これが嫉妬ですか!/黒羽快斗


 1年の▼と2年の快斗は、世間で言えば恋人とか、そういう関係で。好きだ好きだと言われ、好きです好きですといい続けても、▼は、場違いかなぁ、とたまにふと思う。
HRが終わるのを待つために立つ2年の教室の前だとか、快斗と中森先輩と一緒の帰り道だとか、屋上で小泉先輩と話している快斗を見たときとかに、▼はなんともいえない疎外感を感じる。ぐるぐると胸の辺りが気持ち悪くなって、そういうときは快斗に気のない返事をすることもたくさんある。わかっているのかいないのか、快斗は苦笑いして頭を撫でるだけで、何も言わない。
いまだって、前を歩く快斗の斜め後ろを▼は黙って歩いていた。

「なぁ▼。オレはマジシャンであってエスパーじゃないから、黙っててもわかんねーよ」
「……自分でも整理中なので、もうちょっと待ってください」

 昇降口で傘をひろげながら、▼は隣で同じように傘をひろげている快斗に言う。どんよりした灰色の空とじめじめした空気が、沈んだ気分と思考に追い討ちをかけるから、なかなか整理がつかないのだ。校門を出ていつもの帰り道、昨日と違って今日は中森先輩はいない。歩いて数分、『たぶん』と快斗が呟く。

「いま▼が考えてる事って、オレも一緒に考えなきゃいけないことだと思うんだよな」
「そうなんですかね」
「お前がそうやって気難しい顔してるのが、オレと一緒のときだから、多分そうなんだよ」

 そうなんですか、と返して▼は取っ手を握る快斗の手を見つめた。暫くお互いに無言で歩いていたのだが、信号が赤で2人が足を止めたとき、▼がぽつぽつと黙っていた理由を零し始めた。

「快斗先輩が中森先輩とか小泉先輩と一緒にいるのを見るとこう、疎外感っていうか、モヤッとするというか、快くない。言ったらマズイかなーと思って言わずにいたら、なんかこうモヤモヤしてます、とても」
「じゃあさ、言わなくてもいいから、モヤモヤしたぶん甘えれば?」
「誰に」
「オレに」

 横を歩いていた快斗が急に傘をたたんで、▼の赤い傘を奪う。お互いの肩が触れそうなくらいの近距離で快斗が笑ったので、▼は直視できずに俯いた。俯く▼のつむじを見ながら、快斗が恥ずかしそうに口を開く。

「青子とか紅子とかと一緒にいたってさ、好きなのは▼だけだからさ」

 『嫉妬はいいけど不安にはなるなよ』と耳元で囁かれて▼は真っ赤な顔を隠しもせずに、赤い傘から飛び出した。意外と足の速い▼を、慌てて快斗が追いかける。二つほど角を曲がった辺りでようやく▼の手首を掴んだ快斗がしっとり濡れた▼の前髪をはらうと、未だに赤い頬をした▼が、うわああと両手で顔を覆った。

「快斗先輩!これが嫉妬ですか!」
「気付くの遅っ」
「だいたい快斗先輩のせいじゃないですか!」

 いつの間にか好きすぎるじゃないですか!と叫んで、▼はその場にしゃがみこんだ。

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