レザーの誕生日に森を訪れる人が多くなったなぁと思いながら、▼は駆け寄ってきたルピカの頭を撫でる。この春に生まれた狼は森――森に棲む二本足のもの達に関わることをまだまだ知らない、レザーを祝うために奔狼領に足を踏み入れたベネットとクレーを警戒して矢の如く自分に伝えに来たのだろう。炎元素を扱う二人は少々……本人たちの意図しない形で森に害は与えるかもしれないが、二人が森に来たとわかったレザーが駆けて行ったので問題ないだろう、多分。
しばらく▼の周りでそわそわとしていたルピカは撫でられているうちにすっかり落ち着いたのか、▼の隣で寝転がって気持ちよさそうに手を受け入れている。少し遠くから聞こえる声に応える遠吠えは、アォアォと拙かったあの頃と違い大人と同じような安定感があった。その声に導かれるようにして近づいてくる足音はルピカにとっては兄で、▼にとっては弟のものだ。
「レザー、二人と遊びに行かないの?」
「あした、約束」
「じゃあ、今日は森でゆっくりするのね。ね、レザー今日は森にいてくれるんですって、よかったねえ」
▼の言葉にピンと耳を立てたルピカが起き上がると、レザーの周りをくるくると回りだした。奔狼領の末弟はまだまだ遊びたい盛りでレザーにも▼にも遊んでもらいたがる。鼻先をずいずいとくっつけて甘えるルピカに微笑んだレザーはその首回りを撫でてから▼の隣に座った。遊ばないのかしらと▼が首を傾げたその一瞬でレザーはルピカの突進を受けて地面に押し倒され、嬉しそうにべろべろと顔を舐めるルピカの胴をわしと掴んだレザーがそのままごろりと転がれば、ルピカも同じように地面に転がった。
そうして何分か二匹が地面を転げまわって、満足したのかルピカは走り去ってしまう。レザーは自分の髪や衣服についた土や葉をはらうと今度こそ▼の隣に座り、ルピカ達にするように身を寄せて甘えるように頭をおしつけた。
「あらあら、甘えん坊。どうしたのレザー」
「誕生日は特別でうれしい日だって、クレーが言ってた。だから、▼と一緒にいる」
今よりも小さな子供だった頃の様な無防備さに▼は胸の奥がぎゅうとなる。可愛い! と大声で言いたくなるのを我慢してレザーをそっと抱き寄せた。
狼ほど早くはないけれど、毎年レザーの体は大きくなっている、その人間として当然の成長に▼は嬉しくなるのだ。来年こうして抱き寄せた時もきっとレザーは身長が伸びていたり体重が増えていたりするのだろうし。子供と大人の中間のしなやかな体だっていつかは立派な大人になるのだろう。レザーはたびたび「▼より大きくなる」と言っているが、▼としては健康に育ってくれるのならそれだけで充分である。
彼がモンドの成人の年齢になったら、この間のブリュー祭でベネット達と一緒に埋めたというサウザンドウィンドブリューを開けて……その時レザーが森にいるのか人の社会にいるのかはわからないが、そこへの道のりもその先も、レザーが多くのものに囲まれていることを願うばかりだ。
▼はまだ大人というにはたりない柔らかな頬にそっと唇を寄せて、一足早く吹いた肌寒さすら感じる風にのせるように囁く。
「お誕生日おめでとうレザー。貴方に北風の祝福がありますように」