秋色に染まる/秋月耀次郎


 帯刀さんの指導は厳しい。
それが、この先過酷な運命を辿るであろう少年が相手となると尚更だった。10代前半という多感な時期にこの事をどう感じるか▼にはわからなかったが、自分だったらグレていると思い。その少年にはとりわけ優しく接してきた。他の里の子供には不満の声もあったが、帯刀さんと少年の様子を見ているうちに何も言わなくなった。

「耀次郎、手当てするからいらっしゃい」
「▼姉さん」

 縁側に座って庭を眺めていた耀次郎に声をかけて、すっかり耀次郎専用になった薬箱を引き寄せた。
大人しく近くに座った耀次郎の袖を捲り上げると打って赤くなったり、擦って切れた傷が目に入る。帯刀さんも少し手加減してあげればいのに、と思うのだが、剣が分からない▼が口を出すことではないだろうと、唇を結んだ。腕以外の、上を脱いで露わになった皮膚にもなるべく優しく薬を塗った。

「耀次郎、他は大丈夫? 痛くない?」
「▼姉さんは心配性だな」

 もうどこも痛くないと苦笑した耀次郎が、上を肩に羽織った。出会った当初は全く表情の変化に気付かなかったが、よく見ればころころと変わっているのだ。
薬箱に丁寧に道具をしまって耀次郎に向き直ると、向かい合う耀次郎も居住まいを正した。ありがとうと礼を言って頭を下げた耀次郎の頭を抱いた。耀次郎はビクリと一瞬身を固くしてから、彼にしては慌てた様子で腕の中でもがく。

「耀次郎はもっと甘えていいのよ」
「姉さん」
「めいっぱい頑張ってるもの、私にくらい甘えたって罰はあたらないわ」

 そう言って腕に力を込めると、耀次郎は暫く考えたあと瞼を下ろした。耀次郎の背に回した手で、ぽんぽんと一定のリズムを刻む。自分と耀次郎の体温が程よく混ざり合い、うつらうつらとし始めた頃、腕の中の耀次郎が動いた。眠そうな目をした耀次郎が口を開く。

「いつか▼姉さんが甘えられるようになる」
「あらホント? 今以上に甘やかしてくれるなんて嬉しい」
「いつか、」

 そこから途切れた言葉に視線を下にずらすと、穏やかな表情で寝息を立てる耀次郎の姿が映った。
 
「先が気になるし、このままだと足が痺れるわ…」

 ▼の呟きは綺麗に片付けられた部屋に吸い込まれていく。溜息をついて、先ほどまで耀次郎が眺めていた庭を見ると紅葉が綺麗に色づいていた。

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