くじを引けば当たりを出すし、卵を割ればいつも黄身がふたつでてくる。賭け事になれば周りはわたしが賭けたものに同じように賭けるし、注文した料理はいつも調理者の調子が良い。今にも崩落しそうな洞窟に入っても平気だし、崩れそうな崖の上でスキップしたって何も起きない。雷は絶対にわたしの近くに落ちないし、風で飛ばされてきたものがわたしを掠めたことは無い。そしてわたしは神の目をもっている。
多分、わたしはモンドで一番幸運な冒険者だ。
生まれてからずっとそう。わたしが母親のお腹に宿ってから家の事業は軌道に乗り、わたしの成長と一緒に家はどんどん豊かになった。「お前は私たちの一番の宝物」と言われてすごしたわたしは、家族のためになったこの体質……と言っていいのだろうか、自分の巡り合わせに感謝した。
しかし、良いことばかりでもない。
モンドで一番幸運な冒険者のわたしの冒険には、圧倒的に『スリル』が足りないのだ。
怪我なく成果を得られるというのは傍から見たら羨ましいのかもしれないが、わたしには物足りないものだった。汗と泥と危険にまみれた冒険の末に手に入れるキラキラした宝物に憧れて、わたしは冒険者になったのだから。
そんなわたしは最近、幸運なことに心躍る冒険を手に入れた。
「ベネット!」
身体中に傷のある彼はベネット、たった一人のベニー冒険団の団長だ。
「どうした、冒険か?」
笑うベネットに、先ほどおまけでもらったリンゴを渡しながら頷くと、彼は瞳を輝かせた。
ベネットはとてつもなく不運な冒険者だ、もちろんこれはモンドの冒険者協会では当然の認知。
雨の中を歩けば雷が落ちるし、遺跡に行けば崩落する。突然見た事もない岩元素乱流に見舞われることもあれば、どこからか爆弾が飛んでくることもあるらしい。
そんな彼と依頼を共にしたのはつい最近で(もしかしたらこれも、ある意味わたしの幸運によるものかもしれない)
なんでもないスライム退治の依頼のなかで、わたしはヒルチャールの襲撃を受け、突然雨に降られ、肝心のスライムを見つけられずに数時間明冠峡谷をさ迷った。
ベネットからしたら普段より格段スムーズに危険なく行われた任務は、わたしにとっては未知の体験だったのだ。
彼の不運にわたしの幸運が相殺されているような、普通の冒険!
それからもう、わたしはベネットにべったりだ。いや、そんなにべたべたしているわけではない、隙あらば彼を連れて任務に行き。ベニー冒険団に入りたいと主張するくらいだ。後者に関して、ベネットはあまり良い顔をしないが……。
「オヤジさん達! ベネットを借りていきますね!」
ベネットの親代わりの老齢の冒険者たちに手を振って、わたしは彼の手を取って冒険者協会に走り出す。体勢を崩したが転びはしなかったベネットはすぐにわたしの速度に合わせて走った、彼は体がとても頑丈で、足も速い。なんて冒険者向きなのだろう。
ベネットとモンドを駆ける。それだけで、もうわたしの世界は変わっていく。
風がさらった木の葉が頬を掠めるし、不意にでてきた通行人とぶつかりそうになる。石に転びそうになるし、協会には危険な依頼が並んでいるかもしれない。わたしの望んだ『スリル』がほんの少しずつ世界を染めていく。たまらなく魅力的で、胸が躍る。
嬉しくて強くベネットの手を握れば、驚いたような声が聞こえたが。それは突然聞こえた鶏の声にかき消されていった。
ああ、ベネット、彼はわたしの宝物だ!