※木葉の友人数人がかなりしゃべります。
※モブくん一人に名前がついています。 (加藤くん:陸上部三年生)




 二週間という短い期間の休みだったはずなのに、学校に来ることがとても久しぶりに思えた。 騒がしい昇降口をとおって靴を履き替える。 靴は袋に入れて一旦教室に持ち帰り、帰り際に新しい自分の出席番号の場所に入れることになっている。 見知った顔数人と鉢合わせたので「おはよ」と挨拶をし合って一緒に掲示板に向かった。
 学年ごとに発表場所が異なっているので掲示板前はそんなに混み合っていなかった。 周りより若干背が高いこともあってちらっと見たらすぐに自分の名前を見つける。 バレー部でいえば去年は鷲尾と同じクラスだったが、今年は雀田と同じクラスのようだ。 昇降口で一緒になったやつらとはクラスが違ったためそこで別れる。 3年3組の教室へ入ると「お〜木葉」と数人に声をかけられた。 その輪に入って談笑をはじめると、あとから入ってきた雀田が「げぇ〜」と嫌そうな声をあげてきた。

「げぇ〜とはなんだよ!」
「去年は雪絵と一緒だったのにな〜今年は木葉か〜〜」
「いいだろ?! よろしくな?!」
「え〜……よろしく〜……」
「嫌そうにすんな!」

 けらけら笑ってやると雀田もけらけら笑ってから自分の席へ向かって行った。 雀田はさっぱりした性格をしているので友人が多いイメージだったが、そのとおりなようですぐに女子の輪に入って談笑し始めた。 白福ものんびりした性格が付き合いやすいのか友人が多いイメージなので、今頃教室で騒いでいるのだろう。 そんなことを考えていると、友人がぼそりと「白福さんかわいいよな〜」と呟く。

「なあなあ木葉、白福さんって彼氏いんの?」
「いや、いねーって言ってたけど」
「マジ? あのバレー部の仲良いやつと付き合ってないんだ?」
「は? 誰のこと?」
「なんだっけ」
「木兎だろ?」
「あーそうそう!」
「いやいやいやいや、ねーわ」

 苦笑い。 たしかに白福と木兎は仲が良いがそんなふうに思ったことは微塵にもない。 というかそうだったとしたら二人の隠密能力が高すぎて驚く。 部外の人から見たらそういうふうに見えるのか、と少し不思議な気持ちになった。 そこから話がなぜかそっち方面になる。 中の一人がこそこそと「つーか、木葉ってさ」と声をかけてきた。

「雀田と付き合ってんだろ?」
「……え、そっち?」
「え、どういうこと?」
「いやよく言われんのはミョウジの方だからさ」
「ミョウジって誰?」
「あ、二年の子だろ?! 木葉にベアハッグかましてた子!」
「ベアハッグ?! どんなやばい女子だよ!」

 なかなかの言われようである。 ミョウジのことを「ベアハッグ」という一つの事柄だけで話し始める友人に苦笑いがもれる。 ミョウジ、お前三年男子の中でかなりやばい女子と認識されてるぞ。 内心若干同情しつつ話を聞いていたが、残念なことに訂正すべき事柄は一つもない。

「で、その子と付き合ってんだ?」
「いや付き合ってないけど」
「付き合ってないのにベアハッグかましてくんの?! やべーな?!」
「木葉、加藤って分かる?」
「どの加藤?」
「陸部の加藤」
「あー分かる、けど加藤がなに?」
「そのベアハッグの子のこと、好きらしいぞ」

 びっくりして動いた足が机に当たってがたっと音を立てる。 え、なんで? そう驚愕していると友人が本人から聞いた話をぺらぺら話し始める。 バレー部が使っている体育館は陸上部が使っているグラウンドの横にある。 マネージャー陣がドリンクを足しに行ったりタオルを洗いに行ったり、とにかく外に出るときは割と陸上部と鉢合わせることが多い。 なおかつ外に行く仕事をミョウジが率先してやる。 重たいものを運んでいたりなんやりしている姿を見て、「一生懸命でかわいい子だな」と加藤は思ったらしい、のだとか。

「ベアハッグの子、彼氏いんの?」
「……いや、いないけど……てかベアハッグの子言うな」
「加藤はその子に話しかけてんの?」
「いや〜なんかきっかけを探してるんだと」
「あいつ女子にそこそこ人気だし、適当に話しかけときゃなんとかなりそうだけどなあ」

 友人たちがその話で盛り上がり始める中、一人で加藤のことを思い出す。 一年生のとき同じクラスだったが、たしかに女子にそこそこ人気があったのを覚えている。 真面目なスポーツマン。 簡単に表すならそんな感じのやつだった。 当時は彼女がいたはずだが知らない間に別れていたのだろう。 何度か話したこともあるが、真面目ながら結構ノリも良くて話しやすかった。 頭の中で二人を並べてみる。 ……まあ、うん、ふつうに、お似合い? お似合いというかどう考えても俺よりかっこいいし、真面目だし、気の利くやつだし。 頭の中で並べた二人が楽し気に談笑する姿もふつうに思い浮かぶ。
 勝手に。 本当に勝手な話なのだけど、ミョウジが一生懸命でかわいいとか、そういうの、俺以外だとバレー部のやつしか知らないと思っていた。 ものすごく失礼なことを言うとミョウジは顔がめちゃくちゃかわいいということはない。 本当にふつうの女の子だ。 ふつうの女の子は先輩にベアハッグをかましたりしないだろうが、そうだとしてもふつうの女の子なのだ。 だから、なんていうか、分かる人には分かる魅力というかかわいらしさがあって。 そういうの、俺とバレー部のやつらしか知らないだろうと思っていたのに。 それ以外のやつが見つけたと思うと、なんだか妙な気持ちになってしまった。

「ミョウジだっけ? どんなやつが好きとか知らないの?」
「……たぶん」
「たぶん?」
「なんか、キーホルダーにして持ち運びたい系男子……だと思うけど……」
「いや、意味分かんねえわ」

 だと思うけど、というか、だといいんだけど、か。


darling 新学期(k)

ALICE+