「やだ! それいたいからやだ!」
「▼、やらないともっと痛いことになる」
「や!」
全身で拒絶する▼は怪我を庇いながら器用にセノの手から逃げた。ため息をついたセノは軟膏を置くと逃げ回る▼を掴んで抱えあげる。そうしてしまえば大人しいもので、膝の上にのせた▼を後ろから抱え込むようにして覗き込み、白い足に出来た傷を見た。洗浄は終わっているがそれより先は手付かずだ。軟膏を再び手に取れば小さな体が縮こまるのが分かり、セノは小さく笑った。
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「セノ? どうかした?」
「いや」
消毒液と柔らかな布を手にした▼が首を傾げたので、セノは追憶から目を逸らした。手当てを嫌がったあの幼い子供がいまでは人の手当てをするようになったのだと思うと少し感慨深い。
セノと▼、両者の怪我をする比率は昔と逆転した。▼は成長してやんちゃが減り、セノは職業柄怪我が増えた。帰宅したセノが怪我をしていれば▼が手当てをしたし、杜撰な処理をしていれば叱るのも彼女だ。
「お前も大きくなったなと思っただけだ」
「いま?」
何で、と可笑しそうに笑った顔はもう軟膏がしみることを嫌がらない。「はいお終い」と昔よりもはっきりとした声から感じる成長が頼もしくもあり、砂漠の砂粒ほど寂しさもあった。