織物の上の盤外戦術


 スメールの多くの家庭がそうであるように、大マハマトラの家も色とりどりの絨毯が敷かれている。その幾つかはそれなりの価格であったり、贈り物だったりするのだが、どれも同じように使われているのは妻である▼の細かいことを気にしない性格と、物は使ってこそという夫婦共通の考えが大きいだろう。
 今まさに絨毯の上に座り、広げた七聖召喚のカードを眺めていたセノは背後からぎゅうと抱きついてきた▼の頭を撫でながら、どうかしたのかと問いかける。日常的な触れ合いなのでわざわざ尋ねるようなことも無いかもしれないが、幼少期からの癖のようなもので、自分よりも小さな体が抱きついてくれば何かあったのかとつい理由を探してしまう。自分に触れたセノの手にえへへと笑ってから、▼はカードを指さした。

「敵情視察!」

 セノがそうであるように▼も七聖召喚の決闘者だ。決闘は共通の娯楽であり、コミュニケーションである。▼が決闘者として在る時、セノもまた決闘者だ。
 己に寄りかかりながらじぃとカードを見る▼に小さく笑ってから、セノはデッキ構築を再開した。デッキ内容を見られても問題は無い、デッキレシピを教えることだってあるし、結局決闘のどのラウンドで何をドローするかは分からないし。何より、今カードを眺めている▼は敵情視察と言いながらも「このカードが入ってるんだ」と思う程度だろう。
 数枚カードをピックアップして並べ、ふむとセノは考える。環境――主にプスパカフェでの、は変化する。七聖召喚とはかなり流動的なものであり、そこに発生するメタゲームを含めて面白い。ここ最近忙しかったので、新しいカードを手に入れても既存のデッキへの組み込み等には手が回っていなかった。三十枚という制限の中で、一枚がもつ役割は大きい。
 じっとカードを眺める夫の跳ねた髪を▼が指先で弾き出したので、セノはため息をつくと再び柔らかな茶髪を撫でた。

「▼、大人しく見ていられないのか」
「膝いく〜」

 まるで子供だ。
 もう一度ため息をついてから体勢を変え、好きにしろと膝を叩くと▼は嬉しそうにそこに入り込む。セノと▼は男女の体格差はあっても身長差はさほどないため互いに少し窮屈なのだが、幼い頃から慣れた姿勢だからかあまり苦ではなく、この重みと体温から得られる安らぎというのは昔から変わらない。膝の上の体をセノに擦り寄せて甘える姿に猫の喉がなる音聞こえそうだと思ったが、セノに対する▼の態度は骨折の危険を感じるほど尻尾を振る犬である。
 ねえねえと甘えた声に視線を落とせば、極至近距離で覗いた黄緑色が嬉しそうに瞬いてから細められた。

「デッキ組み終わったら試しに決闘しようね。セノがいない間に新しく組んだデッキがあるの」
「それは楽しみだ」




ALICE+