合を入れるように冷たい水で顔を洗った。
びしょ濡れの顔を拭こうとしたとき、「あ」と思わず声が出た。
タオル持ってくんの忘れた。
前髪までびしょ濡れになっている自分を鏡で見て、ため息が漏れた。
さすがにこのまま廊下を歩いていくのもあれだし、と仕方なく服で多少拭いておく。
びしょびしょになった服にまたため息が漏れると、洗面所の入り口から「あっ」と高い声が聞こえてきた。
「お、おはようございます!」
「お、おう〜おはよ〜」
ミョウジがいっぱいになったらしいゴミ箱を持って立っていた。
どうやらゴミ捨て場に持って行く途中だったらしい。
すごく情けない姿を見られた気がして恥ずかしくなってしまう。
あと、何より、なんだかいつもより少しだけ高い位置でくくられたミョウジのポニーテールに、あれがついているのかが、恥ずかしいけど気になってしまう。
「あの、なんでそんなびしょ濡れなんですか…?」
「顔洗いに来たはいいんだけどタオル忘れてさ」
「ドジですね!」
「なんだと〜?!」
あ、なんかいつも通りだ。
ほっとする。
ミョウジはゴミ箱を置くとエプロンのポケットからフェイスタオルを取り出した。
それを俺に差し出すと「これまだ何も使ってないので」と笑った。
「よかったらどうぞ!」
「……いいの?」
「はい!」
さすがにちょっと困っていたので有難くそれを受け取らせてもらう。
受け取るために近付いたミョウジのつむじが見え、ちょっと角度を変えたらポニーテールの根元も見えた。
「じゃあ、また朝ごはんで」
「おう」
「タオルは今日の洗濯にぽいっと入れといてくれればそれで大丈夫です!」
「サンキューな」
ミョウジがゴミ箱をまた持ち上げて、いつも通り明るく笑って「失礼します!」と方向転換した。
その背中を引き留めるように「ミョウジ」と声をかけてしまう。
「はい?」
「あー……えーっと、それ、似合ってる。
付けてくれてありがとな」
何言ってんだ俺。
照れくさくて視線を逸らしてしまった。
しかも付けてくれてありがとう、ってなんか違くないか?
黙ったままでいるミョウジのことをそうっと見てみると、俺と目が合うなりミョウジは重たいだろうにゴミ箱を顔の高さまで持ち上げた。
「こちらこそ!
です!」とだけ言うとすぐに背を向けて走り去ってしまった。
darling 春季合宿6(k)
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