君の名/時オカ勇者



 焦ったようなナビィの声に振り向いた先で、ピーハットに襲われた馬車を見つける。
流石に放ってはおけないので、パチンコで自分に注意を向けたリンクはコキリの剣を振りかざしてピーハットに向かっていく。馬車はその間に、少し離れた場所に止まっていた。ピーハットの相手も慣れたもので、首尾よく倒したリンクが剣をしまうと、いつの間にか近くに来ていた馬車から人のよさそうな男性が顔を出す。

「ああ、ありがとう少年!助かったよ!お礼がしたいが、君はこれからどこへ?」
「カカリコ村をこえて、デスマウンテンまで」
「カカリコ村!私達の家もカカリコ村なんだ、一緒に馬車に乗っていこう!なぁいいだろう、お前?」

 お前、と言われた先には男性の妻と思われる女性がいた。
女性は頷いて穏やかに微笑むと、手招いてリンクに横に座るようにしめす。大人しく言われるがままに横に座ったリンクは、女性の腹が大きく膨らんでいるのを物珍しそうに見つめた。その様子をみた女性がくすくすと可笑しそうに笑うと、リンクははっと俯いた。

「赤ちゃんがいるのよ、男の子か女の子かまだわからないけどね」

 コキリの森には妊婦、そもそも大人がいなかったので、この膨らんだ腹のなかに赤ん坊がいるのかと、リンクはまじまじと女性の腹を見た。たまに内側から蹴られるのだという。そうだ!と馬を操っていた男性がふたりに振り返る。

「そうだ! 少年、君さえよければお腹の子の名付け親になってくれないかい?」
「でも、そんな大切なこと、おれがしちゃいけないんじゃあ」
「いいのよ。だって、今あなたがあの魔物から助けてくれなかったら、この子は生まれてないかもしれないでしょう?命の恩人に名前をつけてもらえるなら、きっとこの子も大丈夫」

 腹を撫でている女性にもそう言われ、リンクはうんうんと唸って名前を考え始める。男の子か女の子かわからない、何かに名前をつけることさえ指で数えるほどしかなかった事や、横からナビィがちょこちょこと口を挟むものだから、なかなか考えが纏まらない。そんなリンクを夫婦は微笑ましく見守りつつ、カカリコ村への道をゆっくりと進んだ。
 オレンジ色の夕日が沈む頃、カカリコ村に到着すると、男性はせわしなく馬車から荷物を降ろす。
リンクは女性の横に座りながら、いくつかの名前の候補を頭に思い浮かべていた、ナビィは相変わらず頭の上をふよふよと漂いながらなにやら言っている。一区切り荷を降ろし終えた男性が、にこやかに笑いながらリンクに歩み寄った。

「どうだい、名前は思いついたかい?」
「それが、いくつかあるんですけど、どれがいいのかなって、決まらなくて…」
「まだまだ時間はある、じっくり考えておくれ!」

 リンクにそう告げて、男性は妻に話しかける。降ろした荷物をどうするとか、明日のことだとか、馬の調子だとか、他愛もないことを話しながら。男性の手が、とても優しく女性の膨らんだ腹を撫でる。
そんな夫婦の様子をみて、リンクのなかにすとんと何かが落ちる。

「あのっ、名前!」

「▼!▼がいいいです!」

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