勇者の休息/時オカ勇者



「リンクお兄ちゃん!」

 カカリコ村の門をくぐり道具屋へ足を運ぶリンクの長い耳が、後ろからかけられた声を捕らえる。振り返って即座に屈むと、リンクが思った通りの人物が手を伸ばしてリンクの首に抱きついた。
鼻を擽る髪のにおいに顔を埋めると、抱きついてきた人物――リンクが7年前に名前をつけた赤ん坊だった少女、▼はくすぐったそうに笑った。

「リンクお兄ちゃんこんにちは! 今度はどこに行ってたの?」
「こんにちは、▼。今度はカカリコ村の上の、デスマウンテンに行ってたんだよ」
「そういえば、お山すっごく静かになったわ」

 ▼を首に抱きつかせたままリンクは立ち上がり、近くにあった木箱に座る。
『やだ、お兄ちゃんばっちいよ』と▼がリンクの頬についた煤を拭うと、▼の手についた黒い煤を見たリンクが慌てて布を取り出そうとする。その様子を見て、リンクの上を飛んでいたナビィが呆れたように青色に瞬いた。
▼は手についた煤を気にすることもなく、リンクに旅の話をねだり。リンクもさらに言われるがままに話をする。これがここ最近の、カカリコ村に来たリンクの日常であり、▼の日常である。

「そうだ! 今日はお母さんとクッキー焼いたの! リンクお兄ちゃんも食べる?」
「食べる、けど、それなら一度宿にいかないといけないな」
「宿じゃなくて、うちに泊まればいいのよ! きっとお父さんもお母さんも喜ぶよ!」

 そうだろうかと思いつつも、人の良い夫婦だから、自分がいきなり泊まると言っても笑って寝床を用意してくれそうな気はする。
マスターソードを抜いて七年後の世界に来るたびに顔を出しているので、かなりの頻度でお世話になっているはずだが。いまだに嫌な顔ひとつされず、むしろ娘の面倒を見てくれてありがとうと感謝されるばかりだ。

「それじゃあ、▼の家に行こうか」

 にこにこ笑ってリンクの膝の上で足を揺らしていた▼が、再びリンクの首にしがみつく。それを合図にリンクはしっかりと▼の体を抱えると、カカリコ村の隅に建つ彼女の家を思い浮かべて、木箱から降りた。リンクの腕の中で揺られていた▼が、ふよふよと上空を漂っていたナビィに視線を向けて眉を寄せる。

「ナビィちゃんもクッキー食べれればよかったのにね」
『アリガトウ、ナビィは2人が食べてるのを見てるから大丈夫だヨ!』
「ナビィのぶんまで俺が食べるから、大丈夫」

 なにが大丈夫なの!と激しく点滅して怒るナビィに、リンクは笑って歩く早さをあげて、▼はリンクにしがみつく。2人と1匹でおいかけっこをしながらたどり着いた家の扉の前で、リンクの腕の中から▼が『お母さん、リンクお兄ちゃんがきたよ!』と声を上げた。
 リンクは、内側から開くであろうその扉を見つめた。

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