梟谷学園バレー部かくれんぼ大会は衝撃の幕上げとなる。 開始から二分が経ち、鬼の赤葦が捜索に出たわずか三分後のことだった。 まだ隠れ場所を探して彷徨っていた俺のスマホが振動した。 ダイレクトメールか何かかと思ったのだが意外にもバレー部のトーク通知が来ている。 ルール変更でもあるのかと思って開くと、トーク発信者は赤葦だった。

『体育館にて木兎さん確保』

 マジかよ。 早すぎるだろ、主催者。 呆れつつ思わず吹き出すと、どこかに隠れている別の部員が吹き出した声も聞こえた。 恐らく木兎は今頃「なんで見つけちゃうんだよ赤葦〜!」と拗ねていることだろう。 容易に想像できるそれにまた少し笑いつつ、場所を変える。
 赤葦はいま体育館にいるので、俺が今いる場所だと近すぎる。 このままうろつくにしても見つかる可能性が高いし、この辺りに隠れて様子を窺うのがいいだろう。 そう思ってこそこそと辺りを見渡すが、隠れられそうな場所は一つしかない。 雪かき用のスコップやその他外で使う道具と、あと少し宿舎で使うものがしまってある倉庫だ。 あそこは基本的にいつでも鍵が開いている状態だし、意外と広いこともあって隠れ場所としてはうってつけだ。 ただ逆にうってつけすぎて赤葦が絶対に探しに来る場所ではあるけれど。 でも今からここを動くのは危険だし……って俺、なんでこんなに真剣に考えてんだ? 苦笑いをこぼしつつ、「まあ見つかってもいいや」という思いつつ倉庫に入った。
 倉庫の中は電気を付けないままだと少しくらい。 小窓から差し込む光があるので中の様子が見えないということはないのだけど。 物が多いのでやっぱり隠れ場所はかなり多そうだ。 倉庫の奥の方へ入っていく。 外の倉庫ということもあってひんやりしている。 多少でも寒くないところはどこかな〜、と探していると、ちょうどいいものを見つけた。 宿舎にあるこたつは新しいものなのらしいのだけど、その古いこたつがここに仕舞われていたのだ。 もちろん机部分とこたつ布団部分は崩されているけれど、布団は適当にマットのようなものにかけられているだけだ。 ま、汚かったらやめとこ。 そう思いつつ布団を指でつまんで持ち上げると、「ぎゃっ」と中から声が聞こえた。

「ミョウジ?!」
「え、え、木葉さん、鬼ですか?!」
「いや、違う。 隠れ場所探してたんだけど、そっか、ミョウジここにいたのか〜」

 じゃあここはだめか〜、と頭をかいたときだった。 ガラガラ、と閉めた倉庫のドアが開いた音がした。 うわっ、まじかよ。 わたわたしているとミョウジが俺の足をつんつん指で突く。 こたつ布団を広げてくれたので、ありがたく一緒に入れてもらったら間一髪発見は免れた。 まだ倉庫の中に鬼がいるので油断はできないが。 二人で息を潜めて難が立ち去るのをじーっと待つ。 足音が少しずつ少しずつ近付いてきたかと思いきや、くるっと踵を返した。 そうしてふつうに倉庫から出ていき、ガラガラ、とドアが閉められた。

「……大丈夫?」
「大丈夫みたいでしたね」
「赤葦だったよな、今のたぶん」
「木兎さんだったらもっと足音がうるさいですもんね」

 赤葦にしては探しが甘いような? まあ、そこまで真剣にやっているわけじゃないからかもしれないが。 ミョウジも不思議に思ったようだったが俺と同じく「遊びですもんね」と笑った。
 鬼が探して成果がでなかったこの場所が今は一番安全圏なはずだ。 ミョウジに「俺もここいてもいい?」と苦笑いで聞いてみると「いいですよ!」と快く了承をもらえた。 こたつ布団も結構新しいもののようで汚くないし、助かった。 暖をとりつつここでのんびり一時間の経過を待つことができれば一番いいのだが。
 そう思っているとポケットのスマホが振動する。 誰か捕まったか、と思ったのだがミョウジのスマホは反応していないようだ。 今度こそダイレクトメールか、と思いつつ画面を見ると、またしてもトーク通知だった。 ただしバレー部グループからではなく、なんと赤葦個人からだった。 え、なに? 若干どきどきしつつ開くと、短い文章が目に飛び込んできた。

『お邪魔しました』

 …………赤葦、お前本当怖いよな。 ぼそりと心の中で呟いておく。 部活のグループトークに俺とミョウジの発見報告が流れないあたり、「見なかったことにした」というやつなのだろう。 その妙な心遣い、ふつうに照れるからやめてくれ。 一人で勝手に照れているとミョウジが「誰か見つかりました?」と笑う。 赤葦からのお心遣いです、なんて言えるわけもなく「いや、ダイレクトメールだった」と誤魔化しておいた。

「木葉さん、木葉さん」
「ん〜?」
「おりゃ〜」
「おりゃ〜、じゃねえわ!」

 眉間を指で突いてきたミョウジに笑ってそう言うと、ミョウジは「おりゃ〜」をまた繰り返した。 相変わらず行動の意味が分からないが、楽しそうなので良しとする。

「そういえばミョウジってなんでうちのマネージャーになろうと思ったんだっけ?」
「え、木葉さんに一目惚れしたからですけど」
「はいはいありがとう。 で、なんで?」
「軽く流しましたね」
「そもそもなんで梟谷に入ったの? 家近いわけじゃないだろ?」

 ミョウジが固まる。 笑ったまま固まるもんだからなんだか面白くて吹き出してしまった。 「え、俺なんか変なこと聞いた?」と笑いながら首をかしげると、ミョウジも笑った。 「ばかだなあ」と呟いた言葉の意味は分からなかったが、ミョウジの顔は今まで見たどんな表情よりかわいらしく見えた。

「秘密です」

 くすくす笑い続けるミョウジは、なんだか嬉しそうに見えた。


darling 春季合宿10(k)

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