隣に並ぶ零距離の人/ルキナ



 大好きな父親から武器の補充を頼まれたルキナは、武器庫で並べられた数々の得物と向き合っていた。『ルキナ』と名前を呼ばれて振り向けば、見慣れた青年が手をあげる。

「▼」
「武器の補充に行くんだろ?一緒に行く。この剣、今のオレじゃちょっと使えない」

 そうするのが当然とでも言うように自然に横に並んだ▼は、腰に下げた剣に目を落とした。
軍師からの提案でチェンジプルフを使った▼だったが、今まで使っていた槍から剣を使うようになって、どうにも武器がしっくりこないのだ。武器屋でなにか安価な剣で買って訓練をしようと思っていたので、補充を頼まれていたルキナについていこうと声をかけたのだった。
▼と同じように、剣に目をやったルキナが納得したように頷く。

「ああ、▼も剣を使うようになったのですね」
「剣ならクロム様もルキナも使うから間に合っていると思ったんだけどな、オレは槍が得意だし」
「機会があるのなら、使えるようにしておいたほうがいいですよ」

 ルキナは倉庫に返しに来たと思われる▼の手の中の槍を掴む。譲るように▼が手を離した槍はずしりとした重みをルキナに与えた。その重みを、まるで自分の手のように扱う事のできう▼とは腕力の差があるのだと、改めて思い知る。槍の代わりとでもいうようにルキナのファルシオンの柄に触れていた▼は、ルキナの考えていた事を感じたのか、その手をそのままルキナの青い髪に乗せて撫でた。

「オレは腕力はあるけど繊細さには欠けるからな、そこらへんはルキナにご教授願おうか」
「いつでも相手になりますよ。もちろん、厳しくいきますが」
「ちょっとくらいは手加減してくれよ。槍ならともかく、剣じゃお前に勝てる気がしない」

 そう言いながら▼が槍を受け取って銀の槍の束に投げ入れると、『物を投げないでください』とルキナから咎める声と視線を送られる。物の扱いがやや粗雑なのが、この幼馴染の昔からの欠点だ。昔からそれをルキナが咎めるのが常であった。
誤魔化す様に笑った▼は、ルキナの手から補充する予定の武器をリストアップしたメモを奪うと『青銅の剣』と付け加える。それを覗き込んだルキナは納得がいかない、といった風に眉を寄せた。いくら不慣れな武器でもそのように威力の低いものでは、いま滞在している場所に現れる屍兵を倒すまで至らない。もちろん、その事を▼だって理解しているはずなのだ。
ルキナの表情に気付いた▼は『あぁ』と声を上げると、笑ってひらひらとメモを振る。

「これはお前と訓練する時の、ルキナ用の剣。ファルシオンなんて持ち出されたら、軍資金が全部壁の修繕に費やされそうだからな」

 無言で踏まれた足にびりびりと背中まで痛みが走り、声も出さずに▼は思わず蹲った。
痛みに耐える▼をジト目で見下ろすルキナだが、少しばかり思い当たる節があるのか、やや拗ねたような表情をしている。わざとらしく咳払いをすると、▼の手からメモを奪ったルキナは『行きますよ』といいながらマントを翻した。

「ごめんごめん、街でなんか食い物買ってやるから機嫌なおせ、な?」

 ルキナは早足だったというのに、コンパスの違いですぐに▼は追いつく。隣に並んだ頭は見上げないと届かない。いつの間にかこんなにも男女の差ができていた事にほんの少し寂しさを感じながらも、変わらない関係に寂しさよりも大きな嬉しさを感じた。

「機嫌が悪いわけではありません。が、その言葉には甘えましょう」

 緩く唇を持ち上げて、ルキナは覗き込んでくる▼を見た。
その表情に以前街で食事をしたときの食べっぷりを思い出した▼は『余計な事言ったかな』と頭をかいたが、すぐに少し先に進んでいたルキナの横に並んだ。
お互いの距離感を気にしない二人の様子は傍から見たら恋人同士と言っても差し支えなく。そんな2人を見たクロムがファルシオンを持ち出したのを見て慌てて軍師が止めに入ったのは、また別のお話。

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