※モブちゃんが喋り、名前があります。 (今井さん:女子バレー部一年生)




「あ、木葉さん!」

 部活の休憩中、体育館から出て水道で顔を洗っていると声をかけられた。 置いたタオルを手に取って顔を拭いてから声がしたほうに目をやる。 そこにいたのは後輩の。

「おう、お疲れ」
「お疲れ様です!」

 女バレの今井さんだ。 にこにこと笑いながら俺の隣にやって来て、同じように顔を洗い始めた。 きゅっと水を止めたあとに「あっ!」と声を上げたのでどうしたのか尋ねると、どうやらタオルを忘れてきたらしい。 服で拭こうとしているのを止めてから「あ〜使用済みですが」と苦笑いしつつタオルを差し出してみる。 洗った顔を拭いただけで汗を拭いたりはしていない。 一応そのことを説明しようとしたのだが、その前に今井さんは「いいんですか?」と言ってタオルを受け取っていた。

「男バレは明後日練習試合ですよね?」
「女バレはオフだろ〜いいな〜」
「木葉さんのこと応援しに行きますね! 頑張ってくださいね!」
「エッ、アッ、ハイ」

 声がひっくり返ってしまった。 にこにこと笑って「あ、そろそろ戻ります!」と俺にタオルを返してから今井さんは走って帰って行った。 一人で呆然と立ち尽くす俺は完全に置いてけぼりになってしまう。 しばらくしてからはっとして体育館へ戻るべく歩き始めると、体育館の入り口から猿杙と小見がにやにやと笑って待ち構えていた。

「見たぞ〜?」
「見たぞ見たぞ〜?」
「な、何をでしょ〜?」
「モテ男のモテっぷりを〜?」
「見ちゃったぞ〜?」
「いやマジそういうんじゃないんでやめてください本当に」

全力で照れつつ二人を押しのけて体育館に入る。 タオルをぽいっと自分のボトル付近に投げてから一つ伸びをすると、背後から思い切り蹴りをかまされた。 背中をさすりつつ「なんだよ!」と強気に振り返る。 そこにいらっしゃったのは雀田さんでした。

「見〜ちゃった〜?」
「な、なんでしょうか……」
「モテ男のモテっぷりを〜?」
「あ、あの、雀田さん……あれはですね、あの……」
「浮気男の浮気っぷりを〜?」
「浮気って大袈裟だろ?! そもそも浮気とは?!」

 付き合ってないんですけど! 若干照れつつ答えたが照れている場合ではない。 雀田曰く俺はたまにものすごく何かを踏み外す瞬間があるらしいので気を付けなければ。 頭の中で次に出す言葉を考えつつ雀田から視線を逸らす。 いや、あれ、俺のせいか? というかふつうに会話してるだけだし、何が悪いというのだろうか。 ふつうに女バレの後輩と会話しただけじゃん、俺! 心の中でそう叫びつつ雀田に視線を戻す。 すると、意外なことに怒った顔ではなくなんだか薄暗い顔になっていた。

「いやあ……誤算だったわ……」
「な、なにがでしょうか……?」
「あんた、年下キラーなの?」
「は?!」

 思わぬ言葉に少し大きな声が出ると、白福もこちらへ混ざってきた。 「なになに〜?」と雀田に話を聞く。 するとすぐに「あ〜最近キラーっぷりを発揮してるよね〜」と俺の脇腹を小突いてきた。 年下キラーとは? 生まれて初めて言われたが? はてなを飛ばしていると白福が「たぶんね〜」と苦笑いをこぼす。

「木葉ってなんか気を遣わなくていい雰囲気あるでしょ〜?」
「えっそうか?」
「なんか話しやすいっていうか? 基本的に優しいしね〜。 そのくせやるときはやるっていうか〜?」
「エッ、あの、照れるんでやめてもらっていいですか」
「キモイ」
「一気にひどいな?!」

 上げて超絶落とす、それが白福雪絵のやり方である。 二人はこそこそと何かを話しながら俺から離れていくとマネージャー業へ戻るようだった。 一つため息をついてからそろそろ再開されるであろう練習の準備をしていると、今度は「お疲れ様です」と横から声をかけられる。 顔を向けつつ「お疲れ」と言った先には赤葦とミョウジがいた。 今日二年生は課外授業だったため練習に遅れてきたのだ。 他の二年生も体育館に入りつつ挨拶をしている。 赤葦はいつもの位置にボトルとタオルを置きながらミョウジと何かを話している。 聞き耳を立てるのも悪いので知らんふりをしておく。
 練習がはじまる前に監督がマネージャーを含む部員全員を集めると、練習日程の変更を口頭で説明し始める。 何でも明日土曜日は急遽女子バスケットボール部が練習試合をすることになり、女バレが使っている体育館が占拠されてしまうとのことだった。 そのため土曜日は男バレが使っている体育館の半面を女バレに譲ることになったのだという。 男バレも体育館が使えないときは女バレの体育館を半面借りているので、部員から不満の声が上がることはなかった。 それに伴い練習メニューが一部変更となったことを説明し終えると、監督の号令で各人が練習メニューに入った。


darling ライバル?2(k)

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