人は死んだら、


「人は死んだら何処へ行くの?」

 本から顔を上げた▼の言葉にセノはカード整理の手を止める。彼女が読んでいる本はモンドのレシピ集で、とてもそのような質問が出てくるような内容ではないと思うが……、そんな疑問は置いておき、セノは▼の質問について考えた。

「死後何処へ行くかというのは、生きている人間には観測ができない。一般的には、の話だが……」

 このテイワットに存在する超常的な存在であればその限りではないのかもしれないし、知恵の国の神であるクラクサナリデビなら行ったことはなくとも魂の結末を知っているのかもしれない。ただ、自分達のような普通の人間は死者を見送ることはできても、その魂の行き先や結末を正確にとらえることは難しいだろう。だから結局、生者は行き先に名前をつけて、そこへ行くと言うしかない。

「多くの人間の考えは、生まれ育つ場所で信仰されているものに由来するだろう。砂漠の民の間でさえ死後の行き先は複数あげられる。雨林が加わればもっと増えるし、他国も、となれば尚更だ」
「長い話?」
「そういうのが聞きたいんじゃなかったのか」

 ううん、と▼が唸る。伝えたいことを整理して、言語化しようとして漏れる声だ。

「セノに死んだら行きたい場所があるなら、わたしもそこに行こうと思ったの」
「……考えたことがなかったな」

 危険な任務につくこともある、死が身近であることも理解している。それでも死ぬつもりは毛頭ないため、セノは死後の己のことなど考えたことがなかった。考える余裕がないわけではなく、考える必要がない。セノが大事にするのは常にいま流れている時間、生者である間のことだ。

「俺達がどこに辿り着いても、俺は▼を探すし、▼も俺を探す。それでいいんじゃないか」

 全てが不明瞭なこと以外はシンプルだが、自分達はそれでいいとセノは思っている。
 「わかった!」と頷いた▼の笑顔が目の前にあるなんでもない今の平穏が、死後のことより大事で、思考を満たすべきものだ。生きている間、セノの隣に▼の魂があるのならば、それで良い。




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