四月一日/---



 大広間での食事が終わり、刀剣達は各々のやるべき事の為に席を立つ。
その中で大広間に残ったのは審神者である▼と蜂須賀虎徹、燭台切光忠、鶴丸国永といった、常に厚樫山に出陣している面々だ。燭台切は食事の後片付けのため。虎徹は▼に今日の予定を聞くため、鶴丸は珍しく近侍に指名されたからである。……人間としての肉体を得て三年、虎徹と燭台切は、何故▼が今日この日に鶴丸を近侍にしたかよくよく理解していた。食事の場で『本日嘘をついた者は暫く刀装なし』という▼の言葉に首を傾げていた刀剣男子が多い中、この鶴丸国永はひとりだけまずい、といった顔したからである。
 そう、今日はエイプリルフールだ。

「いやぁ、朝から乱ちゃんあたりが『審神者、ボク、赤ちゃんできちゃったみたい……』とかしないか、僕結構ヒヤヒヤしてたよ」

 乱は昼時のそういったドラマが好きだからだ。まず、その台詞を聞いて驚く……を通り越して卒倒しそうなのは一期一振である。涼やかな水色の髪よりも、もっと深刻な青に顔を染めて倒れるだろう。心配する厚達の姿が目に浮かぶようだ。不器用ながら様々な事を手伝ってくれる一期の事を燭台切は好いている、なるべく心穏やかでいてもらいたい。
良かった、と茶碗を片づけながら息を吐く燭台切を見て、▼は首を傾げた。

「光忠、何を言っている。赤ん坊は鳥が畑に運んでくるのだろう」

 平然と、面で表情は見えないが、それはもう当たり前のことを言うようにすらりと▼の口から出た言葉に、その場にいた三人は動きを止めて沈黙する。一瞬で意思の疎通をしたのは燭台切と虎徹だ。『この子そういう知識なかったっけ』『知らないとも言い切れない』、そんな会話が目でされているとは思っていないのか、▼は動きが止まったままの燭台切に己の食器を渡した。鶴丸は白い衣装のフードをかぶって震えている。

「お前達のような神が鳥になって畑に置いて行くのだろう? そこに鶴もいるしな」
「そっ……そうだね! うん! なるべくこう、カッコいい鳥になりたかったよね!」

 上ずった声でどこか外れた事を言った燭台切は、▼から受け取った食器を持っていそいそと台所へ去っていく。不思議そうに首を傾げた▼が虎徹に顔を向けると、虎徹は暫く唸った後、勢いよく立ち上がった。

「畑当番の日だったのを思い出したよ」
「お前が畑当番でやる気なんて珍しいな」
「そういう日もあるさ」

 どこか早足で大広間を出て行った虎徹の背中を見送って、▼は残る白い塊……鶴丸を叩く。叩いた拍子にはずれたフードの下では、鶴丸が涙を浮かべて笑いを耐えていた。いつまでも肩を震わすその姿に▼がむっと顔を硬くすると、鶴丸はそれを察したのか「いやいや」と声を上げた。

「俺達に嘘をつくなと言ったその口で、嘘をつくとはなぁ。見たか、蜂須賀達のあの顔を」
「なかなか見物だったな」
「光坊は今頃食器でも落としてるんじゃないか」

 その鶴丸の言葉のあと微かに聞こえた陶器の割れる音に▼と鶴丸は顔を見合わせる。ひとつ音がしたと思えば、つられるように音が重なっていく。きっとあれでは台所は大惨事だろう。後で燭台切にもお手伝いのおみつさんにも怒られるのだろうが、▼もさすがに笑いを堪えきれなかった。鶴丸はすでに笑いを耐えると言う事を放棄して、声を出して笑っている。
大広間のなか笑う二人は、只々、共犯だった。

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