善良な狼と羊ちゃん


「あ!なまえちゃん!」
「あ…雅貴さん」

数日前、スーパーで安売りをしていたため大量に買い込んでしまった。一人で持ち帰るにはギリギリというか腕がちぎれそうになるぐらいで、スーパーを出て数分で力尽きた。近くだからと徒歩で来てたのが運の尽き。歩きだとだいたい15分くらいかかる。馬鹿な自分に泣きたくなったが家に帰らなければいけなかったため袋を持ち上げようとしたとき、すっと手が伸びてきた。


「大丈夫?」


女の子がこの量を持って帰るのは大変だよね、家どこ?手伝うよ、とにこやかに登場した名もなきイケメンがこの雨宮雅貴さん。身長が高くて体格もがっしりしてて黒のライダースを着ている、という時点で正直恐怖しかなかった。あとイケメンフェイスが眩しい。
一度きりの出会いだと思って、口頭でのお礼をさっさとすませて家に入った。失礼だとあとで思ったけれど、その時はイケメンこわいとしか考えられなかったんだから仕方ない、うん。
でもたまたま再会ときにあの時のお礼しなきゃ!という謎の使命感にかられ喫茶店に誘った。


「あ、あああああの…この間は…その、ありがとうございました……」
「いいって!気にしないで?」
「で、でもっ、その、ろくにお礼もできなかったので……ごめんなさい」
「あー…あれはちょっと悲しかったかな」
「そうですよね…だから、あの…」
「ん?」
「よ、よければ…そのお茶でも…」
「え、いいの?」
「近くにおいしい紅茶の喫茶店があるんです…よかったら」
「行く行く!」


よくよく考えたらまともに話せてないし誘い方下手だった。泣きたい。
雅貴さんは話し上手で聞いていて楽しいし、話下手でうまく言葉にできない私の話も微笑みながら聞いてくれる、本当にいい人。

「ん?なまえちゃんどうかした?」
「え?」
「いやずっと俺のこと見てるから。はっ!もしかしてクリームとかついてる?!」
「つ、ついてないです……」

うわ、私ったらそんなに見てたのか恥ずかしい。顔赤くなってないかな。
今日は雅貴さんおすすめのカフェに来ている。店内は落ち着きやすい雰囲気でとても私好みだった。雅貴さんも珍しくライダースじゃなくて普通の私服。いつもとはまた雰囲気が違ってかっこよく見える…ってなに思ってるんだろ私。

「顔赤いけど、熱でもあるんじゃ」
「い、いやっ、大丈夫ですっ」
「本当かなあ…うーん心配だから送っていくよ」
「一人で帰れます…」
「俺が心配だから、ね?」

イケメンの微笑みは卑怯だと思います。
かっこいいとは思うけど、口には出せない。こういうとき、さらっと言えたら良いんだけど口下手で意気地無しの自分が嫌になる。

「どうかした?」
「え?」
「ため息ついてたから、何か嫌なことでもあったのかと思って」

もしかして俺迷惑だった?と捨てられた子犬のような表情をする雅貴さんに慌てて首を横に振った。

「そ、そんなことないですっ」
「ほんと?なら良かったあ…なまえちゃんに嫌われたのかと思った」

ほっ、と雅貴さんが安心したように笑った。その笑みがあまりにも綺麗でかっこよくて…

「…………すき」
「………え?」
「っ???!!!」

私、何言ってるんだろ?!なに急に好きとか言ってるんだろ?!雅貴さんだって突然のことに目を丸くしてるし!ああ、もう無理だ、耐えられない

「し、失礼しますぅぅぅっ!!」
「あ、なまえちゃん!!」

私を止める声なんて聞こえないったら聞こえない!顔がとても熱くて、恥ずかしくて早くこの場から去りたい。もうしばらくは雅貴さんに会えない!


去ることだけを考えて、後ろを振り向かなかった私は全く気づかなかった。


「……やっと俺のところに来てくれた」


雅貴さんが頬を染めてうっとりとそう呟いたことに。


善良(偽)な狼と羊ちゃん


(ねぇねぇ!)(うぜぇ)(お兄ちゃんにうぜぇ言わない!)(…)(聞いて、あのね、とうとうなまえちゃんが俺のこと好きになってくれたんだよ!)(夢か幻想だろ)(ほんとだよ!俺をぼーっと見てたり赤くなったりして何より俺のこと好きって…可愛かったなぁ)(……)(はぁ…危うく食べそうになった)((この変態に狙われたのが運の尽きだな、あの女))

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