星空の下


 今日のモンドは快晴。夜になっても雲ひとつなく、頭上では月が煌々と輝いていた。
 細く煙を吐いていた焚き火がばちりと爆ぜた音を合図に▼は細い木の枝を追加でくべる。冒険者をしていれば野営など慣れたもので、見張りと火の番をしながら武器の手入れをしたり星を眺めていた。今回の同行者のベネットはそろそろ起きる頃だろう。
 彼はとても不運で、それが原因で依頼を失敗することもあるけれど。野営の準備だとか、交代の時間にきっちり起きるとか、そういった冒険者としての色々な技能は確かに持っている。不運で、少しだけ自分自身に卑屈なだけ。
 火に照らされて淡く橙に染まったベネットの前髪を眺めていると、ううんという唸り声と共に眉が動く。黄緑色の瞳がぱっちりと開いて、寝転がっていた地面から上体を起こした。数回瞬きをしてから欠伸をし、大きな口を閉じてから見られていたことに気が付いたのか恥ずかしそうに笑った。
 可愛いな、と思いながら▼は微笑む。

「おはようベネット」
「おはよう▼。よし、見張り交代だな!」
「特に危ないこともないと思うけど、一応ね」

 モンドの土地は慣れているが、いつだって警戒するに越したことはない。最近はヒルチャールも多いし、何故かファデュイだって我が物顔で闊歩している。もちろん安全を確認したり確保してから野営をするのだが、危険のほうからやってくることが大半だ。有難いことに、今日は何事も無く朝を迎えることができそうで▼は小さく安堵の息を吐いた。
 焚き火のために集めた枝の隣の席をベネットに譲り、▼は協会に提出する報告書の内容でも考えながら寝ようと先程までベネットが寝転がっていた草葉に腰を下ろす。
 交代で見張りをするから一枚でいいかと引っ張り出された毛布は、先程までベネットが使っていたからかほのかにあたたかい。包まってみるとベネットの匂いもするような気がして、▼は恥ずかしくなって縮こまった。
 それを寒いと思ったのか「大丈夫か?」と聞いてくるベネットにへらりと笑って誤魔化してから、枝の合間に揺らめく炎に目をやった。ベネットの力で先程よりも少し勢いを強めた炎が赤々と輝いている。
 手持ち無沙汰だったのかぺきぺきと枝を折っていたベネットが手の中の枝を火に投げ込むと、ふっと▼に顔を向けた。

「おやすみ▼」
「うん。おやすみ、ベネット」

 炎に照らされたベネットの顔がとても柔らかいものに見えて、▼は慌てて目を閉じる。
 いつも快活に笑う彼が穏やかに笑うと、なんだか胸の奥がムズムズした。少し心が乱れて、自分の近くの草がぶわと風に揺られたのを▼は感じた。
 思いもよらぬ不意打ちに中程まで頭に浮かんでいた報告書の内容が全て飛んでいってしまったので、仕方が無いと▼はそのまま睡魔のしっぽを掴み始める。あんまりにも風が穏やかで静かな夜だから、ベネットの呼吸の音やたまに空気を揺らす鼻歌が聞こえて。夢にベネットがでてきそうだった。




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