その死線をくぐって/ルキナ



 時空の扉を超えて過去を変えれば今この時代が変わるかもしれないのだと、彼女は言う。一度超えれば元の時代に戻る事ができるかはわからないそうだが、それでも彼女は時空を超えて、未来を救うつもりだ。
そうでなければ今こうして屍兵を切り捨てて駆けているわけがない。

「ルキナ!」

 ルキナに向かって飛んできた手斧を剣で弾き飛ばす。▼の先を行っていた彼女は前方からの矢を叩き落して高く跳躍すると、そのまま父親から受け継いだ天空で屍兵を斬り捨てる。瓦礫を飛び越えながら、▼は走る速度を上げてルキナの横に並んだ。

「▼、ありがとう」
「どういたしまして!アイツ等、もう過去へ行ったかな」
「どうでしょう。私達が最後かもしれませんね」

 これまで一緒に戦ってきた仲間、クロム王の仲間達の子供達もルキナと同じように時空の扉を通って過去へ行く予定なのだ。
隣を走るルキナは▼も一緒に過去に行くと思っているようだが。▼は未だに過去に行くかどうか決めかねていた。▼もできることなら、いままでと同じようにこの幼馴染と一緒にいたい。しかしこのまま過去に行ってそう首尾よく未来を変えられるものなのか…。足を動かしながらも悶々と考えていた▼は、細い門の向こう、前方に見えた青い光に声を上げる。

「あれか!」
「!、時空の扉! ▼走って!」
「もう走ってる!」

 マントを翻して駆ける彼女の背中に、いつもの綺麗な長い髪は無い。ちらりと▼に視線をよこした横顔は不思議な形をした仮面で隠れている。
周囲に目をやるとナーガの力にひかれたのか、走る二人に気付いたのか、かなりの数の屍兵が進行方向を同じにしている。時空の扉までのあの細い門を塞がれたら、もしかしたらルキナが通る前に時空の扉が閉じてしまうかもしれない。ザリッと地面を踏みしめて急停止すると、▼は攻撃を受け流すための剣から本来の獲物である槍に持ち替えた。
立ち止まった▼に気付いたのか、門の向こう、少し離れた場所でルキナが足を止める。

「▼!」
「ルキナ!すぐに追いつくから行け!」
「……来なかったら、殴ります!待っていますから!」

 そう言ったきり勢いよく青い光に向かって駆け出した背中を見送る。『どうやって殴るつもりなんだよ』と一人呟いて苦笑いしてから、槍を構える。こういう時ばかり、斧を持った屍兵ばかりいるのだから、ナーガに文句のひとつやふたつ言いたくなるものだ。

「あーあー、あいつに殴られると痛いんだから、さっさと終わらせてぇなぁ…」

 待っていますから、なんて言われたら。過去がどうだの、自分の考えなんて放っておいて絶対にその華奢な背中についていくしかないのに。そんなこと、あの幼馴染はなんにもわかっていないで発言しているのだろう。ずっとそれに振り回されているのだから、慣れたものだが。
思考を振り払うように槍を一振るいすると、▼は迫りくる屍兵に向かって駆け出した。幼馴染の背中を追う為に。

ALICE+